必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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…  …  …


 涙を流す葉璃からスマホを受け取った聖南は、それを後ろ手に荻蔵へと返すと、愛する体を力一杯抱き締めた。

 やって来た葉璃の隣には、聖南ではない男が居た。

 それを目にした瞬間、冷静だと言い聞かせていた自身の余裕が皆無となり、一瞬のうちに感情という感情がすべて抜け落ち、ひたすら葉璃を求めた聖南は無心になった。


『ダメだろ、俺じゃない奴と一緒に居るなんて。 俺とずっと一緒に居てくれるって言ったじゃん。 なんですぐ俺から離れようとすんの。 なんでだよ、……葉璃』


 今この両腕に抱き締めている小さな体は、紛れもなく聖南のものだ。

 葉璃が胸元で「苦しい」と呻いても、聖南はなかなか離してやれずにいる。

 この唯一無二の存在が、聖南の隣から居なくなるかもしれない恐怖に打ち震えた。

 だが、葉璃の気持ちは分かった。 聖南の都合の良い考えなどではなかった。

 どんな理由があるにせよ、聖南から離れようとした事はお仕置き物だが、やはり葉璃は「聖南のため」に一心不乱だったのだ。

 聖南自身も、葉璃との関係がバレてはいけない人物にバレてしまった時、どんな反応をされるかさっぱり分からなかった。 けれど、それがたとえどんな障害を生もうとも、聖南は葉璃を守ると決めていた。

 そう、一目惚れした相手が男である葉璃だと判明し、もう一度恋したあの瞬間から───。

 だから何も怖くない。 怖がらなくていい。

 お願いだから永遠にそばにいて。 

 葉璃だけは、寂しい思いを抱かせないで。

 伝えたい思いはいくつもあるのに、葉璃の事が恋しくてたまらなかった聖南は絞め殺さんばかりに抱き締め続けた。


「……ちょっとセナ、そろそろ離してやりなよ。 ハル君……息出来てないんじゃない?」


 ケイタがソッと肩を叩くと、正気に戻った聖南がハッと我に返った。

 恐る恐る葉璃を解放するとじわと涙目で見上げてきて、目が合ったと同時に何故だか胸が締め付けられるように切なくなった。


「葉璃……」
「……聖南さん……」
「ひとまず良かったなー! ハルが無事で!」
「荻蔵……空気読めよ……」


 今は黙っとくべきだろとアキラが嗜めても、荻蔵はそんなもの気にもしていない。

 ポロポロと涙を流す葉璃に近付いた荻蔵は、ふわふわとした髪を雑に撫でてニコッと笑ってやっている。

 すると葉璃も、そんな荻蔵の空気の読めないマイペースさに可笑しくなったのか、笑顔を返した。


「良かった良かった! てか見た目通りガキっぽい事すんだな! かーわいい~」
「…………荻蔵さん……一言多いです」


 しみじみと余計な事を言われた葉璃は、笑顔がたちまち消え去りムッとして荻蔵を見た。

 その様子をアキラとケイタは笑い、無意識に気を張っていた聖南もようやく肩の力が抜けた。

 同じくフッと笑っていた佐々木が、眼鏡を上げながら優しく葉璃を見詰めて、ポケットから鍵を取り出す。


「さて、とりあえず一件落着したなら私は帰りますよ」
「あ、……っ、佐々木さんっ」


 聖南の背後に居た佐々木のもとへ、葉璃がゆっくりと近付いていく。

 「行くな」と腕を取りそうになった聖南を察知して、アキラが静かにそれを止めた。


「……佐々木さん、ありがと。 ほんとにありがとうございます」
「影武者のお礼……とでも思っといて。 葉璃。 いい子だから、もう未練断ち切らせてよ」
「分かってはいるんですけど……。 考えだしたら俺、止まんなくなるみたいです……。 誰にも迷惑なんか掛けたくないんですけど……」
「葉璃の性格はセナさんが一番よく分かってると思うよ。 ……俺とあんなとこで遭遇するなんて運命かと思ったけど、多分こうしてセナさんに渡すためだったんだよな。 ……完敗だ」
「佐々木さん………」


 言いながら葉璃の頬をソッと撫でている様を見ていた聖南は、「これは止めてもいいだろっ?」とアキラを見るも、腕を離してはくれなかった。

 聖南の目の前で、欲に濡れた瞳で葉璃に気安く触る佐々木の神経の図太さに、アキラとケイタも若干面食らっている。

 さすが、謎の多い鉄仮面マネージャーだ。


「セナさん、葉璃をよろしくお願いしますね。 以前から言ってるように、隙あらば貰いに来ますからね」
「隙なんてやるか。 こんな事もう二度とねぇよ」
「フッ。 ……葉璃、アキラさん、ケイタさん、荻蔵さん、お先に失礼します。 副総セナさん、それじゃ」
「言うなってそれ!!」


 ふふふっと控えめに笑いながら、佐々木は柄の悪い黒塗りのセダンに乗り込み去って行った。

 佐々木が去ってようやくアキラが腕を離してくれ、聖南は急いで葉璃の元へ歩む。

 黙って佐々木に撫でられていたほっぺたをゴシゴシと拭い、葉璃から「痛い」と文句を言われても聖南はムスッとしたままだった。


『俺の葉璃だ……俺の……』


 柔らかい葉璃のほっぺたに触れると、どうしてもたくさんの愛おしさが湧き上がってきてさらにまた切なくなった。



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