スタッグ・ナイト

須藤慎弥

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9.想い

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◇ ◇ ◇


 俺は悟ほど要領も良くないし、どちらかというとひねくれた性格だと思ってるし、おかげで友人らしい友人は悟だけだし、俺の誇るべきところはパッと身では男に見えない見目と、優雅な所作くらい。

 業績同様、常に二番手ではあったが、俺の上には常に悟が居たから諦めもついた。

 悟には敵わない。何もかも。

 見掛け倒しでない彼の内面に、存分に惹かれてしまったという弱みもあった。

 つまりは、惚れた方が負け。

 あんな形で喧嘩別れすることになって、悟は本当に俺に連絡を寄越さなくなった。

 俺が言い出した事なのに、鳴らない端末を寂しく眺めるなんて、悟の葛藤より矛盾した行動だった。

 〝Fun Toyの御曹司、ついに結婚!〟── こんな見出しが、悟のすました顔写真と共に大々的に掲載された経済誌を、いくつ買ったか知れない。

 未練がましい男だ、俺は。

 大事な親友を自らの言葉で突き放しておいて、発破をかけてやっただけだと言い訳をして、自滅した。

 俺の知らないところで、結婚の話はどんどんと進んでいるんだろう。そう考えて塞ぎ込んだ。

 会えなくなった途端、蓋をしていた想いが溢れ出して毎日切なかった。

 だから……こんなメッセージが届くまでの半年間が、俺には永遠にも思えていた。


『バチェラパーティーの後、話がしたい。時間を作ってくれないか』

「悟……っ」


 恋い焦がれたその名が表示された瞬間、何かが俺の中で弾けた。

 すぐさま俺は、こう返事を打った。


『必ず行く』


 結婚式を目前に控えた新郎を労うためのパーティーは、彼の友人主催。一番の親友である俺は、その立場上結婚式はおろかその三日前に開催されるバチェラパーティーへの参加さえ叶わない。

 俺はいつだって、二番手。

 公の場では友人を名乗る事もできない。

 だがそれは今に始まった事ではないと、半年間の悶々とした日々を経てようやく気が付いた。

 会えないのはもう嫌だ。

 本当は微塵も思っていない祝福の言葉を告げるのも、苦痛で仕方がない。

 あんなに俺のことを理解してくれた男は、他に居なかった。

 偏屈で堅物だった俺に手を差し伸べてくれた悟を、離したくない。

 この機を逃したら、俺はきっと死ぬまで後悔する。

 新たな決意を胸に、タクシーに揺られること一時間半。実家から随分離れた場所だが、指定されたホテルへ到着すると、思わず俺は「なるほど」と頷いてしまった。

 そこは、美形御曹司の結婚に湧くミーハーなマスコミが、常々騒ぎ立てていた彼らの結婚式場が隣接するホテルだったのだ。



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