永遠のクロッカス

須藤慎弥

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 高校三年間、勉強など二の次で月光とセックスばかりして過ごした日々を思い出してしまったからか、今、その月光の声が聞こえているようで複雑な気持ちだった。
 横たえられたそこは、やわらかくて寝心地がいい。
 寝かされて早々、やや乱暴に衣服を取り払われているのも、かなり雑に前戯を施されているのにも気付いてはいたが瞳を開なかった。
 気持ち悪くはないけれど、視界がぼやけて意識がハッキリしない。
 体が宙に浮いているかのようにふわふわっとしていて、楽しい気分なのは間違いないが、それはさておきとにかく眠たい。

 飲み過ぎるといつもこうだ。
 やはり五年もこの感覚を味わっているからか、この流れはさすがに分かっている。
 サングリア四杯目からだんだんとおかしくなっていき、ヤバいからやめておけという心の声を無視して五杯目にいくとこの状態が出来上がる。

 睡魔に負けると体を起こしていられないので、いつもついついカウンターに突っ伏してしまうが、その度にいつも誰かに優しく抱き起こされてホテルまで連れられてセックスする。
 恐らくそれは、毎回同じ人物だ。
 顔は知らない。
 酔っ払い記憶ほどあてにならないものはなく、尚且つ乃蒼は昔からの癖で、行為が終わると無意識のうちに早々と帰り支度を始める。
 相手がシャワー中だとか、グッスリ眠っている最中だとかは関係なく、何とか呼び止められないうちにそそくさとホテルを飛び出し、翌朝目覚めるときちんと家のベッドで寝ている。
 帰路本能とは凄いなと、毎回他人事のように思う乃蒼はそれで満たされていた。


「……ん、……ん……っ」


 だからこそ、いつものあの人がホテルへと運んでくれたのだろうと思い夢見心地なセックスを待ち望んでいるのだが、何だか今日は全てが荒っぽい。
 過去を色々と思い出してしまった今日に至っては、とにかくめちゃくちゃにしてほしいと投げやりな気持ちではあるが、あまりにもいつもと違う手腕には少しばかり不満を覚えた。
 乃蒼は、薄暗い室内に浮かぶ人影に向かって両手を広げた。


「なぁ、ぎゅーしてよ」
「………………」


 いつも優しく名前を呼んでくれる男の声は、何だか覚えがあるような無いような気が毎回していたけれど酔いも手伝って全く思い出せない。
 しかしこの飲み過ぎた後のいけない情事が、乃蒼にとっての癒しだった。
 今日は特に思い出したくない失恋に似た気持ちを蘇らせてしまい、いたたまれなくなってサングリアがグイグイすすんだ。


「はーやーくー」


 どうにか忘れさせてほしいと切に願いながら、広い背中をかき抱こうと腕をいっぱいに伸ばしているのに、今日に限ってなかなか抱き締めてくれない。
 あげく、両手を揺らして催促するとすぐそばで溜め息を吐かれた。


「どうしたんだよー? いつもみたいにぎゅってしてよー」
「……いつもみたいにってなぁ……」


 男がベッドに上がってきた気配を感じて、安心した乃蒼はまた瞳を固く閉じた。
 いつもの男はこんな声だったっけ?と朧げに考えてみるが、どうしても思考が長続きしない。
 ようやく誘いに応じた男は、乃蒼が伸ばした腕を力強く掴み上げ、らしくなく何度も舌打ちしながら乃蒼を抱いた。
 ただただ荒っぽく、だが時折せつなげに名前を呼ばれる。
 虚ろな視界の先で揺れる髪を眺めながら、「この人も人間だし、そりゃ機嫌が悪いときだってあるよな」と広い肩幅に手を添えながら思った。

 正常位だったのは最初の一回のみで、あとは珍しく背面から何度も突き上げられて枕がしわくちゃになった。
 激しい突き上げでずり上がる体を、雑に引き戻された上にしつこく背中を噛み付かれて尻を叩かれる。
 「いつも」とは到底違うセックスに、激しくされたいと望んでいたはずの乃蒼は次第に根を上げ始めた。


「痛い……いたいよぉ……っ」
「知るかよ。 俺の心の方がずっと痛いよー」
「……えぇ? なにそれ……。 あ、……やっぱ今日は機嫌悪い日なんだー。 ごめんな~、そんな日に付き合わせて……」
「………………」




 何度果ててもやめてくれない男は、乃蒼が意識を飛ばしても尚抱き続けた。
 意識が遠退く寸前にも聞いた舌打ちに心を痛めながら、今日は相当機嫌が悪いんだな、と乃蒼は妙な誤解をしていた。




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