哀歌ーelegy-

sorarion914

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哀歌

#2

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 ホテルで死んだ男が、小林翔という少年だと聞いて、佐倉は目を閉じた。

「薬で男とキメてる最中に、体調がおかしくなったんだろう。でも相手の男は介抱もせずに放っておいた。すぐに救急車を呼んでいれば助かったかもしれないのに……」

 そう報告を受けて、梶川は刑事部屋を飛び出すと、薬物所持と使用の疑いで捕まった男がいる取調室へ向かった。
 その後を、佐倉が慌てて追いかける。
「エージ!待て!」
 制止も聞かずに取調室のドアを開け、座ってる男に鋭い一瞥をくれると、梶川は取調官が止めるのも構わず、容疑者の男の胸ぐらを掴み上げた。

「どうしてすぐに助けを呼ばなかった?」

 すると男は、だらしない笑顔を浮かべ「だってぇ」と呟いた。
「薬持ってる事バレたら、ヤバいじゃん」
 それを聞いたエージがさらに強く胸ぐらを掴み上げる。
「人が1人死んでんだよ。ヤバいもクソもねぇだろうが!!」
 佐倉と取調官たちが慌てて梶川の体を取り押さえる。

 死んだと聞いて男はショックを受けるどころか、「あの子、死んじゃったんだ?」と言って、ヘラヘラと笑った。
「てめぇ……何笑ってんだよ!!」
「エージ、やめろ!!」
 佐倉に腕を抑え込まれ、エージは足で思い切り机を蹴飛ばした。
 派手な音を立てて、机ごと男が床に吹っ飛ぶ。
 それでも、男はヘラヘラと笑っていた。

 佐倉は、興奮して暴れる梶川を抑え込んだまま、引きずるように取調室を出た。
 廊下に出ると、梶川は佐倉の腕を振りほどいて肩で激しく息をついた。
 やり場のない怒りを必死に抑え込もうとしているようだった。
 その様子に佐倉は、「あんなヤク中に何を言っても無駄だ」と呟いた。
 梶川は頭を掻きむしると、何度も何度も頷く。

「分かってる……そんなことは分かってる!」

 頭を掻きむしりながら、落ち着きなく廊下を歩き回る。
 そんな梶川に、佐倉はかける言葉も見つからず、ただじっと見つめていた。





 ――多少落ち着いたのか。


 梶川は項垂れたまま、囁くように言った。

「支援施設で……適切な保護を受けてると思ってた……」
「……」
 佐倉は黙って梶川に目をやった。
「連絡をとったり、顔は合わせるなと言われた。本人の為にならないから――けど」
 梶川はそう言って、皮肉な笑みを浮かべると佐倉を見て言った。
「結果がコレだぜ?バカみてぇだろ?」
「……エージ」
「ちょっと……頭冷やしてくる」

 梶川はそう言うと、廊下の先にあるトイレに入っていった。


 洗面台に頭を突っ込み、冷水を浴びる。
 水は冷たかったが、今の梶川には何も感じなかった。
 濡れたまま顔を上げ、鏡に映る自分をじっと見つめた。

 担架に乗せられていた翔の目が薄く開いていた。
 その目が、何か言いたげに自分をじっと見ていた。




 自分を殺したのはお前だ――と。




 そう言われた様な気がして、梶川は拳を固めると洗面台を叩いた。
 固く目を閉じて項垂れると、込み上げてくる感情を堪え切れず――梶川は大声で叫んだ。






「アァァァァァ――――――ッ!!」






 その慟哭を。


 佐倉は廊下の壁にもたれたまま、黙って聞いていた。

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