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哀歌
#2
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ホテルで死んだ男が、小林翔という少年だと聞いて、佐倉は目を閉じた。
「薬で男とキメてる最中に、体調がおかしくなったんだろう。でも相手の男は介抱もせずに放っておいた。すぐに救急車を呼んでいれば助かったかもしれないのに……」
そう報告を受けて、梶川は刑事部屋を飛び出すと、薬物所持と使用の疑いで捕まった男がいる取調室へ向かった。
その後を、佐倉が慌てて追いかける。
「エージ!待て!」
制止も聞かずに取調室のドアを開け、座ってる男に鋭い一瞥をくれると、梶川は取調官が止めるのも構わず、容疑者の男の胸ぐらを掴み上げた。
「どうしてすぐに助けを呼ばなかった?」
すると男は、だらしない笑顔を浮かべ「だってぇ」と呟いた。
「薬持ってる事バレたら、ヤバいじゃん」
それを聞いたエージがさらに強く胸ぐらを掴み上げる。
「人が1人死んでんだよ。ヤバいもクソもねぇだろうが!!」
佐倉と取調官たちが慌てて梶川の体を取り押さえる。
死んだと聞いて男はショックを受けるどころか、「あの子、死んじゃったんだ?」と言って、ヘラヘラと笑った。
「てめぇ……何笑ってんだよ!!」
「エージ、やめろ!!」
佐倉に腕を抑え込まれ、エージは足で思い切り机を蹴飛ばした。
派手な音を立てて、机ごと男が床に吹っ飛ぶ。
それでも、男はヘラヘラと笑っていた。
佐倉は、興奮して暴れる梶川を抑え込んだまま、引きずるように取調室を出た。
廊下に出ると、梶川は佐倉の腕を振りほどいて肩で激しく息をついた。
やり場のない怒りを必死に抑え込もうとしているようだった。
その様子に佐倉は、「あんなヤク中に何を言っても無駄だ」と呟いた。
梶川は頭を掻きむしると、何度も何度も頷く。
「分かってる……そんなことは分かってる!」
頭を掻きむしりながら、落ち着きなく廊下を歩き回る。
そんな梶川に、佐倉はかける言葉も見つからず、ただじっと見つめていた。
――多少落ち着いたのか。
梶川は項垂れたまま、囁くように言った。
「支援施設で……適切な保護を受けてると思ってた……」
「……」
佐倉は黙って梶川に目をやった。
「連絡をとったり、顔は合わせるなと言われた。本人の為にならないから――けど」
梶川はそう言って、皮肉な笑みを浮かべると佐倉を見て言った。
「結果がコレだぜ?バカみてぇだろ?」
「……エージ」
「ちょっと……頭冷やしてくる」
梶川はそう言うと、廊下の先にあるトイレに入っていった。
洗面台に頭を突っ込み、冷水を浴びる。
水は冷たかったが、今の梶川には何も感じなかった。
濡れたまま顔を上げ、鏡に映る自分をじっと見つめた。
担架に乗せられていた翔の目が薄く開いていた。
その目が、何か言いたげに自分をじっと見ていた。
自分を殺したのはお前だ――と。
そう言われた様な気がして、梶川は拳を固めると洗面台を叩いた。
固く目を閉じて項垂れると、込み上げてくる感情を堪え切れず――梶川は大声で叫んだ。
「アァァァァァ――――――ッ!!」
その慟哭を。
佐倉は廊下の壁にもたれたまま、黙って聞いていた。
「薬で男とキメてる最中に、体調がおかしくなったんだろう。でも相手の男は介抱もせずに放っておいた。すぐに救急車を呼んでいれば助かったかもしれないのに……」
そう報告を受けて、梶川は刑事部屋を飛び出すと、薬物所持と使用の疑いで捕まった男がいる取調室へ向かった。
その後を、佐倉が慌てて追いかける。
「エージ!待て!」
制止も聞かずに取調室のドアを開け、座ってる男に鋭い一瞥をくれると、梶川は取調官が止めるのも構わず、容疑者の男の胸ぐらを掴み上げた。
「どうしてすぐに助けを呼ばなかった?」
すると男は、だらしない笑顔を浮かべ「だってぇ」と呟いた。
「薬持ってる事バレたら、ヤバいじゃん」
それを聞いたエージがさらに強く胸ぐらを掴み上げる。
「人が1人死んでんだよ。ヤバいもクソもねぇだろうが!!」
佐倉と取調官たちが慌てて梶川の体を取り押さえる。
死んだと聞いて男はショックを受けるどころか、「あの子、死んじゃったんだ?」と言って、ヘラヘラと笑った。
「てめぇ……何笑ってんだよ!!」
「エージ、やめろ!!」
佐倉に腕を抑え込まれ、エージは足で思い切り机を蹴飛ばした。
派手な音を立てて、机ごと男が床に吹っ飛ぶ。
それでも、男はヘラヘラと笑っていた。
佐倉は、興奮して暴れる梶川を抑え込んだまま、引きずるように取調室を出た。
廊下に出ると、梶川は佐倉の腕を振りほどいて肩で激しく息をついた。
やり場のない怒りを必死に抑え込もうとしているようだった。
その様子に佐倉は、「あんなヤク中に何を言っても無駄だ」と呟いた。
梶川は頭を掻きむしると、何度も何度も頷く。
「分かってる……そんなことは分かってる!」
頭を掻きむしりながら、落ち着きなく廊下を歩き回る。
そんな梶川に、佐倉はかける言葉も見つからず、ただじっと見つめていた。
――多少落ち着いたのか。
梶川は項垂れたまま、囁くように言った。
「支援施設で……適切な保護を受けてると思ってた……」
「……」
佐倉は黙って梶川に目をやった。
「連絡をとったり、顔は合わせるなと言われた。本人の為にならないから――けど」
梶川はそう言って、皮肉な笑みを浮かべると佐倉を見て言った。
「結果がコレだぜ?バカみてぇだろ?」
「……エージ」
「ちょっと……頭冷やしてくる」
梶川はそう言うと、廊下の先にあるトイレに入っていった。
洗面台に頭を突っ込み、冷水を浴びる。
水は冷たかったが、今の梶川には何も感じなかった。
濡れたまま顔を上げ、鏡に映る自分をじっと見つめた。
担架に乗せられていた翔の目が薄く開いていた。
その目が、何か言いたげに自分をじっと見ていた。
自分を殺したのはお前だ――と。
そう言われた様な気がして、梶川は拳を固めると洗面台を叩いた。
固く目を閉じて項垂れると、込み上げてくる感情を堪え切れず――梶川は大声で叫んだ。
「アァァァァァ――――――ッ!!」
その慟哭を。
佐倉は廊下の壁にもたれたまま、黙って聞いていた。
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