神様はいない Dom/Subユニバース

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受け入れるもの、変わるもの

塞翁が馬 9

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 厚木が一緒にいる時間を作ってくれるというので、右も左も言葉もわからないボストンでおとなしく待つことにした。
 最初の日は、ホテルの部屋でおとなしくしていた吉継だったが、一日が限界だった。外に出たい。観光に興味は無いが、外の空気が吸いたい。知らない街並みを見ながら、昼食によさそうな店を探してもいいかも知れない。ホテルのやたら凝った食事も悪くないが、普段食べているような簡単で美味しいものが食べたかった。徒歩で行ける範囲なら大丈夫かと『ポケット英会話トラベル版』をリュックに詰めていると後ろから声がかかった。
 「おい、何をしている。どこへ行くつもりだ」
 「外に行きます、夜までには戻ります」
 「ボストンの治安はマシな方だが、お前なら3歩でスリに遭うぞ、おとなしくしてろ」
 「体を動かしたいです」
 「…」
 じーっと厚木を見つめていると、厚木はこれみよがしのため息を吐いて、「通訳をつけてやる、ついて来い」と言って、部屋を出ていった。本当は一人が良いが、ここは日本ではないのでゴネるのは止めて、吉継はてこてこ厚木の後ろをついて行った。
 エレベーターを乗って昇った先は、ホテルの最上階だ。エレベーターを降りてすぐの部屋のドアを叩く。
 「開けろ」
 厚木にしては雑なノックだ。
 2回、3回…。
 ガチャリと鍵が開く音がする。
 「もぉ総実ちゃん、自分の持ち物でしょ、大事に扱いなよ」
 出てきたのは理生だった。
 パーティで見たような派手なスーツではなく、グレーのシャツに白いジーンズだった。それすらどこか気に障る。
 「!」
 「あ、ハロー吉継ちゃん」
 厚木の後ろからはみ出ている吉継に理生がウィンクする。鳥肌ものだ。
 「こいつの通訳を頼む」
 「え、いいの?」
 事もなげに厚木がとんでもないことを言う。理生の声は弾んでいる。二人からどうだと言わんばかりの視線を受けて吉継は閉口した。
 よくない、よくない。理生なんか、厚木の幼なじみだか親友だか知らないが、もう一生会うこともないと思っていた。厚木の手前、大声で拒否できないが、理生は気障でなんか受け付けない。なによりDomだ。吉継は厚木以外のDomは苦手なのだ。大声では言えないが、小声ならいいか。
 「通訳はいりません」
 「なぜ、一人だと危ないだろう」
 通訳がいてくれたほうがいいことはわかるが、理生は嫌だ。
 「でも、Domです…」
 説明不足ながらそれだけ言うと、吉継の言いたいことをだいたい理解した厚木はなるほどと頷いたが、一人で行っても良いとは言わなかった。
 「理生は、確かにいけ好かないDomだが、一応見境はある。腕も立つから大丈夫だ」
 「総実ちゃーん、吉継ちゃんはそこまで言ってないと思うよ、ね?」
 正確には、気障でいけ好かない。厚木は正しく吉継の気持ちを代弁してくれていた。
 「言いました」
 「えぇ…?俺、イケメンで紳士でめちゃくちゃSubを可愛がる方のDomなのに…酷くない?」
 「滲み出るものがあるのだろう」
 厚木が鬼の首を取ったかのように言うが、吉継からすればどっちもどっちだった。

 
 厚木は、ここのホテルを引き受けるにあたって、よくわからない大事から些事までいろいろあるらしい。
 「逃げないように見張っておいてくれ。こいつはなにをしでかすかわからない」
 通訳に頼むことではないことを理生に託している。吉継には、「夜には戻る。変な気を起こすなよ」と念を押して行った。
 変な気など起こしたことのない吉継には要らぬお世話なのだが。
 厚木の背中が見えなくなると、理生が吉継の方を見る。身構える吉継は一歩引いた。
 「ふーん」
 「どうしましたか」
 「吉継ちゃん、可愛がられちゃってるねぇ」
 「…?わかりません」
 「あっそぉ、まぁいいか。行きたいところは?」
 「よくないです」
 「ん?」
 「厚木さんのこと、教えてください」
 プレイですら遊ばれている感がある吉継には、厚木に可愛がられていると言われてもピンとこない。公に公表したパートナーではある。理生が厚木をどう見ているのかが気になった。しかし、理生は話してくれる気配がなく、吉継をじっと見ているだけだ。居心地が悪くなった吉継がもういいですと言いかかったころやっと話しだした。
 「…いいけどぉ…、まあゆっくり話せるところに行こーよ」
 またしても理生のウィンクを受けてしまい、ゾワゾワ鳥肌が立つ。吉継が嫌がるのを見て遊んでいる。厚木といい、Domってどうしてこんなのしかいないのだろう。非常に癪なのだが、渋々頷いた。
 「吉継ちゃんは行きたいところはあるの?」
 「ないです」
 「オッケー、任せて」
 「一人で行きます」
 「いやもう諦めなよ、それより動きやすい服に着替えておいで」
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