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19話 カード戦士、王女と対談する
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まさか、依頼主が王族だったとは。
ハルヒトさんが学園の正門で、質問を投げかけるわけだ。
あそこで、冒険者達を篩に掛けていたのか。
平民が、おいそれと対談できる人物ではない。
俺は急いで直立不動の体勢をとり、フィリアナをソファーから立たせる。
彼女は名残惜しそうに、菓子と紅茶を見つめている。
「フィックスと申します。こちらは、仲間のフィリアナです」
「フィリアナ…です。宜しくお願い…します」
王女がいるせいか、彼女も言葉遣いを変化させた。
緊張感が、ぐっと増していく。
「ふふ、そう緊張しないでください。立ったままではなんですから、ソファーに座ってくださいな」
マフィン様は対面のソファーへと座り、ハルヒトさんは彼女用の飲み物を用意すべく、奥のキッチンへと入っていく。俺もフィリアナも二人が移動したところで、席へ着く。
「早速で申し訳有りませんが、単刀直入に言わせて頂きます。フィックス、あなたの所持品であるこの辞書を買い取りたいと思っております」
いきなり本題に入ってきたぞ。
彼女は、《極小生物辞典》を相当気に入ったようだ。
「マフィン様、あなたの抱える事情をお伺いしても構いませんか?」
王族の抱える事情だから、一平民に教えてくれないだろうけど、信頼を得るためにも、一応聞いておこう。
「勿論、お話しします」
おいおい、話してくれるのかよ!
「ただ、これからお話しする内容については他言無用でお願いします。表向き、私の職業は【内科医】と言ってますので」
それって、《貴方達が他者に話した瞬間、抹殺しますよ》と脅しているような?
それに、何故豊富な專門知識を必要とする医者にしたんだ?
王族である以上、下手に問いただせない。
「ふふ、顔に出ていますよ。私は小さい頃から、医学に興味を持っていました。八歳の頃から医学関係の専門書を読み漁っていたので、内科医と言っても誰も怪しまないのです。だから、この辞典の内容も理解し易っかたの。少ししか読めていませんが、これこそが私の求めていたもの」
ということは、《細菌》《ウイルス》《微生物》って医学関係の言葉なのか。内容自体も理解できるのなら、彼女にとって【極小生物辞典】は、喉から手が出る程の代物なわけだよ。
「改めて言わせてもらうわ。私の本当の職業は【細菌学者】、スキル【善玉悪玉】に関しては、私自身ある程度試したことで、効果も知っています。ただ…細菌学者という職業自体を、これまで聞いたことがないのです。王城の図書館にも一切の情報が記載されておらず、様々な業種の人達にそれとなく聞いても、誰一人情報を持っていませんでした」
つまり、職業【細菌学者】を持つ人は、マフィン様しかいないということか?
女神様は、どうしてそんな職業を彼女に与えたんだ?
というか、それを言うんだったら俺もか。
「女神様から贈られた以上、私はこの職業について知りたい。この二ヶ月、あらゆる伝手を使いましたが、手掛かりはありませんでした。しかし、この《極小生物辞典》を見て驚愕しました。これは、私のために存在しているんです!」
凄い、ガッツポーズしながら言い切ったよ。
「フィックス、お願いです。この辞書を譲っていただけませんか?」
アレは、カードガチャで得たものだ。
俺の物であって、絶対に譲渡できない仕組みとなっている。
可能なのは、あくまでレンタルのみ。
「マフィン様、残念ですが《とある理由》で譲渡できません」
「その理由をお伺いしても?」
予想していたのか、彼女の目が冷たく俺を見つめてくる。
こればかりは、俺の事情を全て打ち明けるしかない。
王族なら、俺の職業やスキルを話しても、内密にしてもらえるだろう。
俺が、カード戦士・カード化・カードガチャの詳細を話していくと、先程まで感じていた冷たい眼差しも少しずつ緩んでいくのを感じる。
「《カード戦士》、《カード化》、《カードガチャ》、どれも聞いたことがありませんね。あなたも、私と同じ立ち位置にいるのですね。譲渡できないのは残念ですが、あなたの許可があれば、一週間単位でレンタルできるのですね?」
良かった、きちんと理解してくれたようだ。盗難、殺人といった手段を用いても、カードは相手の物にならない。カードガチャで得たものである以上、効果欄に記載されている内容に遵守すること、これこそが一番の近道となる。
「はい、おまけに紙への複写も可能ですから、まずは全てを複写するべきかと思います」
一年は十二ヶ月、一ヶ月は三十日、一週間は六日を指す。三百ページ以上あるし、文字のサイズも小さいから、一週間で全てを複写させることは無理だろう。とりあえず、レンタル期間は一ヶ月かな?
ただで貸すのもなんだし、俺としてはいくらかのお金を貰いたい。新たにフィリアナを仲間にした以上、生活費も倍近く必要となるはずだ。王族相手なら、少しばかり吹っかけてもいいよな? 一週間で銀貨三枚もらえれば、俺としても助かる。
「それが、一番現実的ですね。フィックス、レンタル代ですが一週間につき、金貨三枚でどうでしょう?」
は、金貨三枚!
「あのマフィン様、俺は守銭奴じゃありません。紙に書き写すだけの作業ですから、銀貨三枚でいいです」
これは、本当の気持ちだ。
単純作業だけで、金貨三枚は貰いすぎだろう?
「いえ、この価格が最適です。私としては、金貨五枚でも良いと思っているわ。他者にとってはどうでもいい本でしょうけど、私にとっては自分の人生を大きく左右させる程の逸品なのよ。あなたは、もっと欲を持つべきね。王族を相手にしているのだから、もっとふっかけてもいいのよ?」
いやいや、王族相手だからこそ、大金なんて請求できませんよ!
一平民の俺がそこまで言ったら、完全に脅しだろ?
本当に、そんな大金を貰っていいのか?
う…この人の目は真剣だ、下手に逆らえない。
「一ヶ月は借りておきたいのですが、宜しいですか?」
一ヶ月…てことは三十日で、金貨十五枚!?
二等星冒険者が、貰える額じゃないぞ!
○○○
交渉は成立した。
結局、レンタル期間は一ヶ月、費用は金貨十五枚で押し切られることになってしまった。その場で支払われることになったので、今俺の目の前に金貨十五枚が並べられている。ちなみに、フィリアナはお菓子と飲み物に夢中で、交渉の場には一切立っていない。
「こんな大金、貰っていいのだろうか?」
あ、いかん。
素の言葉が出てしまった。
「私が納得しているのですから、構いません。あなたの場合、カード化もありますから、盗まれる危険性もないでしょう」
さすが王族、これだけの金貨を見ても平然としている。平民の平均月収は金貨五枚前後、俺はその三倍の報酬を得てしまったのか。
「そして、こちらが報酬の金貨十枚よ。全て、私の個人資産なので安心してください」
ハルヒトさんが丁寧な所作で、金貨十枚をテーブルに置いていく。
俺の金銭感覚が狂いそうだ。
「あ、ありがとうございます。あの…俺の許可も得たので、今後《極小生物辞典》に限り、マフィン様自身が《カード化》と《解除》の宣言が可能となりました。ただ、材質が上質な紙製なのため、火魔法にだけは注意してください。俺のカードガチャでも、同じアイテムを入手出来るとは限りませんから」
燃やされた場合、そのアイテムは消滅してしまう。俺自身、カードガチャで得られるアイテムを選択できない以上、全てのアイテムがこの世で一つしかないと思った方がいい。
「そこが難点よね。私にとって、この辞典は国宝と同じ扱いにしておくわ。複写する部屋も、きちんと精査しないといけないわね。《カード化》……驚いた…本当にカードになったわ。しかも、重さも軽くなっているわ。ふふ、これは便利な力ね」
さっきまで緊張感に包まれた場ではあったものの、マフィン様が柔らかな笑顔をとったことで、部屋の雰囲気が軽くなっていくのを感じる。
ふう~、これで全て終わりだ。
いきなりの王族との対談は、もうコリゴリだ。
「フィックス、終わった?」
フィリアナがいつの間にか、俺の方を見つめている。
そうだ、ここからは彼女の件を話さないといけない。
「ああ、終わったよ。あの女の件か?」
「そうそう」
王族のマフィン様なら、あの女のことを知っているはずだ。
名前は…そうだ、マリエルだ!
ハルヒトさんが学園の正門で、質問を投げかけるわけだ。
あそこで、冒険者達を篩に掛けていたのか。
平民が、おいそれと対談できる人物ではない。
俺は急いで直立不動の体勢をとり、フィリアナをソファーから立たせる。
彼女は名残惜しそうに、菓子と紅茶を見つめている。
「フィックスと申します。こちらは、仲間のフィリアナです」
「フィリアナ…です。宜しくお願い…します」
王女がいるせいか、彼女も言葉遣いを変化させた。
緊張感が、ぐっと増していく。
「ふふ、そう緊張しないでください。立ったままではなんですから、ソファーに座ってくださいな」
マフィン様は対面のソファーへと座り、ハルヒトさんは彼女用の飲み物を用意すべく、奥のキッチンへと入っていく。俺もフィリアナも二人が移動したところで、席へ着く。
「早速で申し訳有りませんが、単刀直入に言わせて頂きます。フィックス、あなたの所持品であるこの辞書を買い取りたいと思っております」
いきなり本題に入ってきたぞ。
彼女は、《極小生物辞典》を相当気に入ったようだ。
「マフィン様、あなたの抱える事情をお伺いしても構いませんか?」
王族の抱える事情だから、一平民に教えてくれないだろうけど、信頼を得るためにも、一応聞いておこう。
「勿論、お話しします」
おいおい、話してくれるのかよ!
「ただ、これからお話しする内容については他言無用でお願いします。表向き、私の職業は【内科医】と言ってますので」
それって、《貴方達が他者に話した瞬間、抹殺しますよ》と脅しているような?
それに、何故豊富な專門知識を必要とする医者にしたんだ?
王族である以上、下手に問いただせない。
「ふふ、顔に出ていますよ。私は小さい頃から、医学に興味を持っていました。八歳の頃から医学関係の専門書を読み漁っていたので、内科医と言っても誰も怪しまないのです。だから、この辞典の内容も理解し易っかたの。少ししか読めていませんが、これこそが私の求めていたもの」
ということは、《細菌》《ウイルス》《微生物》って医学関係の言葉なのか。内容自体も理解できるのなら、彼女にとって【極小生物辞典】は、喉から手が出る程の代物なわけだよ。
「改めて言わせてもらうわ。私の本当の職業は【細菌学者】、スキル【善玉悪玉】に関しては、私自身ある程度試したことで、効果も知っています。ただ…細菌学者という職業自体を、これまで聞いたことがないのです。王城の図書館にも一切の情報が記載されておらず、様々な業種の人達にそれとなく聞いても、誰一人情報を持っていませんでした」
つまり、職業【細菌学者】を持つ人は、マフィン様しかいないということか?
女神様は、どうしてそんな職業を彼女に与えたんだ?
というか、それを言うんだったら俺もか。
「女神様から贈られた以上、私はこの職業について知りたい。この二ヶ月、あらゆる伝手を使いましたが、手掛かりはありませんでした。しかし、この《極小生物辞典》を見て驚愕しました。これは、私のために存在しているんです!」
凄い、ガッツポーズしながら言い切ったよ。
「フィックス、お願いです。この辞書を譲っていただけませんか?」
アレは、カードガチャで得たものだ。
俺の物であって、絶対に譲渡できない仕組みとなっている。
可能なのは、あくまでレンタルのみ。
「マフィン様、残念ですが《とある理由》で譲渡できません」
「その理由をお伺いしても?」
予想していたのか、彼女の目が冷たく俺を見つめてくる。
こればかりは、俺の事情を全て打ち明けるしかない。
王族なら、俺の職業やスキルを話しても、内密にしてもらえるだろう。
俺が、カード戦士・カード化・カードガチャの詳細を話していくと、先程まで感じていた冷たい眼差しも少しずつ緩んでいくのを感じる。
「《カード戦士》、《カード化》、《カードガチャ》、どれも聞いたことがありませんね。あなたも、私と同じ立ち位置にいるのですね。譲渡できないのは残念ですが、あなたの許可があれば、一週間単位でレンタルできるのですね?」
良かった、きちんと理解してくれたようだ。盗難、殺人といった手段を用いても、カードは相手の物にならない。カードガチャで得たものである以上、効果欄に記載されている内容に遵守すること、これこそが一番の近道となる。
「はい、おまけに紙への複写も可能ですから、まずは全てを複写するべきかと思います」
一年は十二ヶ月、一ヶ月は三十日、一週間は六日を指す。三百ページ以上あるし、文字のサイズも小さいから、一週間で全てを複写させることは無理だろう。とりあえず、レンタル期間は一ヶ月かな?
ただで貸すのもなんだし、俺としてはいくらかのお金を貰いたい。新たにフィリアナを仲間にした以上、生活費も倍近く必要となるはずだ。王族相手なら、少しばかり吹っかけてもいいよな? 一週間で銀貨三枚もらえれば、俺としても助かる。
「それが、一番現実的ですね。フィックス、レンタル代ですが一週間につき、金貨三枚でどうでしょう?」
は、金貨三枚!
「あのマフィン様、俺は守銭奴じゃありません。紙に書き写すだけの作業ですから、銀貨三枚でいいです」
これは、本当の気持ちだ。
単純作業だけで、金貨三枚は貰いすぎだろう?
「いえ、この価格が最適です。私としては、金貨五枚でも良いと思っているわ。他者にとってはどうでもいい本でしょうけど、私にとっては自分の人生を大きく左右させる程の逸品なのよ。あなたは、もっと欲を持つべきね。王族を相手にしているのだから、もっとふっかけてもいいのよ?」
いやいや、王族相手だからこそ、大金なんて請求できませんよ!
一平民の俺がそこまで言ったら、完全に脅しだろ?
本当に、そんな大金を貰っていいのか?
う…この人の目は真剣だ、下手に逆らえない。
「一ヶ月は借りておきたいのですが、宜しいですか?」
一ヶ月…てことは三十日で、金貨十五枚!?
二等星冒険者が、貰える額じゃないぞ!
○○○
交渉は成立した。
結局、レンタル期間は一ヶ月、費用は金貨十五枚で押し切られることになってしまった。その場で支払われることになったので、今俺の目の前に金貨十五枚が並べられている。ちなみに、フィリアナはお菓子と飲み物に夢中で、交渉の場には一切立っていない。
「こんな大金、貰っていいのだろうか?」
あ、いかん。
素の言葉が出てしまった。
「私が納得しているのですから、構いません。あなたの場合、カード化もありますから、盗まれる危険性もないでしょう」
さすが王族、これだけの金貨を見ても平然としている。平民の平均月収は金貨五枚前後、俺はその三倍の報酬を得てしまったのか。
「そして、こちらが報酬の金貨十枚よ。全て、私の個人資産なので安心してください」
ハルヒトさんが丁寧な所作で、金貨十枚をテーブルに置いていく。
俺の金銭感覚が狂いそうだ。
「あ、ありがとうございます。あの…俺の許可も得たので、今後《極小生物辞典》に限り、マフィン様自身が《カード化》と《解除》の宣言が可能となりました。ただ、材質が上質な紙製なのため、火魔法にだけは注意してください。俺のカードガチャでも、同じアイテムを入手出来るとは限りませんから」
燃やされた場合、そのアイテムは消滅してしまう。俺自身、カードガチャで得られるアイテムを選択できない以上、全てのアイテムがこの世で一つしかないと思った方がいい。
「そこが難点よね。私にとって、この辞典は国宝と同じ扱いにしておくわ。複写する部屋も、きちんと精査しないといけないわね。《カード化》……驚いた…本当にカードになったわ。しかも、重さも軽くなっているわ。ふふ、これは便利な力ね」
さっきまで緊張感に包まれた場ではあったものの、マフィン様が柔らかな笑顔をとったことで、部屋の雰囲気が軽くなっていくのを感じる。
ふう~、これで全て終わりだ。
いきなりの王族との対談は、もうコリゴリだ。
「フィックス、終わった?」
フィリアナがいつの間にか、俺の方を見つめている。
そうだ、ここからは彼女の件を話さないといけない。
「ああ、終わったよ。あの女の件か?」
「そうそう」
王族のマフィン様なら、あの女のことを知っているはずだ。
名前は…そうだ、マリエルだ!
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