52 / 61
52話 どうして、こうなったの? *マクレミーサ視点
しおりを挟む
「マクレミーサ、処分が決まるまで、この牢屋の中に入っていなさい」
ジェイコブ先生が私の背中を軽く押したことで、私は神殿地下の牢屋内に入れられる。そこは狭い仄暗い空間で、囚人は私1人。先生を見ると、丁度鍵を閉め終えたところだった。
神殿地下にある牢屋の中でも、大罪を犯したものだけが収監される『終獄牢』、スキルや魔法といったステータスの全てが封印され脱出不可能と聞かされていたけど、授業で教わった通りだわ。
力が、全然入らない。
「君の仕出かした事がキッカケで、5名の巫女と13名の神官が死んだ。ヒライデン伯がいなければ、タルパ共が王都を支配し、王国を滅ぼしていたかもしれない。聖女になりたいがため、欲が先走り、幼いリノアを殺し、幼いルミナに全責任を負わせる。大人として、その行為を恥ずかしいと思わないのか?」
そんな事…言われなくてもわかってるわよ。
あの時、空にいるタルパの大群を感知できていれば、こんな事にはならなかったのに。死霊系モンスターの中でも上位に入る人型魔物リッチ、そいつが空高くに隠れ、旧ラリマンド邸の敷地内に特殊な結界を張って、タルパを呼び寄せ、神官たちを誘き寄せ、全員を食って強化した後、王都にいる全ての人々を殺し、ゾンビ化させて、死霊の国を作り上げようと画策していた。
ヒライデン伯と冒険者リョウトが、リッチを捕縛し邸内に引き込み討伐したことで、その計画を破綻させた。あの時の闇、あれは間違いなくリッチクラスの魔物だった。それを邸内で何の被害も出さずに瞬殺、そんな人物を敵に回せないわよ。
私を睨む伯爵様の目、私の全てを見透かしているかのような感覚がして、心底恐ろしかった。だから、ヒライデン伯が神殿を訪れた時、私は全てを自白した。
その結果がこれ。
「私は……死罪でしょうか?」
私が全てを自白し、別部屋で監禁されていた時、何らかの話し合いが行われていたはず。
「それは、教皇様方が帰還して決められる……と言いたいところだが、君と私の刑に関しては、先程決まったところです」
先生と私?
私はともかく、先生が何故罰を受けるの?
「教皇様方の意見を無視するのですか?」
「今回の件、光精霊いえ全ての精霊たちが、大変お怒りなんですよ。光精霊様が代表して、教皇様方のもとを訪れ、『罰は我々が下す』と宣言したそうです」
そんな…だって精霊は、地上に不干渉なんでしょ? 特に、こういった政治関連には、絶対に関わってこないのに…どうして…いえ、それよりも、どんな罰が下されるの?
「ルティナもリノアも、精霊様方のお気に入りなんです。リノアを、このままタルパとして地上に残すのは大変遺憾、そこで精霊方はこう宣言しました。『マクレミーサを【時間凍結の刑】とする。刑執行は、明日の午前0時。8年後、リノアが成人となり、彼女の身体を欲した時、魂を消滅させる。また、身体を欲していない場合、魂を消滅させたあと、身体を永久的に時間凍結させたまま、ダメな聖女候補の見本として、次代の聖女候補たちに語り継いでいけ』」
嘘…でしょ? それって、私にとっては死と同義じゃない。明日の午前0時になったら、身体を動かせなくなり、この魂だけが意識を持って、8年間を過ごさないといけない。そして8年後、リノアの返事に関係なく、私は消滅する。
「そんな…」
「君は、精霊様を怒らせるほどの大罪を犯したということだ。そして今から8年間、私は時の止まった君の身体を護るよう命令を受けた。それが、私の罰だ。私は8年間、君は一生、この空間から逃れられない。当然の罰でしょう。次代の聖女候補たちの殆どが死んでしまい、神官たちは今から国中を旅して、新たな聖女候補たちを探し出さないといけないのですから」
なんで…どうして…。
「ルティナは…ルティナはどうなるのですか? あの子は、間違いなく次代の聖女に近しい存在です。古来から伝わる聖魔法[サンクチュアリ]の常識を、根底から覆したわ」
ルティナの魔力量は私と同等だけど、制御能力がイマイチだったのに、神殿を追放されてから劇的に変わった。ヒライデン伯の次男リョウト様が彼女を救い、現在も共に行動していると聞いている。あのエリアヒールとキュアの改良型も、彼が発案したものらしいけど、ルティナはそれをもう使いこなしているわ。あの子は生きているのだから、神殿へ呼び戻せばいいじゃない。
「私も、ルティナこそが次代の聖女と思っていますが、彼女を神殿から追放した以上、その処分を簡単に覆せません。聖女様方がご帰還されるまで、『リョウトには彼女やリノアと行動を共にするよう約束を取り付けた』と、ヒライデン伯が仰っていたので、こちらとしても一安心です」
一度下した裁定を覆す、これは神殿側にとっても屈辱のはずだわ。
あはは、よく考えたら、その決断をさせたのも、全部私の企んだ事じゃない。
もう……味方になってくれる人は誰もいないわ。
今日以降、私にとって地獄の日々が始まるのね。
8年間、皆から文句を言われ続け、魂が消滅しても、身体はダメ聖女の見本として語り継がれていく。
「先生…申し訳…ありませんでした」
「こんな事になって残念です。ファーレン侯爵方も今日中に来られるでしょうから、自分で反省の言葉を述べなさい」
「はい」
「あなたは、私の生徒です。魂が消滅するまで、私があなたの側に控えていますよ。語り合えることはできませんが、あなたは1人じゃない」
「ありがとう…ござい…ます」
先生の言葉で、私は泣いた。
彼は何も悪くないのに、私の罪を一部背負ってくれてる。
全部、私が悪いのに。
私は、間違いなく貴族としての身分を剥奪され、親子との縁も切られる。ある意味、あの時の戦いで死んでいた方がマシだったかもしれない。
あの状況下で命の危機を感じた時、真っ先に思い浮かんだのは【保身】。
少しでも躊躇したらタルパに狙われると思い、私は我が身可愛さで悩む事なく、2人の子供たちを差し出した。
取り返しのつかない事件を起こしたからこそ、心を魔物にするしかなかった。だから、私は未来ある8歳の子供(ルティナ)に、奴隷の首輪を装着させ、全ての責任を押し付けて神殿から追い出した。
すぐに死体になると思ったのに、まさか奴隷の首輪を外され、真実を冒険者だけでなく、新聞記者にまで話し、おまけにリノアと仲睦まじい様子まで見せつけた写真を掲載するなんて思いもしなかった。
それだけ2人は、私を恨んでいる。
当然よね。
ルティナとリノアには、正式に謝罪を入れたかったな。
ジェイコブ先生が私の背中を軽く押したことで、私は神殿地下の牢屋内に入れられる。そこは狭い仄暗い空間で、囚人は私1人。先生を見ると、丁度鍵を閉め終えたところだった。
神殿地下にある牢屋の中でも、大罪を犯したものだけが収監される『終獄牢』、スキルや魔法といったステータスの全てが封印され脱出不可能と聞かされていたけど、授業で教わった通りだわ。
力が、全然入らない。
「君の仕出かした事がキッカケで、5名の巫女と13名の神官が死んだ。ヒライデン伯がいなければ、タルパ共が王都を支配し、王国を滅ぼしていたかもしれない。聖女になりたいがため、欲が先走り、幼いリノアを殺し、幼いルミナに全責任を負わせる。大人として、その行為を恥ずかしいと思わないのか?」
そんな事…言われなくてもわかってるわよ。
あの時、空にいるタルパの大群を感知できていれば、こんな事にはならなかったのに。死霊系モンスターの中でも上位に入る人型魔物リッチ、そいつが空高くに隠れ、旧ラリマンド邸の敷地内に特殊な結界を張って、タルパを呼び寄せ、神官たちを誘き寄せ、全員を食って強化した後、王都にいる全ての人々を殺し、ゾンビ化させて、死霊の国を作り上げようと画策していた。
ヒライデン伯と冒険者リョウトが、リッチを捕縛し邸内に引き込み討伐したことで、その計画を破綻させた。あの時の闇、あれは間違いなくリッチクラスの魔物だった。それを邸内で何の被害も出さずに瞬殺、そんな人物を敵に回せないわよ。
私を睨む伯爵様の目、私の全てを見透かしているかのような感覚がして、心底恐ろしかった。だから、ヒライデン伯が神殿を訪れた時、私は全てを自白した。
その結果がこれ。
「私は……死罪でしょうか?」
私が全てを自白し、別部屋で監禁されていた時、何らかの話し合いが行われていたはず。
「それは、教皇様方が帰還して決められる……と言いたいところだが、君と私の刑に関しては、先程決まったところです」
先生と私?
私はともかく、先生が何故罰を受けるの?
「教皇様方の意見を無視するのですか?」
「今回の件、光精霊いえ全ての精霊たちが、大変お怒りなんですよ。光精霊様が代表して、教皇様方のもとを訪れ、『罰は我々が下す』と宣言したそうです」
そんな…だって精霊は、地上に不干渉なんでしょ? 特に、こういった政治関連には、絶対に関わってこないのに…どうして…いえ、それよりも、どんな罰が下されるの?
「ルティナもリノアも、精霊様方のお気に入りなんです。リノアを、このままタルパとして地上に残すのは大変遺憾、そこで精霊方はこう宣言しました。『マクレミーサを【時間凍結の刑】とする。刑執行は、明日の午前0時。8年後、リノアが成人となり、彼女の身体を欲した時、魂を消滅させる。また、身体を欲していない場合、魂を消滅させたあと、身体を永久的に時間凍結させたまま、ダメな聖女候補の見本として、次代の聖女候補たちに語り継いでいけ』」
嘘…でしょ? それって、私にとっては死と同義じゃない。明日の午前0時になったら、身体を動かせなくなり、この魂だけが意識を持って、8年間を過ごさないといけない。そして8年後、リノアの返事に関係なく、私は消滅する。
「そんな…」
「君は、精霊様を怒らせるほどの大罪を犯したということだ。そして今から8年間、私は時の止まった君の身体を護るよう命令を受けた。それが、私の罰だ。私は8年間、君は一生、この空間から逃れられない。当然の罰でしょう。次代の聖女候補たちの殆どが死んでしまい、神官たちは今から国中を旅して、新たな聖女候補たちを探し出さないといけないのですから」
なんで…どうして…。
「ルティナは…ルティナはどうなるのですか? あの子は、間違いなく次代の聖女に近しい存在です。古来から伝わる聖魔法[サンクチュアリ]の常識を、根底から覆したわ」
ルティナの魔力量は私と同等だけど、制御能力がイマイチだったのに、神殿を追放されてから劇的に変わった。ヒライデン伯の次男リョウト様が彼女を救い、現在も共に行動していると聞いている。あのエリアヒールとキュアの改良型も、彼が発案したものらしいけど、ルティナはそれをもう使いこなしているわ。あの子は生きているのだから、神殿へ呼び戻せばいいじゃない。
「私も、ルティナこそが次代の聖女と思っていますが、彼女を神殿から追放した以上、その処分を簡単に覆せません。聖女様方がご帰還されるまで、『リョウトには彼女やリノアと行動を共にするよう約束を取り付けた』と、ヒライデン伯が仰っていたので、こちらとしても一安心です」
一度下した裁定を覆す、これは神殿側にとっても屈辱のはずだわ。
あはは、よく考えたら、その決断をさせたのも、全部私の企んだ事じゃない。
もう……味方になってくれる人は誰もいないわ。
今日以降、私にとって地獄の日々が始まるのね。
8年間、皆から文句を言われ続け、魂が消滅しても、身体はダメ聖女の見本として語り継がれていく。
「先生…申し訳…ありませんでした」
「こんな事になって残念です。ファーレン侯爵方も今日中に来られるでしょうから、自分で反省の言葉を述べなさい」
「はい」
「あなたは、私の生徒です。魂が消滅するまで、私があなたの側に控えていますよ。語り合えることはできませんが、あなたは1人じゃない」
「ありがとう…ござい…ます」
先生の言葉で、私は泣いた。
彼は何も悪くないのに、私の罪を一部背負ってくれてる。
全部、私が悪いのに。
私は、間違いなく貴族としての身分を剥奪され、親子との縁も切られる。ある意味、あの時の戦いで死んでいた方がマシだったかもしれない。
あの状況下で命の危機を感じた時、真っ先に思い浮かんだのは【保身】。
少しでも躊躇したらタルパに狙われると思い、私は我が身可愛さで悩む事なく、2人の子供たちを差し出した。
取り返しのつかない事件を起こしたからこそ、心を魔物にするしかなかった。だから、私は未来ある8歳の子供(ルティナ)に、奴隷の首輪を装着させ、全ての責任を押し付けて神殿から追い出した。
すぐに死体になると思ったのに、まさか奴隷の首輪を外され、真実を冒険者だけでなく、新聞記者にまで話し、おまけにリノアと仲睦まじい様子まで見せつけた写真を掲載するなんて思いもしなかった。
それだけ2人は、私を恨んでいる。
当然よね。
ルティナとリノアには、正式に謝罪を入れたかったな。
37
お気に入りに追加
867
あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる