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51話 フレデリックの謝罪と苦しみ *フレデリック・ヒライデン視点
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魂が崩壊する寸前になって、私はようやく全ての柵から解放されたことを悟る。だが、それと同時に、私は人として生を受け、何を残せたのかと疑問に感じてしまう。自分の個を抑え込み、両親の理想を追求した結果、こんな最後を迎えることになろうとは。
自分の夢へと直走る平民が羨ましかった。
自分の夢を叶えるために努力していく令息、令嬢が羨ましかった。
自分の個を曝け出し、微笑み合う男女が羨ましかった。
私の場合、物心ついた時から、個を出した瞬間に、両親から激怒されていた。
『ヒライデン家で、その笑い方はするな。不愉快だ』
『そうね、その喋り方と笑い方は下品です』
『魔法の使い方に、気品がない。もっと優雅に動作しろ』
『立ち方も駄目だ、魔法師の頂点としての立ち振る舞いを覚えなさい』
私は個を否定され続ける事で、自分に自信を持てなくなっていった。
もっと強く、もっと立派になるにはどうしたらいいのか、悩み抜いた末に出した結論が、『親の掲げる理想像を目指せばいい』というものだ。その決断以降、私は自分を押し殺し、なりたくもない理想像を作り上げた。
両親の言うことを忠実に聞いたことで、学院に入った頃には、皆から尊敬される人間へと成長したが、心はいつも満たされていなかった。何故なら、それが私の求める個と異なっていたからだ。
婚約者となる女性も、ヒライデン家と関わりの深い家で、両親の求める理想の女だったこともあり、表の私も皆と同様大喜びだった反面、私の内面は悲しみで溢れていた。本来の私の好みと、かけ離れていたからだ。ただ、貴族として生まれた以上、恋愛に関しては諦めていたから、自分の個を隠しながら、彼女と上手く付き合ってきた。
そんな学院時代、私はアラン・ラリマンドに一度も勝った事がない。それ故、陰では万年次席の男と揶揄され、テストがある度に両親から怒られ、むしゃくしゃする日々が続いた。そんな日頃からの鬱憤を晴らすため、訓練場を訪れ、毎日真剣で素振りをしていると、ある時、アランと偶然出会った。クラスが同じだったとはいえ、奴自身が物静かであったため、これまで数度しか話したことがなかった。ライバル視していたこともあって、話し合いをしていくうちに友人関係を築けることに成功した。
あいつは、天才だ。
魔法理論の構築、そこからの開発方法、どれも秀逸で面白い。私は、こいつには勝てないと実感した。家族との悩みをあいつに少し打ち明けた事で、私と婚約者との間に生まれてくる子供には、私と同じ苦しみを味合わせないよう心に誓った。
だが、学院を卒業し、結婚式を挙げ、次男リョウトが生まれ、5歳を迎えてから少しずつおかしくなってきた。次男は落ちこぼれだったこともあり、5歳でのギフトを女神から戴いて以降、私に爵位を譲った両親が急にしゃしゃり出てきて、妻と3人で息子に教育を施すようになった。
私は、魔法省の仕事で家を空けている時が多い。教育に殆ど手を出していなかったこともあり、気づいた頃には、リョウトの目に変化が起きていた。私のように個を隠しているわけではないが、どこか醒めた表情で会話を交わしている。何かがおかしいと思い、自分で調査したら、両親と妻が虐待ともいえる教育を施していたのだ。流石の私も、これには3人を軽く批判した。いくら落ちこぼれと言えど、この内容を続けていけば、いつか身体を壊してしまうからだ。
だが、リョウトのギフトの効果もあり、3人は考えを変えなかった。私も理想の自分を演じなければいけないこともあり、これ以上の批判を避け、息子の体調を陰ながら気遣っていたが、さすがに10歳になっても、魔法を一つも習得できないとなると話は別だ。いつしか、私自身も息子を蔑むようになってしまった。
そして、15歳の誕生日を迎え、ギフトが加工という意味不明なものを取得したことで、我々は何も聞かず、リョウトを追放した。ただ、追放時、息子が我々の威圧に耐えていたことを不思議に思ったが、あえて無視した。
あの時点で、私は両親から天候魔法の真髄を突き止めるよう厳命されていたから、息子に監視を付けたりせず、今後何処かで再会しても放っておくよう皆に命令し、私は夜間もしくは休日に限り、霊体となってアランの住んでいた邸へと移動して、資料捜索に没頭する日々を続けるわけだが。
そもそも、最初からアランたちを殺すつもりなどなかった。
あの時、私は父から一家全員を誘拐するよう命令を受けたが、実行していない。アランは私にとって唯一無二の親友、なんとか説得出来ないか、ずっと案を模索していたが、業を煮やした父と母が私の了解なく、勝手に誘拐を実行し、最悪な結果をもたらしのだ。生死を問わなかったのも、資料だけあれば十分と勝手に思い込み、それで不十分だと知るや否や、私に資料捜索をするよう当たり散らす。正直、あの時程、両親を殴り殺したいと思ったことはない。
私は家族から離れ、1人になったところを見計らい、自分の優柔不断さを悔いた。学生時代の頃から、もっと自分に素直になって、アランに全てを打ち明けるべきだったのだ。私はアランたちへの謝罪と鎮魂を込めて、3人の遺体を捜し出し、然るべき墓地へと埋葬した。
そして、私自らが霊体を飛ばして、一家の住んでいた邸内で天候魔法の資料を探索していくうちに、タルパや神官が侵入してきて騒がしくなり、再びアランやリョウトと遭遇し話を聞いたが……あの量のタルパが、ヒライデン家の悪意に引き寄せられていたと知り、妙に納得してしまう自分が心の中にいた。
・アランの抱える恨みと怒り
・リョウトの隠し持っていた強大な力
私がアランの提案に乗ってしまうと、確実に殺されると思い逡巡していたが……内心でもう生きることに疲れたと思う自分もそこにいた。アランに私の身体を託し、両親に天罰を与えてもいいかもしれない。
そんな心の迷いが戦いに影響したのか、私はアランとの勝負に負けた。
私の意志が少しずつ消滅していく。
全てが消える前に、自分の抱える全ての苦しみをアランに話し謝罪した。そして、リョウトに施したこれまでの仕打ちに関しても悔やみ、謝罪していることを伝えてほしいと彼に頼んだ。
あの力を見た時、息子もアラン同様、天才なのだと理解した。それと同時に、あれならヒライデン家が絡んできたとしても、その脅威を退ける事ができるだろうと安心した。
私は、何のためにこの世に生まれたのだろう?
結局のところ、両親の操り人形だったのだろうか?
ああ、私の意志が消えていく。
こんな愚かな私に、来世があるのだろうか?
来世があるのなら、自分の個を潰さない両親から生まれたいものだ。
アラン、リョウト…すまなかった。
自分の夢へと直走る平民が羨ましかった。
自分の夢を叶えるために努力していく令息、令嬢が羨ましかった。
自分の個を曝け出し、微笑み合う男女が羨ましかった。
私の場合、物心ついた時から、個を出した瞬間に、両親から激怒されていた。
『ヒライデン家で、その笑い方はするな。不愉快だ』
『そうね、その喋り方と笑い方は下品です』
『魔法の使い方に、気品がない。もっと優雅に動作しろ』
『立ち方も駄目だ、魔法師の頂点としての立ち振る舞いを覚えなさい』
私は個を否定され続ける事で、自分に自信を持てなくなっていった。
もっと強く、もっと立派になるにはどうしたらいいのか、悩み抜いた末に出した結論が、『親の掲げる理想像を目指せばいい』というものだ。その決断以降、私は自分を押し殺し、なりたくもない理想像を作り上げた。
両親の言うことを忠実に聞いたことで、学院に入った頃には、皆から尊敬される人間へと成長したが、心はいつも満たされていなかった。何故なら、それが私の求める個と異なっていたからだ。
婚約者となる女性も、ヒライデン家と関わりの深い家で、両親の求める理想の女だったこともあり、表の私も皆と同様大喜びだった反面、私の内面は悲しみで溢れていた。本来の私の好みと、かけ離れていたからだ。ただ、貴族として生まれた以上、恋愛に関しては諦めていたから、自分の個を隠しながら、彼女と上手く付き合ってきた。
そんな学院時代、私はアラン・ラリマンドに一度も勝った事がない。それ故、陰では万年次席の男と揶揄され、テストがある度に両親から怒られ、むしゃくしゃする日々が続いた。そんな日頃からの鬱憤を晴らすため、訓練場を訪れ、毎日真剣で素振りをしていると、ある時、アランと偶然出会った。クラスが同じだったとはいえ、奴自身が物静かであったため、これまで数度しか話したことがなかった。ライバル視していたこともあって、話し合いをしていくうちに友人関係を築けることに成功した。
あいつは、天才だ。
魔法理論の構築、そこからの開発方法、どれも秀逸で面白い。私は、こいつには勝てないと実感した。家族との悩みをあいつに少し打ち明けた事で、私と婚約者との間に生まれてくる子供には、私と同じ苦しみを味合わせないよう心に誓った。
だが、学院を卒業し、結婚式を挙げ、次男リョウトが生まれ、5歳を迎えてから少しずつおかしくなってきた。次男は落ちこぼれだったこともあり、5歳でのギフトを女神から戴いて以降、私に爵位を譲った両親が急にしゃしゃり出てきて、妻と3人で息子に教育を施すようになった。
私は、魔法省の仕事で家を空けている時が多い。教育に殆ど手を出していなかったこともあり、気づいた頃には、リョウトの目に変化が起きていた。私のように個を隠しているわけではないが、どこか醒めた表情で会話を交わしている。何かがおかしいと思い、自分で調査したら、両親と妻が虐待ともいえる教育を施していたのだ。流石の私も、これには3人を軽く批判した。いくら落ちこぼれと言えど、この内容を続けていけば、いつか身体を壊してしまうからだ。
だが、リョウトのギフトの効果もあり、3人は考えを変えなかった。私も理想の自分を演じなければいけないこともあり、これ以上の批判を避け、息子の体調を陰ながら気遣っていたが、さすがに10歳になっても、魔法を一つも習得できないとなると話は別だ。いつしか、私自身も息子を蔑むようになってしまった。
そして、15歳の誕生日を迎え、ギフトが加工という意味不明なものを取得したことで、我々は何も聞かず、リョウトを追放した。ただ、追放時、息子が我々の威圧に耐えていたことを不思議に思ったが、あえて無視した。
あの時点で、私は両親から天候魔法の真髄を突き止めるよう厳命されていたから、息子に監視を付けたりせず、今後何処かで再会しても放っておくよう皆に命令し、私は夜間もしくは休日に限り、霊体となってアランの住んでいた邸へと移動して、資料捜索に没頭する日々を続けるわけだが。
そもそも、最初からアランたちを殺すつもりなどなかった。
あの時、私は父から一家全員を誘拐するよう命令を受けたが、実行していない。アランは私にとって唯一無二の親友、なんとか説得出来ないか、ずっと案を模索していたが、業を煮やした父と母が私の了解なく、勝手に誘拐を実行し、最悪な結果をもたらしのだ。生死を問わなかったのも、資料だけあれば十分と勝手に思い込み、それで不十分だと知るや否や、私に資料捜索をするよう当たり散らす。正直、あの時程、両親を殴り殺したいと思ったことはない。
私は家族から離れ、1人になったところを見計らい、自分の優柔不断さを悔いた。学生時代の頃から、もっと自分に素直になって、アランに全てを打ち明けるべきだったのだ。私はアランたちへの謝罪と鎮魂を込めて、3人の遺体を捜し出し、然るべき墓地へと埋葬した。
そして、私自らが霊体を飛ばして、一家の住んでいた邸内で天候魔法の資料を探索していくうちに、タルパや神官が侵入してきて騒がしくなり、再びアランやリョウトと遭遇し話を聞いたが……あの量のタルパが、ヒライデン家の悪意に引き寄せられていたと知り、妙に納得してしまう自分が心の中にいた。
・アランの抱える恨みと怒り
・リョウトの隠し持っていた強大な力
私がアランの提案に乗ってしまうと、確実に殺されると思い逡巡していたが……内心でもう生きることに疲れたと思う自分もそこにいた。アランに私の身体を託し、両親に天罰を与えてもいいかもしれない。
そんな心の迷いが戦いに影響したのか、私はアランとの勝負に負けた。
私の意志が少しずつ消滅していく。
全てが消える前に、自分の抱える全ての苦しみをアランに話し謝罪した。そして、リョウトに施したこれまでの仕打ちに関しても悔やみ、謝罪していることを伝えてほしいと彼に頼んだ。
あの力を見た時、息子もアラン同様、天才なのだと理解した。それと同時に、あれならヒライデン家が絡んできたとしても、その脅威を退ける事ができるだろうと安心した。
私は、何のためにこの世に生まれたのだろう?
結局のところ、両親の操り人形だったのだろうか?
ああ、私の意志が消えていく。
こんな愚かな私に、来世があるのだろうか?
来世があるのなら、自分の個を潰さない両親から生まれたいものだ。
アラン、リョウト…すまなかった。
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