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45話 黒幕の宿す底知れぬ怨恨
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僕は黒幕を連行して、書庫へと向かう。移動中、ずっとこの人から怨念を吸い続けているけど、どれだけの怨みを溜め込んでいたのやら、未だに闇の中に潜む者の姿が見えてこない。
スキル[同調]、これは魔力の波長を合わせることで、相手の心情を汲み取れる効果を持つけど、あくまで表面上の思いしか感じ取れない。今、その表面にあるのは、恨みの標的の1人とされるヒライデン伯爵を殺すことだけど、更に深い奥底に何を秘めているのかまでは覗けない。表に出ている怨念を全て吸い取り、人としての姿を露見させてから話し合う必要がある。
話し合いは、慎重に行おう。
黒幕が感情を制御できないと、また怨恨が溢れ出てきて、元の姿へと戻ってしまうのだから。僕の思いが同調で伝わったのか、さっきまで暴れながら歩いていた奴が急に大人しくなる。
「あなたも、自我を失ったままの状態で積年の恨みとなる人物と相対したくないだろう? どうせなら、とことん話し合いたいはずだ。違いますか?」
身体を震わせているということは、自我を取り戻しつつある証拠だね。僕が食べているのは、あくまで怨恨のみ。奴の魔力を食っているわけじゃないから、彼の力自体は総魔力量9300前後を維持したままだ。このままヒライデン伯爵と相対し戦闘となると、周囲に相当な被害が出てしまう。
室内での戦闘を回避するためにも、事を慎重に進めていこう。
○○○
書庫に到着する頃には、怨念を吸い続けたこともあり、奴の闇も祓われ、人としての姿が明るみとなる。彼の名前アラン・ラリマンド伯爵、スーツを着ており、その溢れ出る上品さから、一目で貴族の男性紳士だとわかる。生きていた頃は、さぞ幸せな生活を送れていたのだろうけど、事故死と聞いているけど、どんな最後を迎えてしまったのか、今の彼はリノアと同じタルパと化してしまっている。
彼はヒライデン伯爵のライバル、この状況を理解できているのだろうか?
「ここは……我が家? 私は……私は…奴らを始末するため…そうか…やっと辿り着いたのか」
どうやら、死んでからの記憶をある程度は保持しているようだ。
これなら、話し合いも可能だ。
「あなたは怨恨のせいで、自我を失っていたんですよ」
怨恨の味がブルーベリージュースに似ていたから、当分の間はブルーベリー関係のものはいらない。
「怨恨…そうか。私…いや私たちは事故で……ところで、君は?」
「僕はリョウトと言います。以前は、リョウト・ヒライデンという名前でした」
「ヒライデン!! いや…待て。私は、奴から君の名前を聞いたことがない」
このまま怨恨に囚われてほしくないし、僕の事情を少し打ち明けておこう。
「そりゃあ、ずっと疎まれていましたから。15歳になっても、魔法を一つも習得できないこともあり、少し前に除籍されたんですよ」
「あの家に、君のような存在もいたのか」
ヒライデンという名前は、貴族界隈ではかなり有名だ。どの時代においても、誰かが魔法関係で、必ず何らかの実績を上げているからだ。
「あなたの標的となるヒライデン伯爵は、この書庫室の中にいます。心の整理はつきましたか?」
僕の言葉に対し、アランさんの顔に怒りが現れる。
「つくわけないだろう。我々家族を事故死に見せかけて殺すよう指示した犯人だぞ?」
うん、同調で察してはいたよ。流石に、犯行動機までは分からないけど、何故ヒライデン伯爵はラリマンド一家を殺したんだ?
「とりあえず、まずは話し合いです。戦闘に関しては、相手の言い分を聞いてからにしましょう」
「君が監視しているのだから、戦闘という愚かな行為などせんよ。こうして締め上げられていることで、君の強さが私やフレデリック以上だと理解できる」
そういえば、まだ暴食を発動中で、アランさんを拘束したままだった。
「それは、買いかぶりです。俺は魔力量こそあなた方より上ですけど、実戦経験はないですし(この世界では)、使える魔術もまだ少ないですから。ガチで勝負したら、経験の差で負けるでしょうね」
これは、本当のことだ。
いくら魔力量が多くても、僕は実戦慣れしていない。
「この闇の拘束、魔術というのかね?」
「ええ、僕は魔法を習得できないので、自分で新規のものを構築し、それを魔術と呼んでいます」
「魔法を使えないから、自分で扱える術を新規に構成したのか。フレデリックも、何故これ程の技量を持つ鬼才を追放したのか疑問に思うよ」
僕がアランさんの味方と伝えるためにも、ここは正直に自分の胸の内を話しておくか。
「僕は、人に利用されるのが一番嫌いなんです。父方のヒライデンという家は、初代が賢者と呼ばれている由縁なのか、魔法に対して異様な執着心を持っています。僕は5歳の頃から、父や父方の祖父母に厳しい魔法教育を受けているので、それがよくわかるんです。だから、奴らを信用していません。こんなものを披露させたら、利用されて捨てられるのが関の山です」
僕の言葉のせいか、僕に対するアランさんの敵意が完全に消えた。
「その通りだ。私はヒライデン家に対して、そこまでの危機感を察せなかった。そのせいで、家族全員が奴らに殺された」
う~ん、ヒライデン家に対しての受け止め方が、僕とアランさんで違うようだ。彼はヒライデン伯爵を信用したことで、最終的に悲惨な最後を遂げたわけか。これは、書庫の中にいる本人と、直接話し合いながら聞いた方がいいかもしれないな。
スキル[同調]、これは魔力の波長を合わせることで、相手の心情を汲み取れる効果を持つけど、あくまで表面上の思いしか感じ取れない。今、その表面にあるのは、恨みの標的の1人とされるヒライデン伯爵を殺すことだけど、更に深い奥底に何を秘めているのかまでは覗けない。表に出ている怨念を全て吸い取り、人としての姿を露見させてから話し合う必要がある。
話し合いは、慎重に行おう。
黒幕が感情を制御できないと、また怨恨が溢れ出てきて、元の姿へと戻ってしまうのだから。僕の思いが同調で伝わったのか、さっきまで暴れながら歩いていた奴が急に大人しくなる。
「あなたも、自我を失ったままの状態で積年の恨みとなる人物と相対したくないだろう? どうせなら、とことん話し合いたいはずだ。違いますか?」
身体を震わせているということは、自我を取り戻しつつある証拠だね。僕が食べているのは、あくまで怨恨のみ。奴の魔力を食っているわけじゃないから、彼の力自体は総魔力量9300前後を維持したままだ。このままヒライデン伯爵と相対し戦闘となると、周囲に相当な被害が出てしまう。
室内での戦闘を回避するためにも、事を慎重に進めていこう。
○○○
書庫に到着する頃には、怨念を吸い続けたこともあり、奴の闇も祓われ、人としての姿が明るみとなる。彼の名前アラン・ラリマンド伯爵、スーツを着ており、その溢れ出る上品さから、一目で貴族の男性紳士だとわかる。生きていた頃は、さぞ幸せな生活を送れていたのだろうけど、事故死と聞いているけど、どんな最後を迎えてしまったのか、今の彼はリノアと同じタルパと化してしまっている。
彼はヒライデン伯爵のライバル、この状況を理解できているのだろうか?
「ここは……我が家? 私は……私は…奴らを始末するため…そうか…やっと辿り着いたのか」
どうやら、死んでからの記憶をある程度は保持しているようだ。
これなら、話し合いも可能だ。
「あなたは怨恨のせいで、自我を失っていたんですよ」
怨恨の味がブルーベリージュースに似ていたから、当分の間はブルーベリー関係のものはいらない。
「怨恨…そうか。私…いや私たちは事故で……ところで、君は?」
「僕はリョウトと言います。以前は、リョウト・ヒライデンという名前でした」
「ヒライデン!! いや…待て。私は、奴から君の名前を聞いたことがない」
このまま怨恨に囚われてほしくないし、僕の事情を少し打ち明けておこう。
「そりゃあ、ずっと疎まれていましたから。15歳になっても、魔法を一つも習得できないこともあり、少し前に除籍されたんですよ」
「あの家に、君のような存在もいたのか」
ヒライデンという名前は、貴族界隈ではかなり有名だ。どの時代においても、誰かが魔法関係で、必ず何らかの実績を上げているからだ。
「あなたの標的となるヒライデン伯爵は、この書庫室の中にいます。心の整理はつきましたか?」
僕の言葉に対し、アランさんの顔に怒りが現れる。
「つくわけないだろう。我々家族を事故死に見せかけて殺すよう指示した犯人だぞ?」
うん、同調で察してはいたよ。流石に、犯行動機までは分からないけど、何故ヒライデン伯爵はラリマンド一家を殺したんだ?
「とりあえず、まずは話し合いです。戦闘に関しては、相手の言い分を聞いてからにしましょう」
「君が監視しているのだから、戦闘という愚かな行為などせんよ。こうして締め上げられていることで、君の強さが私やフレデリック以上だと理解できる」
そういえば、まだ暴食を発動中で、アランさんを拘束したままだった。
「それは、買いかぶりです。俺は魔力量こそあなた方より上ですけど、実戦経験はないですし(この世界では)、使える魔術もまだ少ないですから。ガチで勝負したら、経験の差で負けるでしょうね」
これは、本当のことだ。
いくら魔力量が多くても、僕は実戦慣れしていない。
「この闇の拘束、魔術というのかね?」
「ええ、僕は魔法を習得できないので、自分で新規のものを構築し、それを魔術と呼んでいます」
「魔法を使えないから、自分で扱える術を新規に構成したのか。フレデリックも、何故これ程の技量を持つ鬼才を追放したのか疑問に思うよ」
僕がアランさんの味方と伝えるためにも、ここは正直に自分の胸の内を話しておくか。
「僕は、人に利用されるのが一番嫌いなんです。父方のヒライデンという家は、初代が賢者と呼ばれている由縁なのか、魔法に対して異様な執着心を持っています。僕は5歳の頃から、父や父方の祖父母に厳しい魔法教育を受けているので、それがよくわかるんです。だから、奴らを信用していません。こんなものを披露させたら、利用されて捨てられるのが関の山です」
僕の言葉のせいか、僕に対するアランさんの敵意が完全に消えた。
「その通りだ。私はヒライデン家に対して、そこまでの危機感を察せなかった。そのせいで、家族全員が奴らに殺された」
う~ん、ヒライデン家に対しての受け止め方が、僕とアランさんで違うようだ。彼はヒライデン伯爵を信用したことで、最終的に悲惨な最後を遂げたわけか。これは、書庫の中にいる本人と、直接話し合いながら聞いた方がいいかもしれないな。
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