元構造解析研究者の異世界冒険譚

犬社護

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最終章【ハーゴンズパレス−試される7日間】

石碑に刻まれた謎

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正直、オーキスがいてくれて助かった。彼がいなければ今頃どうなっていたか、背筋がゾッとするよ。彼も同時期に転移されたこともあって春物の学生服を着ており、寒さに対応するため黒のジャケットを着用している。

私はオーキスに引き揚げられ周囲を確認すると、《2階へと続く大きな大階段》がフロア中心にあり、その側に《巨大な石碑》があった。あの石碑に、遺跡の主人のヒントが刻まれているはずだ。

ただ、この階段へと続く通路が、私達の通ってきた1本しかない。
ネルマが到着した時、彼女は彼について何も言わなかった。
彼は、何処にいたのだろう?

「オーキス、ありがとう」
「初めて、シャーロットの助けになれたよ。《ステータス封印》や《2階に行くと1階に戻れなくなる》件については、ベアトリスさんから聞いている。だから、ずっと階段の中央付近から1階と2階の様子を伺い、君達が来るのを待っていたんだ」

オーキス、ナイス判断!!!
階と階の間ならどちらにも属されないから、1階への行き来は可能だよ。

「ネルマ様は、ステータスを封印されていないと聞いていますが大丈夫でしょうか?」
「オーキスさん、私なら大丈夫です。ただ、シャーロット様とはタメ口で話しているのですから、ネルマでいいですよ」

「あ………それもそうか」

あはは、公爵令嬢の私にはタメ口で、子爵令嬢のネルマには敬語というのもおかしいよね。

さて彼への御礼も済んだことだし、あの石碑に刻まれているものを確認しようか。

「オーキスは、あの石碑を確認したの?」
「ああ、既に確認済だよ。シャーロットもネルマも見るといいよ」

遺跡の主人の正体に繋がる内容が刻まれているはず、早速拝見しましょう。
ナルカトナ遺跡のような巫山戯た内容ではありませんように!

《歴史の転換点》

人類による文明が築かれてから数千年、様々な場所にて後の歴史に大きな爪痕を残すこととなる大事件が発生する。ここに、代表的なものを刻もう。

約3200年前 【鬼人族vs 妖魔族】 

大陸全土を震撼させた戦いで、三大陸全てにおいて大きな爪痕を残す。当初、鬼人族は劣勢であったものの、中立の妖魔達を味方に引き入れ【鬼人変化】スキルを得て以降、約30年という年月をかてけて、妖魔族の駆逐に成功する。三大陸の中でも、大勢の鬼人族が住むハーモニック大陸で起きた戦いが最も苛烈であったため、その余波により大地の奥底にて、様々な鉱石が産み出されることとなる。

約3000年前 【鬼人族 vs 神ガーランド】

妖魔族を壊滅させた鬼人族達は、約200年間栄冠の極みを迎えていた。当初の彼らは他種族に対し穏やかな対応であったものの、長い年月と共に圧倒的強さに溺れていき、性格も負の方向へと進んでいく。この様子を見かねたガーランドは神自ら大地へと降り立ち、彼らを戒めようと話し合いを試みるものの、好戦的な性格へと変貌していた彼らにとって、神は絶好の相手であったため戦いを挑む。しかし、いかなる攻撃であっても神に傷を与えることはできなかった。これを【神への冒涜】と判断し激怒したガーランドは、たった1度の攻撃でハーモニック大陸全土を震撼させ、鬼人族の戦意を根こそぎ喪失させる。そして一族全員に対し、後の魔鬼族にまで繋がる《禿げの呪い》を付与させた。

その後、宇宙から隕石を投下させ、ハーモニック大陸に住む全種族を絶滅の危機に追いやる。この所業を見たランダルキアとアストレカ大陸に住む鬼人族達は、反省の意を込めて、自らの持つ全ての力を環境復活のために注ぐことを神に誓う。


約1000年前  魔素戦争の勃発

愚かな鬼人族が悔い改めたことで、人類絶滅だけは阻止できたものの、文明は隕石衝突の影響で大きく後退する。長い時を経て文明も少しずつ進歩していき、1000年後再び全大陸にて栄冠を迎える。栄冠のキッカケとなったのが、転移魔法の開発である。当初、莫大な魔力が必要とされていたが、ハーモニック大陸に存在する霊樹の膨大な魔力を利用することで、3大陸の行き来が可能となったのだ。

しかも、霊樹の地に赴かなくとも、力を取り入れることが可能となったため、全国家がこぞって膨大な力を利用し始めるが、何処にでも《支配欲の高い》人種は存在する。この霊樹の魔力を利用出来れば、全世界を支配できると目論む輩が全国家に多数現れ、戦略兵器が次々と開発されたのだ。

これにより、世界大戦が勃発する。

特にハーモニック大陸では、戦争の頻度が激しく、霊樹を自分達のものしようと日を追うごとに激化していき、各国とも疲弊していった。この戦争を《力》で強引に支配しようと行使されたのが、【魔素爆弾】である。この巨大爆弾がジストニス王国を基点に各地に投下されたことで、ハーモニック大陸内での戦争は終息を迎えようとしていた。

しかし、その代償は重かった。魔素爆弾の力は、霊樹に多大な負荷を与えた。これにより、霊樹の力は日増しに勢いを低下させていく。転移魔法の開発により、霊樹の地に赴かなくとも、力を取り入れることが可能となったアストレカとランダルキア大陸の人達はこの事態を知らないため、この緊急事態が急遽伝達されたことにより、世界大戦は全ての大陸において終息を迎えることとなる。

【2つの戦争】【隕石衝突】、この事象がハーモニック大陸地下内部に、莫大なレアメタルを産ませることとなる。

約200年前  アストレカ大陸 vs ハーモニック大陸

ある日、獣人族達は遺跡内にて、3000年前と1000年前の情報を入手する。当時、レアメタルはアストレカ大陸内で殆ど産出されず、市場に出回っているのは全てダンジョン産であった。この情報が正しければ、ハーモニック大陸内には膨大なレアメタルが眠っている。人間族、エルフ族、ドワーフ族とも話し合い、ハーモニック大陸と交易が始まる。

《戦争の悲惨さ》を後世の人類に残すため、情報を刻んだにも関わらず、人は同じ過ちを繰り返す。獣人族が発端となり、アストレカ大陸の全種族はハーモニック大陸の種族達を騙し討ちし、レアメタルを根こそぎ奪っていく。これにより、《聖女シャーロット》が転移されるまで、両大陸の交易は断絶されることとなる。

この4点こそ歴史の大きな転換点となるのだが………【全てに於いて、《勇者》と《聖女》が必ず介入している】


ここまでが、石碑に刻まれている内容か。


大半の内容が既に知っているものだけど、最後の一文となる《勇者と聖女》の内容だけは知らない。しかも、その箇所だけが大きく強調されている。

遺跡の主人の正体は、《勇者》か《聖女》なのだろうか?
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