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10歳〜アストレカ大陸編【戴冠式と入学試験】
癒しのフレヤ、裁きのシャーロット(4/1 16時35分後半加筆修正あり)
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作者からの一言
読者様からの指摘で、後半部分において、少し混乱する描写がありました。
《国王陛下》の忠告以降の内容を若干変更しています。
○○○
みんなが、8番の無表情女子に集中している。彼女は、剣術・風魔法・スキルを見事に使いこなし、30発全てを破壊したのだから当然か。風魔法に関しても、使用したのは初級【ウィンドカッター】の4発のみ。うち4発は遠距離用とし、彼女から5m程離れた位置に東西南北に分かれて停滞する。遠距離用の球が射出されると、4発のうち1発が対応し破壊していく。近距離に関しては、彼女自身がショートソードで対応しており、球への反応速度も10歳という年齢を考慮すると、見事なものだ。
構造解析したいけど、失礼な行為に値するので、試験が終了してからお話ししよう。
「ほらほら~全球破壊したのだから、そこは笑顔にならないとダメだよ~。可愛い顔が台無しだよ~」
キョウラク先生が皆の緊張を解すためか、場を温めようとしてくれている。それに対し、8番の女子は終始無表情、試験の合否に関係ないけど、あの対応だと印象が悪い。あ、一応キョウラク先生や私達に深く会釈して、こっちに戻ってくる。
「あの子、凄いわ。次は、私なのにやりずらいよ~」
あれを見せられたら、リーラも意識してしまう。
「リーラ、落ち着いて。惑わされず、自分だけに集中しよう」
試験結果次第で、次の模擬戦で呼ばれる可能性がある。
【近距離】のみで試験を受けた人達は、体力だけ消耗するため問題ない。
問題は、【遠距離】と【両方】で試験を受けた人達だ。消耗するのは《体力・魔力》となる。後の模擬戦を考え、消費MPの低い初級魔法で如何に効率よく球を破壊するか、この方法が問われる。その方法を通して、受験生達が自分自身の力量をどれだけ正確に把握し、制御できているかも合否に大きく関わってくる。
フレヤと8番を見て、大部分の受験生達がこの件に気づいている。リーラにアドバイスしたいけど、その行為は彼女の為にならない。だから、軽く触れておいた。
「9番、円の中心に行ってね~」
リーラが、両手で自分のホッペを叩く。
「シャーロット、フレヤ、オーキス、特訓の成果を見ててね!」
吹っ切れたかな? リーラの気迫が凄い。私達が応援のエールを贈ると、彼女は円の中心へと向かった。
「始め!」
キョウラク先生の声と同時に、いきなりリーラの正面と背後から球が同時に放たれる。
「遅いわ」
リーラは、まるで後ろに目が付いているかのように、光魔法の光弾【ライトバレット】で、2つの球のど真ん中を正確に撃ち抜き破壊する。しかも、後方の的に関しては、一切見ていない。光弾はそのまま持続しており、次々と放たれる球を全てど真ん中に撃ち抜いている。しかも、彼女は中心地点から1歩も動いていない。
ふと、オーキスを見ると、何やら冷や汗をかいている。
「オーキス、どうしたの?」
「前半から飛ばし過ぎです。あれじゃあ…」
「そうだね。あらら、オーキスの言う通り、命中場所が少しずつズレてきてる」
リーラは8番の女子よりも、反応速度が速い。8番の場合、球が変化した後、すぐに風魔法で切断している。でも、リーラは変化する前に球を撃ち落としている。同じスキルレベルと魔力量で各属性の魔法を射出した場合、最も射出速度が速いのは【光】だ。そのため、この芸当が可能なのだけど、これ以外にも理由がある。彼女は、スキル【魔力感知】、【魔力操作】、【並列思考】、【イーグルアイ】といった複数のスキルを同時に使用しているのだ。
魔法を必要最小限に抑えているため、MPの消費は少ない。でも、この作業には多大な集中力が必要とされる。そのため30秒を過ぎた頃から、集中力が少しずつ低下し、貫かれる球の箇所が真ん中からズレてきているのだ。
リーラ自身の【合格したい!】という思いが強過ぎるんだね。それでも、彼女は負けず嫌いなところもあるから、必死にくらいついている。
「それまで~」
試験が終了し、リーラがふらふら~っと戻ってきた。
試験結果は30発中25発破壊だ。
「フレヤに1点負けた~」
それでも、十分凄いからね。
「リーラ、初めから全力で行き過ぎだよ」
私が注意すると、彼女はちょっとたじろぐ。
「う! だって1分程度なら集中力も保つかなって、アハハ……保たなかった」
フラついている時点で、ダメだよ。でも、評価自体は高いと思う。
「リーラ様は、ハリキリすぎです。たった1分と思って侮りましたね」
オーキスは笑顔で、彼女をディスる。
「く~オーキスめ~、言い返せない」
フレヤもリーラも、この2年で大きく成長している。
私もオーキスも負けていられない。
「オーキスは、剣術と魔法両方を習っているから、遠近両方かな?」
「ええ、どちらも高得点を獲得したいと思っていますよ。シャーロット様は?」
「オーキスと一緒。私は、球の対処方法を決めてあるけど、あなたはもう決めたの?」
「ええ、もう決めてます」
なんか、自信アリな表情をしている。オーキスは勇者である以上、騎士団の剣術部隊と魔法部隊の両方にしごかれている。そこに精霊様の知識も加わるから、この2年で大きく成長しているはず。どんな世界を見せてくれるのか、楽しみだ。
彼の順番が回ってくると、フレヤやリーラとは違った意味で、注目を集めている。所々で、受験生達がヒソヒソと話し合っている。
「シャーロット様とフレヤ様の幼馴染ですって」
「え、そうなの!?」
「おい、アイツが騎士団の秘蔵っ子だってよ」
「マジか! てことは、剣術と魔法のエリートか。お手並み拝見だよな」
男女問わず、そういった声が漏れ出ている。オーキス自身、この状況を理解していることもあり、然程動じていない。
「騎士団の秘蔵っ子の登場か~準備はいいかな~?」
「いつでもどうぞ」
「その意気込みがいいね~、それじゃあ……始め!」
《ドン》…《ドン》
オーキスの武器はショートソード、10歳ということを考慮すると手ごろな武器といえる。初めの1発は挨拶代りなのか、オーキスの顔面めがけて飛んできた。
彼は全く動じず、剣を振ることなく真正面に構える。すると、球は剣に向かっていき、そのまま左右に分断される。時間差で次の球が、彼の右足の足下目掛けて飛んでくる。
「ふん!」
おお、オーキスは目を向けることなく、右足に火属性を付与させて、球を踏み潰し破壊した。そこから左肩目掛けての速球と、オーキスの背後、高さ10m付近にゆる~い球が射出されたけど、彼は軌道を予測して、剣の一振りで左肩肩付近に飛んできた球を左下から右上へと両断し、その勢いを保ったまま身体を反転させ、風の斬撃で背後の遠距離球を両断した。
へえ~、球が遠近にランダムで射出され、速度や変化球に惑わされることなく、風の刃で全てを両断していく。彼の使用しているスキルは《風刃》、消費MPは0であるため、ウィンドカッターよりも断然お得だ。ただ、魔法の【ウィンドカッター】よりも自由度が低く、真っ直ぐにしか飛ばない。そのデメリットを無くすため、彼は体全体を巧みに動かし、風刃で球を次々と破壊している。
結局、オーキスは【30発全てを剣術の技だけで両断する】という快挙を成し遂げた。
「さすが騎士団の秘蔵っ子~、その名も伊達じゃないね~」
オーキス自身、自分の体力と集中力の限界を知っているから、必要最小限のスキルだけで試験をクリアーしたか。さすが勇者、10歳にして恐ろしい才能だ。受験生達も、彼の動きとその正確性を認識したのか、誰もオーキスの悪口を喋らなくなった。
「オーキス、お疲れ様。凄いね! 全ての球の中心点を両断してたよ! 狙ってたの?」
何故か、オーキスの顔が赤い。
「あ…はい。リーラ様のおかげもあって、冷静に対処できました」
それを聞いたリーラは、悔しそうにしている。
「く~~オーキス~~生意気~~~」
残すは、私だけか。フレヤと私の渾名が本物であることを証明させるやり方で、試験を受けましょう。
「(シャーロット様、気をつけて)」
え? フレヤが小声で話しかけてきた。
「(私の試験、最後の球だけ、何処か違和感を感じました)」
「(違和感?)」
同じ魔導具から射出された2発の球、1発目のすぐ後ろにあった球のことだよね?
「(ウォータージェットで斬った手応えがゴムじゃなくて、硬い金属を斬ったかのような感覚がしたんです)」
金属? 私が見た限り、普通のゴム球だった。でも、フレヤの目は真剣だ。
「(わかった。誰かが、何かを仕掛けてくるかもしれないんだね)」
フレヤは、静かに頷いた。
「(任せて…何者か知らないけど、力づくでぶっ潰すから!)」
誰かが、《聖女》と《聖女代理》の力を試そうとしているのか。
いいね、面白いよ! 受けて立ちましょう!
フレヤに注意されて以降、受験生の試験を注意深く観察したけど、おかしな態度を見せる人はいなかった。そして、私の出番がやって来る。
「次は、いよいよ真打ち登場って奴だね~。癒しのフレヤ、裁きのシャーロット、渾名通りにどんな裁きを見せてくれるのか楽しみだね~」
キョウラク先生、その言い方はやめてほしい。
この2年で、私は2度聖女として出動した。出動内容は、【Aランク暴れドラゴンの鎮圧】、【流行病の阻止】だ。海の街ベルンの沖合でサーペントドラゴンが暴れているとの報告が入り、私とフレヤが出向いた。
ドラゴンに関しては《ブレス》を上空に向けて乱発させるわ、周囲に《小津波》を発生させるわ、非常に鬱陶しい行為を連発していたので、巨体を海から引きずり出し、上空にて私の手加減パンチ(他者から見れば《風の衝撃弾》)を連打で浴びせたことで、強制的に正気を取り戻させた。
その後、サーペントドラゴンは私を見るだけで怯える始末、そのためフレヤが話を聞いてあげた。暴れた原因は、【小魚が耳の中に入り、体内からの音が煩くて混乱した】というものだった。
今回の件で人々に多大な迷惑をかけたため、サーペントドラゴンは私達だけでなく、ベルンの漁師達にも平謝りしていた。このことから、性格はかなり温厚といえる。フレヤと話し合った結果、《討伐の必要なし》と判断し解放させたのだけど、肝心のドラゴンが自分の話を真剣に聞いてくれたフレヤのことを気に入り、なんと従魔契約に至ることになった。
サーペントドラゴンは海の魔物であるものの、高ランクの力を有しているため、魔法を使用すれば陸でも一定時間戦闘可能だ。フレヤの従魔は黒猫1匹しかいないため、彼女も喜んでいた。
【流行病】に関しては、フレヤと私が手分けして、その地に住む街の人達を治療することで、他の街や村に広がることはなかった。
そして、これまでの私の行いのせいか、この2年で付いた渾名が……
フレヤは【癒しの聖女】
私は【裁きの聖女】
なんだよね。
2年前の亡者大侵攻事件において、《従魔で蹂躙したこと》や《王族貴族達へのお仕置き》が、渾名のついた1番の原因なんだけど。しかも、聖女関連の歌がいつのまにか作曲されていて、国中に知れ渡っている。
【聖女】は《表裏一体、フレヤ様が人々を癒し、シャーロット様が魔法と従魔で悪を裁く》といった具合だ。【裁きのシャーロット】の名に恥じないよう、試験に立ち向かいましょう。
○○○
私が円の中心に行こうと思ったら、キョウラク先生が待ったをかける。
「先生、何でしょうか?」
「シャーロット、先に言っておくけど、従魔での裁きは禁止ですよ~」
「やりませんよ。私1人の力で、球を破壊します」
全く、先生も従魔だけの聖女と思っているのかな?
「破壊…ね。私も、サーペントドラゴンの事件を知っています。あなたの攻撃力を見せてもらいましょう」
私が円の中心に辿り着く。
この試験、通常であれば私に不利なものだ。私の物理と魔法攻撃力は0なのだから。本来であれば、【風刃】や【指弾(空気の衝撃弾)】で球を全球破壊すればいいのだけど、8番とオーキスが既に実行済みであるため、先生方に与えるインパクトは低い。
私は、それ以外の方法で破壊しないといけない。
ふふふ、私にも有効利用できる魔法をこの2年で見つけたのだ。
それをお披露目しよう!
「それでは始め~!」
合図と同時に3発の緩急をつけた球が、私の顔面・腹・背後に襲いかかってくる……が、私はそんなもの気にもせず、右手を空へと高々と伸ばす。すると、私の3m程手前で、球が急激に止まる。
ふふふ、すぐには破壊しないよ。
射出する学生もおかしいことに気づいたのか、次々と球を射出させていく。30秒ほどで、規定の30発を超えたのだけど、全ての球が円内の至る所で止まっている。学生達は、この異様な光景に目を奪われたせいか、正常な判断を失い射出をやめない。球の数は、気づけば50を超えていた。キョウラク先生もヒーリア先生も異常事態のためか、何も言わない。
なるほど…フレヤの言った通り、無属性魔法【マテリアルチェンジ(材質変化)】がいくつかの球にかけられている。これは指定した対象物を、一定時間(1~10秒)別の物質へと変化させる魔法だ。そして、指定箇所の体積が大きい程、変化させる材質の希少性が増す程、消費MPも増大する。
5球に1球、【ゴム】から【鉄】へ変化している球がある。
変化しているのは球の表面全て、深さは1mm程度だ。
球の外見がゴムの時と全く同じのため、目で見る限りわからない。表面1mmだけ鉄に変化しているため、質量自体もそこまで重くなっていない。そのため、魔導具の風魔法の補正により、速度もゴム製のものと同じだ。かなり巧妙に変化させていることを考慮すると、魔法の使用者はかなりのベテランさんだ。
《試験中、何者かが君に攻撃を仕掛けてきたとしても、【構造解析】スキルを使用しないように。試験終了後、王城に来れば全てがわかる》
と昨日国王陛下から言われている。
私のスキルに頼り過ぎれば、国の情報収集能力が著しく低下する。そのため私に対して何か起きた場合に限り、初期の時点では相手を解析せず、真っ先に陛下に知らせることを常々言われてきた。今回、試験中に何か起こるのではと思っていたけど、私だけに起こる出来事だと思っていた。
まさか、フレヤにまで攻撃を仕掛けてくるとは……。
とりあえず、魔法使用者に対する【構造解析】スキルの使用は控えて、試験官の先生達にも言わないでおこう。その代わり、後でこの攻撃の意図を国王陛下に問いただしてやる!
現状、誰が何処でやっているのかわからないけど、そんな小細工は私に通用しないよ!
「そろそろ1分ですね。 私にとって、球が遅かろうが速かろうが曲がろうが、材質がゴムだろうが鉄だろうが、距離が近かろうが遠かろうが関係ないのですよ。【粉砕】!」
《バアアアアァァァァーーーーーーン》
高々と上げた右手で握り拳を作った瞬間、63発の球が同時にグニャリとなって粉砕された。円内には、それらの残骸がパラパラと落ちていく。
「キョウラク先生、終わりました」
「あ…ああ…さ…さすが、裁きの聖女。まさか、全ての球を何らかの魔法で空中に固定させ破壊するとは…」
ふふふ、私の力は【従魔】だけではないのだよ!
あとキョウラク先生、素に戻ってますよ。
あれ?
一瞬で終わらせたせいか、誰もがポカ~ンとしている。
私がリーラ達のいる場所へ戻ろうとすると……
「シャーロット、ちょっと待ってくださ~い!」
声をかけてきたのは、ヒーリア先生だ。何故か、彼女はやや興奮しながら、私のもとへ走ってきて、私の両肩をガシッと両手で掴んだ。あの~顔が怖いんですけど?
「シャーロット、今の魔法は何ですか? 目で確認できませんでしたよ! しかも、全弾同時に破壊って、どれだけの制御能力を持っているんですか!? 魔力感知は? 魔力操作は? あ、破壊方法も教えてください。あとあと」
ちょっと~、顔が近いよ! 興奮しているからか、鼻息が顔にかかってるよ!
凄い早口で聞き取りにくいよ!?
「いっぺんに質問しないでください。順に、説明していきます。先程の魔法は、【重力魔法】です」
「重力魔法!? 聞いたことありませんよ!」
「当然です。私がハーモニック大陸で開発したものですから」
ハーモニック大陸ジストニス王国で開発して以降、この魔法の研究を重ねておいた。その成果を、ようやく出せたよ。
「ヒーリア先生は、【重力】という言葉を知っていますか?」
「勿論、知っています! 重力があるからこそ、私達は地上にいられるのですから」
知っているのなら、話は早い。
「重力魔法、指定した対象の重力を変化させる魔法です。ただし、私達が普段感じているものと違い、この魔法はあらゆる方向に重力を与えることができます。まあ、経験してもらった方が早いでしょう。効果範囲は訓練場一帯、【グラビトン1.5G】」
私が魔法を唱えると、受験生を含めた全員が、自分の身体に感じる違和感を感じたのか、自分の両手や周囲の人達を見つめだす。
「ちょ…これ…身体が重い?」
「ヒーリア先生、通常の重力を1.5倍増加させています」
「これで1.5倍!?」
「解除! これが重力というものです。普段と異なる重い力を初めて感じたため、皆は身体を重く感じたはずです。今のは、重力を空から地上へ与えたものですが、ここで問題です。この重力を何倍にも高め、全方位から物の中心に向かって均等に与えるとどうなるでしょう?」
全員が私の意図を察したようで、顔色が一気に悪くなる。
答えは、《中心に向かって押し潰される》だ。
研究してわかったことだけど、重力魔法に限っては、私の魔法攻撃力ゼロが意味を成さない。重力は、私の魔力で作り出している。この重力自体が身体に触れても、当然ダメージゼロだ。でも、間違いなく重さを感じてしまう。この重さは、私の魔力が重力に変換され、間接的に生じたものである。そのため、対象を物理的な意味で押し潰すことが可能なのだ。
「この重力魔法、使い方を間違えれば人や魔物を殺める効果を発揮しますが、皆を強くすることも可能なんです」
「強く? シャーロット、どういうことですか?」
ヒーリア先生もわからないか。まあ、初見の魔法だし思いつかないか。
「キョウラク先生、騎士にとって、剣速は重要ですよね?」
「あ…ああ…そうだね~。剣の繰り出す速さ、剣術を扱う者にとっての生命線だね~」
私が急に質問したためか、ちょっと戸惑っている。
「レベルアップやスキルの力を使わず、物理的な意味で、その速度をより速めたい場合、どうしますか?」
「どうするって……そりゃあ重い剣を持って、何万回も素振りを繰り返すしかないね~」
うんうん、模範的な解答だ。
「それだと、鍛えられる筋肉が限定されます。重力魔法は身体全体で感じられるので、重力を多少上げた状態で訓練を続けていけば、全身の筋肉が鍛えられるのです」
「あ、なるほど。そういう使い方もあるか~」
「ただ、一応警告しておきますが、先生方以外は、私とフレヤの使った魔法を練習してはいけません。重力魔法の制御をミスったら、自分自身があの球のようにグシャリと潰れますし、水魔法の場合は自分自身が最悪両断されます。最低でも、魔力操作や魔力感知といった基本スキルのレベルを5に引き上げてから練習してくださいね」
私が受験生達に向けて《にこり》と微笑むと、全員が粉々となった球を見て身震いする。
「5って、シャーロットのスキルレベルはいくつなんすか!?」
「ヒーリア先生、ハーモニック大陸で色々な事件に遭遇し、心身を鍛えられました。5以上あると思ってください」
「10歳でスキルレベル5以上……」
先生達は私の魔法のせいもあって、球に仕掛けられた魔法に気づいていない。
何者かが、入学試験に紛れ込んでいる。
私の仲間? それとも国王陛下の関係者?
国王陛下の目的はわからないけど、《私》か《フレヤ》が標的のようだから、今は静観しておこう。
読者様からの指摘で、後半部分において、少し混乱する描写がありました。
《国王陛下》の忠告以降の内容を若干変更しています。
○○○
みんなが、8番の無表情女子に集中している。彼女は、剣術・風魔法・スキルを見事に使いこなし、30発全てを破壊したのだから当然か。風魔法に関しても、使用したのは初級【ウィンドカッター】の4発のみ。うち4発は遠距離用とし、彼女から5m程離れた位置に東西南北に分かれて停滞する。遠距離用の球が射出されると、4発のうち1発が対応し破壊していく。近距離に関しては、彼女自身がショートソードで対応しており、球への反応速度も10歳という年齢を考慮すると、見事なものだ。
構造解析したいけど、失礼な行為に値するので、試験が終了してからお話ししよう。
「ほらほら~全球破壊したのだから、そこは笑顔にならないとダメだよ~。可愛い顔が台無しだよ~」
キョウラク先生が皆の緊張を解すためか、場を温めようとしてくれている。それに対し、8番の女子は終始無表情、試験の合否に関係ないけど、あの対応だと印象が悪い。あ、一応キョウラク先生や私達に深く会釈して、こっちに戻ってくる。
「あの子、凄いわ。次は、私なのにやりずらいよ~」
あれを見せられたら、リーラも意識してしまう。
「リーラ、落ち着いて。惑わされず、自分だけに集中しよう」
試験結果次第で、次の模擬戦で呼ばれる可能性がある。
【近距離】のみで試験を受けた人達は、体力だけ消耗するため問題ない。
問題は、【遠距離】と【両方】で試験を受けた人達だ。消耗するのは《体力・魔力》となる。後の模擬戦を考え、消費MPの低い初級魔法で如何に効率よく球を破壊するか、この方法が問われる。その方法を通して、受験生達が自分自身の力量をどれだけ正確に把握し、制御できているかも合否に大きく関わってくる。
フレヤと8番を見て、大部分の受験生達がこの件に気づいている。リーラにアドバイスしたいけど、その行為は彼女の為にならない。だから、軽く触れておいた。
「9番、円の中心に行ってね~」
リーラが、両手で自分のホッペを叩く。
「シャーロット、フレヤ、オーキス、特訓の成果を見ててね!」
吹っ切れたかな? リーラの気迫が凄い。私達が応援のエールを贈ると、彼女は円の中心へと向かった。
「始め!」
キョウラク先生の声と同時に、いきなりリーラの正面と背後から球が同時に放たれる。
「遅いわ」
リーラは、まるで後ろに目が付いているかのように、光魔法の光弾【ライトバレット】で、2つの球のど真ん中を正確に撃ち抜き破壊する。しかも、後方の的に関しては、一切見ていない。光弾はそのまま持続しており、次々と放たれる球を全てど真ん中に撃ち抜いている。しかも、彼女は中心地点から1歩も動いていない。
ふと、オーキスを見ると、何やら冷や汗をかいている。
「オーキス、どうしたの?」
「前半から飛ばし過ぎです。あれじゃあ…」
「そうだね。あらら、オーキスの言う通り、命中場所が少しずつズレてきてる」
リーラは8番の女子よりも、反応速度が速い。8番の場合、球が変化した後、すぐに風魔法で切断している。でも、リーラは変化する前に球を撃ち落としている。同じスキルレベルと魔力量で各属性の魔法を射出した場合、最も射出速度が速いのは【光】だ。そのため、この芸当が可能なのだけど、これ以外にも理由がある。彼女は、スキル【魔力感知】、【魔力操作】、【並列思考】、【イーグルアイ】といった複数のスキルを同時に使用しているのだ。
魔法を必要最小限に抑えているため、MPの消費は少ない。でも、この作業には多大な集中力が必要とされる。そのため30秒を過ぎた頃から、集中力が少しずつ低下し、貫かれる球の箇所が真ん中からズレてきているのだ。
リーラ自身の【合格したい!】という思いが強過ぎるんだね。それでも、彼女は負けず嫌いなところもあるから、必死にくらいついている。
「それまで~」
試験が終了し、リーラがふらふら~っと戻ってきた。
試験結果は30発中25発破壊だ。
「フレヤに1点負けた~」
それでも、十分凄いからね。
「リーラ、初めから全力で行き過ぎだよ」
私が注意すると、彼女はちょっとたじろぐ。
「う! だって1分程度なら集中力も保つかなって、アハハ……保たなかった」
フラついている時点で、ダメだよ。でも、評価自体は高いと思う。
「リーラ様は、ハリキリすぎです。たった1分と思って侮りましたね」
オーキスは笑顔で、彼女をディスる。
「く~オーキスめ~、言い返せない」
フレヤもリーラも、この2年で大きく成長している。
私もオーキスも負けていられない。
「オーキスは、剣術と魔法両方を習っているから、遠近両方かな?」
「ええ、どちらも高得点を獲得したいと思っていますよ。シャーロット様は?」
「オーキスと一緒。私は、球の対処方法を決めてあるけど、あなたはもう決めたの?」
「ええ、もう決めてます」
なんか、自信アリな表情をしている。オーキスは勇者である以上、騎士団の剣術部隊と魔法部隊の両方にしごかれている。そこに精霊様の知識も加わるから、この2年で大きく成長しているはず。どんな世界を見せてくれるのか、楽しみだ。
彼の順番が回ってくると、フレヤやリーラとは違った意味で、注目を集めている。所々で、受験生達がヒソヒソと話し合っている。
「シャーロット様とフレヤ様の幼馴染ですって」
「え、そうなの!?」
「おい、アイツが騎士団の秘蔵っ子だってよ」
「マジか! てことは、剣術と魔法のエリートか。お手並み拝見だよな」
男女問わず、そういった声が漏れ出ている。オーキス自身、この状況を理解していることもあり、然程動じていない。
「騎士団の秘蔵っ子の登場か~準備はいいかな~?」
「いつでもどうぞ」
「その意気込みがいいね~、それじゃあ……始め!」
《ドン》…《ドン》
オーキスの武器はショートソード、10歳ということを考慮すると手ごろな武器といえる。初めの1発は挨拶代りなのか、オーキスの顔面めがけて飛んできた。
彼は全く動じず、剣を振ることなく真正面に構える。すると、球は剣に向かっていき、そのまま左右に分断される。時間差で次の球が、彼の右足の足下目掛けて飛んでくる。
「ふん!」
おお、オーキスは目を向けることなく、右足に火属性を付与させて、球を踏み潰し破壊した。そこから左肩目掛けての速球と、オーキスの背後、高さ10m付近にゆる~い球が射出されたけど、彼は軌道を予測して、剣の一振りで左肩肩付近に飛んできた球を左下から右上へと両断し、その勢いを保ったまま身体を反転させ、風の斬撃で背後の遠距離球を両断した。
へえ~、球が遠近にランダムで射出され、速度や変化球に惑わされることなく、風の刃で全てを両断していく。彼の使用しているスキルは《風刃》、消費MPは0であるため、ウィンドカッターよりも断然お得だ。ただ、魔法の【ウィンドカッター】よりも自由度が低く、真っ直ぐにしか飛ばない。そのデメリットを無くすため、彼は体全体を巧みに動かし、風刃で球を次々と破壊している。
結局、オーキスは【30発全てを剣術の技だけで両断する】という快挙を成し遂げた。
「さすが騎士団の秘蔵っ子~、その名も伊達じゃないね~」
オーキス自身、自分の体力と集中力の限界を知っているから、必要最小限のスキルだけで試験をクリアーしたか。さすが勇者、10歳にして恐ろしい才能だ。受験生達も、彼の動きとその正確性を認識したのか、誰もオーキスの悪口を喋らなくなった。
「オーキス、お疲れ様。凄いね! 全ての球の中心点を両断してたよ! 狙ってたの?」
何故か、オーキスの顔が赤い。
「あ…はい。リーラ様のおかげもあって、冷静に対処できました」
それを聞いたリーラは、悔しそうにしている。
「く~~オーキス~~生意気~~~」
残すは、私だけか。フレヤと私の渾名が本物であることを証明させるやり方で、試験を受けましょう。
「(シャーロット様、気をつけて)」
え? フレヤが小声で話しかけてきた。
「(私の試験、最後の球だけ、何処か違和感を感じました)」
「(違和感?)」
同じ魔導具から射出された2発の球、1発目のすぐ後ろにあった球のことだよね?
「(ウォータージェットで斬った手応えがゴムじゃなくて、硬い金属を斬ったかのような感覚がしたんです)」
金属? 私が見た限り、普通のゴム球だった。でも、フレヤの目は真剣だ。
「(わかった。誰かが、何かを仕掛けてくるかもしれないんだね)」
フレヤは、静かに頷いた。
「(任せて…何者か知らないけど、力づくでぶっ潰すから!)」
誰かが、《聖女》と《聖女代理》の力を試そうとしているのか。
いいね、面白いよ! 受けて立ちましょう!
フレヤに注意されて以降、受験生の試験を注意深く観察したけど、おかしな態度を見せる人はいなかった。そして、私の出番がやって来る。
「次は、いよいよ真打ち登場って奴だね~。癒しのフレヤ、裁きのシャーロット、渾名通りにどんな裁きを見せてくれるのか楽しみだね~」
キョウラク先生、その言い方はやめてほしい。
この2年で、私は2度聖女として出動した。出動内容は、【Aランク暴れドラゴンの鎮圧】、【流行病の阻止】だ。海の街ベルンの沖合でサーペントドラゴンが暴れているとの報告が入り、私とフレヤが出向いた。
ドラゴンに関しては《ブレス》を上空に向けて乱発させるわ、周囲に《小津波》を発生させるわ、非常に鬱陶しい行為を連発していたので、巨体を海から引きずり出し、上空にて私の手加減パンチ(他者から見れば《風の衝撃弾》)を連打で浴びせたことで、強制的に正気を取り戻させた。
その後、サーペントドラゴンは私を見るだけで怯える始末、そのためフレヤが話を聞いてあげた。暴れた原因は、【小魚が耳の中に入り、体内からの音が煩くて混乱した】というものだった。
今回の件で人々に多大な迷惑をかけたため、サーペントドラゴンは私達だけでなく、ベルンの漁師達にも平謝りしていた。このことから、性格はかなり温厚といえる。フレヤと話し合った結果、《討伐の必要なし》と判断し解放させたのだけど、肝心のドラゴンが自分の話を真剣に聞いてくれたフレヤのことを気に入り、なんと従魔契約に至ることになった。
サーペントドラゴンは海の魔物であるものの、高ランクの力を有しているため、魔法を使用すれば陸でも一定時間戦闘可能だ。フレヤの従魔は黒猫1匹しかいないため、彼女も喜んでいた。
【流行病】に関しては、フレヤと私が手分けして、その地に住む街の人達を治療することで、他の街や村に広がることはなかった。
そして、これまでの私の行いのせいか、この2年で付いた渾名が……
フレヤは【癒しの聖女】
私は【裁きの聖女】
なんだよね。
2年前の亡者大侵攻事件において、《従魔で蹂躙したこと》や《王族貴族達へのお仕置き》が、渾名のついた1番の原因なんだけど。しかも、聖女関連の歌がいつのまにか作曲されていて、国中に知れ渡っている。
【聖女】は《表裏一体、フレヤ様が人々を癒し、シャーロット様が魔法と従魔で悪を裁く》といった具合だ。【裁きのシャーロット】の名に恥じないよう、試験に立ち向かいましょう。
○○○
私が円の中心に行こうと思ったら、キョウラク先生が待ったをかける。
「先生、何でしょうか?」
「シャーロット、先に言っておくけど、従魔での裁きは禁止ですよ~」
「やりませんよ。私1人の力で、球を破壊します」
全く、先生も従魔だけの聖女と思っているのかな?
「破壊…ね。私も、サーペントドラゴンの事件を知っています。あなたの攻撃力を見せてもらいましょう」
私が円の中心に辿り着く。
この試験、通常であれば私に不利なものだ。私の物理と魔法攻撃力は0なのだから。本来であれば、【風刃】や【指弾(空気の衝撃弾)】で球を全球破壊すればいいのだけど、8番とオーキスが既に実行済みであるため、先生方に与えるインパクトは低い。
私は、それ以外の方法で破壊しないといけない。
ふふふ、私にも有効利用できる魔法をこの2年で見つけたのだ。
それをお披露目しよう!
「それでは始め~!」
合図と同時に3発の緩急をつけた球が、私の顔面・腹・背後に襲いかかってくる……が、私はそんなもの気にもせず、右手を空へと高々と伸ばす。すると、私の3m程手前で、球が急激に止まる。
ふふふ、すぐには破壊しないよ。
射出する学生もおかしいことに気づいたのか、次々と球を射出させていく。30秒ほどで、規定の30発を超えたのだけど、全ての球が円内の至る所で止まっている。学生達は、この異様な光景に目を奪われたせいか、正常な判断を失い射出をやめない。球の数は、気づけば50を超えていた。キョウラク先生もヒーリア先生も異常事態のためか、何も言わない。
なるほど…フレヤの言った通り、無属性魔法【マテリアルチェンジ(材質変化)】がいくつかの球にかけられている。これは指定した対象物を、一定時間(1~10秒)別の物質へと変化させる魔法だ。そして、指定箇所の体積が大きい程、変化させる材質の希少性が増す程、消費MPも増大する。
5球に1球、【ゴム】から【鉄】へ変化している球がある。
変化しているのは球の表面全て、深さは1mm程度だ。
球の外見がゴムの時と全く同じのため、目で見る限りわからない。表面1mmだけ鉄に変化しているため、質量自体もそこまで重くなっていない。そのため、魔導具の風魔法の補正により、速度もゴム製のものと同じだ。かなり巧妙に変化させていることを考慮すると、魔法の使用者はかなりのベテランさんだ。
《試験中、何者かが君に攻撃を仕掛けてきたとしても、【構造解析】スキルを使用しないように。試験終了後、王城に来れば全てがわかる》
と昨日国王陛下から言われている。
私のスキルに頼り過ぎれば、国の情報収集能力が著しく低下する。そのため私に対して何か起きた場合に限り、初期の時点では相手を解析せず、真っ先に陛下に知らせることを常々言われてきた。今回、試験中に何か起こるのではと思っていたけど、私だけに起こる出来事だと思っていた。
まさか、フレヤにまで攻撃を仕掛けてくるとは……。
とりあえず、魔法使用者に対する【構造解析】スキルの使用は控えて、試験官の先生達にも言わないでおこう。その代わり、後でこの攻撃の意図を国王陛下に問いただしてやる!
現状、誰が何処でやっているのかわからないけど、そんな小細工は私に通用しないよ!
「そろそろ1分ですね。 私にとって、球が遅かろうが速かろうが曲がろうが、材質がゴムだろうが鉄だろうが、距離が近かろうが遠かろうが関係ないのですよ。【粉砕】!」
《バアアアアァァァァーーーーーーン》
高々と上げた右手で握り拳を作った瞬間、63発の球が同時にグニャリとなって粉砕された。円内には、それらの残骸がパラパラと落ちていく。
「キョウラク先生、終わりました」
「あ…ああ…さ…さすが、裁きの聖女。まさか、全ての球を何らかの魔法で空中に固定させ破壊するとは…」
ふふふ、私の力は【従魔】だけではないのだよ!
あとキョウラク先生、素に戻ってますよ。
あれ?
一瞬で終わらせたせいか、誰もがポカ~ンとしている。
私がリーラ達のいる場所へ戻ろうとすると……
「シャーロット、ちょっと待ってくださ~い!」
声をかけてきたのは、ヒーリア先生だ。何故か、彼女はやや興奮しながら、私のもとへ走ってきて、私の両肩をガシッと両手で掴んだ。あの~顔が怖いんですけど?
「シャーロット、今の魔法は何ですか? 目で確認できませんでしたよ! しかも、全弾同時に破壊って、どれだけの制御能力を持っているんですか!? 魔力感知は? 魔力操作は? あ、破壊方法も教えてください。あとあと」
ちょっと~、顔が近いよ! 興奮しているからか、鼻息が顔にかかってるよ!
凄い早口で聞き取りにくいよ!?
「いっぺんに質問しないでください。順に、説明していきます。先程の魔法は、【重力魔法】です」
「重力魔法!? 聞いたことありませんよ!」
「当然です。私がハーモニック大陸で開発したものですから」
ハーモニック大陸ジストニス王国で開発して以降、この魔法の研究を重ねておいた。その成果を、ようやく出せたよ。
「ヒーリア先生は、【重力】という言葉を知っていますか?」
「勿論、知っています! 重力があるからこそ、私達は地上にいられるのですから」
知っているのなら、話は早い。
「重力魔法、指定した対象の重力を変化させる魔法です。ただし、私達が普段感じているものと違い、この魔法はあらゆる方向に重力を与えることができます。まあ、経験してもらった方が早いでしょう。効果範囲は訓練場一帯、【グラビトン1.5G】」
私が魔法を唱えると、受験生を含めた全員が、自分の身体に感じる違和感を感じたのか、自分の両手や周囲の人達を見つめだす。
「ちょ…これ…身体が重い?」
「ヒーリア先生、通常の重力を1.5倍増加させています」
「これで1.5倍!?」
「解除! これが重力というものです。普段と異なる重い力を初めて感じたため、皆は身体を重く感じたはずです。今のは、重力を空から地上へ与えたものですが、ここで問題です。この重力を何倍にも高め、全方位から物の中心に向かって均等に与えるとどうなるでしょう?」
全員が私の意図を察したようで、顔色が一気に悪くなる。
答えは、《中心に向かって押し潰される》だ。
研究してわかったことだけど、重力魔法に限っては、私の魔法攻撃力ゼロが意味を成さない。重力は、私の魔力で作り出している。この重力自体が身体に触れても、当然ダメージゼロだ。でも、間違いなく重さを感じてしまう。この重さは、私の魔力が重力に変換され、間接的に生じたものである。そのため、対象を物理的な意味で押し潰すことが可能なのだ。
「この重力魔法、使い方を間違えれば人や魔物を殺める効果を発揮しますが、皆を強くすることも可能なんです」
「強く? シャーロット、どういうことですか?」
ヒーリア先生もわからないか。まあ、初見の魔法だし思いつかないか。
「キョウラク先生、騎士にとって、剣速は重要ですよね?」
「あ…ああ…そうだね~。剣の繰り出す速さ、剣術を扱う者にとっての生命線だね~」
私が急に質問したためか、ちょっと戸惑っている。
「レベルアップやスキルの力を使わず、物理的な意味で、その速度をより速めたい場合、どうしますか?」
「どうするって……そりゃあ重い剣を持って、何万回も素振りを繰り返すしかないね~」
うんうん、模範的な解答だ。
「それだと、鍛えられる筋肉が限定されます。重力魔法は身体全体で感じられるので、重力を多少上げた状態で訓練を続けていけば、全身の筋肉が鍛えられるのです」
「あ、なるほど。そういう使い方もあるか~」
「ただ、一応警告しておきますが、先生方以外は、私とフレヤの使った魔法を練習してはいけません。重力魔法の制御をミスったら、自分自身があの球のようにグシャリと潰れますし、水魔法の場合は自分自身が最悪両断されます。最低でも、魔力操作や魔力感知といった基本スキルのレベルを5に引き上げてから練習してくださいね」
私が受験生達に向けて《にこり》と微笑むと、全員が粉々となった球を見て身震いする。
「5って、シャーロットのスキルレベルはいくつなんすか!?」
「ヒーリア先生、ハーモニック大陸で色々な事件に遭遇し、心身を鍛えられました。5以上あると思ってください」
「10歳でスキルレベル5以上……」
先生達は私の魔法のせいもあって、球に仕掛けられた魔法に気づいていない。
何者かが、入学試験に紛れ込んでいる。
私の仲間? それとも国王陛下の関係者?
国王陛下の目的はわからないけど、《私》か《フレヤ》が標的のようだから、今は静観しておこう。
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