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10歳〜アストレカ大陸編【戴冠式と入学試験】

模擬戦前の練習試合《シャーロットVSヒーリア》

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4/1朝     前回の話をUP。
4/1夕方   後半部分を加筆修正しています。

○○○

能力判定試験終了後、私達受験生は一時解散となった。昼食に関しては、学内の食堂で食べても良いとのお達しがでて、しかも受験生のみ無料であるためか、皆がこぞって食堂へと移動していく。今日に限り、試験官の補助を任されている学生達以外は、学外で食べるよう言われているため混み合うこともない。私は……

『フレヤと2人で実施しないといけない大事な用事があるの。15分程で終わるから、先に食堂へ行って席を確保しておいて』

と嘘をつきオーキスやリーラと別れ、護衛のドールマクスウェル以外誰もいないことを確認してから、フレヤに国王陛下から言われたことを伝えた。

「え!? それじゃあ何者かが故意で、私とシャーロット様を試験中に狙ったのですか!」

フレヤのこの驚き様……どうやら彼女自身は何も聞いていないようだ。

「陛下から言われたこともあって、相手の居場所を探していないし、構造解析もしていない。ただ、狙われるのは私だけのはずなんだよ」

「それじゃあ、何か手違いが発生したのでしょうか?」

「多分…ね。まだ、試験が終わっていないから、フレヤも油断しないでね。何処かで狙われるかもしれない。終了したら、国王陛下とヘンデル教皇を問い詰めよう」

「わかりました」

フレヤが静かに頷く。

私達2人だけが気を抜けられない。オーキスとリーラに話してしまうと、2人が私達のことを気にかけてしまい、他の受験生に気取られる場合もある。そうなったら、受験生達も集中力を削がれ、試験に集中できなくなってしまう。

問題は、キョウラク先生とヒーリア先生だ。

《何か起こることを事前に知っていて、私達に対して何も言わないのか?》
《単に、何の事情も知らず、何も気づいていないのか?》

……とりあえず、今は黙っておこう。

学内に不法侵入者がいる場合、真っ先に先生に知らせるべき事案だけど、国王陛下が絡んでいる以上、他の受験生に被害は及ばないと思う。念のため、新たにドールXXを召喚し、訓練場を見張らせておけばいい。そして、もし他の受験生が試験中に狙われたら、即刻相手を構造解析して捕縛し、先生達に知らせよう。


○○○


私とフレヤは食堂に行き、オーキスやリーラと合流してから昼食を食べた。

キョウラク先生のおかげもあって、私達が食べ終わるのを見計らい、1~50番の受験生達が平民・貴族問わず、食堂内で私達に話しかけてくれた。この中には私やフレヤに命を助けれらた子供もおり、私達50人は呼び出される時間になるまで、和気藹々と楽しむことができた。ただ、8番の女子が私と話したそうにしていたけど、私自身皆に囲まれていたため、結局話せなかった。でも、彼女はオーキスやリーラと何か話していたよね。

ここにいる全員が合格してほしいところだけど、それは無理な話だ。


……昼3時36分、校内放送が学園全体に流れる。


受験生全員の能力判定試験が終了し、私達は訓練場に集まっている。私とフレヤはこの時間になるまで、周囲に悟られないよう警戒を続けていたけど、私達を付け狙う殺気や気配などは微塵も感じられなかった。また、ドールXXからの通信で、他の受験生達の試験では何の異常もみられないことがわかった。

もしかして、あれだけで終わりなの? 
国王陛下の目的が、イマイチ理解できない。

こうやって見渡した限り、受験生の人数は350名くらいかな? 
訓練場に入ると、キョウラク先生とヒーリア先生が集合場所にいた。

「皆、お疲れ様~。どうやら全員が集まったようだね~。今から番号を呼ばれた者達は、模擬戦をやってもらうね~。勝敗は、合否に関係しない。私とヒーリア先生が、現在の君達の中にある能力を解析し判断させてもらうからね~」

キョウラク先生は、相変わらずゆるい。緊張感の欠片もない。
番号が、次々と読みあげられていく。
私・フレヤ・リーラ・オーキスが呼ばれることはなかった。

「以上48名には、模擬戦を行ってもらうよ~」

48名か、結構多いな。名前を呼ばれなかった人達は一安心だろうけど、筆記試験の成績次第で必ずしも合格するとは限らない。今年の合格発表日は今から3日後だから、それまでドキドキするよね。

「人数も多いか4グループに分かれてもらい、制限時間10分で模擬戦を実施するからね~。あとで、審判を務める先生方も紹介するよ~。ただ、その前に能力判定試験で好成績を収めた受験生に練習試合をやってもらおうか~」

え、練習試合!? 聞いてないんですけど!

「8番のミーシャ・マードック、前に出てきて~」
「はい」
おお、獣人のあの子が試合をするんだ。名前は、ミーシャっていうんだ。名前を呼ばれても、相変わらず無表情だ。

「さて~君は誰と対戦したいかな~?」
指名制なの!?

「シャーロット様がいい」
私!? うわ、受験生全員が騒つき、こっちを見ている。

「う~ん、それはちょっと無理だね~。君とシャーロットでは、戦闘スタイルが違いすぎる。受験生達の練習試合では経験不足もあって、何が起こるかわからない。許可できないね~」

経験不足……1番怖いのは、【魔力暴走】だ。

《相手に勝ちたい!》という思いが強すぎる状態で魔法を放とうとすると、威力が通常よりも大きくなり、魔力を制御できなくなる。その結果、体内魔力が暴走して周囲に大被害を齎すのだ。万が一という場合も考えて許可しないのだろう。

「それじゃあ……オーキスでお願いします」
「ああ、彼となら面白い試合になりそうだね~。許可しよう~」

ミーシャVSオーキスか。
私の見た感じだと、力量的にはほぼ互角かな。

「あとシャーロット~」

ここで私を呼ぶの? 嫌な予感がする。

「はい、何でしょうか?」
キョウラク先生、私にも何かさせるつもり?

「君は全受験生の中で、魔力操作が最も上手い。だから…他の受験生の為にも、見本としてヒーリア先生と魔法の練習試合をやってもらうよ~」

ええ!
ヒーリア先生と魔法で戦うの!?

う~ん、【重力魔法】や【指弾】以外の戦い方もあるけど、先生相手に勝っちゃうのも問題あるよね?

どうしようかな?

「……わかりました。先にどちらからやりますか?」
「そうだね~、君とヒーリア先生からだね~」

練習試合か……そうだ!
実戦形式のつもりで戦い、最後にアレを使えば勝っても問題ない。
周囲から卑怯と思われるけど、私の言い方次第でどうとでもなる。


○○○


私とヒーリア先生は、訓練場中央にいる。ここは縦横20mの白線に囲まれており、互いに中心から5m程離れている。審判はキョウラク先生だ。

「いいかい? 《魔法の威力は初級魔法レベル》《2発当たった時点で負け》《降参したい場合は【負けました】と意思表示すること》《相手に大怪我を負わせないこと》以上だからね~。もし、規定を上回る魔法を放った場合、私が強制的に止めるから」

まずは、ヒーリア先生の力を見たい。

「シャーロット、私はこう見えても王国トップ5に入る実力者です。あなたがいない間、マリル様が魔法理論の根本を覆してくれました。ハーモニック大陸で身につけた力を、私に見せてください」


2年前、アストレカ大陸に住む人間・エルフ・獣人・ドワーフの99%以上がステータス数値250以下ということもあって、3大陸の中でも最弱に位置していた。

【私が転移されてから約1ヶ月後に起きた小規模の魔物大発生】
【私が帰還してから起きた亡者大侵攻】

今後こういった大事件を聖女に頼らず解決に導くためには、アストレカ大陸に住む全人類を強化せねばならない。

そこで、マリルは……

《【英雄】と呼ばれている自分がアストレカ大陸中の国々を渡り歩き、皆に《理論》を教えていけば、大陸中の人々が強化され、8年後に訪れるとされている【大災厄】にも迎え撃てる!》

という1つの結論を導き出した。

彼女は、お父様や国王陛下にこの提案を話し了解を得た後、大陸会議にて各国の王族達にも話した。大陸内の全国家が強化されることもあって、皆が賛同したものの、どの順番で実行していくかで少し揉めた。《強化された国が、強化していない国を攻め落とす》という懸念があったからだ。しかし、この疑念はマリルの言葉によって、すぐに取り払われた。

『皆様はこの大陸会議にて、シャーロット様の真の強さをお知りになりました。先程仰ったような行為をすれば、【聖女シャーロット様】が必ず動きます。最悪、ガーランド法王国の二の舞となりますよ』

この言葉により、順番に関してもエルディア王国から始めていき、そこから隣国へと移動していくことになったのだ。これにより、マリルはエルバラン公爵家を辞職し、現在でも精霊様から教えて頂いたスキルや魔法理論を大陸中に広めている最中である。

ヒーリア先生も、マリルから色々と教わったようだ。実際、彼女の強さはBランク上位、能力数値380くらいある。彼女も、相当な鍛錬を重ねてきている。

私としても、ヒーリア先生の魔法の扱いを見てみたい。

「わかりました、私の魔法の力をお見せしましょう」
「2人ともいい覇気だよ~、それでは始め!」

キョウラク先生の合図で、試合が始まった。

「シャーロット、まずは小手調べです!【ウィンドカッター】」

む、先生は無詠唱スキルを持っているのか。
手加減された4つの刃が、中々の速度で私に向かってくる。
それに、何か工夫を入れている。
ここは回避を……!?

《ズン》

え!
回避行動をとろうとした瞬間、身体が急に重くなった!?
これは……重力魔法【グラビトン】!

一体誰が?
通常の2倍程の重さしかないから、間近に迫る4つの刃を回避しよう。

直撃する寸前の所で、4つの刃を一つ一つ回避した途端、私に対する重力だけが3倍…4倍…と徐々に加算されてゆく。なんか、だんだんと腹が立ってきた! 私だから余裕で耐えられるけど、フレヤに使われていたらかなり危ない。

思った通り、刺客は魔法の扱いに長けている。

重力魔法に使用される《重力》は目に見えないし、大気中に常に存在している。そのため、他の魔法と異なり察知されにくい。しかも、対象が私に限定されているから、ヒーリア先生もキョウラク先生も気づいていない。私が開発したものだから、使用者は私の仲間かもしれない。

考え事をしていたら、回避した刃が急旋回し私に向かってきた!

「シャーロット、甘いですよ! 私の初級魔法や中級魔法は、回避されても指定した対象に直撃するまで自動追尾します」

ホーミング機能を付けているんだ! 彼女は、マリルから教えられた基礎を熟知している。でも、今は刺客への対処の方が先決だ。

使用者の場所は……訓練所を見渡せる本校舎の屋上か! 目的が何であれ、私の仲間であろうとも、ヒーリア先生との試合に水を差す輩は許さない!

国王陛下から注意されたことは、【構造解析スキルは使用するな】。
つまり、それ以外は何をやってもいいということだ!

相手は気配を巧妙に隠している…いや違う。
何者かを悟られないよう、気配を偽っている。

ここまでの使い手となるとトキワさん?
アッシュさんの場合もありえるか。

ユニークスキル【魔法支配】発動!

使用している【グラビトン】の効果をそのまま相手に返す。ただし、効果時間を30分に延ばす! 相手が国王陛下の知り合いで私の仲間かもしれない以上、こうなることも想定しているはずだ。

……よし!

魔法を跳ね返したところで、試合を再開させよう!
追尾してくるウィンドカッターをその都度回避しているけど、どう対処しようか?

ヒーリア先生は、マリルの理論をきちんと理解している。
ならば、これも理解しているかな?

「シャーロット、逃げてばかりではどうにもなりませんよ」

私が、スキルを使用したことに気づいていないのか。
確かに、このままでは勝負も終わらない。こちらも動くか。

「ヒーリア先生、お忘れですか? マリルの理論は、もともと私を通して伝わっているんです。その理論を応用すると、こんなことも可能です」

私は右手を空へと掲げ、4つの刃を支配し1つに纏め、円形の刃へと変形させる。先生を真っ二つに斬らないよう刃を丸くした後、それを高速回転させ先生に返す。

「ほい、名付けて【風車】」

高速回転する風車を地面にぶつけ、そのまま彼女のもとへ激走していく。
さあ、この風車を回避できるかな?

「え~~私の魔法が!? きゃああ~~~」

今まで逃げていた私が急に反撃に転じたからか、先生は驚きながらもギリギリで風車を回避した。

「魔法に載せたイメージを上回れば、敵の魔法を自分のものにできるのです。ちなみに、追尾機能付です」

風車が先生を追い詰めていく。

「く、それなら相殺!」
あ、先生が私と同じものを作って、詰め寄る【風車】にぶつけた。
凄まじい轟音が周囲に鳴り響く。

「風車の載せられている魔力量を即座に計算し相殺させる……さすがですね」

ヒーリア先生から、笑みが消えた。多分、私のことを自分と対等か、それ以上の存在だと認識したんだ。

「シャーロット……あなたはハーモニック大陸でどれだけの修羅場を潜り抜けてきたの?」

私が息も切らさず、全く焦ることなく魔法を反射させたことで、実戦慣れしていることを理解したようだ。

「私は仲間と協力して、死地を何度も潜り抜けています。そのため、余程のことがない限り動揺しません」

う~ん、まずいな。
やはり、今の攻撃方法だけでも、結構目立っている。
やりすぎると、ヒーリア先生の尊厳を傷つけてしまう。

当初の予定通り、あの手でいくか。

「ヒーリア先生、アストレカ大陸に戻ってから疑問に思ったことがあります。教員も冒険者も騎士も含めて、全員に意外性がありません」

「意外性?」

「はい。こういった練習試合の場合、正々堂々が基本です。ですが、実戦においてそんな綺麗事は通用しません。奇抜な魔法を使用することで、弱者が強者を倒すことも可能なのです。それは、威力を初級魔法レベルに抑えても例外ではありません」

どんな方法で相手を倒そうが、実戦で死んだらそれで終わりだ。
みんなにも、奇抜な魔法を見せてあげよう。

「初級魔法レベルであっても、強者を倒せると?」
ヒーリア先生、実験台になって下さいね。

「マリルの教えた理論を応用すれば可能なのです。先生に放ちますが構いませんか?」

彼女も、冷静さを取り戻したようだ。

「前もって放たれるとわかっている以上、こちらも対処可能です。《奇抜》というくらいですから、この状況でも私を倒せる魔法があるのですね。面白いです……きなさい!」

了解を得ましたよ。後で怒らないで下さいね。

「既にとある魔法…いえスキルを発動させています。直撃するまで5…」
「え、直撃? スキルを発動!?」

ふふふ、いきなり言われたら、ベテランのヒーリア先生も動揺するよね。
無駄無駄、どんなに動こうがロックオンしているから絶対に回避できないよ。

「3…2…」
「え…ちょっとスキルってどんな!?」
戦いの最中に答えを教える馬鹿はいませんよ。

「1…」
《ゴオオォォォーーーーーーーーン》

「ぐほおおぉぉ~~」
ヒーリア先生の頭の上に……【アルミのタライ】が落下した。
そのタライが地面に落ちる。

「え…なん…で、タライが……」
ふふふ、脳震盪を起こしてフラついているね。まだまだ、これからだよ。

「ほい、ここで【クエイク】の落とし穴発動! 続いて、【マテリアルチェンジ:ゴム!】」

フラつくヒーリア先生の目の前に、直径3m、高さ6mの大穴を開けた。先生は脳震盪を起こしているため、おそらく受け身をとれない。だから、落下場所の全方位の材質を10秒間だけ土から弾力性の高いゴムに変化させておく。

先生は事態についていけず、フラフラ~っと落とし穴の方へと歩いていき……

「え? ……きゃああああ~~~~~~」
「はい、落下したところで、分厚い5m程の土の蓋を被せましょう。ついでに蓋にも【マテリアルチェンジ:ゴム】。先生とお話をするため、小さな通気口と拡声魔法を使用しておきましょう」

ふふふ、これで全方位トランポリン状態だ。
落下した先生がどうなっているかというと……

《ボヨンボヨンボヨンボヨンボヨンボヨンボヨンボヨンボヨンボヨンボヨンボヨンボヨンボヨンボヨンボヨン……》

「ぎゃああぁぁぁぁ~~~~たずげて~~~土の中~~~なんでゴム~~~ぎもじわるい~~~~」

地下6mに落下した衝撃力による反動で、ヒーリア先生はほぼ暗闇の中、縦横無尽で掻き回されている。脳震盪を起こした状態で掻き回されているため、すぐに船酔い状態となってしまう。

「シャーロット~~降参です~~~~たずげて~~~~~」
「私の勝ちでいいんですね?」

10秒で元の地面に戻る。つまり、今の状況を我慢すれば、そこから勝負再開となるのにいいのかな?

「構いまぜ~~~ん。魔法の効力が切れても~~~脱出する手段が~~~~な~~~~~い」

ふ、勝った。
あれ? 沈黙が周囲に広がっている。
審判のキョウラク先生も呆けているし、受験生達も何も言わない。

実戦の場合、想定外の方法で相手を混乱させて、そのまま精神的に追い詰めてから殺める。こういった意外性のある戦略は、よく使われていると思うけど?

まあ、練習試合のルールに違反していないし、誰も文句を言わないでしょう。
おっと、私の勝利が確定したところで、ヒーリア先生を地中から引き上げよう。

こういった奇抜な勝ち方なら、先生にとっても勉強になるし、屈辱的な負け方にはならない。真っ向勝負で戦い、手加減して負けたことがバレたら、そっちの方が悔しいはずだからね。

○○○

ヒーリア先生を引き上げ地面を元に戻すと、キョウラク先生達や受験生がやって来た。

「うう…あんな戦法があったなんて…まだフラフラするし気持ち悪い…」
「先生、申し訳ありません。実戦の場合、こういった奇抜な方法で相手を殺めることも可能だと、皆に教えたかったのです」

ヒーリア先生の顔色がかなり悪い。

「いえ…勉強になりました。あんな方法を実行されたら、強者も混乱して一定時間何もできないでしょう」

「お~い、ちょっといいかな~? 私はともかく、受験生達がヒーリア先生に起きた状況を理解していないようだ。シャーロット、落下してからの攻撃方法を教えてあげてくれないかな?」

キョウラク先生に言われて、受験生達を見ると、オーキス、フレヤ、リーラ以外の人達は何もわかっていないようだ。う~ん、わかるように喋りながら魔法を唱えたんだけど、想像できていないのか。

「わかりました。皆さん、私は……」

私が全ての攻撃手段を教えると、誰もが呆然としていた。そのため、キョウラク先生が場の雰囲気を和やかにするため話し出してくれた。

「まさか、【魔力具現化】スキルでタライを彼女の頭上20m付近に具現化させて頭上に落とすとはね~。しかも、目の前に土魔法【クエイク】による落とし穴、落下してからの素早い対処、幾重にも重なるトラップを連続で仕掛けることで、相手に考える隙を与えない。これは、試合のルールにも抵触していない。ただ……学園の模擬戦などでは、絶対に利用されない方法だね~」

キョウラク先生、お褒めの言葉をありがとうございます。

「あんな戦い方、初見では防ぎようがありませんよ。本来であれば、あのまま生き埋めになって圧迫死するか、窒息死していたでしょう」

ヒーリア先生の言葉に、受験生達も頷いている。

「他にも、水魔法《ウォーターボール》を先生の顔面に出現させて、ガボガボともがいている間に、急所を剣か魔法で貫けば勝ちを拾えます」

この一言で、私のことを【卑怯】と思う人が大勢いるかもしれない。

「シャーロット、【聖女】や【公爵令嬢】とは思えない考え方だね~。それも精霊様から教わったのかな~?」

キョウラク先生も、そこは気になるよね。

「はい。【実戦において、敵が正々堂々と立ち向かってくると思うな】【魔物や人との実戦において、《貴族の矜持》など通用しない。身分を捨てろ】【世の中、綺麗事だけで生きていけるほど甘くない】【魔物や人の強者と戦う場合、柔軟な発想を持て】などなど、常々言われています」

これは、本当のことだ。3歳の時から、耳にタコが出来るほど言われている。

「う~ん、その通りだね~。精霊様の教えもあって、君はハーモニック大陸に棲む凶悪な魔物達と戦えたんだね~」

この戦い方は、騎士を目指す人にとって邪道だろう。でも、私の言い分もわかるのか、騎士志望の受験生達は何やら悩んでいる。オーキスも、その1人だ。

「オーキスもミーシャも勉強になっただろうけど、君達には君達なりの戦い方がある。シャーロットの意見を参考にして戦うといい」

キョウラク先生の一言で、2人は静かに頷く。


あれ以降、屋上にいる刺客は重力魔法を跳ね返した影響もあって、何も仕掛けてこない。
というか、潰れたカエル状態となって、《何も出来ない》が正解かもしれない。


今は、次に控えるミーシャとオーキスの練習試合に集中しよう。
2人が、どんな戦い方をするのか楽しみだ。
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