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《シャーロットが帝王となった場合のifルート》第2部 8歳〜アストレカ大陸編【ガーランド法王国
国王陛下、威厳はどこに?
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街宣馬車、簡単に言うと日本の選挙の時に使われる専用車と似ている。屈強な馬2頭が先頭となり、巨大な箱を引っ張る乗り物だ。箱の下部には、強固な四輪のタイヤが付属されており、内部は豪華な内装が施されているが、私、カムイ、フレヤ、オーキスの4人は、その箱の頂上にいる。
馬達のすぐ近くにはマリルやガロウ隊長が、街宣馬車の横と後方には他の騎士団の方々が私達を護衛している。騎士団の中には楽器を携える者もいて、その人達から凱旋セレモニーのような心地良い音楽が流れ出る。民衆達からの祝いの言葉と、流れ出る音楽が見事に調和され、周囲からは和やかな雰囲気が醸し出されている。
今回は聖女帰還パレードであるため、主役は勿論私だ。
街宣馬車が王城正門を出て、決められたルートを少しずつ進んでいく。馬車の進む方向には大勢の人々で溢れかえっており、全員が私を見てくれている。私が手を振ると、皆から大歓声が上がる。そして、あちこちからお祝いの言葉が贈られる。
「シャーロット様~、おかえりなさーーーい」
「シャーロット様~あなたの帰還をお待ちしていましたーーー」
「シャーロット様~屑肉ステーキをありがとう~」
「マリル様~、俺と結婚して下さい!」
「あれはシャーロット様の従魔? ドラゴンちゃーーん、こっち見てーーー」
所々で帰還と関係のない言葉が叫ばれているけど、私を敵視する人は、誰一人いない。この賑やかさ、街並み、私は帰ってきたことを改めて実感した。
「シャーロット、凄いね。フラ……あっちにいた時も、こんな感じだったよね?」
「ふふ、そうだね。あっちは違う意味で喜ばれていたけどね」
フランジュ帝国では帝王となったことで、皆に喜ばれていたね。そんな私とカムイとのやりとりを、オーキスが目を輝かせて聞いている。
「シャーロットが転移されてから1ヶ月程は大変だった。でも、マリルさんが騎士団や冒険者達に新たな技術を教えたことで、魔物大発生にも対処できたし、マリルさん自身がイザベルを捕縛してくれたこともあって、それ以降、何事もなく平穏が続いているんだ。教会の方は、フレヤが聖女代理として来てくれたおかげで、かなり落ち着いたよ。シャーロット考案の屑肉の技術、あれが一番生活環境に変化を与えたんだ。しかも、シャーロットが転移されて以降も、新規料理が続々と開発されている。今では国中に広がり、貧民層の生活環境も大幅に改善、君の信者が急増しているよ」
オーキス、悪いんだけど、全ての情報をお父様達から聞いているんだ。でも、私の信者が急増している……か、ゼガルディーのような盲信する信者がいないか心配だな。料理のカレーに関しては、エリア、ニナ、カイリも関与しているんだけど、金銭面で多少豊かになったのかな? 今度、お父様に聞いてみよう。あの3人とも、久し振りに会いたいね。
「私の知らない間に、色々なことが起きていたんだね。周囲を見渡した限り、みんな幸せそうな顔をしているよ」
「それだけ君の帰還を待ち望んでいたのさ」
これだけ大勢の人達が、私のことを想ってくれていたんだ。これからはエルディア王国とフランジュ帝国、2つの国のことを考えて行動なしないといけない。自分が聖女であることを強く自覚しておこう。
全長1kmに及ぶ聖女帰還パレードは、何の問題もなく無事に終了した。多くの人々が笑い、私の帰還を喜んでくれた。街宣馬車からパレードを終えた街並みを振り返ると、露天などに人が大勢集まり、お祭り騒ぎとなっていた。この光景は、フランジュ帝国で見たものと似ている。今日一日、皆羽目を外して、飲め、食え、歌え、三拍子揃った宴が催されるだろう。肝心の私は王城にて、王族主催の聖女帰還パーティーに参加するので、この宴には参加できない。できれば、貴族達の集うパーティーよりも、こちらの平民達が集うパーティーに参加したかった。
この感覚から察すると、ハーモニック大陸での冒険により、私の心が貴族側から平民側に移っているのかな? 早いうちに、貴族の感覚を取り戻さないといけないよね。
王族主催のパーティーイベントは、夕方5時開催だ。それまでは、フレヤ達と共に先程のお部屋でまったりと休憩するつもり……であったのだが、部屋に戻らず、そのまま3人共々、国王陛下専用の執務室に呼び出された。執務室に入ると、お父様、国王陛下、ヘンデル枢機卿の3人がいた。壁際に設置されている机には、書類が山積みとなっており、国王陛下は机の側にある椅子に腰を下ろしていた。お父様とヘンデル枢機卿は、国王陛下の両側にいる。
「シャーロット、カムイ、フレヤ、オーキス、帰還パレードが終わったばかりなのに、呼び出してすまんな」
「いえ、構いません」
「「いえ……そんなことは……」」
国王陛下の謝罪の御言葉に、フレヤとオーキスは極度の緊張からか、返答の言葉がしどろもどろだった。相手が国王陛下だもん。これが、普通の状態だよね。
「シャーロット、昨日から思っていたことだが、フレヤやオーキスと違い、君からは緊張というものが、あまり感じられない。理由を聞いてもいいかな?」
え~、今になって、何故にその質問をするんですか?
理由を言っていいのかな?
不敬にならないかな?
『前回、ここで3時間近く話し合ってますから、環境適応スキルにより、身体が慣れてしまいました』と言うのは不味いよね。それに…緊張しない原因は、もう一つある。そっちを言おう。
「ハーモニック大陸に転移して以降、平民、貴族、王族、精霊、神といった様々な方々と出会いました。特に、王族の方々とは頻繁に出会い、現在でも3カ国と友好関係を結んでいます。それに神ガーランド様にもお会いしていますので、【緊張】という言葉自体が、私の身体から抜け落ちました」
オーキス以外の4人が……
国王の心の中
『……そうだった。神であるガーランド様にも数度会っているのだから、私と会ったところで緊張するわけない…か。いかんな、シャーロット嬢の話の内容が凄すぎて、まだ整理しきれていない』
お父様の心の中
『シャーロット、そんなに逞しく育ってくれて、父としては嬉しい。嬉しい……が、正直複雑だぞ。父としての威厳が……』
ヘンデル枢機卿の心の中
『……教皇様。早く帰ってきて。私に、彼女を管理することは無理そうです』
フレヤの心の中
『オーキスの顔がムカつく。自分だけ、シャーロットの真実を知らないから仕方ないけど、その輝いた目でシャーロットを見ないで! 私達4人は、今後のことで気苦労するかもと思っているのに!』
うーん、なんかごめんね。
構造解析のおかげで、皆の心の思いが丸わかりだ。
「国王陛下、御用件は何でしょうか?」
「……夜、君の帰還パーティーが催される。多くの貴族達が聖女である君と懇意になるべく、挨拶に来るだろう」
あ、国王陛下が何を言いたいのかわかった。
「構造解析の使用は控えます。何か不正を見つけた場合、顔に出るかもしれませんから」
初めて国王陛下と出会った時、帰還して間もなかったからか、少し調子に乗っていた。今なら、冷静に受け答えできる。
「君は聡明だな。私としても嬉しい限りだ」
私が転移されて以降、お父様がここにいるメンバー全員に、私のユニークスキル、【精霊視】、【構造解析】、【構造編集】の3つを教えた。当初、国王陛下もヘンデル枢機卿も、勇者オーキスの存在を知らなかった。しかし、イザベルが偽聖女、私が本物の聖女であると発覚して以降、国王陛下は神託の全内容を臣下の者達に公表した。
その際、お父様以外の者達が勇者の存在を絶望視していたけど、お父様が生存していることを明かしたことで、オーキスの称号の件が知られたのだ。そして同時に、私のユニークスキル【構造解析】と【構造編集】も知られることになった。だから、その時に出席していた上層部の人達も、私のユニークスキルの一部を知っている。お父様からも、今後その人達が何らかの悪事を抱えて、接触してくる可能性もあるから注意するように忠告された。パーティーでは、悪事を抱えて私に接触を図るものもいるだろう。招待客に混じって、不審者が侵入してくる場合もありうる。対処方法としては……
「ただ、パーティー中、不審者を発見した場合、その者達の対処に関しては、カムイに一任します。カムイ、誰もいないところで天誅を与えてやりなさい。ただし、殺してはダメ」
パーティーが開かれている部屋の中でやったら、全員がパニックを起こすかもしれない。それに私ではなく、従魔のカムイが実行すれば、何の問題もないだろう。
「はーーーーい。インビジブルを使って対処するよ! どんな奴等が忍び込んでくるのか楽しみだな。ワクワクしてきた! 王城の地下にある隠し通路を利用すれば、不審者達は内部に侵入し放題だ。絶対、パーティーに侵入してくるよ。現に今でも、隠し通路には3名の人が潜んでいるもん」
うん? 今、とてつもない重要事案を言ったよね? カムイによる突然の暴露によって、私以外のメンバーも、さっきの一言を認識しようとしているのか、必死に考えている。とりあえず、カムイに質問してみよう。
「カムイ、いつ調査したの?」
「帰還してから今日まで、少し時間が空いたでしょ? その間、僕はシャーロットから、スキル【マップマッピング】と【ポイントアイ】を教えてもらったんだ」
あ、カムイが暇そうにしていたから、スキル【マップマッピング】と【ポイントアイ】を習得させたよ‼︎ 習得後、カムイはスキルレベルを上げるため、インビジブルの状態で、王都を散策したはずだ。
このスキルは、自分の魔力波を周囲に張り巡らせることで、魔力波で読み取った周囲の道をステータス内に3D化させて、地図として表示させることが可能となる。魔力波で、隠し通路とかも探し出すことが可能なのだ。このスキルと【魔力感知】を連動させれば、誰が何処にいるのかも表示され、存在を正確に把握できる。ただし、スキルレベルによって、把握できる領域が限られるけど。
「まさか、散策している時に?」
「そうだよ。長~い地下通路だったから辿っていったら、王城の中に繋がっていたんだ。しかも、1つだけじゃなくて、合計8つもあったんだ」
緊急時、王族を避難させる際、誰の目にも触れないよう、隠し通路とかを製作するのはわかるけど、8つもあるとは……
「な……なにぃぃぃーーーーー!?」
え? 国王陛下が突然大声をあげた。
「カムイ、今8つと言ったか?」
「うん、8つだよ」
どうしたの? 何か問題でもあるの?
「ジーク、ヘンデル、我々王族の知る隠し通路の数は、建国当初から6つだ」
「「……」」
お父様もヘンデル様も、明らかに動揺している。私が国王陛下に追求してみよう。
「あの……他国の間者達が土魔法で製作したということですか? そうなると、カムイの言った3名は間者かもしれません。ここに地図を持っきてもらって、カムイに8つの隠し通路を書いてもらった方が宜しいのでは?」
ここが国王陛下の執務室ということもあって、王城の見取図に関しては、すぐに見つかった。国王陛下がカムイに見取図の説明をした後、カムイが王城の出発点となる隠し通路の位置を書いていった。そして、それらが王都のどこに行き着くのかも書いていったところ、王族の知る6つの隠し通路と綺麗に一致した。しかも、カムイの言った3名はその6つと異なる隠し通路、つまり未知の場所にいたのだ。
これはまずいと思い、私も急遽マップマッピングと魔力感知を発動させると、未知の隠し通路に3名の人物がいた。その3人をタップし構造解析すると……
「あ……最悪だ。お父様、今ここで確認したのですが、8つの隠し通路はカムイの言った通り、間違いなく存在します。しかも、未知の通路の中に、3名の人物が現在もいます。構造解析したのですが……ガーランド法王国の間者です。エルディア王国の機密情報を盗みにきたようですね」
「「「なんだとーーーーー」」」
《ピッ》
《1回目のやらかしがカウントされました》
なんでさ! やらかしてないよね!?
スキルを使って、カムイが教えてくれた隠し通路の場所の確認と、間者の正体を言っただけじゃん。ガーランド様、異議あり!
《シャーロットの従魔であるカムイがやらかした。従魔のやらかしもカウントされるよ》
嘘‼︎ 従魔のやらかしも、私に加算されるの!?
「シャーロット、まずスキル【マップマッピング】と【ポイントアイ】について教えてくれ」
あ、いけない。
やらかしのことは忘れよう。今は、間者への対処方法を考えることが先決だ。
お父様も、必死の形相で2つのスキルの説明を訴えている。緊急事態だから、当然だ。私は、みんなに2つのスキルの習得方法と機能を詳細に教えた。全て話し終えると、国王陛下の顔色が真っ青になっていた。そして……
「もうやだ~~。間者が何らかの方法で潜入していることは、私も気づいていたけどさ~。スキル【マップマッピング】は反則だよ~~。敵側が持っていたら、王城に楽に侵入されるし、機密情報も盗まれやすくなるじゃん。王族だって、楽に暗殺されるじゃん。しかも、王族にしか知りえない隠し通路の横に、堂々と自分達専用の隠し通路を普通作るかな~~」
壊れました。
言葉遣いもおかしくなってるし、言葉を重ねていく程、威厳と風格がどんどん低下していく。ここには私だけでなく、フレヤやオーキスもいる。そんな姿を見せてもいいのだろうか? お父様もヘンデル様も初見なのかな? 今の国王陛下を見て、ドン引きしている。フレヤとオーキスは目を細めて、国王陛下をじ~っと見ている。うん、今の状態を見て、興醒めしているね。
「国王陛下、落ち着いてください。先程、我が娘のシャーロットが言ったように、このスキルの習得には、自分の魔力波を認識し、自在に扱えることが必要不可欠です。幸い、【魔力波】という言葉は私も聞いたことがありませんし、ここ最近、他国の王族達が暗殺されたという情報もありません。【マップマッピング】を知っているのは、ここにいるメンバーだけです(こんな陛下を見るのは初めてだ。パーティー直前に、隠し通路や間者のことを言われたら無理もないか。ヘンデル様、まずは陛下を宥めましょう)」
お父様が、必死に国王陛下を宥めている。
「エルバラン公爵の言う通りでございます。敵側に持つ者がいれば脅威となりえますが、現在のところシャーロットとカムイしか持っておりません。アストレカ大陸の中でも我々が優位な位置にいるのです(カムイも善かれと思って話してくれたのだろうが、もう少し早く言って欲しい。エルバラン公爵、陛下を宥めましょう)」
ヘンデル枢機卿も必死だ。アイコンタクトで、お互いが何をすべきかわかったのか、互いに頷き合い、さっきから優しい言葉で国王陛下を宥めている。
「……すまん、取り乱してしまったな。ここでの内容、呉々も他言するなよ」
全員が、静かに頷いた。
【マップマッピング】、使い方次第では悪用されてしまう。
ハーモニック大陸の方では、私の仲間達や人間の隠れ里にいるカゲロウさんが、このスキルの習得方法について知っている。皆、信頼の置ける仲間達だから、悪用するこはないだろう。
「シャーロット、間者のことは私達に任せておきなさい。あとカムイ、パーティーの際、不審者を見つけたとしても、絶対に殺してはいけないよ。警備の者達に突き出すように」
「はーーーい」
隠し通路の場所に関しては、先程カムイが紙に、詳細な位置を記載してくれた。あとは、騎士団達が対処してくれるだろう。
「フレヤ、今後君は聖女シャーロットのサポート役に徹するように。まずは、聖女代行で培った知識を彼女に教えてあげなさい」
「はい、仰せのままに」
「オーキス、君はこういった大きなパーティーに参加するのは初めてだろう。礼儀作法に関しては、これまでにも教育係から教わっていただろうが、シャーロット、フレヤと共にエルバラン公爵の別邸に戻ってから、再度復習しておくように。君は【勇者】だ。節度を持って行動するように」
「はい、わかりました。御助言、ありがとうございます」
国王陛下とのお話は、これで終了だ。30分程しか話していないのに、国王陛下もお父様もヘンデル枢機卿も、疲れ果てた顔をしている。カムイが、隠し通路や間者のことを暴露したせいだね。
パーティーが始まるまで、まだ時間がある。それまでは事前に言われた通り、フレヤ、オーキスと別邸に戻って、準備を整えておこう。
それにしても、ガーランド法王国の間者…か。
夕方から始まるパーティー、何も起きなければいいけど。
馬達のすぐ近くにはマリルやガロウ隊長が、街宣馬車の横と後方には他の騎士団の方々が私達を護衛している。騎士団の中には楽器を携える者もいて、その人達から凱旋セレモニーのような心地良い音楽が流れ出る。民衆達からの祝いの言葉と、流れ出る音楽が見事に調和され、周囲からは和やかな雰囲気が醸し出されている。
今回は聖女帰還パレードであるため、主役は勿論私だ。
街宣馬車が王城正門を出て、決められたルートを少しずつ進んでいく。馬車の進む方向には大勢の人々で溢れかえっており、全員が私を見てくれている。私が手を振ると、皆から大歓声が上がる。そして、あちこちからお祝いの言葉が贈られる。
「シャーロット様~、おかえりなさーーーい」
「シャーロット様~あなたの帰還をお待ちしていましたーーー」
「シャーロット様~屑肉ステーキをありがとう~」
「マリル様~、俺と結婚して下さい!」
「あれはシャーロット様の従魔? ドラゴンちゃーーん、こっち見てーーー」
所々で帰還と関係のない言葉が叫ばれているけど、私を敵視する人は、誰一人いない。この賑やかさ、街並み、私は帰ってきたことを改めて実感した。
「シャーロット、凄いね。フラ……あっちにいた時も、こんな感じだったよね?」
「ふふ、そうだね。あっちは違う意味で喜ばれていたけどね」
フランジュ帝国では帝王となったことで、皆に喜ばれていたね。そんな私とカムイとのやりとりを、オーキスが目を輝かせて聞いている。
「シャーロットが転移されてから1ヶ月程は大変だった。でも、マリルさんが騎士団や冒険者達に新たな技術を教えたことで、魔物大発生にも対処できたし、マリルさん自身がイザベルを捕縛してくれたこともあって、それ以降、何事もなく平穏が続いているんだ。教会の方は、フレヤが聖女代理として来てくれたおかげで、かなり落ち着いたよ。シャーロット考案の屑肉の技術、あれが一番生活環境に変化を与えたんだ。しかも、シャーロットが転移されて以降も、新規料理が続々と開発されている。今では国中に広がり、貧民層の生活環境も大幅に改善、君の信者が急増しているよ」
オーキス、悪いんだけど、全ての情報をお父様達から聞いているんだ。でも、私の信者が急増している……か、ゼガルディーのような盲信する信者がいないか心配だな。料理のカレーに関しては、エリア、ニナ、カイリも関与しているんだけど、金銭面で多少豊かになったのかな? 今度、お父様に聞いてみよう。あの3人とも、久し振りに会いたいね。
「私の知らない間に、色々なことが起きていたんだね。周囲を見渡した限り、みんな幸せそうな顔をしているよ」
「それだけ君の帰還を待ち望んでいたのさ」
これだけ大勢の人達が、私のことを想ってくれていたんだ。これからはエルディア王国とフランジュ帝国、2つの国のことを考えて行動なしないといけない。自分が聖女であることを強く自覚しておこう。
全長1kmに及ぶ聖女帰還パレードは、何の問題もなく無事に終了した。多くの人々が笑い、私の帰還を喜んでくれた。街宣馬車からパレードを終えた街並みを振り返ると、露天などに人が大勢集まり、お祭り騒ぎとなっていた。この光景は、フランジュ帝国で見たものと似ている。今日一日、皆羽目を外して、飲め、食え、歌え、三拍子揃った宴が催されるだろう。肝心の私は王城にて、王族主催の聖女帰還パーティーに参加するので、この宴には参加できない。できれば、貴族達の集うパーティーよりも、こちらの平民達が集うパーティーに参加したかった。
この感覚から察すると、ハーモニック大陸での冒険により、私の心が貴族側から平民側に移っているのかな? 早いうちに、貴族の感覚を取り戻さないといけないよね。
王族主催のパーティーイベントは、夕方5時開催だ。それまでは、フレヤ達と共に先程のお部屋でまったりと休憩するつもり……であったのだが、部屋に戻らず、そのまま3人共々、国王陛下専用の執務室に呼び出された。執務室に入ると、お父様、国王陛下、ヘンデル枢機卿の3人がいた。壁際に設置されている机には、書類が山積みとなっており、国王陛下は机の側にある椅子に腰を下ろしていた。お父様とヘンデル枢機卿は、国王陛下の両側にいる。
「シャーロット、カムイ、フレヤ、オーキス、帰還パレードが終わったばかりなのに、呼び出してすまんな」
「いえ、構いません」
「「いえ……そんなことは……」」
国王陛下の謝罪の御言葉に、フレヤとオーキスは極度の緊張からか、返答の言葉がしどろもどろだった。相手が国王陛下だもん。これが、普通の状態だよね。
「シャーロット、昨日から思っていたことだが、フレヤやオーキスと違い、君からは緊張というものが、あまり感じられない。理由を聞いてもいいかな?」
え~、今になって、何故にその質問をするんですか?
理由を言っていいのかな?
不敬にならないかな?
『前回、ここで3時間近く話し合ってますから、環境適応スキルにより、身体が慣れてしまいました』と言うのは不味いよね。それに…緊張しない原因は、もう一つある。そっちを言おう。
「ハーモニック大陸に転移して以降、平民、貴族、王族、精霊、神といった様々な方々と出会いました。特に、王族の方々とは頻繁に出会い、現在でも3カ国と友好関係を結んでいます。それに神ガーランド様にもお会いしていますので、【緊張】という言葉自体が、私の身体から抜け落ちました」
オーキス以外の4人が……
国王の心の中
『……そうだった。神であるガーランド様にも数度会っているのだから、私と会ったところで緊張するわけない…か。いかんな、シャーロット嬢の話の内容が凄すぎて、まだ整理しきれていない』
お父様の心の中
『シャーロット、そんなに逞しく育ってくれて、父としては嬉しい。嬉しい……が、正直複雑だぞ。父としての威厳が……』
ヘンデル枢機卿の心の中
『……教皇様。早く帰ってきて。私に、彼女を管理することは無理そうです』
フレヤの心の中
『オーキスの顔がムカつく。自分だけ、シャーロットの真実を知らないから仕方ないけど、その輝いた目でシャーロットを見ないで! 私達4人は、今後のことで気苦労するかもと思っているのに!』
うーん、なんかごめんね。
構造解析のおかげで、皆の心の思いが丸わかりだ。
「国王陛下、御用件は何でしょうか?」
「……夜、君の帰還パーティーが催される。多くの貴族達が聖女である君と懇意になるべく、挨拶に来るだろう」
あ、国王陛下が何を言いたいのかわかった。
「構造解析の使用は控えます。何か不正を見つけた場合、顔に出るかもしれませんから」
初めて国王陛下と出会った時、帰還して間もなかったからか、少し調子に乗っていた。今なら、冷静に受け答えできる。
「君は聡明だな。私としても嬉しい限りだ」
私が転移されて以降、お父様がここにいるメンバー全員に、私のユニークスキル、【精霊視】、【構造解析】、【構造編集】の3つを教えた。当初、国王陛下もヘンデル枢機卿も、勇者オーキスの存在を知らなかった。しかし、イザベルが偽聖女、私が本物の聖女であると発覚して以降、国王陛下は神託の全内容を臣下の者達に公表した。
その際、お父様以外の者達が勇者の存在を絶望視していたけど、お父様が生存していることを明かしたことで、オーキスの称号の件が知られたのだ。そして同時に、私のユニークスキル【構造解析】と【構造編集】も知られることになった。だから、その時に出席していた上層部の人達も、私のユニークスキルの一部を知っている。お父様からも、今後その人達が何らかの悪事を抱えて、接触してくる可能性もあるから注意するように忠告された。パーティーでは、悪事を抱えて私に接触を図るものもいるだろう。招待客に混じって、不審者が侵入してくる場合もありうる。対処方法としては……
「ただ、パーティー中、不審者を発見した場合、その者達の対処に関しては、カムイに一任します。カムイ、誰もいないところで天誅を与えてやりなさい。ただし、殺してはダメ」
パーティーが開かれている部屋の中でやったら、全員がパニックを起こすかもしれない。それに私ではなく、従魔のカムイが実行すれば、何の問題もないだろう。
「はーーーーい。インビジブルを使って対処するよ! どんな奴等が忍び込んでくるのか楽しみだな。ワクワクしてきた! 王城の地下にある隠し通路を利用すれば、不審者達は内部に侵入し放題だ。絶対、パーティーに侵入してくるよ。現に今でも、隠し通路には3名の人が潜んでいるもん」
うん? 今、とてつもない重要事案を言ったよね? カムイによる突然の暴露によって、私以外のメンバーも、さっきの一言を認識しようとしているのか、必死に考えている。とりあえず、カムイに質問してみよう。
「カムイ、いつ調査したの?」
「帰還してから今日まで、少し時間が空いたでしょ? その間、僕はシャーロットから、スキル【マップマッピング】と【ポイントアイ】を教えてもらったんだ」
あ、カムイが暇そうにしていたから、スキル【マップマッピング】と【ポイントアイ】を習得させたよ‼︎ 習得後、カムイはスキルレベルを上げるため、インビジブルの状態で、王都を散策したはずだ。
このスキルは、自分の魔力波を周囲に張り巡らせることで、魔力波で読み取った周囲の道をステータス内に3D化させて、地図として表示させることが可能となる。魔力波で、隠し通路とかも探し出すことが可能なのだ。このスキルと【魔力感知】を連動させれば、誰が何処にいるのかも表示され、存在を正確に把握できる。ただし、スキルレベルによって、把握できる領域が限られるけど。
「まさか、散策している時に?」
「そうだよ。長~い地下通路だったから辿っていったら、王城の中に繋がっていたんだ。しかも、1つだけじゃなくて、合計8つもあったんだ」
緊急時、王族を避難させる際、誰の目にも触れないよう、隠し通路とかを製作するのはわかるけど、8つもあるとは……
「な……なにぃぃぃーーーーー!?」
え? 国王陛下が突然大声をあげた。
「カムイ、今8つと言ったか?」
「うん、8つだよ」
どうしたの? 何か問題でもあるの?
「ジーク、ヘンデル、我々王族の知る隠し通路の数は、建国当初から6つだ」
「「……」」
お父様もヘンデル様も、明らかに動揺している。私が国王陛下に追求してみよう。
「あの……他国の間者達が土魔法で製作したということですか? そうなると、カムイの言った3名は間者かもしれません。ここに地図を持っきてもらって、カムイに8つの隠し通路を書いてもらった方が宜しいのでは?」
ここが国王陛下の執務室ということもあって、王城の見取図に関しては、すぐに見つかった。国王陛下がカムイに見取図の説明をした後、カムイが王城の出発点となる隠し通路の位置を書いていった。そして、それらが王都のどこに行き着くのかも書いていったところ、王族の知る6つの隠し通路と綺麗に一致した。しかも、カムイの言った3名はその6つと異なる隠し通路、つまり未知の場所にいたのだ。
これはまずいと思い、私も急遽マップマッピングと魔力感知を発動させると、未知の隠し通路に3名の人物がいた。その3人をタップし構造解析すると……
「あ……最悪だ。お父様、今ここで確認したのですが、8つの隠し通路はカムイの言った通り、間違いなく存在します。しかも、未知の通路の中に、3名の人物が現在もいます。構造解析したのですが……ガーランド法王国の間者です。エルディア王国の機密情報を盗みにきたようですね」
「「「なんだとーーーーー」」」
《ピッ》
《1回目のやらかしがカウントされました》
なんでさ! やらかしてないよね!?
スキルを使って、カムイが教えてくれた隠し通路の場所の確認と、間者の正体を言っただけじゃん。ガーランド様、異議あり!
《シャーロットの従魔であるカムイがやらかした。従魔のやらかしもカウントされるよ》
嘘‼︎ 従魔のやらかしも、私に加算されるの!?
「シャーロット、まずスキル【マップマッピング】と【ポイントアイ】について教えてくれ」
あ、いけない。
やらかしのことは忘れよう。今は、間者への対処方法を考えることが先決だ。
お父様も、必死の形相で2つのスキルの説明を訴えている。緊急事態だから、当然だ。私は、みんなに2つのスキルの習得方法と機能を詳細に教えた。全て話し終えると、国王陛下の顔色が真っ青になっていた。そして……
「もうやだ~~。間者が何らかの方法で潜入していることは、私も気づいていたけどさ~。スキル【マップマッピング】は反則だよ~~。敵側が持っていたら、王城に楽に侵入されるし、機密情報も盗まれやすくなるじゃん。王族だって、楽に暗殺されるじゃん。しかも、王族にしか知りえない隠し通路の横に、堂々と自分達専用の隠し通路を普通作るかな~~」
壊れました。
言葉遣いもおかしくなってるし、言葉を重ねていく程、威厳と風格がどんどん低下していく。ここには私だけでなく、フレヤやオーキスもいる。そんな姿を見せてもいいのだろうか? お父様もヘンデル様も初見なのかな? 今の国王陛下を見て、ドン引きしている。フレヤとオーキスは目を細めて、国王陛下をじ~っと見ている。うん、今の状態を見て、興醒めしているね。
「国王陛下、落ち着いてください。先程、我が娘のシャーロットが言ったように、このスキルの習得には、自分の魔力波を認識し、自在に扱えることが必要不可欠です。幸い、【魔力波】という言葉は私も聞いたことがありませんし、ここ最近、他国の王族達が暗殺されたという情報もありません。【マップマッピング】を知っているのは、ここにいるメンバーだけです(こんな陛下を見るのは初めてだ。パーティー直前に、隠し通路や間者のことを言われたら無理もないか。ヘンデル様、まずは陛下を宥めましょう)」
お父様が、必死に国王陛下を宥めている。
「エルバラン公爵の言う通りでございます。敵側に持つ者がいれば脅威となりえますが、現在のところシャーロットとカムイしか持っておりません。アストレカ大陸の中でも我々が優位な位置にいるのです(カムイも善かれと思って話してくれたのだろうが、もう少し早く言って欲しい。エルバラン公爵、陛下を宥めましょう)」
ヘンデル枢機卿も必死だ。アイコンタクトで、お互いが何をすべきかわかったのか、互いに頷き合い、さっきから優しい言葉で国王陛下を宥めている。
「……すまん、取り乱してしまったな。ここでの内容、呉々も他言するなよ」
全員が、静かに頷いた。
【マップマッピング】、使い方次第では悪用されてしまう。
ハーモニック大陸の方では、私の仲間達や人間の隠れ里にいるカゲロウさんが、このスキルの習得方法について知っている。皆、信頼の置ける仲間達だから、悪用するこはないだろう。
「シャーロット、間者のことは私達に任せておきなさい。あとカムイ、パーティーの際、不審者を見つけたとしても、絶対に殺してはいけないよ。警備の者達に突き出すように」
「はーーーい」
隠し通路の場所に関しては、先程カムイが紙に、詳細な位置を記載してくれた。あとは、騎士団達が対処してくれるだろう。
「フレヤ、今後君は聖女シャーロットのサポート役に徹するように。まずは、聖女代行で培った知識を彼女に教えてあげなさい」
「はい、仰せのままに」
「オーキス、君はこういった大きなパーティーに参加するのは初めてだろう。礼儀作法に関しては、これまでにも教育係から教わっていただろうが、シャーロット、フレヤと共にエルバラン公爵の別邸に戻ってから、再度復習しておくように。君は【勇者】だ。節度を持って行動するように」
「はい、わかりました。御助言、ありがとうございます」
国王陛下とのお話は、これで終了だ。30分程しか話していないのに、国王陛下もお父様もヘンデル枢機卿も、疲れ果てた顔をしている。カムイが、隠し通路や間者のことを暴露したせいだね。
パーティーが始まるまで、まだ時間がある。それまでは事前に言われた通り、フレヤ、オーキスと別邸に戻って、準備を整えておこう。
それにしても、ガーランド法王国の間者…か。
夕方から始まるパーティー、何も起きなければいいけど。
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