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《シャーロットが帝王となった場合のifルート》第2部 8歳〜アストレカ大陸編【ガーランド法王国
フレヤとオーキス
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前半がフレヤ視点、後半がオーキス視点となります。
時系列としては、シャーロットが王城に到着し、国王達と話し合っている頃です。
○○○ フレヤ視点
現在、私は王都にある冒険者ギルド本部にて、怪我人達の治療を施している。怪我人の半数以上は冒険者だけど、時折一般市民の人達もギックリ腰や火傷などで怪我を負い、冒険者ギルドや教会に訪れることもある。通常、軽度のものは医者に診てもらい、市販品の薬が渡されるだけで終わるけど、1日で治るものではない。中には急を要する人達もいるので、そういった人達がギルドや教会に訪れ治療していく。
今日の冒険者ギルドで行われる治療当番は、私なのだ。
教会とギルドとの話し合いで治療料金も決められている。
イムノブースト 銅貨5枚(500円相当)
ヒール 銀貨1枚(1000円相当)
ハイヒール 銀貨5枚(5000円相当)
マックスヒール 金貨1枚(10000円相当)
リジェネレーション 1人につき金貨1枚~
エルバラン公爵様のおかげもあって、イムノブーストの正しい使用方法がわかった。ただ、イムノブースト(自己治癒力の強化)の原理と人の身体の構成を正しく理解した人が扱わないと、イザベルと同じ悲劇をとる危険性があるため、この魔法を利用する人はまだ少ない。
私の場合、聖女代行で信頼されているせいかな?
イムノブーストを求める人が多い。
イザベルの時、イムノブーストを多用したこともあって、この魔法に限り、扱いがかなり上手い。正直、複雑だ。
「あ~そこそこ、フレヤちゃん、胃が楽になってきたよ~」
私は、胃を痛めた70歳の女性ヘレンさんにイムノブーストを使用している。
「あの…ヘレンさん…食べ過ぎです」
「ありゃま、さすがフレヤちゃんだね~。わかるのかい?」
「魔力を当てたことで、どの臓器の状態が悪いのかがわかります。でも、こういうのはイムノブーストで治すより、医者のお薬で治した方がいいですよ」
ヘレンさんの身体全体を診たけど、癌になるような危険部位はなかった。癌の場合、イムノブーストで治療すると、癌細胞を活性化させて、余計に悪化させてしまう。イムノブーストを使用する時には、注意が必要だ。
シャーロット様が精霊様達に教えたことを、精霊様達が私に教えてくれた。
「何言ってんだい! 今日の当番が、フレヤちゃんだから来たんだよ。見てみな、他の子達もあなたに治療されたいようだね~」
「「「当たり前じゃないですか! フレヤちゃんに治療されたいがため、頑張っているんです!」」」
皆さん、頑張る方向性がおかしいですよ。
「それにね、72歳の私にとって……屑肉ステーキは…屑肉ステーキは……ご馳走なんだよ!」
はい!? 急に、何を口走っているんですか!?
「私はね、ワイバーンのステーキを生涯に2度食べたことがある。あれは、絶品だったよ。でもね、歳をとるに連れて、肉類系統が食べにくくなってきた。シャーロット様が編み出してくれた屑肉の調理法、《あっさりソースを絡めた屑肉ステーキ》、あれは……あれは…年寄りでも食える究極の料理だよ!!」
お年寄りのヘレンさんが、そこまで力説するなんて……周囲の人達も凄く頷いている。シャーロット様への崇拝度が、日に日に上がっているわ。本人は遠く離れた地にいるのに、凄い影響力だ。
「そ…それでも食べ過ぎはダメですよ。それで病気になったら、シャーロット様が悲しみます」
「…そうだね。シャーロット様を悲しませちゃいけないね。気をつけるよ。それにしても、フレヤちゃんの魔法は、いつ見ても優しく感じるね。あの【高慢ちきな大罪人イザベル】は、私らの顔を碌に見ないで、適当にイムノブーストを乱用してたのを覚えてるよ。フレヤちゃんの場合、イムノブーストの性質をみんなに教えてくれたり、私達の身体にそっと手を触れて、何処に異常があるのかを診て、優しく放ってくれるだろう? そんなアンタだからこそ、イムノブーストを信頼できるのさ」
「「「そうそうそう」」」
《そのイザベルが、私です》とは、皆に言えない。あの時、イムノブーストを乱発したからこそ、その効果、有用性、危険性を骨身にしみるほど味わった。
……顔に出してはいけない。笑顔だ、笑顔で乗り切るのだ!
頑張れ、私!
「あ…ありがとう…ございます」
「照れちゃって、可愛いね~」
この数ヶ月、聖女や回復魔法に関することを猛勉強したおかげもあって、周囲の人達から信頼を勝ち取ることに成功した、ヘンデル様も私の頭を撫で褒めてくれた。今の私を、教皇様に見てもらいたい。
でも、教皇様はガーランド法王国に行ったまま、2ヶ月以上帰ってこない。あの国は特定の国で何かあった時、その国に滞在している教会の人達が正確に情報を集めていき、得られた情報を本国に送る。その後、本国が大陸中にある全ての教会に情報を拡散させていく。言い換えれば、ガーランド様を祀るガーランド教というのは建前であって、教会そのものが【スパイ】としての役割を果たしている。
だから、アストレカ大陸の中でも、ガーランド法王国は、他国の機密情報なども知り尽くしている。教会所属となった以上、私はガーランド法王国側の人間になってしまったのだけど、イムノブースト事件を機に、教皇様が【ヒールの隠匿】を信者全員に明かしたことで、エルディア王国内にある教会支部全てが、ガーランド法王国を裏切ることになってしまった。おまけに、教皇様が本国に召還された後、ヘンデル枢機卿様が代表して、これまでの教会の悪事をエルディア国王陛下に話した。国王陛下も王妃陛下も、それはそれはお怒りだった。
こういった裏切りが起きたのは、エルディア王国だけのことではない。他国にある教会支部も、同じシステムで動いているのだけど、100年以上隠蔽してきた機密情報が明るみに出たこと、エルディア王国の教会支部がガーランド法王国を見限ったことから、アストレカ大陸にある全ての教会支部が結託して、ガーランド法王国を見限り、教会が置かれている国に助けを求め、その国に属することになったのだ。
教会の信者達、多くの国々から愛想をつかされたこともあって、ガーランド法王国の国力が一気に低下した。そのため、本国の内部状勢がどれ程混乱しているのか、情報が殆ど伝わってこない。だから、教皇様が何処にいるのかもわからない。せめて、教皇様の現在位置さえわかれば、ヘンデル様の従魔を飛ばせるのに。
ヘンデル枢機卿様から他国の動きを少しだけ聞いているけど、私の事件をキッカケに、多くの国々で様々な思惑が蠢いているらしい。多分、ガーランド法王国は、数年以内に滅びる。
問題は、どういった滅び方をするのか?
他国に侵略されるのか、内部から新たな王が誕生し、国名が変わるだけに留まるのか、現時点では何とも言えないようだ。あの国の中で、何が起きているのだろう? これからどうなるのだろう? 全ては、私の事件から始まった。事件の当事者であるイザベルは、死んだことになっているけど、このまま知らんぷりすることはできない。私に、何かできることはないのだろうか?
ヘンデル様は……
「フレヤ、あの事件は、もう君の手から離れた。君が気に病むことはない。君は、君自身の職務を全うしなさい」
と言われた。確かに、フレヤ・トワイライトという人物は只の聖女代行であって、あの事件に一切関係していない。下手に首を突っ込んだら、殺される場合もある。私には……何もできない。
本来であれば、聖女の称号を持つ者は、数年間修行を積み、基本スキルや回復魔法を十分に鍛えてから、ガーランド法王国の法王様と謁見する必要があった。私の場合、謁見する前に事件を起こしてしまった。シャーロット様が帰還したら、そしてその時、国が滅んでいなければ、法王様との謁見があるかもしれない。もしかしたら、私も補佐役という形で、関わることになるかもしれない。私も、覚悟を持って職務に励もう。
『緊急ルートを使用すれば、1時間で帰還できる』と、ガーランド様は言っていた。でも、そんなことしたらシャーロット様の魔力が周囲の人達にも感知され、各国がパニックとなる。シャーロット様もそれを踏まえて、通常ルートでこちらに向かっている。
今、何処にいるのかな?
彼女が帰還したら、真っ先に謝罪しよう。
私が治療を続けながら、そんなことを考えていると、50歳くらいのシスターさんがギルド入口に入ってきた。しばらく、受付の女性と話をした後、私の方へ向かってきた。
そして、私の耳元で……
「フレヤ様、王城にて、緊急事態が発生しました。私も、内容を聞かされておりません。至急、教会にお戻り下さい」
王城で緊急事態!?
まさか、王族の方々が倒れた?
「わかりました」
私は、ギルドマスターに事情を説明し、治療を代役の方にお願いした後、急ぎ教会へと戻った。シスターさんの話によると、緊急事態の要件に関しては、私の自室の机に封蝋された封筒の中に書かれているとのこと。
急ぎ、私は自室に向かい、封蝋された封筒を破き、中身を確認した。
そこには、こう書かれていた。
《聖女シャーロット・エルバランが帰還した。現在、王城にいる。この件は、勇者オーキスのみに伝えて良し。彼はイザベルやシャーロットのこととなると、視野が狭くなり、気配を少しでも感じたら何処であろうとも突撃する可能性がある。下手に黙っておくよりも、事前に知らせておいた方が良い。おそらく、フレヤとオーキスは、数日以内に彼女と話せるはずだ。すぐにでも王城に出掛け、この件を彼に話しておきなさい。呉々も、オーキス以外の者達には他言するなよ。 枢機卿ヘンデル・シュレーマン》
シャーロット様が……帰還した。
私の命が潰えるかもしれない。
彼女と再会したら、真っ先に土下座謝罪を敢行しよう。
○○○ オーキス視点
「54死! 55死! 56死!」
僕は真の勇者となるべく、両親と別れ王城にやって来た。ここには、人間の限界値250を超えた猛者達もいる。そんな人達から剣術や体術といった多くの技やスキルを習得すべく、僕は日夜訓練に励んでいる。
僕の現在の目的、それはシャーロットを自分の手で探し出すこと!
彼女は僕だけでなく、リーラの命も救ってくれた。彼女を一目見た時、僕の心がドキドキした。初めは、それが何かわからなかった。リーラといる時も、時折心臓の鼓動が早くなることもあった。でも、月日が経つにつれ、リーラとシャーロットを見た時の感覚が違うとわかった。現在では、その違いも正確に認識した。
リーラは……僕にとって、大切な幼馴染。
シャーロットは……僕の……大好きな女の子!
でも、シャーロットは遥か遠方の地、ハーモニック大陸の何処かにいる…らしい。
僕は強くなるんだ。強くなって、シャーロットを迎えにいくんだ!
「62死! 63死! 64死!」
「オーキス、素振りを止めろ」
後方からの声で、僕は鉄剣での素振りを止めた。後ろにいたのは、師匠であるガロウ・インバル隊長と聖女代行のフレヤ・トワイライトだった。フレヤは僕にとって、王城に来てからの数少ない同年代の友達だ。僕は【勇者】、彼女は【聖女代行】、それらの称号もあって、ちょくちょく会っている。彼女はイザベルと違って、好感の持てる女の子かな。
ただ、彼女と2人だけで、イザベルとシャーロットについて話をしていた時、僕はうっかり……
《シャーロットは、僕にとって大切な女の子なんだ。だから……彼女を転移させたイザベルだけは、絶対に許さない!》
と口走ってしまった。その日以降、時々フレヤからシャーロットの事でからかわれてしまう。
「オーキス、……素振りの単位がおかしいぞ。何故、《回》ではなく、《死》なんだ?」
「師匠、そんなの決まってますよ。……僕の脳内イメージで、イザベルを斬り殺している回数です!」
「ヒッ!」
なんで、フレヤが怖がっているの?
「イザベルは処刑され、もうこの世にいません。だから、僕の脳内イメージだけで、何度も何度も繰り返しているんです。僕にとって、イザベルこそが怨敵なんです! そいつが死んでいる以上、この恨み、怒りの鬱憤を脳内のイザベルに与えているんです! それにあの傲慢な女なら、幽霊になって王城周辺を徘徊すると思ったんですが、中々見つかりません。見つけ次第、これまでの鬱憤を……ふふ…くくく…はは…ふふはは……幽霊のあいつを必ず見つけ出して……あはは」
フレヤが師匠の背中に隠れ、プルプル震えながらこちらを見ている。
フレヤはイザベル関係の話をすると、毎回僕を見て怯えてしまう。
どうしてかな?
「はあ~~、オーキスがどれだけイザベルを憎んでいるのか、十分にわかった。とりあえず、その殺気を抑えろ。あと、何度も言っているが、その病んだ目はするな。誤解されるぞ? 現に、フレヤが怯えているだろ?」
殺気? 病んだ目?
師匠も何を言っているのかな?
今の僕では、殺気の出し方なんて知らない。
それに、そんなおかしな目をしていたのだろうか?
「オーキス、【ヤンデレ】にはならないでね。シャーロット様も引くから」
ヤンデレ?
なに、それ?
「よくわからないけど、フレヤを怯えさせてごめん。気をつけるよ。ところでフレヤ、どうして王城に?」
「あ、そうだった。オーキスだけに伝える情報を持ってきたの。あなたの部屋で話したいんだけど……いいかな?」
「僕に伝える情報? 師匠、訓練を中断して宜しいでしょうか?」
「ああ、構わん。オーキス、フレヤを怖がらせるなよ」
「イザベルのことを考えなければ大丈夫です」
以前から、師匠から注意を受けているけど、《病んだ目》という意味がわからない。リーラやシャーロットにも嫌われたくないし、今度、鏡を見ながらイザベルのことを考え、自分の顔を確認してみよう。
現在、僕が住んでいるのは、王城の敷地内にある騎士団の宿舎だ。訓練時、騎士の人達は皆厳しい。でも日常生活において、皆優しく僕に接してくれている。
僕はフレヤを連れて、宿舎の自分の部屋に入った。宿舎の部屋は狭いから、ソファーとかはない。飲み物を準備し、テーブルに置いてから、僕達はテーブルを挟んで、床に座った。
「フレヤ、僕だけに伝えたい情報があるって言ったけど?」
「うん…これは内密にして欲しい。シャーロット様が帰還したらしいの。現在……この王城内にいるわ」
……え?
…………シャーロットが帰還した?
「冗談……」
「本当のことだよ。ヘンデル様が私に教えてくれたの。そして、このことをオーキスにも伝えるように言われたの。ただ、まだ帰還したばかりで、シャーロット様もお忙しいだろうから、落ち着いたら会いに行こうよ。多分、3~4日ぐらいで会えると思う」
シャーロットが帰ってきた!
しかも、すぐ近くにいる!
この短期間で、どうやって帰還したのかわからないけど、王城にいるのなら……
「今すぐ、会いに行く!」
「オーキス、会いに行ったらダメ! ヘンデル様の善意を無にするつもり? 本来なら、あなたにも言ったらダメなんだよ。でも、ヘンデル様は、オーキスがシャーロットのことを大切に思っていると知っているから教えてくれたの。しばらくの間は我慢して!」
う……ヘンデル様が善意で教えてくれたことを無駄にするわけにはいかない。
シャーロットとは……いずれ再会できるんだ。
ここは……我慢しないと。
再会したら、シャーロットと何を話そうかな?
まずは、彼女がどうやってここへ戻ってこれたのかを知りたい。
彼女に会いたい…会いたい……会いたい会いたい……会いたい会いたい会いたい……無断で会いに行こうかな?……会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい。
「オーキス、友達として言わせてもらうけど、シャーロット様の前でその表情を出したら、即刻嫌われるからね」
「は!……なんで!?」
僕、そんなおかしな顔をしたかな?
「自分で確認したらわかる」
フレヤが言うくらいだから、相当おかしな顔をしていた?
そんな顔をシャーロットに見せたくない。
彼女と再会した早々、嫌われたくない。
「フレヤ、お願いだ! シャーロットに嫌われたくない。この欠点を治したい!」
「それじゃあ、今から練習だね」
今日、教えてもらってよかった。
ヘンデル様、フレヤ……ありがとう。
時系列としては、シャーロットが王城に到着し、国王達と話し合っている頃です。
○○○ フレヤ視点
現在、私は王都にある冒険者ギルド本部にて、怪我人達の治療を施している。怪我人の半数以上は冒険者だけど、時折一般市民の人達もギックリ腰や火傷などで怪我を負い、冒険者ギルドや教会に訪れることもある。通常、軽度のものは医者に診てもらい、市販品の薬が渡されるだけで終わるけど、1日で治るものではない。中には急を要する人達もいるので、そういった人達がギルドや教会に訪れ治療していく。
今日の冒険者ギルドで行われる治療当番は、私なのだ。
教会とギルドとの話し合いで治療料金も決められている。
イムノブースト 銅貨5枚(500円相当)
ヒール 銀貨1枚(1000円相当)
ハイヒール 銀貨5枚(5000円相当)
マックスヒール 金貨1枚(10000円相当)
リジェネレーション 1人につき金貨1枚~
エルバラン公爵様のおかげもあって、イムノブーストの正しい使用方法がわかった。ただ、イムノブースト(自己治癒力の強化)の原理と人の身体の構成を正しく理解した人が扱わないと、イザベルと同じ悲劇をとる危険性があるため、この魔法を利用する人はまだ少ない。
私の場合、聖女代行で信頼されているせいかな?
イムノブーストを求める人が多い。
イザベルの時、イムノブーストを多用したこともあって、この魔法に限り、扱いがかなり上手い。正直、複雑だ。
「あ~そこそこ、フレヤちゃん、胃が楽になってきたよ~」
私は、胃を痛めた70歳の女性ヘレンさんにイムノブーストを使用している。
「あの…ヘレンさん…食べ過ぎです」
「ありゃま、さすがフレヤちゃんだね~。わかるのかい?」
「魔力を当てたことで、どの臓器の状態が悪いのかがわかります。でも、こういうのはイムノブーストで治すより、医者のお薬で治した方がいいですよ」
ヘレンさんの身体全体を診たけど、癌になるような危険部位はなかった。癌の場合、イムノブーストで治療すると、癌細胞を活性化させて、余計に悪化させてしまう。イムノブーストを使用する時には、注意が必要だ。
シャーロット様が精霊様達に教えたことを、精霊様達が私に教えてくれた。
「何言ってんだい! 今日の当番が、フレヤちゃんだから来たんだよ。見てみな、他の子達もあなたに治療されたいようだね~」
「「「当たり前じゃないですか! フレヤちゃんに治療されたいがため、頑張っているんです!」」」
皆さん、頑張る方向性がおかしいですよ。
「それにね、72歳の私にとって……屑肉ステーキは…屑肉ステーキは……ご馳走なんだよ!」
はい!? 急に、何を口走っているんですか!?
「私はね、ワイバーンのステーキを生涯に2度食べたことがある。あれは、絶品だったよ。でもね、歳をとるに連れて、肉類系統が食べにくくなってきた。シャーロット様が編み出してくれた屑肉の調理法、《あっさりソースを絡めた屑肉ステーキ》、あれは……あれは…年寄りでも食える究極の料理だよ!!」
お年寄りのヘレンさんが、そこまで力説するなんて……周囲の人達も凄く頷いている。シャーロット様への崇拝度が、日に日に上がっているわ。本人は遠く離れた地にいるのに、凄い影響力だ。
「そ…それでも食べ過ぎはダメですよ。それで病気になったら、シャーロット様が悲しみます」
「…そうだね。シャーロット様を悲しませちゃいけないね。気をつけるよ。それにしても、フレヤちゃんの魔法は、いつ見ても優しく感じるね。あの【高慢ちきな大罪人イザベル】は、私らの顔を碌に見ないで、適当にイムノブーストを乱用してたのを覚えてるよ。フレヤちゃんの場合、イムノブーストの性質をみんなに教えてくれたり、私達の身体にそっと手を触れて、何処に異常があるのかを診て、優しく放ってくれるだろう? そんなアンタだからこそ、イムノブーストを信頼できるのさ」
「「「そうそうそう」」」
《そのイザベルが、私です》とは、皆に言えない。あの時、イムノブーストを乱発したからこそ、その効果、有用性、危険性を骨身にしみるほど味わった。
……顔に出してはいけない。笑顔だ、笑顔で乗り切るのだ!
頑張れ、私!
「あ…ありがとう…ございます」
「照れちゃって、可愛いね~」
この数ヶ月、聖女や回復魔法に関することを猛勉強したおかげもあって、周囲の人達から信頼を勝ち取ることに成功した、ヘンデル様も私の頭を撫で褒めてくれた。今の私を、教皇様に見てもらいたい。
でも、教皇様はガーランド法王国に行ったまま、2ヶ月以上帰ってこない。あの国は特定の国で何かあった時、その国に滞在している教会の人達が正確に情報を集めていき、得られた情報を本国に送る。その後、本国が大陸中にある全ての教会に情報を拡散させていく。言い換えれば、ガーランド様を祀るガーランド教というのは建前であって、教会そのものが【スパイ】としての役割を果たしている。
だから、アストレカ大陸の中でも、ガーランド法王国は、他国の機密情報なども知り尽くしている。教会所属となった以上、私はガーランド法王国側の人間になってしまったのだけど、イムノブースト事件を機に、教皇様が【ヒールの隠匿】を信者全員に明かしたことで、エルディア王国内にある教会支部全てが、ガーランド法王国を裏切ることになってしまった。おまけに、教皇様が本国に召還された後、ヘンデル枢機卿様が代表して、これまでの教会の悪事をエルディア国王陛下に話した。国王陛下も王妃陛下も、それはそれはお怒りだった。
こういった裏切りが起きたのは、エルディア王国だけのことではない。他国にある教会支部も、同じシステムで動いているのだけど、100年以上隠蔽してきた機密情報が明るみに出たこと、エルディア王国の教会支部がガーランド法王国を見限ったことから、アストレカ大陸にある全ての教会支部が結託して、ガーランド法王国を見限り、教会が置かれている国に助けを求め、その国に属することになったのだ。
教会の信者達、多くの国々から愛想をつかされたこともあって、ガーランド法王国の国力が一気に低下した。そのため、本国の内部状勢がどれ程混乱しているのか、情報が殆ど伝わってこない。だから、教皇様が何処にいるのかもわからない。せめて、教皇様の現在位置さえわかれば、ヘンデル様の従魔を飛ばせるのに。
ヘンデル枢機卿様から他国の動きを少しだけ聞いているけど、私の事件をキッカケに、多くの国々で様々な思惑が蠢いているらしい。多分、ガーランド法王国は、数年以内に滅びる。
問題は、どういった滅び方をするのか?
他国に侵略されるのか、内部から新たな王が誕生し、国名が変わるだけに留まるのか、現時点では何とも言えないようだ。あの国の中で、何が起きているのだろう? これからどうなるのだろう? 全ては、私の事件から始まった。事件の当事者であるイザベルは、死んだことになっているけど、このまま知らんぷりすることはできない。私に、何かできることはないのだろうか?
ヘンデル様は……
「フレヤ、あの事件は、もう君の手から離れた。君が気に病むことはない。君は、君自身の職務を全うしなさい」
と言われた。確かに、フレヤ・トワイライトという人物は只の聖女代行であって、あの事件に一切関係していない。下手に首を突っ込んだら、殺される場合もある。私には……何もできない。
本来であれば、聖女の称号を持つ者は、数年間修行を積み、基本スキルや回復魔法を十分に鍛えてから、ガーランド法王国の法王様と謁見する必要があった。私の場合、謁見する前に事件を起こしてしまった。シャーロット様が帰還したら、そしてその時、国が滅んでいなければ、法王様との謁見があるかもしれない。もしかしたら、私も補佐役という形で、関わることになるかもしれない。私も、覚悟を持って職務に励もう。
『緊急ルートを使用すれば、1時間で帰還できる』と、ガーランド様は言っていた。でも、そんなことしたらシャーロット様の魔力が周囲の人達にも感知され、各国がパニックとなる。シャーロット様もそれを踏まえて、通常ルートでこちらに向かっている。
今、何処にいるのかな?
彼女が帰還したら、真っ先に謝罪しよう。
私が治療を続けながら、そんなことを考えていると、50歳くらいのシスターさんがギルド入口に入ってきた。しばらく、受付の女性と話をした後、私の方へ向かってきた。
そして、私の耳元で……
「フレヤ様、王城にて、緊急事態が発生しました。私も、内容を聞かされておりません。至急、教会にお戻り下さい」
王城で緊急事態!?
まさか、王族の方々が倒れた?
「わかりました」
私は、ギルドマスターに事情を説明し、治療を代役の方にお願いした後、急ぎ教会へと戻った。シスターさんの話によると、緊急事態の要件に関しては、私の自室の机に封蝋された封筒の中に書かれているとのこと。
急ぎ、私は自室に向かい、封蝋された封筒を破き、中身を確認した。
そこには、こう書かれていた。
《聖女シャーロット・エルバランが帰還した。現在、王城にいる。この件は、勇者オーキスのみに伝えて良し。彼はイザベルやシャーロットのこととなると、視野が狭くなり、気配を少しでも感じたら何処であろうとも突撃する可能性がある。下手に黙っておくよりも、事前に知らせておいた方が良い。おそらく、フレヤとオーキスは、数日以内に彼女と話せるはずだ。すぐにでも王城に出掛け、この件を彼に話しておきなさい。呉々も、オーキス以外の者達には他言するなよ。 枢機卿ヘンデル・シュレーマン》
シャーロット様が……帰還した。
私の命が潰えるかもしれない。
彼女と再会したら、真っ先に土下座謝罪を敢行しよう。
○○○ オーキス視点
「54死! 55死! 56死!」
僕は真の勇者となるべく、両親と別れ王城にやって来た。ここには、人間の限界値250を超えた猛者達もいる。そんな人達から剣術や体術といった多くの技やスキルを習得すべく、僕は日夜訓練に励んでいる。
僕の現在の目的、それはシャーロットを自分の手で探し出すこと!
彼女は僕だけでなく、リーラの命も救ってくれた。彼女を一目見た時、僕の心がドキドキした。初めは、それが何かわからなかった。リーラといる時も、時折心臓の鼓動が早くなることもあった。でも、月日が経つにつれ、リーラとシャーロットを見た時の感覚が違うとわかった。現在では、その違いも正確に認識した。
リーラは……僕にとって、大切な幼馴染。
シャーロットは……僕の……大好きな女の子!
でも、シャーロットは遥か遠方の地、ハーモニック大陸の何処かにいる…らしい。
僕は強くなるんだ。強くなって、シャーロットを迎えにいくんだ!
「62死! 63死! 64死!」
「オーキス、素振りを止めろ」
後方からの声で、僕は鉄剣での素振りを止めた。後ろにいたのは、師匠であるガロウ・インバル隊長と聖女代行のフレヤ・トワイライトだった。フレヤは僕にとって、王城に来てからの数少ない同年代の友達だ。僕は【勇者】、彼女は【聖女代行】、それらの称号もあって、ちょくちょく会っている。彼女はイザベルと違って、好感の持てる女の子かな。
ただ、彼女と2人だけで、イザベルとシャーロットについて話をしていた時、僕はうっかり……
《シャーロットは、僕にとって大切な女の子なんだ。だから……彼女を転移させたイザベルだけは、絶対に許さない!》
と口走ってしまった。その日以降、時々フレヤからシャーロットの事でからかわれてしまう。
「オーキス、……素振りの単位がおかしいぞ。何故、《回》ではなく、《死》なんだ?」
「師匠、そんなの決まってますよ。……僕の脳内イメージで、イザベルを斬り殺している回数です!」
「ヒッ!」
なんで、フレヤが怖がっているの?
「イザベルは処刑され、もうこの世にいません。だから、僕の脳内イメージだけで、何度も何度も繰り返しているんです。僕にとって、イザベルこそが怨敵なんです! そいつが死んでいる以上、この恨み、怒りの鬱憤を脳内のイザベルに与えているんです! それにあの傲慢な女なら、幽霊になって王城周辺を徘徊すると思ったんですが、中々見つかりません。見つけ次第、これまでの鬱憤を……ふふ…くくく…はは…ふふはは……幽霊のあいつを必ず見つけ出して……あはは」
フレヤが師匠の背中に隠れ、プルプル震えながらこちらを見ている。
フレヤはイザベル関係の話をすると、毎回僕を見て怯えてしまう。
どうしてかな?
「はあ~~、オーキスがどれだけイザベルを憎んでいるのか、十分にわかった。とりあえず、その殺気を抑えろ。あと、何度も言っているが、その病んだ目はするな。誤解されるぞ? 現に、フレヤが怯えているだろ?」
殺気? 病んだ目?
師匠も何を言っているのかな?
今の僕では、殺気の出し方なんて知らない。
それに、そんなおかしな目をしていたのだろうか?
「オーキス、【ヤンデレ】にはならないでね。シャーロット様も引くから」
ヤンデレ?
なに、それ?
「よくわからないけど、フレヤを怯えさせてごめん。気をつけるよ。ところでフレヤ、どうして王城に?」
「あ、そうだった。オーキスだけに伝える情報を持ってきたの。あなたの部屋で話したいんだけど……いいかな?」
「僕に伝える情報? 師匠、訓練を中断して宜しいでしょうか?」
「ああ、構わん。オーキス、フレヤを怖がらせるなよ」
「イザベルのことを考えなければ大丈夫です」
以前から、師匠から注意を受けているけど、《病んだ目》という意味がわからない。リーラやシャーロットにも嫌われたくないし、今度、鏡を見ながらイザベルのことを考え、自分の顔を確認してみよう。
現在、僕が住んでいるのは、王城の敷地内にある騎士団の宿舎だ。訓練時、騎士の人達は皆厳しい。でも日常生活において、皆優しく僕に接してくれている。
僕はフレヤを連れて、宿舎の自分の部屋に入った。宿舎の部屋は狭いから、ソファーとかはない。飲み物を準備し、テーブルに置いてから、僕達はテーブルを挟んで、床に座った。
「フレヤ、僕だけに伝えたい情報があるって言ったけど?」
「うん…これは内密にして欲しい。シャーロット様が帰還したらしいの。現在……この王城内にいるわ」
……え?
…………シャーロットが帰還した?
「冗談……」
「本当のことだよ。ヘンデル様が私に教えてくれたの。そして、このことをオーキスにも伝えるように言われたの。ただ、まだ帰還したばかりで、シャーロット様もお忙しいだろうから、落ち着いたら会いに行こうよ。多分、3~4日ぐらいで会えると思う」
シャーロットが帰ってきた!
しかも、すぐ近くにいる!
この短期間で、どうやって帰還したのかわからないけど、王城にいるのなら……
「今すぐ、会いに行く!」
「オーキス、会いに行ったらダメ! ヘンデル様の善意を無にするつもり? 本来なら、あなたにも言ったらダメなんだよ。でも、ヘンデル様は、オーキスがシャーロットのことを大切に思っていると知っているから教えてくれたの。しばらくの間は我慢して!」
う……ヘンデル様が善意で教えてくれたことを無駄にするわけにはいかない。
シャーロットとは……いずれ再会できるんだ。
ここは……我慢しないと。
再会したら、シャーロットと何を話そうかな?
まずは、彼女がどうやってここへ戻ってこれたのかを知りたい。
彼女に会いたい…会いたい……会いたい会いたい……会いたい会いたい会いたい……無断で会いに行こうかな?……会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい。
「オーキス、友達として言わせてもらうけど、シャーロット様の前でその表情を出したら、即刻嫌われるからね」
「は!……なんで!?」
僕、そんなおかしな顔をしたかな?
「自分で確認したらわかる」
フレヤが言うくらいだから、相当おかしな顔をしていた?
そんな顔をシャーロットに見せたくない。
彼女と再会した早々、嫌われたくない。
「フレヤ、お願いだ! シャーロットに嫌われたくない。この欠点を治したい!」
「それじゃあ、今から練習だね」
今日、教えてもらってよかった。
ヘンデル様、フレヤ……ありがとう。
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