僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護

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最終章 アキト、隣接する2つの辺境伯領の架け橋となる

31話 パーティー開催前の不穏

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レンヤさんが息を切らしながら馬車前に到着すると、持っていた小さな長方形サイズの小箱を開ける。

「ようやく、完成だ。アーサム、ミランダ様、こいつは革新的な眼鏡です。材質は…」

箱の中身は、夢で見た綺麗なデザインが施されたフレームの眼鏡だ。色合いは水色に近い。今装着しているものよりも、オシャレでレンズの厚さも薄くなり、シェリルのサイズにピッタリ調整されている。一見、脆弱そうに見えるけど、ミスリル合金製で硬度もあり、魔力伝導性と魔力伸縮性も高いから、シェリル自身に違和感を与えることなく、顔に装着出来るし、落下しても傷つくこともない。昨日の時点で、僕、シェリル、リリアナ、ケイナさんは完成品を見ているけど、アーサム様、ミランダ様、アレク様は初めてのせいか、手を震わせながら眼鏡を持ち、デザインを堪能している。

「美しい。デザインも見事だが、シェリル自身や着ている服装と眼鏡とのバランスも実にいい。ただ、レンスの厚みが薄くないか? シェリルの裸眼の視力は、かなり低い。これでは…」

「お父様、大丈夫よ。ほら」

シェリルが眼鏡をかけて、周囲を平然と歩く。眼鏡の性能を知らない人たちは、皆こぞって驚いている。

「馬鹿な…何故? 視力を矯正するレンズには、魔法やスキルの付与も不可能のはずだ。まさか…」

「ええ、このフレームには、これまでと違い、一つの革新的な機能があります。魔石がなくてもスキルを1つ付与させることが可能なんです。付与されているのは、スキル《機能強化》。これはフレームの強化だけでなく、固定させているレンズも一つの物体として認識され強化されるんです」

レンヤさんが答えを言ったことで、皆が一様に驚いてる。フレームを製作できたのはいいけど、分厚いレンズを薄くさせる方法には、レンヤさんとミオンさんもかなり手こずったんだ。

「そんな手が…」
「俺も驚きですよ。ちなみに、発案者はアキです。『フレームとレンズを一体化させて、眼鏡と読んでいるのですから、眼鏡にしてからスキル付与をすれば?』と言ったくれたことで解決しました」

ただの軽い思いつきで言った言葉なのに、実際にやったら、本当に機能してくれたのだから驚きだよ。

「そうか…アキ、ありがとう」
「アキちゃん、ありがとう」

アーサム様とミランダ様が、僕を抱きしめる。昨日の時点で、同じ言葉をシェリルにも貰った。

「アーサム様、ミランダ様。これで、すべての準備が整いましたね」 

レンヤさんの言葉で、僕たちは気を引き締める。

「ああ、あとはお茶会だ」
「できれば、そこで全てを終わらせたいわね」

シェリルも眼鏡をつけたことで、印象がガラッと変わり、優しげで可愛く少しインテリっぽい女の子に見える。これなら、侯爵家の令息だって文句を言わないはずだ。何が起こるのか一抹の不安を感じるけど、僕たちにはマグナリア、トウリ、ガルーダ様だっているんだ。絶対に、負けないぞ。


○○○


今の僕の名前はアキ・ボルトン男爵令嬢、アーサム様は辺境伯位の地位だけでなく、男爵位の地位も持っていて、今回それを利用している。名前を騙っていいのか疑問に思ったけど、公爵様の了解を得ているから問題なしだって。

パーティーが開催される地へ足を踏み入れたけど、なんて優雅な場所なんだ。公爵邸のお庭は、アーサム様の邸と同レベルの素晴らしさを感じるし、テーブルとかのセッティングも、景観を損なうどころか、むしろ素晴らしさを向上させているよ。僕たちを含めると、参加者は合計22名、招待状に記載されている人数全員が揃っている。皆が飲み物を飲んで談笑しているけど、僕たちが現れた途端、こっちに視線を向ける。

「シェリル、私って何かヘマしたかな?」
「貴方も私も何もやってないけど、視線を感じるね」

この視線って、やっぱり僕たちに向けられているんだ。

「当然でしょ。前回の出席者じゃないアキと私、眼鏡を新調したシェリル、これだけ可愛い女の子が揃えば、注目を浴びて当然よ」

僕は、男の子です。

「まあ、冗談は置いといて。実際のところ、皆の注目はシェリルだけでしょうね。眼鏡をかけている人たちが、彼女を見ているもの。デザインも形もほぼ一択しかない眼鏡のせいで、オシャレな服との調和がこれまで困難だったのに、新型眼鏡はその根底を覆したのよ。注目を浴びないとおかしいわよ」

言われてみれば、その通りだ。

開催前ということもあって、皆がシェリルに注目しているけど、公爵様の不興を買ってはいけないから、質問したいのを我慢しているって感じかな。

『アキ、今大丈夫?』

この声は、トウリだ。上空からここを監視しているはずだけど、何かあったのかな? というか、これって僕たちにしか聞こえない通信だから、普通にアキトと呼べばいいのに。

『大丈夫だよ』
『あなたたちのいる場所の敷地内全てに、ドス黒い何かが渦巻いているわ』

ここから見る限り、そんなものは見当たらない。

『私には、何も見えないけど?』
『この感覚、黒い渦のようなものの正体は、憎悪と悪意よ』

憎悪と悪意? 精霊は、そんなものも知覚できるんだ。

『私は早い段階で、ここから監視していたけど、人の密度が多くなるにつれて、黒い何かもどんどん濃密になっていくわ。今では、お茶会にいる出席者全員を逃すものかと言わんくらいに、周囲を取り囲んでいるの。覚えたばかりの共通語で、マグナリア様とガルーダ様にも伝えたら、かなり驚いていたわ』

あの2人が驚いているということは、かなりまずい状況ってことだ。目に見えないせいで、誰もその事に気づいていない。

『あのね、マグナリア様とガルーダ様は、憎しみを放つ人間を特定しようと動いているの。とりあえず、【皆には何も知らせず、パーティーに集中させておきなさい】だって。アキトだけには伝えたいから、急いで連絡したの』

それって、僕にも知らせてはいけないような? 
だって、知ったら絶対に楽しめないよね?

『わかった、ありがとう。私も、周囲に気を配っておくわ』

特訓のせいで、僕もつい女の子の話し方になってしまう。
シェリルのことを馬鹿にした侯爵令息だって、この場にいるはずだ。
もうすぐ、主催者の公爵様も来る。
憎しみと悪意、誰が誰に対して放っているのだろう。
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