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夕食を終え、僕は五人で家の中に入った。
「ゴウさん、この村が二つに分かれているかもしれないって聞きましたが、どうなんでしょうか?」
僕はこの村で暮らす以上、知っておかなければならないと思った。
ゴウさんとサンおばさんは少し黙り込み、サンおばさんの方が「そうかもしれないわね」と呟いた。
「私たちは特別なのか、それとも獣と同じのか。簡単な話ではないわね」
サンおばさんの言葉に、僕は反論した。
「獣と違って、人間は言葉を使って話し合うことが出来ますし、それで助け合うことが出来ます。だから、人間は獣とは違うと思います」
僕の言葉に、ゴウさんが頷いた。
「そうだ。人間と獣は違うと、皆が思っていた。だが、問題となったのは人間が自然を支配する、人間だけが特別に神様の恩恵を受けているのではないかという思想が出て来てからだ」
ゴウさんの言葉に、レイとサキさんが顔を暗くした。いったい、どういう事なのだろう。
「レイの造った矢や釣り具を、神聖視している村人がいるのは知っているな?」
「はい」
「それだ。人間が神から授けられた矢や釣り具で獲物を獲るという事は、人間は神から選ばれ、他の獣や動物、植物よりも上の存在であると考えている者がいる。リウが、その先鋒だな」
ゴウさんはそこまでいい、口を閉じた。
レイを見ると、悲し気に自分の造った矢や釣り具を見ており、サキさんは怒った顔をしていた。
「つまり、僕が入江と交流して、入江に他の村との交流を促し、交流した結果としてレイが矢や釣り具を造り、それを神聖視する人が出てきた。それをハムさんたちが気に入らなくて、村が二つに分かれている、という事なんでしょうか?」
僕の言葉にゴウさんが頷いた。
「そんな。だってレイは僕と同じ人間で、神様の力なんかじゃなくて、自分で努力をして今まで石器を造ったりしてきたじゃないですか。僕はずっとレイと一緒にいたわけではありませんが、レイの造った石器に込められているものがあるとしたら、それは神様の力なんかじゃなくて、レイの汗です。僕がレイから貰った石器には、レイの汗がしみ込んでいました」
僕が興奮を隠さずに言うと、サキさんも「レイは、人間よ」と力強く言った。その言葉に、ゴウさんも頷いた。
「そうだ。一緒に暮らせばわかる。なんせ俺も、実はレイの事を何らかの力を宿した人間だと思った事のある一人だ。徐々に、足から力が入らなくなる病なんて聞いたことが無いからな。それは神から選ばれた証であり、自分の身を犠牲にして、俺たち人間に素晴らしい石器などの道具を作ってくれる存在だと、勘違いする者がいる」
ゴウさんの話を聞き、僕は勘違いをする人たちの気持ちが少しだけわかった気がした。
僕たちも、神様のお祈りで大事なお酒やお肉を海に撒いたりする。これもある意味、自分たちを犠牲にして、神様から力を得ようとする行為だ。
「それで、村の酋長は何て言っているんですか?」
「今、酋長は病に罹っていて、元気が無いんだ」
僕はそれを聞き、確かヌイさんといった酋長に、まだ会っていない事に気がついた。
「その酋長の病気を、神様からの祟りだという者がいる。その原因が、レイの造った道具を使う者だという主張がある」
その言葉を聞き、僕は夜中なのにも関わらず大きな声を出した。
「僕だけでなく、レイのせいで酋長が病気になったって言うんですか?」
僕はいつの間にか立ち上がっており、サンおばさんに窘められるように手を引かれた。
「村の全員が思っているわけではないわ。ただ、そういう人たちもいるって事なの。私にもわかっているわ。レイのせいでもサキのせいでも、もちろんカラ君のせいでもない。酋長の病は年齢からくるものよ。いい年をして、寒中水泳なんてやったからよ」
僕は座り直し、熱くなっている頭の中を冷まそうと、必死に無心になろうとした。
「カラ」
不意に、レイが僕に話しかけてきた。
「僕のせいで、カラも気分の悪い目にあうかもしれない」
僕はレイの顔を見つめ、「そんな事、どうでもいい」と即答した。
夕食を終え、僕は五人で家の中に入った。
「ゴウさん、この村が二つに分かれているかもしれないって聞きましたが、どうなんでしょうか?」
僕はこの村で暮らす以上、知っておかなければならないと思った。
ゴウさんとサンおばさんは少し黙り込み、サンおばさんの方が「そうかもしれないわね」と呟いた。
「私たちは特別なのか、それとも獣と同じのか。簡単な話ではないわね」
サンおばさんの言葉に、僕は反論した。
「獣と違って、人間は言葉を使って話し合うことが出来ますし、それで助け合うことが出来ます。だから、人間は獣とは違うと思います」
僕の言葉に、ゴウさんが頷いた。
「そうだ。人間と獣は違うと、皆が思っていた。だが、問題となったのは人間が自然を支配する、人間だけが特別に神様の恩恵を受けているのではないかという思想が出て来てからだ」
ゴウさんの言葉に、レイとサキさんが顔を暗くした。いったい、どういう事なのだろう。
「レイの造った矢や釣り具を、神聖視している村人がいるのは知っているな?」
「はい」
「それだ。人間が神から授けられた矢や釣り具で獲物を獲るという事は、人間は神から選ばれ、他の獣や動物、植物よりも上の存在であると考えている者がいる。リウが、その先鋒だな」
ゴウさんはそこまでいい、口を閉じた。
レイを見ると、悲し気に自分の造った矢や釣り具を見ており、サキさんは怒った顔をしていた。
「つまり、僕が入江と交流して、入江に他の村との交流を促し、交流した結果としてレイが矢や釣り具を造り、それを神聖視する人が出てきた。それをハムさんたちが気に入らなくて、村が二つに分かれている、という事なんでしょうか?」
僕の言葉にゴウさんが頷いた。
「そんな。だってレイは僕と同じ人間で、神様の力なんかじゃなくて、自分で努力をして今まで石器を造ったりしてきたじゃないですか。僕はずっとレイと一緒にいたわけではありませんが、レイの造った石器に込められているものがあるとしたら、それは神様の力なんかじゃなくて、レイの汗です。僕がレイから貰った石器には、レイの汗がしみ込んでいました」
僕が興奮を隠さずに言うと、サキさんも「レイは、人間よ」と力強く言った。その言葉に、ゴウさんも頷いた。
「そうだ。一緒に暮らせばわかる。なんせ俺も、実はレイの事を何らかの力を宿した人間だと思った事のある一人だ。徐々に、足から力が入らなくなる病なんて聞いたことが無いからな。それは神から選ばれた証であり、自分の身を犠牲にして、俺たち人間に素晴らしい石器などの道具を作ってくれる存在だと、勘違いする者がいる」
ゴウさんの話を聞き、僕は勘違いをする人たちの気持ちが少しだけわかった気がした。
僕たちも、神様のお祈りで大事なお酒やお肉を海に撒いたりする。これもある意味、自分たちを犠牲にして、神様から力を得ようとする行為だ。
「それで、村の酋長は何て言っているんですか?」
「今、酋長は病に罹っていて、元気が無いんだ」
僕はそれを聞き、確かヌイさんといった酋長に、まだ会っていない事に気がついた。
「その酋長の病気を、神様からの祟りだという者がいる。その原因が、レイの造った道具を使う者だという主張がある」
その言葉を聞き、僕は夜中なのにも関わらず大きな声を出した。
「僕だけでなく、レイのせいで酋長が病気になったって言うんですか?」
僕はいつの間にか立ち上がっており、サンおばさんに窘められるように手を引かれた。
「村の全員が思っているわけではないわ。ただ、そういう人たちもいるって事なの。私にもわかっているわ。レイのせいでもサキのせいでも、もちろんカラ君のせいでもない。酋長の病は年齢からくるものよ。いい年をして、寒中水泳なんてやったからよ」
僕は座り直し、熱くなっている頭の中を冷まそうと、必死に無心になろうとした。
「カラ」
不意に、レイが僕に話しかけてきた。
「僕のせいで、カラも気分の悪い目にあうかもしれない」
僕はレイの顔を見つめ、「そんな事、どうでもいい」と即答した。
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