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 僕たちは村に戻り、ジンさんと一緒にお父さんら大人の男性に僕の考えを話した。年齢が上の大人ほど「無理じゃないか?」と言いたげな顔で、若いガイさんやヤンさん、ウドさん、そして今年から大人の仲間入りをしたイバさんは「やってみよう」という顔つきだった。
「酋長、どうですかな。あなたの息子さんの話は?」
 一番年上のガンさんが、皆の顔つきを見ながらお父さんに話しかけた。お父さんは考え込むような顔をし、しばらく経ってから口を開いた。
「カラ、もし何かが起きた時の『責任』はとれるか?」
「責任って?」
 僕が聞き返すと、お父さんは「誰かが、怪我をした時の責任だ」と、短く答えた。
 僕の考えは、まだ是川では誰もやった事が無い方法だろうし、失敗したら怪我人が出るかもしれない。今さらながら、僕一人では何も出来ず、大人たちの力を借りなければならない事に気がついた。
そして、その大人たちにもそれぞれ家族はいるし、怪我をして、最悪死んでしまった場合、僕はどう責任を取ればいいのだろうという現実に直面し、僕は口を開けなくなった。
 僕の身体は、少し震えていた。きっと、いつも子供たちに班長として指示を出すお兄ちゃんも『責任』の重みを感じていただろうし、お父さんも酋長としての『責任』を感じていただろう。今の僕には、その『責任』を背負うだけの覚悟や力は無かった。
 僕は口を開き、『考えが足りませんでした』と言おうとした時だった。僕の隣にいるジンさんが「俺も責任をとります」と言った。
「カラの話を聞いて、大人たちに話そうと促したのは俺です。なのに、カラだけに責任を背負わせるのはおかしくないでしょうか?」
 ジンさんが話し終えると、イバさんが「俺はやってみたいな」と言い、ウドさんとヤンさんも口をそろえて「面白そうじゃないですか」と言ってくれた。ここでようやく、僕の身体の震えが収まった。
「酋長?」
ガンさんがお父さんに声をかけた。ガンさんの口調はいつもと変わらなかったけど、怒ってはいないようだった。
「わかった。ひとまずカラがとジンが行った場所を見てみないと、出来るか出来ないか判断がつかない。明日、一緒に行ってみよう」
 お父さんのこの言葉で、ひとまずこの場は散会となった。
「ジンさん、ありがとうございます」
 僕はジンさんにお礼を言ったけど、ジンさんは少し、厳しめの顔と口調で僕に話しかけてきた。
「カラ、俺も少し考え足らずだった。そう簡単に出来る事じゃないだろうし、新しい事が出来そうだという感覚に、何と言うか、俺も舞い上がっていたんだ。酋長の言うとおり、俺も『責任』を取る覚悟が無かったんだ」
 ジンさんは一度言葉を区切り、話を続けた。
「それに、もしこれがカラの『石を取りたい』という話だけなら、俺は賛成しなかった。カラの考えの中で、大きな木を一本とれそうだったから賛同したんだ。一人のやりたい事だけに、他の人を危険な目に合わせる事は出来ないからな」
 僕はジンさんの言葉で、深くうな垂れた。僕は自分が作る石器の材料が欲しくて、この提案をした。でも、それは僕一人のわがままだ。僕は他人を巻きこんで、危険な目に合わせるかもしれない事を言っていたのだ。
「ごめんなさい」
 呟くように、僕の口からは謝罪の言葉が出た。
「いやいや、それぐらいがちょうどいいんじゃないか?」
僕の様子を見て、イバさんが笑いながら声を出した。
「カラは自分が石を取りたいだけだったかもしれないけど、それが元になって簡単に木が一本手に入るかもしれないんだ。黙って毎日同じ暮らしをしているより、新しい事をした方がいいじゃないか。それに、カラのように危険だったりした提案は、俺たち大人が止めて、対案があったら話し合って、新しく出来る事があればどんどんやっていった方が、村も発展するだろ?」
 イバさんの言葉にガイさんやウドさん、ヤンさんが続いて頷いた。でも、僕の心の中はまだ暗かった。
「僕は、自分の石器造りの石が欲しかっただけでーー」
「その石器が上手く出来れば、是川の村は発展するかもしれないだろ?」
 僕の言葉をさえぎるように、ガイさんが言った。
「でも、上手く出来るかわからないですしーー」
「あー、もうやめろって」
 ヤンさんが立ち上がり、僕の口を手でふさいだ。
「俺たちがやりたいからやるんだ。それを、お前は反対するのか?」
 僕は「ありません」と言ったつもりだったけど、口を塞がれているので声がほとんど出なかった。
「ガイさんもウドも賛成しているんだ。ジンはどうなんだ?」
 ヤンさんの言葉に、ジンさんは「賛成しています。ですが、カラにも俺にも至らない点がーー」と、ジンさんが言い終わらないうちに、今度はウドさんがジンさんの口を手でふさいだ。
「やるか、やりたくないかの二択で答えてくれ」
 ウドさんはジンさんの口から手を離し、ジンさんは「やりたいです」と、少し笑みを浮かべて言った。
「決まりだな」
 ガイさんの言葉に、今残っている大人たちがみな頷き、声をあげた。僕も声を出したかったけど、ヤンさんが僕の口をふさいだままで、声を出せなかった。その代り、少しばかり寂しげな声が輪の隅から聞こえてきた。
「若いもんは、いいのう」
 ガンさんが一人、自分の足腰を叩きながら呟いていた。

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