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本編
強いていうならば…
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折しも味が染みて、少しくたぁ~とした白菜を頬張った私は、行儀悪く箸を口の中に含んだまま、目を瞠って彼を見つめた。
…幻聴???
その割りには、やけに声色が真剣で通った声が聞こえた気がする。
彼の様子を見れば、緊張感と期待と不安の混じった表情で私を真っ直ぐ見つめていて、私も彼の瞳から目を反らせず、ほぼ無意識で白菜を咀嚼してゴクンっと飲み込んだ。
「…ダメですか?」
(ダメも何も…そもそも…)
久しぶりに舞い込んだ浮いた話に、私は始めこそ動揺したものの、甘い告白の言葉もなく“お試し”という言葉があるせいで何となく冷静に聞いていた。
強いて言うならば…“味噌味の告白”。
香り芳しく食欲をそそるけど、そのままじゃ食べられない。
強烈に塩辛くて複雑な味…そんな感じの告白に思えた。
「何故、“お試し”?」
「先程も言ったとおり、俺、女性に慣れてなくて…ちゃんと女性に慣れたいんです。」
うーん、つまりは女の子に慣れるための練習の為に、3ヶ月お試しで付き合えってことかなぁ…?
それなら甘い告白が無いのも納得出来る。
ただ…他の彼に好意を抱いている女の子なら、もしかしたら“お試し”って言葉の理由を知った時点で、猛者ならともかく、平手打ちされても文句の言えないシチュエーション。
それに彼が気が付いていないあたり、女慣れしてない証拠なんだけどね…。
「…他の従業員の女の子とは、楽しそうに話しているじゃない?」
「仕事上なら円滑な人間関係が望ましいですから、なんとかなっているんですが…プライベートは全然ダメで…」
「その割りには、私には緊張しないで話しかけてくるよね?今日まで客と店員の会話以外したことなかったのに、今は何故か幸太くんの部屋で二人で煮込みうどん食べちゃってる状態だし。」
今まで当たり障りのない世間話ぐらいは、カウンターで交わすことが今まであったけど…。
そこからの今の状態は、改めて思うとあまりの急展開である。
「そう!それなんです!俺、自分でもビックリなんですが、藍原さんなら割りと自然に話せるんです!理由は分からないんですけど…俺、こんなにプライベートで女の人と話したの初めてで!」
私の言葉に反応して、彼は少し興奮ぎみに身を乗り出して早口で語った。
私はちょっとビックリして、両手に箸と小鉢を持って正座したまま後退った。
「ち、近いから!幸太くん!」
「あっ…すみません…」
テーブルの真ん中に土鍋があるからまだマシだったのかも知れないが、それでも整った彫りの深い真剣な顔が、いきなり近づくと緊張が走る。
定位置に戻った彼は、俯いたまま落ち込みながら反省中の様子…。
私はその間に深呼吸して、気持ちを整えなるべく明るい口調で彼に話しかけた。
「うーん…だからと言って、何故いきなりお試しで付き合って欲しい!って話しになるのか私には理解出来ないんだけど?女慣れする為とはいえ、初カノジョが私で良いの?」
私の声を聞いて、反省タイムを強制的に終了させた彼は、一瞬テーブルに乗り出そうとして急ブレーキをかけて座り直した。
「俺、藍原さんのことは、いつも良いなぁ~って思っていたんです。当たり前の様に“ありがとうございます”って言えるところとか、“御馳走様でした!”とか“長居してゴメンなさい!”って、俺たちに必ず一声かけてからお店を出るところとか…。他のお客さんはそういう心遣いをする言葉を言わない人が殆どだから、カフェの店員としては、いつも下さる藍原さんの一言はとても嬉しかったんです。」
そう彼は照れながら、私のことと思われる話をしている。
(なんだか…自分の事を話されているというのに、現実味がない。)
なんせ、躾に厳しい茶道の師範だった祖母の影響で、私にとっては幼い頃からの当たり前のことをしていただけに“特別”だと思われることの方が疑問だったりする。
それに彼が照れてるのは、私に恋愛感情があるからではなく、自身が“女性を語る”シチュエーションへの照れであることを冷静に理解しているせいもある。
「だから、藍原さんには前から興味があったんです。俺、恥ずかしながら初恋もまだで、恋愛するって感情がまだ良く分からないんですが…。俺、藍原さんが“好き”なんだと思うんです。だから、初カノは藍原さんが良いんです!」
(つまり…私を“好き”は“好き”でも彼の“好き”は、“Love”ではなく“Like ”なんだなぁ…まぁ…だから最初から“お試し”とか言えちゃってるんだろうし…。)
私に対して、本物の恋をしている状態じゃないせいもあると思うけど、彼は本当に自分の気持ちを素直に気持ちを話す。
ドキドキしながら顔を赤らめて、はにかんだりしていないのが、少し残念なほどに…。
私にも…彼を好ましいという感情が無い訳ではない。
毎度カフェで癒されているし、彼が出勤している時は目の保養をさせても頂いている。
まぁ…今のところ幸か不幸か?
仕事が忙しくて彼氏も居ない。
私もまた彼と同じく“Love”ではなくて“Like”。
そんな状態だからこそ、冷静に彼に“女が男に求めていること”を素面で伝えられるかも知れない。
(年下の男の子を育てるのも面白いかも…。)
それに、“お試し”だと最初から割り切れていれば、問題はない!
「いいよ、“お試し”で付き合ってあげる。」
もう少し優しい言葉を言えないものか!?と、自分の口から飛び出した了承の言葉のキツさを反省した。
だけど、彼はそんなことを気にする余裕が無い様で、私の返事にポカーンとした顔をしていた。
やがて、やっと言葉の意味が理解できたのか?
ご近所迷惑を気にするレベルの大きな声を上げた。
「ほ、本当ですか!?」
「私で良ければ女性に慣れる協力するよ。私も女の子が男の子に求めていることをちゃんと伝えるから、幸太くんもちゃんと聞いてね?」
「勿論!俺、頑張ります!」
「ただし、“お試し”だからエッチはしないよ?ちゃんと好きになった人とするべきだと私は思うし、そこまでは“お試し”の関係で私はしたくないし。」
「はい!それは大丈夫です!」
「じゃあ、“成立”かな?」
「はい!これからよろしくお願いいたします!」
「こちらこそ。」
歓喜のあまり、蕩けそうな顔で凄く嬉しそうに彼は笑った。
(…イカン、こんな顔されたら初っぱなから勘違いしそうだ…。しっかりしろ、私!これはただの“お試し”で…そうよ、ボランティアみたいなもんなんだから!)
私はテーブルの下で拳を握って、気合いを入れた。
「幸太くん、おうどんのおかわり貰っていい?」
「はい!」
「温泉卵も!」
「喜んで!」
こうして、彼との“お試し恋愛関係”がスタートした。
…幻聴???
その割りには、やけに声色が真剣で通った声が聞こえた気がする。
彼の様子を見れば、緊張感と期待と不安の混じった表情で私を真っ直ぐ見つめていて、私も彼の瞳から目を反らせず、ほぼ無意識で白菜を咀嚼してゴクンっと飲み込んだ。
「…ダメですか?」
(ダメも何も…そもそも…)
久しぶりに舞い込んだ浮いた話に、私は始めこそ動揺したものの、甘い告白の言葉もなく“お試し”という言葉があるせいで何となく冷静に聞いていた。
強いて言うならば…“味噌味の告白”。
香り芳しく食欲をそそるけど、そのままじゃ食べられない。
強烈に塩辛くて複雑な味…そんな感じの告白に思えた。
「何故、“お試し”?」
「先程も言ったとおり、俺、女性に慣れてなくて…ちゃんと女性に慣れたいんです。」
うーん、つまりは女の子に慣れるための練習の為に、3ヶ月お試しで付き合えってことかなぁ…?
それなら甘い告白が無いのも納得出来る。
ただ…他の彼に好意を抱いている女の子なら、もしかしたら“お試し”って言葉の理由を知った時点で、猛者ならともかく、平手打ちされても文句の言えないシチュエーション。
それに彼が気が付いていないあたり、女慣れしてない証拠なんだけどね…。
「…他の従業員の女の子とは、楽しそうに話しているじゃない?」
「仕事上なら円滑な人間関係が望ましいですから、なんとかなっているんですが…プライベートは全然ダメで…」
「その割りには、私には緊張しないで話しかけてくるよね?今日まで客と店員の会話以外したことなかったのに、今は何故か幸太くんの部屋で二人で煮込みうどん食べちゃってる状態だし。」
今まで当たり障りのない世間話ぐらいは、カウンターで交わすことが今まであったけど…。
そこからの今の状態は、改めて思うとあまりの急展開である。
「そう!それなんです!俺、自分でもビックリなんですが、藍原さんなら割りと自然に話せるんです!理由は分からないんですけど…俺、こんなにプライベートで女の人と話したの初めてで!」
私の言葉に反応して、彼は少し興奮ぎみに身を乗り出して早口で語った。
私はちょっとビックリして、両手に箸と小鉢を持って正座したまま後退った。
「ち、近いから!幸太くん!」
「あっ…すみません…」
テーブルの真ん中に土鍋があるからまだマシだったのかも知れないが、それでも整った彫りの深い真剣な顔が、いきなり近づくと緊張が走る。
定位置に戻った彼は、俯いたまま落ち込みながら反省中の様子…。
私はその間に深呼吸して、気持ちを整えなるべく明るい口調で彼に話しかけた。
「うーん…だからと言って、何故いきなりお試しで付き合って欲しい!って話しになるのか私には理解出来ないんだけど?女慣れする為とはいえ、初カノジョが私で良いの?」
私の声を聞いて、反省タイムを強制的に終了させた彼は、一瞬テーブルに乗り出そうとして急ブレーキをかけて座り直した。
「俺、藍原さんのことは、いつも良いなぁ~って思っていたんです。当たり前の様に“ありがとうございます”って言えるところとか、“御馳走様でした!”とか“長居してゴメンなさい!”って、俺たちに必ず一声かけてからお店を出るところとか…。他のお客さんはそういう心遣いをする言葉を言わない人が殆どだから、カフェの店員としては、いつも下さる藍原さんの一言はとても嬉しかったんです。」
そう彼は照れながら、私のことと思われる話をしている。
(なんだか…自分の事を話されているというのに、現実味がない。)
なんせ、躾に厳しい茶道の師範だった祖母の影響で、私にとっては幼い頃からの当たり前のことをしていただけに“特別”だと思われることの方が疑問だったりする。
それに彼が照れてるのは、私に恋愛感情があるからではなく、自身が“女性を語る”シチュエーションへの照れであることを冷静に理解しているせいもある。
「だから、藍原さんには前から興味があったんです。俺、恥ずかしながら初恋もまだで、恋愛するって感情がまだ良く分からないんですが…。俺、藍原さんが“好き”なんだと思うんです。だから、初カノは藍原さんが良いんです!」
(つまり…私を“好き”は“好き”でも彼の“好き”は、“Love”ではなく“Like ”なんだなぁ…まぁ…だから最初から“お試し”とか言えちゃってるんだろうし…。)
私に対して、本物の恋をしている状態じゃないせいもあると思うけど、彼は本当に自分の気持ちを素直に気持ちを話す。
ドキドキしながら顔を赤らめて、はにかんだりしていないのが、少し残念なほどに…。
私にも…彼を好ましいという感情が無い訳ではない。
毎度カフェで癒されているし、彼が出勤している時は目の保養をさせても頂いている。
まぁ…今のところ幸か不幸か?
仕事が忙しくて彼氏も居ない。
私もまた彼と同じく“Love”ではなくて“Like”。
そんな状態だからこそ、冷静に彼に“女が男に求めていること”を素面で伝えられるかも知れない。
(年下の男の子を育てるのも面白いかも…。)
それに、“お試し”だと最初から割り切れていれば、問題はない!
「いいよ、“お試し”で付き合ってあげる。」
もう少し優しい言葉を言えないものか!?と、自分の口から飛び出した了承の言葉のキツさを反省した。
だけど、彼はそんなことを気にする余裕が無い様で、私の返事にポカーンとした顔をしていた。
やがて、やっと言葉の意味が理解できたのか?
ご近所迷惑を気にするレベルの大きな声を上げた。
「ほ、本当ですか!?」
「私で良ければ女性に慣れる協力するよ。私も女の子が男の子に求めていることをちゃんと伝えるから、幸太くんもちゃんと聞いてね?」
「勿論!俺、頑張ります!」
「ただし、“お試し”だからエッチはしないよ?ちゃんと好きになった人とするべきだと私は思うし、そこまでは“お試し”の関係で私はしたくないし。」
「はい!それは大丈夫です!」
「じゃあ、“成立”かな?」
「はい!これからよろしくお願いいたします!」
「こちらこそ。」
歓喜のあまり、蕩けそうな顔で凄く嬉しそうに彼は笑った。
(…イカン、こんな顔されたら初っぱなから勘違いしそうだ…。しっかりしろ、私!これはただの“お試し”で…そうよ、ボランティアみたいなもんなんだから!)
私はテーブルの下で拳を握って、気合いを入れた。
「幸太くん、おうどんのおかわり貰っていい?」
「はい!」
「温泉卵も!」
「喜んで!」
こうして、彼との“お試し恋愛関係”がスタートした。
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