初恋カフェラテ

真田 真幸

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本編

煮込みうどんと○○はお熱いうちに!

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 30分後、私は5階建ての見知らぬマンションの3階にある、7畳の1LDKの部屋で用意された座布団の上にペタンと座っていた。

目の前には緑茶の入ったお客様用と思われる華奢で小綺麗な湯飲み茶碗。

(…男の子に部屋には普通は無いよね、コレ。)

湯飲み茶碗を持ち上げてまじまじと見つめたあと、スッと一口含む。

ほんのり甘味のある緑茶の味に、私はビックリしてまた湯飲み茶碗を見つめた。

(苦くない…緑茶の適正温度をしっかり分かっている完璧な緑茶の淹れ方…)

きっと、彼が嫁ならどんなに嫌みな姑さんでも、このお茶には何一つ文句が出ないだろう…。

「…」

(イカン…下らないことを考えてしまった…。)

というか、下らないことでも考えてないと、今の状況に耐えられず、今にも頭を抱えて叫び出しそうだった。

「もうすぐ出来ますから、ちょっと待って下さいね!」

キッチンからは不意に聞こえた声に、慌てて返事をする。

「お、お構い無く…」

小気味良い小ネギを刻む包丁の音と、鼻をくすぐる出汁の香り…。

先程、溶き入れられたらしい味噌の香りも漂ってきた。

そろそろ完成するのだろうか?

この部屋の住人である彼が、鼻歌混じりに玉子を割る音が聞こえてきた。

(…それにしても…なんだろう…この違和感…)





 程なくして男の一人暮らしの部屋には、あまり常備されていないであろう熱々の“土鍋”を持って、彼はリビング兼寝室に入ってきた。

「俺好みの味付けにしちゃったんで、ちょっと濃いかも知れないですが、濃かったら言ってください。温泉卵もありますし、それでも濃かったら薄めますから。」

そう言って、黄色いエプロン姿の彼は向かい合わせに座ったあと、電気ポットを自分の傍らに置いた。

グツグツと煮込まれた鶏肉や野菜、うどんを小鉢に取り分けて満面の笑みで“熱いですから気を付けて。”と然り気無く注意の言葉を口にしながら、彼は私の目の前に差し出した。

「あ、寒かったら、この膝掛け使ってください。俺暑がりだからエアコンの温度低く設定してるんで。汚しても大丈夫ですから。」

可愛らしいクマのキャラクターのフリース生地の膝掛けを私に渡してくれた。

「…どうも。」

(…彼って…もしかして“オカン系男子”??)

私は違和感の原因に気がついた。

部屋はチリ一つないほど綺麗だし、お茶の淹れ方は完璧だし、料理の手際は良いし、オマケにこの世話焼きっぷりは、まさしく“オカン”!!

(…こりゃ、私を“困ってるのに、放っておけない!”って、無防備に家に連れてきちゃうワケだ…。)

考えてみれば、大手チェーン店のカフェの中でも彼が勤めているカフェは、パスタなどのカフェ飯も充実している。

調理がある程度出来ないと、アルバイトとはいえ務まらない。

「藍原さん?」

さっきからあまり話さない私を心配して、彼は私の顔を覗き込んだ。

いきなりの至近距離に、私は少し身体を引いた。

「あ、ゴメンなさい。あまりにそつなく家事を幸太くんがこなしているから、ビックリしちゃって…。」

「ああ…母がキャリアウーマンで…その…料理を含む家事全般が苦手で、長男は母に似て不器用だし、下の弟や妹は小さいし、父と俺しかやる人間が居なかったんですよ。…で、気がついたらこうなってまして…。」

恥ずかしそうに俯いた。

「そ、それはともかく、熱いうちに食べましょう!いただきます!」

彼は誤魔化すようにそう手を合わせてから、うどんを啜った。

私も彼につられて“いただきます”と呟いたあと、うどんを手繰り少しお汁を含んだ。

ちょっと太めの煮込み用のうどんである為、私には啜る事が出来なかった。

モチモチした歯応えのうどんに、味噌味のお汁が程よく染みて、お出汁が効いていて堪らない!

「…美味しい。」

「ああ…藍原さんのお口に合って良かった…いっぱいありますから、遠慮なくドンドン食べてくださいね。追加のうどんもまだありますし!」

彼はホッとした様子で、嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう。ああ…カボチャも甘くて美味しい~!」

カボチャはホクホクしていて濃厚に甘いけど
、これもまた味噌の塩気と相俟って絶妙なハーモニー!

「最近出回ってる“瓢箪かぼちゃ”を入れてみたんですが、藍原さんが気に入ったなら良かった。」

「フフフ…幸太くんの彼女は幸せだね!こんなにお料理が得意な彼氏がいて、ちょっと羨ましいなぁ…」

「あっ…その事なんですが…」 

彼は箸を置いて、改まった態度で話し始めた。

「さっきも言いそびれちゃったんですけど…俺…実は彼女いなくて…」

「えっ!?嘘でしょ?モテそうなのに…。」

「今のところ彼女イナイ歴と年齢イコールで、高校は男子校だったこともあって、なかなか家族以外の女性に慣れなくて…。」

「ああ…だからアルバイト入って最初の頃は、赤面して手が震えていたんだ。」

「み、見てたんですか!?」

「まぁ…見ようと思わなくても…幸太くんはバリスタなんだし、カフェラテ受け取るときに見えちゃうよね…。」

「確かに…」

彼は頭を掻きながら、苦笑した。

「幸太くんは今年で何歳なの?」

「22歳です。」

「私よりも4歳年下かぁ…。なんだ、別に焦らなくても良い歳じゃない?」

「いやいや、大学の俺の周りはカップルだらけだしちょっと焦りますよ。」

「まぁ…学業優先だけど、大学時代は恋愛に自由に時間を使える最後のチャンスかもね。社会人になると、仕事に追われて時間が限られちゃうし。」

私は七味をふり入れて再びお汁を口に含んで、ピリッと辛味が加わった熱々の煮込みうどんに、ほぅ~っと息を吐いた。

「そ、それで…藍原さんに突然のお願いなんですが…。」

「ん?」

「3ヶ月お試しで、俺と付き合って頂けないでしょうか!」

「へっ?」



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