3 / 17
3
しおりを挟むそして翌日。寝不足で若干ふらふらとした足取りで教室へと向かった。ブランディス様と顔を合わせた時のことを考えていたら全然寝られなかったのだ。
「貴女のせいで私の輝かしい成績に傷がついた落とし前をつけていただけますか?」とか「男爵家の女ごときが1位を取ったからといっていい気にならないでくださいね?」とか「いきなり逃げるなんていい度胸してますね。殺されたいんですか?」とか言われるんだと思うと胃がきりきりする……。
ああ、可愛い私のヨアヒム……。私が死んだら骨を拾ってね……。
「誰ですか? ヨアヒムという方は?」
「あ、ヨアヒムは天使のように可愛い可愛い私の弟で…………って、ぇえ!?」
バッと横を振り向けば輝かしい笑顔を見せるブランディス様……。
ひぃっ! いつの間に私の横にいたんですかぁ!?
「弟でしたか。なるほど」
何がなるほどなんでしょうか!? 何を納得されたんでしょうか!?
涼しい顔されてらっしゃいますが、いきなり貴方に会った私は生きた心地が全くしていないんですが!?
「昨日は走って去ってしまわれましたが、お体の調子が悪かったのですか?」
気遣うようなセリフなのに、目が全然笑っていなくてものすんごく怖いんですけど。今頃私の顔は冷や汗だらだらでみっともない顔になっていることだろう……。
「き、昨日はっ、その、し、失礼いたしましたぁ!! お願いですから殺さないでくださいぃ!!」
言うや否や、見事なまでの土下座を披露した。
どうやって謝ろうか考えていたけど、そんなものすっぽーんと何処かへと吹っ飛んでいってしまった。
謝るなら徹底的に! 平身低頭! 立場の弱い貧乏男爵家の出来る精一杯を受け取って!
地面に頭を擦り付けて殺さないでくれと必死に懇願する。
私が今ここで死んだらヨアヒムが学院に通えなくなるんで、殺すならヨアヒムが成人した後でお願いします!!
「ぶふっ! くくくくっ! お、お前っ、嫌われてるじゃないかっ………くくくっ!」
「……殿下、笑わないでください」
ひえぇ! 見えてなかったけど、殿下もそちらにいらっしゃったのですか!? なんてこと!? これじゃ問答無用で不敬罪で処刑されるんじゃないの!? うわーん! そんなのあんまりよ!!
「とにかくアルタマン嬢、立ってください。貴女にそんなことをさせたいわけではありません。
……それにとても目立っていますから」
そう言われて腕を持ち上げられ強制的に立たされた。
が、びくびくして怖くて顔を見られない。ああ、どうしてこうなってしまったの……。
「はぁ。とりあえずもうすぐで授業が始まりますから、昼食時お時間いただけますね?」
もう逃げられないと分かった私はただコクコクと首を縦に振るしか出来なかった。
そして午前の授業が全て終わった時、ブランディス様と第二王子殿下がそろって私のところへおいでになりそのまま食堂へと拉致、じゃなくてご一緒させていただいた。気分は売られる牛の気持ちだけども!
「それでアルタマン嬢。昨日はなぜ逃げたりなどしたのですか?」
食事が運ばれ食べ始めてすぐ、ブランディス様は単刀直入に仰った。
「それは……その、あんな令嬢としてあるまじき振る舞いを見られてしまったので恥ずかしく……。
逃げたりして申し訳ございませんでした」
「令嬢としてあるまじき振る舞いとは? 一体何があったんだ?」
「殿下……アルタマン嬢は奇妙なダンスを踊りながら奇声を発していました」
「ぶふぅっ!! 何だそれは!? すごく見たい!」
嫌ー!! やめてー!! 傷に塩を塗るようなこと言わないでー!!
「というか、『令嬢としてあるまじき振る舞い』だという自覚はあったのですね」
……なんか別にいいんだけど、ものすごーく棘がある様に聞こえるのは気のせいではないですよね?
「…………申し訳ございません」
「それは何に対しての謝罪ですか?」
うぐぅっ! そんな冷静に切り返さなくてもいいじゃない!?
「こらこらコンラート。そこまでだ。…ほら見ろ、アルタマン嬢が恐怖で縮こまってしまったじゃないか」
「…失礼しました」
「いえ……」
もうなんなのよ。お願い、早く私をこの場から解放して。
「アルタマン嬢、そんなに怯えなくても大丈夫だ。
コンラートは態度にはあまり出さないがなかなかの自信家でね。成績も優秀、顔も、まぁ私よりは劣るがかなり綺麗な顔をしている。女性はこぞってコンラートと仲良くなりたいと憧れる存在でもある」
「……ええ、はい。そうですね。存じております」
さらっとご自分の自慢も入れているのはスルーしてもいいですか? いいですね? はい、スルーします。
「そんなコンラートが学力で打ち負かされ、声を掛けたら逃げられてかなりショックを受けてしまったようでね。こんなことは今まで無かったからどうしていいのかわからなかったんだ」
「え? ショックだったんですか?」
「そう。信じられないだろう? 何をやっても他の追随を許さず女性にだってモテたコンラートなのに、君には全部ひっくり返されてしまった。だから昨日のこいつは落ち込みがすごくてね。いやぁ、良いものを見せてもらったよ」
「殿下! そんなことは今はいいのです!」
嘘。信じられない。上級貴族で頭もよくて顔もカッコよくてなんでも持ってるブランディス様が、そんなことで落ち込むだなんて。
「……なんというか、私は今まで私以上の成績を出すものに出会ったことはありませんでした。何かをやれば簡単になんでも出来てしまう。自分の力を過信していました。いい気になっていたんです。でも貴女が現れた。今回の試験は手を抜かず全力を出しました。ですが結果は貴女に負けてしまいました」
「……すみません」
「勘違いしないでください。謝ってほしいわけではありません。私の方こそ感謝を申し上げたいと思ったのです」
へ? 感謝? 暴言ではなく?
「…………貴女は私を何だと思っているのですか?」
あ、口に出してました!? 申し訳ありません!
……殿下、そこでプルプル震えず声に出して笑っていいのですよ。
「初めこそイラつきはしましたが、上には上がいる。そう知らしめてくれました。私の目を覚ましてくださいました。
――だから私は貴女をライバルに決めました」
「はい!? ライバル!?」
「次こそは貴女に勝ちます。負けません。覚悟してください」
えぇ……。そんな一方的にライバル宣言なんてされても……。
そんなのは望んでいないし、むしろあまり関わりたくないんですが……。
「そういう訳だ。こいつは今まで負けたことがないからね。初めての敗北で闘志を燃やしてしまった。だからこいつの為にも君はライバルとして頑張ってほしい。よろしくね」
殿下にまでそんなことを言われて「嫌です」なんて口が裂けても言えるわけないじゃないですか……。私はしがない貴族の最底辺の男爵家ですよ。王族の方にそう言われたら「はい」としか言えないです。こんなの脅しじゃないの……。
55
あなたにおすすめの小説
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
【完結】異世界からおかえりなさいって言われました。私は長い夢を見ていただけですけれど…でもそう言われるから得た知識で楽しく生きますわ。
まりぃべる
恋愛
私は、アイネル=ツェルテッティンと申します。お父様は、伯爵領の領主でございます。
十歳の、王宮でのガーデンパーティーで、私はどうやら〝お神の戯れ〟に遭ったそうで…。十日ほど意識が戻らなかったみたいです。
私が目覚めると…あれ?私って本当に十歳?何だか長い夢の中でこの世界とは違うものをいろいろと見た気がして…。
伯爵家は、昨年の長雨で経営がギリギリみたいですので、夢の中で見た事を生かそうと思います。
☆全25話です。最後まで出来上がってますので随時更新していきます。読んでもらえると嬉しいです。
【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……
ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。
ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。
そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。
あなたの事は好きですが私が邪魔者なので諦めようと思ったのですが…様子がおかしいです
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のカナリアは、原因不明の高熱に襲われた事がきっかけで、前世の記憶を取り戻した。そしてここが、前世で亡くなる寸前まで読んでいた小説の世界で、ヒーローの婚約者に転生している事に気が付いたのだ。
その物語は、自分を含めた主要の登場人物が全員命を落とすという、まさにバッドエンドの世界!
物心ついた時からずっと自分の傍にいてくれた婚約者のアルトを、心から愛しているカナリアは、酷く動揺する。それでも愛するアルトの為、自分が身を引く事で、バッドエンドをハッピーエンドに変えようと動き出したのだが、なんだか様子がおかしくて…
全く違う物語に転生したと思い込み、迷走を続けるカナリアと、愛するカナリアを失うまいと翻弄するアルトの恋のお話しです。
展開が早く、ご都合主義全開ですが、よろしくお願いしますm(__)m
【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。
櫻野くるみ
恋愛
王太子フェルゼンは悩んでいた。
生まれつきのフェロモンと美しい容姿のせいで、みんな失神してしまうのだ。
このままでは結婚相手など見つかるはずもないと落ち込み、なかば諦めかけていたところ、自分のフェロモンが全く効かない令嬢に出会う。
運命の相手だと執着する王子と、社交界に興味の無い、フェロモンに鈍感な貧乏子爵令嬢の恋のお話です。
ゆるい話ですので、軽い気持ちでお読み下さいませ。
【完結】【番外編追加】お迎えに来てくれた当日にいなくなったお姉様の代わりに嫁ぎます!
まりぃべる
恋愛
私、アリーシャ。
お姉様は、隣国の大国に輿入れ予定でした。
それは、二年前から決まり、準備を着々としてきた。
和平の象徴として、その意味を理解されていたと思っていたのに。
『私、レナードと生活するわ。あとはお願いね!』
そんな置き手紙だけを残して、姉は消えた。
そんな…!
☆★
書き終わってますので、随時更新していきます。全35話です。
国の名前など、有名な名前(単語)だったと後から気付いたのですが、素敵な響きですのでそのまま使います。現実世界とは全く関係ありません。いつも思いつきで名前を決めてしまいますので…。
読んでいただけたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる