【完結】消えた一族の末裔

華抹茶

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 『守護の一族』。今はもう消えた一族となってしまった、特殊能力を持つ僕の祖先。
 だから僕は魔法が使えなかったんだ。唯一使える魔法が『結界』。

 僕の体質の理由を知れたことは嬉しい。『役立たず』じゃないんだと思えるから。
 だけどそれと同時にこの能力のせいで、僕の祖先は奴隷となって命を散らされてしまった。
 そして僕にも、祖先と同じように戦場に立ってほしいと言われてしまう。

「……ねぇヴィー。魔法ってどうやって使うの?」

「おい、まさか結界が張れるようになりたいとか言わないよな?」

「そのまさかだよ。今まで魔法を使えないと思っていたから、どうやって使えばいいのかわからないんだ。だから教えてくれる?」

「やめろ! お前が結界を張れるようになったら戦争に使われるんだぞ!?」

「うん、そうだね……」

 ヴィーの言う通りだ。だけど結界を張れるようになるに越したことはないと思う。それに――

「殿下は『お願い』だって言ってたんだ。『命令』じゃないんだよ。僕の意志を尊重してくれたんだ」

「そんなのは詭弁だ! あいつはいざとなったらお前が死のうが関係ない! あんな奴の言うことを聞く必要なんかない!」

「でもね。僕が結界を張れれば父さんを救えるかもしれないんだ。どうしてアリミルスの人間として戦争に加担してるのかはわからないけど、父さんが自分の意志でアリミルスに寝返って戦争に参加してるとはどうしても思えないんだ。他の誰にも父さんを止めることが出来ないけど、僕の能力があれば出来るかもしれない。そうでしょ?」

「でもっ……! それでお前が無事でいられる保証はないだろ!? お前がまた傷つくのはどうしても嫌なんだよ!」

「ヴィー……ありがとう。そう言ってくれるのは嬉しい。でも僕は……やろうと思う」

 殿下に少し考えさせてほしいと言ったけど、でも父さんを助けられるのなら僕はこの力を使うことを躊躇うつもりはない。誰も父さんを止められないけど、僕なら出来るんだ。
 それに父さんは僕を助けてくれた恩人だ。息子にしてくれて大切に育ててくれた。だから今度は僕が父さんを助ける。助けたい。

「なんで……なんでもっと自分を大切にしてくれないんだ……」

「ヴィー……」

 ヴィーが泣きそうな顔で僕をギュッと抱きしめた。どうしてだろう、ヴィーの体が少し震えているように感じる。

「僕は簡単に死ぬつもりはないよ。父さんと一緒にこの家に帰ってくるつもりだから。僕は大丈夫」

「俺は大丈夫じゃない! お前がいなくなったらっ……お前まで失ってしまったらっ、俺はっ……どうすればいいっ!?」

「ヴィー。僕を信じて。父さんと一緒に帰ってくるから。ちゃんとヴィーの元に帰ってくるから。ね?」

「いやだ……」

 息苦しいほどに抱きしめる力が強まった。僕のことを心配してくれるのはわかるし嬉しい。
 僕があの公爵令嬢に殴られた時も、ヴィーは物凄く怒って首を絞めてしまったほどだ。それだけ僕が傷つけられたことが許せないと思ってくれたってこと。
 初めて出会った時は僕のことを嫌っていたのに、マリア様が亡くなる少し前から僕のことを認めてくれて仲良くしてくれた。この家で一緒に生活するようになってからは、過保護かと思う程に僕のことを気にかけて心配してくれた。

「ヴィー、いつも僕のことを心配してくれて、大切にしてくれてありがとう。ヴィーがずっと側にいてくれたから、僕もここまで頑張れたんだよ。最後まで、僕を応援して欲しい」

「お前が死ぬかもしれない場所へ送るなんて出来ない。それだけはっ、出来ない……お前が好きなんだ」

「え?」

 ヴィーは抱きしめて密着していた体を離すと、僕の顔を両手で優しく包み込む。背の高いヴィーの目に合わせるように少し上を向かされた。
 僕の目に映るヴィーの表情は、悲しいながらも真剣だった。その言葉が本気なんだと、真偽を問う必要がないほどだった。

「お前が好きなんだ。愛してる」

「……んんっ」

 そのままヴィーの唇が僕の唇に重ねられる。何度か軽く触れると、ついに深く重なり、同時にまた強く抱きしめられる。
 身動きの取れない僕はされるがまま。息が苦しくなって少し口が開いてしまう。その隙をヴィーの舌がするりと入り込み、僕の舌に絡められた。

「んうっ……んっ」

 後頭部も抑えられ、顔の向きすら変えられない。ヴィーの舌が僕の口内を優しく撫でていく。
 ヴィーが僕のことを好きだったなんて、一体いつから……確かに友情としては異常なほど、僕のことを気にかけてくれるとは思っていたけど、まさかこんな……
 そんなことをぼんやりと思いながらも、ヴィーの熱烈ともいえるキスは続く。今はもう僕の心臓が破裂しそうな程に音を立てている。それは不快なものでは全くなくて、歓喜だ。
 いきなりこんなことをされて嫌だと思わず、嬉しいと感じている僕もヴィーのことが好きなんだと思う。だからいつの間にか僕の腕はヴィーの背中に回され、服を強く握りしめていた。
 気が付けば僕は自らの舌をヴィーの舌へと絡めている。気持ちよくて、もっとして欲しくて強請るように。ヴィーもそれに応えてくれて、僕達のキスはしばらく続いた。

「んはぁ……」

「リューク、俺はずっとお前が好きだったんだ。お前だけが『役立たず』の俺を見捨てず側にいてくれた。俺はお前を突き放したにもかかわらず、それでもずっと側にいてくれた。母上が亡くなった時も、ずっと側にいると言ってくれた。その言葉が俺にとってどれほど嬉しかったか。その時からずっと、ずっと好きだ」

 そんな昔からだったのか……
 僕は自分を追い詰めるヴィーを見ていられなくて、付きまとっていただけなのに。それでもあの時のヴィーにとってちゃんと支えになっていたんだ。

「僕もね、ヴィーのことが好きみたいだ。こうやってキスをされて、全然嫌じゃなかった。嬉しかったんだ。だからお願い。僕のためにも、協力して欲しい」

「……俺がどれほど言っても、やめるという選択肢はないんだな」

「うん、ごめんね。だから僕が戦場に行くことになったら、ヴィーも一緒に行こう」

「え……」

「僕の側にいて欲しい」

「わかった。もし、あいつに『ダメ』だと言われても、俺は絶対お前に付いて行く」

「うん。約束ね」

 それからまた僕達は、メルルさんに呼ばれるまでずっとキスをし続けていた。


 ここから僕の日常に、魔法の練習が加わった。
 午前は調合室で薬の研究を行い、午後からは魔法の訓練。そして夕方には薬の研究をまた始めて、夜にもう一度魔法の訓練。
 魔法は魔力を練り上げて炎や水といった現象を引き起こすけど、その属性によって魔力の練り方が違うらしい。ヴィーたち一般の人の魔力にはそれぞれの属性が混ざっているらしいんだ。だからその属性の魔力を引き出すようにして魔法を使っているそうだ。

 灯りの魔法など、生活でよく使う簡単な魔法はそれほど意識せず使えるようになるらしいけど、魔法騎士のように戦闘職の場合はそうはいかない。瞬時に魔力の練り方を変えて、何の魔法をどのように放って自分はどう動くのか。魔力量の多さだけじゃなくて、使い方や切り替え方も非常に重要になる。それが魔法騎士たちの強さに直結していく。

 だけど僕の場合は僕にしか扱えない特殊な『結界』という魔法だ。これに関しては父さんでも使うことは出来ないだろう。だから結界をどうやって発動させるのか、ヴィーと試行錯誤しながらの訓練になった。
 当たり前だけど簡単にはいかなかった。そもそも魔力を練り上げるということをやったことがない僕が、そこから躓いていたというのもある。
 子供に魔法を教える時に、大人が魔力を流して自分の魔力を感知させるという方法をとることが多いのだけど、僕にそれをしても僕の魔力が他人の魔力を打ち消してしまうから感知することは出来ない。だから僕が僕自身の力でやるしかない。そこが難しかった。

 そして魔法の訓練も追加されて二週間後。僕は魔力回路不全の薬を作ることに成功する。
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