魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

文字の大きさ
上 下
156 / 167
第十二章

『予期せぬ両軍の消耗』

しおりを挟む

 アンデッドが突如として湧き出す事態にパニックとなった。
この時に痛感したのが、物語でよくあるシチュエーションとして『周囲が馬鹿になって主人公が活躍する』というものがある。思うに、これって馬鹿になるのではなく、『今までと同じ状況だったら、コレで良い』と思い込む為ではないだろうか? 俺だって戦争中で貴族が政争するなんて馬鹿な事をするとは思わなかったし、貴族だってアンデッドが沸き出すとは思わないから馬鹿な事をしたわけだ。

何が言いたいかというと、この状況を作り出した術者にも、同じことが言える訳だな。

「アンデッドは高低差に弱い。障害物や掘りを活かして戦え! 零体系は魔法の武器持ちやゴーレムに任せるか、強化術を掛けられる魔術師に頼れ! 皆で守りながら戦えば、大して強くはないぞ!」
「「はい!」」
 勇者軍で転戦したこともあり、対アンンデッドの戦法は確立している。
大昔に夏王朝を大混乱に陥れたアンデッドの災禍も、今では大きな被害を出してはいないのだ。それどころか現地の傭兵たちや貴族の軍勢により、徐々に土地を取り戻し、浄化系の術を行う事で平和になっている場所もあるという。

要するに落ち着いて戦う事が出来れば簡単に倒せるし、パニックに成って囲まれることが危険だと言えるだろう。

「この呪術を作った奴は大昔の成功体験に酔っている。俺のゴーレムでも戦術の進歩で旧式になるくらいだ。落ち着いて戦えばアンデッドは恐ろしくはないぞ。見ろ、騎士団が大型のスケルトンを駆逐した!」
「「おお!」」
 ゾンビ物の映画でショッピングモールに籠る者が居るようなものだ。
対処手段として『どう戦えばアンデッドと戦い易いか』をさえ確立してしまえば、後は作業になるのである。なのでここでの戦いそのものは恐ろしくもなんともない。むしろ、出撃した後にアンデッドに囲まれてしまった一部の諸侯たちが危険なくらいだろう。彼らは生きた心地がせず、倒しても倒しても現れる雑兵に囲まれてしまっているに違いない。

そして放置すれば殺されてしまい、彼ら自体が新たなアンデッドになってしまうのが問題だった。

「騎士団と合流し、高台に孤立した諸侯を救うぞ!」
「騎士たちに続け!!」
「「うおお!!」」
 みんなが馬鹿をやった結果、今回株を挙げたのはヨセフ伯だった。
俺たちが全力で支援している事もあり、彼は豪胆な盟主として活躍している。俺たちが慌てふためいている間に、明確な指示を出して攻勢に転じたわけだからな。実際にそれが正しいのか間違っているのかは別にして、大混乱を収めるのには確固とした方針が必要だったのは間違いがないだろう。

そして、想定外の混乱が敵にもあるならば、ここで攻勢に転じるのは悪くはない。

「クレメンス団長! 御無事でしたか!」
「私はな。しかし大型の骸骨どもにはしてやられたよ。せっかくの勢いが奪われてしまった。お陰であのザマだ」
 恐竜めいたスケルトンを前にウッラール騎士団と合流した。
低位のアンデッドは強くはないが、恐竜サイズの大型となればタフネスである。特に苦戦していなかったとしても、全体として戦況は固定されてしまうし、ヨセフ伯に活躍の場を与えてしまった。今回の件でヨセフ伯は名声を固めたと言えるだろう。今後の運営がやり難くなるのは確かであった。

とはいえ、今はソレを靴にしている余裕などはない。

「仕方ありません。今は貴族たちを救出しましょう」
「そうだな。今は少しでも戦力が必要な時だ」
 俺とクレメンス団長は苦笑するしかない。
小さくは政敵であり大きくは反乱分子でもあるヨセフ伯を助けなければならない。だが、そうしなければ今の窮地を好機へと帰る事は出来ないのだ。アンデットを呼び起こして包囲するならばもっと良いタイミングがある筈で、素人目にも此処で使うのはよろしくない様に見える。ならば、今回の件は本当に偶発的な事なのだろう。敵もまさか、罠を準備している段階でこちらが突出して来るとは思っても見ないに違いない。

さて、こうなってくると打つ手は限られてくる。

「とはいえ、この段階では得ることは一つだ。その次はどうかな?」
「そうですね。おそらく何処かに結界基がある筈です。一定区画に術を行使するための物で、ソレがある限り死体は延々とアンデットになるでしょう。これまえなら何処にあるかは不明でしたが、以前に用意した探知システムを覚えておいでですか? あれを参考に考えるならば、広い結界ならば塔のように、狭い結界ならば地下に埋めてあるはずです。諸侯が踏み入った場所に必要あると思うので、精々参考にさせていただきましょうか」
 これまでの経験が活かされる時が来た。
魔力を集めたり放出するには高い場所がある方が良いと判っている。また、本拠地ゆえに場所を区切って起動する方が良い筈だ。それを考えたならば、四つから六つの結界基を用意して、その内側に敵が踏み込んだら術が起動する様な構図であると思われた。もちろん礎となる塔は起動するには多数必要でも、意地だけならば最低限の三つで良いだろう。となると幾つか破壊して、結界の面積を区切って行かねばならない。

そう言ったことを伝えつつ、俺たちはそれぞれにすることを決めた。

「塔とも限るまいがなんとかしよう。後は任せたぞ」
「了解です。ゴーレムに後ろを遮断させます」
 今回の件が偶発的だと理解できるのはタイミングだけではない。
諸侯が向かったのが高台だという事だ。アンデッドは高低差に弱いので高い台に登って守りを固めたら何とかなってしまう。騎士団が救援に向かいつつ、ゴーレムで穴を掘って守りを固めたらそれ以上の被害が出ないのだ。おそらくは、その辺りにも結界基があり、相手の勢力圏に踏み込んでしまった形になったことが今回の発端ではないだろうか? おそらくだが敵から見て何も無い場所であり、こちらから見て視界を通す高い位置だったというのが、焦点が重なった原因だろう。

そう言う訳で驚きはしたが何とかなりそうだという気配はある。問題なのは戦死者が何処まで出て、士気が何処まで落ちるかだ。

(アンデッドは数の壁として厄介だが、それは敵にも言える)
(精鋭部隊は逆に動き難いからな。敵も味方も同じ条件だ)
(ドルニエ騎士団の合流も遅れるだろうが、敵の襲撃も鈍化するだろう)
(本来叩くはずだった場所への到着が遅れる……というか可能なのか? 下手をすると魔力だけ使って行動が露見とかしかねない。流石にアンデッドに襲われて自滅しないように工夫はしているだろうが……。しかしその方法は何だ? 一番簡単なのは結界の外に出る事だ。だが、今回の件は意図して起こしたことではない。何処かに籠ってるか、しばらく休むつもりで安全圏に移動してる所かな……)
 ゲームのように敵味方を自動識別する術なんかまず存在しない。
たいていは敵だけを引っかけて起動する様にしたり、自分達には向けて使わない物だ。だが、相手の予定を無視して起動してしまったのだから、向こうも驚いているのではないだろうか? もちろん人間と違って魔族は低位アンデッドに囲まれてもパニックを起こすこともないだろうし、殺されてしまう事もない。こっちが脆弱な分だけ不利だが、相手がその戦闘力を活かせないという意味で条件は似ている。既に見切りをつけて島から脱出中なら追撃できないので最悪だが、それ以外なら悪い状況ではない。

もちろん洞窟か何かで相手だけ安全に休んでいる可能性もあるが、逆に言えばこちらは精鋭に襲われないとも言えるのだ。

(結果として敵味方の限界が来るな。敵は『我』を抑えるための集中力、こちらは士気の決定的な低下。どちらも長々と戦い続けられなくなる。もちろん俺の勘違いで、敵は群雄割拠だから統制できなくても構わないのかもしれないが、それはそれで士気さえ保てればこちらがいつか勝てるからな。状況が変わり、情報が集まり次第に、それに合わせて今後に備えて抜本的な対策が必要だろう)
 こうしてアンデッド対策を始めた俺たちは、敵に先んじるべく戦いながら準備を始めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

モブっと異世界転生

月夜の庭
ファンタジー
会社の経理課に所属する地味系OL鳳来寺 桜姫(ほうらいじ さくらこ)は、ゲーム片手に宅飲みしながら、家猫のカメリア(黒猫)と戯れることが生き甲斐だった。 ところが台風の夜に強風に飛ばされたプレハブが窓に直撃してカメリアを庇いながら息を引き取った………筈だった。 目が覚めると小さな籠の中で、おそらく兄弟らしき子猫達と一緒に丸くなって寝ていました。 サクラと名付けられた私は、黒猫の獣人だと知って驚愕する。 死ぬ寸前に遊んでた乙女ゲームじゃね?! しかもヒロイン(茶虎猫)の義理の妹…………ってモブかよ! *誤字脱字は発見次第、修正しますので長い目でお願い致します。

処理中です...