魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第十二章

『難事に漁夫の利が決着を着ける』

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 低位のアンデットは弱いが多用される。
何故かというと応用し易いからだ。『死体を魔物に変えるという効果』というより、『死体を操るしか能力のない低位の魔物を召喚する』に近いのだろう。何が言いたいかというと、一度呪文を唱えて言えしまえばアンデッドが存在し続け、真っ二つしたとしてもしたいという定義はまるで変わっていないので、死体は右と左ないし上と下に分かれて操作対象になるだけである。操る意味がない程に完全に壊れたら次の死体を探せば済むだけだしな。

そして何より、ランクの低い呪文なので、補助呪文や儀式化で範囲を拡大し易いのである。

「奴らは自分の体のようには操れない。段差や障害物を利用しろ。間もなく騎士団がこの辺りを安全にしてくれるぞ!」
「「はい!」」
 低位のアンデットは筋力や神経を活かせない。
動く死体に変えて強引に動かしているだけだからだ。その為に段差を上手く登れず、素早く迂回して来ることが出来ない。相手に掴まれることさえなければ、訓練された兵士ならば落ち着いて殴り倒すことも突き刺すことも出来る。急所を突いても即死する様な事はないが、相手の魔力量が底をつくまで攻撃し続ければ無力化するのは容易かった。

当然ながら俺はゴーレムを操れるので、穴を掘りながら戦えるのも大きい。

「両脇のゴーレムはそのまま穴を掘り続させる! 間違っても前に出るなよ。ゴーレムは邪魔になるモノが人間でもアンデットでも同じように動くからな!」
「はっはい……」
「判りました……」
 無生物が魔物化するという意味ではゴーレムも変わらない。
命令に忠実で覚えられることも割りとあるが、欠点として忠実過ぎるというものがある。優先事項の前にそうでない物を忘れるというか、転生前の機械のような杓子定規に判断する訳だ。一直線に穴を掘りながら進めと言うと、本葬にそうしてくれる代わりに、巻き込まれた存在にの区別が出来ないのだ。もちろん時間があれば『人間を巻き込まないという前提で』という命令を状に作業させられるが、そこには死体と人間の区別する教えも転写させないといけないので、実に時間が掛かる。間違いなく戦闘しながらやるのは難しいだろう。

ただ、そういった面倒くささを除いても有能であるのは間違いがなかった。

「あの……こいつは一体どうしたら……」
「死体に戻ってもまた繰り返すから何度でも砕くしかないが……。いや、戦友にその方法は惨いか。ゴーレムに穴を掘らすから、暫し放り込んでおくといい。術が解けてから埋葬するなり故郷に送り返してやろう」
「はい!」
 その状態で新たに声掛けされるのは珍しい。
基本的には対処できるように方々へ命令したからだ。だが、そいつに倒されたアンデットを見て疑問は氷解した。今回の騒ぎで戦死して、アンデットになったものなのだろう。あるいは変異中かもしれないが、迂闊な対処をすると良くない気分が更に盛り下がってしまう。実際の所、死体が何時でもアンデットになるとか、指揮が激しく下がるというのがこの手の呪詛の最大のメリットだろう。術自体は簡単だし、重要なのは区画を拡げるくらいだしな。

こういう感じで様々な問題を引き起こす時点で、敵が多用したくなるくらいには有用な戦術であり儀式呪文であることは理解できる。

(さて、問題はここからどう巻き返すか……だよな)
(この術式の欠点として、分断と消耗以外に効果がない)
(それは『敵も味方も』というのが呆れるところだが、だからこそ手間だ)
(敵は地下なり隠し通路に精鋭部隊を引っ込めてこちらの消耗を待っている。なら、こちらがすることは何だ? このまま地道に対処すべきか、それとも精鋭部隊を探すべきか、それとも構わずに厨房へ進撃して行く? いや、それはないな。やはり地道に処分しながら、精鋭部隊を探して向こうの特攻を未然に防ぐしかない)
 アンデットは弱いが数が居う上に勝手に補充され、終始邪魔になる。
笑えるのは相手の精鋭部隊にとっても突撃するための邪魔になるのだ。あえて向こうにとってのメリットを挙げるならば、向こうは隠れる場所を最初から用意しているし、アンデットは舞台装置同然の消耗品なので戦力が減って居ないという事だろうか? こちらが穴を掘りながら進むことで消耗を抑えて居なければ、今ごろは大混乱は必死だろう。

しかし、どうするんだコレ?
という程の停滞状態である。形ある限り何度でも読み上げるというのがアンデット結界のウリである。おいそれと状況は動かない筈だった。だがしかし、予想だにしない事が起きる。

「大変です! 丘が、丘の周囲が燃え始めています!」
「なんだと! 火を掛けられた? いや……誰か、火を使ったな!?」
 アンデッドには『一応』は火が有効である。そして多数に効く手段だった。
ただ、それは死体を構成する肉を焼き払い、骨の一部も損壊させるからだ。決して骨を溶かし尽くせるほどの威力ではない。ましてや敵は背後に水をたっぷりと讃えた山と森を背にしているのである。直ぐに火が点くか、それほど後半へ燃え広がるかは疑問である。一応は風下に向けて放っているようだが……風向きが変わったらどうする気なのだろうか? それにこの一から風下に見えるだけで、貴族たちは本当に当初の位置に居るのだろうか?

問題なのは今回の騒ぎが、諸侯の部隊が丘の偵察だけでは済ませなかったという事を発端としている。

「仕方が無い。ゴーレムの一部を騎士団に帯同させて強引に道を……」
「お待ちください! 炎が急速に広がっております。いや、あれは……炎が移動している!?」
 頭脳と言う物は守りに入ったら活発には動かない物なのだろう。
物語で周囲が馬鹿になって主人公を活躍させるかのように、俺は効率的な防御と進軍にこだわってしまった。手持ちの犠牲を出さないことを前提に、増えているかもしれない『見えていない犠牲』を許容していたのだ。代わりに行動し活躍したのは、この場に居らず以前からの積極性をそのまま内包した人物である。もしかしたらオロシャの主導権どころか、国そのものを呑み込みかねないほどだ。

言われて気がついたが炎はあり得ないスピードで森の中を突き進み、僅かずつ延焼させている。

「まさか燃える丸太か何かをゴーレムで引っ張っらせている? ウッドじゃ無理だがストーンやアイアンゴーレム……ヨセフ伯がやらせているのか!?」
「そんなまさか!」
 焔は都合よく動かない、そう考えた時に閃いたのは誰かの関与だ。
人間側の作業であることは明白なので、誰かがコレをやらせている事になる。諸侯にもゴーレムを預けているが、思いつけるならばサッサとやっているだろう。その上で、諸侯には手元に戦力を残さずに実行できる胆力も保証もない。それを考えたら、複数の戦力を手元に残し、持ち前の強引さで押し切れるヨセフ伯の可能性が高かった。それに難というか……戦記物で牛の頭に松明つけて突っ込ませるとか定番だしな。

こうして諸侯によるアンデッド結界の誘発と言う非常事態は、ファイヤージュガス2を突っ込ませることでヨセフ伯の独り勝ちという状況に収まってしまったのであった。
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