魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第十二章

『緑為す未来』

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 空飛ぶゴーレムは30分くらいなら問題なく飛行できるようになった。
戦闘で奇襲するなら十分な時間だが、日常生活ではまるで足りない。そこで海上にてゴーレムを吊り下げる『浮き』ゴーレムにヒントを得て、空飛ぶゴーレムを吊り下げるだけの気球のようなゴーレムを作ってみた。浮遊呪文と重量強化の補助呪文を組み合わせたので、大して早くないし距離も長く飛べない。だが、途中から空飛ぶゴーレムが飛ぶことで、飛躍的に距離を延ばしたと言えるだろう。もしこの気球ゴーレムを弾倉のように入れ替え出来たら、飛行船も行けるだろうか?

それはともあれ、俺とユーリ姫は第二夫人であるマーゴットと共に目的地へと飛んでいた。

「と-ちゃっくっ!」
「凄いな。谷を経由していないから物凄い速さだ」
「でも幾らでも時間を掛けて良いなら馬でも困らないだろ? この辺りは良し悪しだな。何が成功で何が失敗かは判らない物さ」
 墜落して領主一家が全滅してもしょうがないので、難所の谷のみ飛行。
あとは低空飛行で空を飛ばしたり、時間経過を計る訓練をやって置いた。連続使用すると途中で落ちる可能性があるので、どのくらい休ませたらまた元の様に飛べるかという時間の計測もやっている。

もし戦争とか強力なモンスターと戦闘になったらフルで飛ばすこともあるかもしれないが、俺やユーリ姫が飛ばすなら七割くらいの時間というのが妥当だろう。

「それはまあそうなんだが……。でも、真上からじゃないと判らない場所もあったからな。これがあれば、地図とかもっと上手く描けるだろう」
「確かにそうだな。だが冒険者を雇う方が秘密の漏洩を除いて安全ではある」
「それを言い出したらキリはないだろうに」
 この件に関してマーゴットと俺の言動は逆転している。
地図を描くことに嵌っているマーゴットと、領主である俺という図式。いつもは開発者である俺と、冷静な女武将めいたところのあるマーゴットという関係なのでまさに逆転している。とはいえ、同じような言動を繰り返しても面白くないので、こんなもので良いだろう。

俺とマーゴットはどちらともなく笑い出し、本題に入った。

「尋ねられた場所は此処だな。ここがゴルビーで一番熱風が吹き込む場所だ。谷は合っても山はなく、遮るものがないから水を蒸発させていく。ミハイルが言う通り煉瓦の壁は重要だったのだろう。それで、ここで何をするんだ?」
「新しく覚えた方法で壁を安価に作ろうかと思ってな。ユーリ」
「はーい! さんかく、二つ重ねて―。まるで囲んで―まほうじんー」
 強力なゴーレムを作る場合は、専用の魔法陣を使う。
だが、今回用意するのは、地の呪文を成功させ易くする魔法陣だ。唱える呪文は石化であり、石にする対象は……即席で作るゴーレムになる。

その前に、即席ゴーレムの形状を決めるべく、砂を板の様な長方形サイズに区切った。

「砂で板状や箱のゴーレムを作っても時間が経過すると崩れてしまう」
「それは砂が直立なんかしないから、保有魔力を食い潰すからだ」
「どんなに強力なゴーレムを作っても、不自然だから崩れてしまう」
「だから、一切強化せずに即席のゴーレムを作り、これを石化して板を作るって寸法だ。本当の事を言えば、ゴーレムの呪文じゃなくて箱状のナニカを作る簡単な呪文があれば良いんだけどな。生憎と俺は知らないし、使えない」
 不定形ゴーレムは俺が命じた通りの形になる。
だから可能な限りの大きさにして、箱を複数造り、板も作り挟み込んでおく。勿論それぞれの箱も板も個別に石化し、ごくごく簡単な壁を作成する事に成功した。今はただの評価試験なのでこんなものだが、いずれ戦争が終わったら、時間を掛けてここに巨大な壁を建てるのも良いだろう。

そうすれば此処で熱風が遮られ、以降はゴルビーはもっと涼しくなる可能性があった。

「ううむ。これを凄いと言って良いのか悪いのか。瞬く間に壁が出来たのは凄いんだが……これって通り掛った奴が持って行かないか?」
「何に使うんだよ……って建材に使いそうだな。上に蓋をしておくか」
 何も無い難民からみれば、箱と箱の隙間を拡げ、板を上に置けば家になる。
何も無いからこそそれで十分であり、何処かで狩り……は無理でも、物乞いでもしてしまえば食料は稼げるだろう。即席ゴーレムだとサイズもたかが知れているので、二人もいば持ち運べてしまう。

本当にそんな事をするのか? そう疑問に思った者も居るだろう。だが、あの万里の長城を建材に使う住民だっているのだ。都合が良いモノがあれば積極的に使ってしまうだろう。

「ふふ。上手く行けばゴルビーが緑に包まれる日も近いのかもしれないな」
「そうだな。細かい事に関してはアレクセイなりウラジミールに丸投げしておくとして、当面は最大効率を暇な時に探る感じになるかな。魔族の島に残ってる連中次第ではあるけど……さっさと戦争なんて非生産的な事は終わらせたいものだ」
 久しぶりに戻って思った事は、思ったよりも緑化が進んでいる事だ。
当然、近くに寄ればそんな事が無いとは判る。しかし、用水路で水がそこらかしこに在り、その周囲にコケやら雑草が生え始めている。畑だって豆畑が精々とはいえ、蔦は緑色だしな。これまではそれらを愛でる余裕がなかったし、馬が通り掛かればその僅かな緑も食われていた。だが、これからはそんな事はなくなるだろう。

少しずつ涼しく成り、雨が多くなれば緑化はドンドン進んでいくのだから。

「そういえばそっちの領域を富ませる方法は思いついたのか?」
「……気が付いていたのか?」
「夫婦なんだから当たり前だろ」
 マーゴットが地図に嵌り、子供たちの教育をしているのは故郷の為だろう。
ゴルビーを奪うために向こうに送る情報を集めているわけではなく、遊牧民がなんとなくで管理している場所を確実に自分たちの土地とする為だ。よくよく考えれば遊牧民の出身でも定住を好む者がいる訳だし、鉱山なり岩塩でも調べられるからな。

まあゴルビーの金を使って向こうの教育をしてるんじゃないから良いさ。

「さすがに無条件でアイデアはやれんけどな」
「その辺りは兄上が考えるさ。それこそ海岸の島なんかあっても使えないからな。もし何かを言い出して来たら頼むよ」
「その時はそうするさ」
 こうして順調に緑化していることを確認しつつマーゴットとも仲良くした。
実際にはユーリ姫も居たので、ここでは普通に仲良くしただけ。空中庭園に戻ってから、意味深な方で仲良くなったのである。

さて領内の問題を片付け、リフレッシュしたところで魔族を退治しに行くとしようか。
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