魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第十二章

『南部からの渡海ルート構築』

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 魔族の島への上陸作戦が始まっている頃、俺は南部に居た。
オロシャは未開の場所を開拓してきた国なので、領地だけは広く南部が旧イラ・カナン南部州に繋がっている。作業用ゴーレムで無理やり開削した道を通り、そのまま南部の中心地へと向かった。

道中で開削した道をどのように整えれば街道として相応しいかとか、何処にお互いの砦を築けば良いかなどをレポートしておく。

「やあ初代書記長殿。似合ってるじゃないですか」
「止めてくれませんかねえ? 望んで就いた地位じゃないし……というか、上位書記たち次第じゃあ書記長の顔は直ぐに変わりますよ。まあ、だからこそ、私が元首の地位に就いていてもおかしくない政体なんでしょうけどね」
 イラ・カナン社会主義共和国の初代書記長にラファエロ・ゴメスが就いた。
もろにコネ人事であるが、この話をイラ・カナン人たちのコミュニティに持ち込んだのが彼だから仕方が無い。口が堅い連中を選んだので、彼の親しい人物ばかりが上位の書記にいないので、今後の人事はどうなるかは分からなかった。ただし、パっと見で『オロシャが手駒を押しこんだわけではない』と見える程度の政体なので仕方が無いだろう。

ちなみに転生前の社会主義と違って宗教はアリだし、どちらかと言えば古代の共和制の方がまだ近い気がしないでもない。

「ともあれオロシャを利用して使い捨てるんじゃなくて、ちゃんとした友好を結んでくれれば好きにして下さって構いませんよ。イル・カナンが自分たちに近い人間を送り込んで派閥を作る可能性はあるんで、そこは十分にお気をつけておいてください」
「警戒するのはこっちだと思うんですけどねえ。人事に関しては了解です」
 イル・カナン政府に腹が立ったので利用したに過ぎない。
そう言われては鼻白むしかないのだろうが、属国として好き放題する気はない。開拓地を切り非焚いて難民に政権を任せただけの状態だが、彼らが努力して成し遂げることにまでこちらが口を挟む事は許されまい。そんな事をしなくてお、これから彼らが必要なモノはオロシャが貸し出して、共和国が将来に渡って支払い続ける構図である。別にこれ以上構わなくても、儲けが出る状態なのだ放置した方が得策だろう。

もっとも、俺に関してはこれからも関与が続くのは間違いない理由がある。

「ええと、この新しいのが国境沿いの砦や関所、街道についてのレポートです。隣にある二つは、大規模集団農場と、鉱山の露天掘りに関するレポートの写しになります。ほぼオロシャと同じ資料なので、こちらの風土に合わせてください。鉱山の汚水とかが現時点での懸念ですかね」
「これはありがたく……というか、伯爵がやった方が早いでしょうに」
「それではあなた方の国には成りませんよ。ザッとやっておきますがね」
「お願いしますね」
 とりあえずでっち上げの国なので、早急に態勢を整えておく。
街道を設置してオロシャ国の軍隊が行き来することが大前提。それを魔族の島との戦いが終わるまでと区切り、通行権の代わりに開拓地に大規模集団農場を、山岳地帯には露天掘りの鉱山を用意しておく。それで交易は出来るし、オロシャも初期費用だけでも回収できるようになるだろう。難民への援助として食料を置いて行き、もし敗戦した時にはその食料で帰還したり更なる増援を送る訳で、必ずしも同情心だけでは協力していない。

そして難民中心の彼らが開発を続けるには、オロシャからゴーレムを購入する必要があるので、俺の関与は続くという訳だ(ヨセフ伯を介してエリーからも買えるが)。

「そうだ。お礼に気になる話をお教えしましょう」
「何かイル・カナンの情報を掴みましたか?」
「情報といえば情報ですが、ポーセスから持ち込まれた話ですね」
「は? イル・カナンでもカザックでもなく? ポーセスですか?」
 そこからの発展が良く分からない。カナン河周辺ならまだ判るんだが。
しかし、最近になってイラ・カナン社会主義共和国や、カザックとスルタンをまとめてカザフ=スタン社会主義共和国とする話で、ポーセスからの了承を取り付ける話はしていた。その時に何かの話題が出たのだろうか?

ポーセスと言えば、隣のプロシャからの圧迫を受けて居る筈だった。イル・カナンだけではなく、ポーセスもこちらの関与に感ついたのか?

「いえ、単純な話なんですけどね。ポーセス貴族の親プロシャ派が反乱を起こして彼の国に合流しようという話が出ているとか。要するにプロシャに逆らって居るから今の苦境があるのだから、同じ国になってしまえば良い扱いになるはずだと」
「領地を手に入れたら後は不要でしょうに。使い潰さるだけですよね?」
「それが判らないから反乱など企てているのでしょうよ」
 硬軟交えてポーセス貴族に接し、優しく声を掛けている方が動いたと。
しかし、そこから連中はプロシャの思惑を考えてはいないのだろう。属国扱いであっただけに、何度もプロシャ王家の血が入っている。そんなところで反乱を起こし、ポーセス王家を追い出してプロシャを招き入れたらどうなるか? 『主家に反乱を起こした不届き者。親同然である我が処断する』と言って族滅してもおかしくはないし、良い所でオロシャなど諸国との戦いに駆り出されて最前線に立たされるだろう。自前の戦力が無ければ前者、勢力も強ければ後者かな。

それはそれとして、この話が出た経緯は判ったので、この後の事を考えてみる。

「察するにこちらと共同歩調を取りたい行けれど、オロシャは信用できるのか? と問われたのですか?」
「残念ながらもっと深刻で、王族はオロシャに亡命し、残りはこちらです」
 どうやらポーセス貴族も一応は、馬鹿ばかりではないようだ。
話を聞くと旧イラ・カナンに接して魔物が増えている西部に全てを押し付け、彼らがポーセス王家に反乱を起こしたことにする。その上で親プロシャである東部貴族が討伐し、まずは王都に疎開している西部貴族を処刑し、地元で頑張ってる下級貴族や郷士たちを討ち取る手筈なのだそうだ。もちろんこんなグダグダな計画が西部貴族や王家に漏れない筈は無いので、その前に行動を始めるという。

そしてポーセス王家と取り巻きは以前からの縁でオロシャに亡命し、プロシャの横暴を訴えて宣戦布告の口実を与える。そして西部の下級貴族や郷士たちは逃げられないので、ポーセス社会主義共和国を立ち上げて社会主義共和国連合に参加したいと言って来たらしい(もちろん、これがプロシャ側に漏れてる可能性は高い)。

「これって間違いなくプロシャが信用できない連中のリークですよね?」
「でしょうね。当然こちらの事も信用していない両属でしょうねぇ」
「面倒な」
「全くです」
 いまいち信用しきれないので、敵は敵の理屈で情報を教える。
その見返りにもし反対側が勝利した時は、俺の功績と認めてそちらで迎え入れてくれ……そんな感じで接近してきた連中の仕業だろう。この時点で周辺の各所には漏れているし、オロシャ王家もプロシャ王家も承知の事だろう。すでに水面下で動いており、亡命を邪魔したり、それを守ったりしていてもおかしくはない。間違いなく、プロシャ側に立って友好関係を守るみたいなことはしないだろう。

となると、この後の展開もだいぶ見えて来た。

「作業用ゴーレムを増産して置いて行きますが、租借地よりもカザックやポーセス方面への街道整備と砦や関所建設を優先してください。もし彼らがゴーレムの派遣を要請して来たら、増産分に限り『また貸しなので工事に限定する』という理屈で貸してあげてください」
「駄目だと主張する。……が戦いに巻き込まれただけと。良いのですか?」
「おそらくオロシャ王家からもそんな話で急使が飛んできますよ」
「それは間違いがないですね。では引き渡し『は』、その後でよろしく」
 今後にグダグダする流れは見えているので、今の内から対策しておこう。
街道整備しておけばその後に行動し易くなるし、砦や関所があれば守り易い。少なくとも今ならば魔物対策という口実が使えるし、実際に魔物を駆除してイラ・カナン社会主義国は平和になるはずだ。そしてカザックやスルターン、そして西ポーセスからも同様の要請が来る。彼らもあくまで表面的には『街道整備や大規模農場の為に借りただけだ!』と主張するだろう。実際に俺は『戦闘をするな』などと命令はしないので、巻き込まれたら戦う事になる。

そして……この後の国家間の流れを考えると、実に面倒な社会情勢になるだろう。

(イル・カナンはイラ・カナンの大半を手に入れて強大化する)
(同様にプロシャもポーセスの過半を手に入れようとするだろう)
(そして三つの社会主義共和国は対抗して共同歩調を取る)
(今は発展途上のオロシャも五年後十年後には最初の円熟期を迎えるだろう。その時には四つの大国がこの周囲にひしめき合う訳だな……大戦争だけは勘弁してくれよ。とりあえず西の連中に声を掛けておいて良かった。彼らをポーセスの使節ともども、どこか自然な所に置いて置いて、オロシャは巻き込まれただけ。困っている西国・南国を援助しているだけという感じに見えるように陛下に奏上してみるか)
 いちはやく戦後を脱出したオロシャが隆盛する可能性は高い。
だが、現状では各国援助で出費が激しいとも言える。それが自国を守ることに繋がっているから特に反感は出ていないが、逆に言えばこれから十数年の間に蓄えが大きくなるわけではないのだ。援助した国からの費用回収に強く出ようとすれば、彼らもプロシャやイル・カナンがすり寄る可能性も出て来る。実際にはそんなことをすれば逆用されるだけなので、あくまで親オロシャの範囲で交渉して来るだろう。

ある種の居直りであり、それに対して対抗する手段はないので、オロシャとしては友好関係を維持しつつ緩やかに回収するしかないだろう。

「やれやれ。今後は魔族の島を落すしかなくなりましたね」
「ご愁傷です。まあ、私に押し付け多分くらいは頑張ってください。応援はしていますよ」
「そりゃどうも」
 今後に四つの大国が絡み合う展開になる。
おそらくは自分で奪っておいて、『奪われた故国奪還』を掲げてイル・カナンが南下、プロシャが西進をして来るだろう。彼らの国に民族が残って居るのは間違いがないし、旧イラ・カナン貴族やポーセスの親プロシャ貴族も復権するためには領地を奪わないとならないからだ。では、それを座してオロシャが見ていられるのかというと、打てる手はそう多くない。

結局のところ、魔族の島を含めた周辺海域を含めて、領地を発展させないといけないのだ。

その為に計画を練って王都へと送り、入れ違うように『出立前に、ゴーレムを作って貸し出して置け』という指令が届いたのであった。
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