魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第十章

『外交の季節』

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 それから暫くの時間が過ぎて、一つの告知がオロシャに広められた。
俺が伯爵へと昇爵すること、そして末のユーリ姫が輿入れするという話である。といっても王族の列に辛うじて入れてもらった姫の事、特に王都で催しはなく、ゴルビーにおいて招待式の披露宴が催されて終わりである。

ではこの告知に何の意味があったかと言うと、俺の予定が多岐に跨っているので、邪魔をするなと言う回覧文程度であった。

「ゴルビー伯。此度の慶事にな。ワシらも祝儀を考えたのじゃ」
「我らの領土内では関所の税を取らぬ事としましたぞ」
「さらにさらに、我が地を通らば徒歩で伯の新領地に赴けるのでしょう? お気になさらずご通行ください。必要な事があれば何なりと協力いたしますぞ」
 コンスタン・ティン伯以下ゴルビーの南、手首側の領主が挨拶にやって来た。
彼らが俺に対して下手に出ているのは、ここ最近の躍進……と言うよりは新街道整備や技術開発の影響が大きいのだろう。環状農業圏構想もであるが全ての領主が恩恵を受けれる訳ではない。配慮したコンスタン・ティン伯はともかく、他の領主たちには特に何もないのだ。あえて言うならば、治水の件でゴルビーにちかい二人ほどの領主にゴーレムを貸し出して新規開拓やら河川整備に協力したくらいである。

特に下手に出ているというか、面白いくらいに阿っている男は手首側にある台地やら盆地の中で、もっとも山側に位置している……要するに何も無い場所の男爵である。かつてのゴルビーほど酷くはないが、何か産業がある訳でもない。

(コンスタン・ティン伯が寄り子に泣きつかれて仲介したってところかな?)
(彼らに援助するメリットはないが、放置すると俺に鞍替えしかねない)
(だがここで恩を売りつつ俺にも接触すれば何か得られるかもしれない)
(出来ればキーエル家にだけ置いてる旋盤の技術が得られればラッキーって所か。最後の男はもっと簡単だな。終端に位置して何も無いが、古いころからの男爵ってことで、今までは俺に対して下手に出れなかったんだろう。そんな中で俺が伯爵になったことに加えて、コンスタン・ティン伯からも説得されて態度を変えたってところだろう)
 彼らは北部諸侯とひとくくりにされる間柄ではあるが、特に交渉はない。
王家とゴルビーに血縁が出来る慶事と言っても、ユーリ姫の場合はお義理であり、何かあったら縁戚扱いで奉仕を要求される程度に過ぎない。そんな相手との婚姻に呼ばれたいかと言われればそうでもないだろう。つまり、俺が可能なゴーレム貸与なりマジックアイテムの供給を望んでいる者と思われた。

もちろん断っても良いわけだが、その場合は次に『俺の側から何か欲しい物が出来た時』に断られてしまう。もちろん時勢の変化が話は変わるだろうが、ここで縁を作っておくこと自体は悪くない状況ではあった。

「そうですか。コンスタン・ティン伯を始めとして皆様にお祝いいただく事、誠に感謝の念に絶えません。せっかくですのでこちらも関税を排除する告知をする事を明示し、この場を借りて皆様を披露宴に及び致しましょう。そして……」
「ふむ」
「「おお」
「そして……?」
 披露宴へ招待して欲しいわけではないだろうから、後回しにする。
まずは彼らが用意した『北部域では関税を取らない』と言う構想に乗ることにした。こちらだけ税金を取っていても反感を喰うだけだし、そもそもゴルビーでは関所の税金なんか頼って居ない。そもそも人の出入りが少ないのだし、そういうお寒い事情が北部諸侯全員が関税を撤廃できた理由だろう。儲けのある税は旨味があるから捨てられないが、偶にしか儲からない税ならば廃止しても問題が無いのだ。

その共通見解を示したことで、彼らも一安心したのだろう。安堵の声を上げ、あの男だけが続きを促した。

「せっかくですので、我が館にお越しいただき易いように道を整えたいと思います。新領地に関して言えばそうですね、差し支えなければ山を削って道を整える実験をさせていただければ幸いです。もちろん鉱山であった場合は、男爵の所有であるのが当然でしょうね」
「それは素晴っ……いえ、異存はありません。その方が伯も移動し易いかと」
 関税と言う牽制打から繋がるのは、当然のように街道整備である。
他の者としては街道まで私道が少し整備されるくらいであるが、彼にとっては追加で申し出た山を削るという案が魅力的だったのだろう。こちらも百足列車を通すだけなら強引に行けそうでもあるが、できれば平面の方がありがたいので、『可能な範囲で』山を削る事にした。土に関しては持って帰っても良いし、彼の領地に川があるならば堤防に使っても良いだろう。

なお彼は相対的に良い成果を得て頭を下げただけの価値を得たが、他の連中には辺鄙では無い分だけ美味しくない。そこで是正する必要があるのだが、こちらから申し出るのは少し過剰過ぎる。彼の場合は遠いからそうなったのと、無条件の通行権を出した見返りでもあるからな。

「こんなところでいかがでしょうかコンスタン・ティン伯」
「そうじゃのう。ワシは特に構わんのじゃが、ほれ、農業圏構想の様なナニカを用意できんもんかのう? せっかく王都より外れた者同士じゃて」
 コンスタン・ティン伯の顔を立てつつ、意見があれば伺っておく。
自分から言い出すのでなければそれほど責任は持たなくても良いのだが……、ここで農業圏構想の様なナニカと来たか。おいそれと都合の良いアイデアなんぞ無いし、イル・カナンなどから手に入れた種などは農業圏同士同士で分け合う方が倫理的に正しいのだ。

となると出来る事はそう多くはない。

「では、足りない物に関してお互いに融通し合うというのはいかがでしょうか? それで得られる利は多くはないですが、関税が無くなったことを考えれば、これから消費する金はグっと減って行く筈です。それと、こちらから月に一度の定期便を回しましょう」
「ふむ。ゴルビー伯はこのように言っているが、どうかね?」
 要するに、身内価格と交換経済というやつである。
お互いに物資を並べて交換を前提として、足りない物を市場価格よりもやや安い金額で売買する。もちろん中央市場に持って行く方が高く売れるのだが、その代りに自分の所で足りない物資が出た非常時などに安く売って貰える保証がある訳だ。要するに保険であり消極的な同盟で、農業圏構想のような積極的な同盟とは異なる。だが、関税やらその他の面倒が無くなる事も合わせれば、少しずつ良くなる未来も想定できるだろう。

もちろん、あまり高く売れない物を身内に頼ることにして、自分の領地では商品作物ばかりを植えるという博打も出来なくはない。商品作物はニーズにも寄るので、作ったら売れるという夢のある商品でもないのだが。

「異論はありませぬぞ。なあ?」
「我らは同じ地域の仲間なのです。助け合うと致しましょう」
「定期便の列車は五日掛けて移動し、二日ほど滞在。その用に行動して、一週間後には隣に移動しているという予定で行きましょう。では、式の日を楽しみにしております」
 こんな感じで話を用意すれば、ひとまず『北部諸侯』との会談は終了だ。
リストの全員を招待するのは彼らだけで良いだろう。後は縁の深い者だけを招待し、農業圏構想なり新街道の領主たちには、列車搭乗の無料券を数回分渡すに留めておく。これが内々の招待状であり、乗って訪れずに売買しても良いと推測することはできるだろう。後は本人たちの判断に任せることである。

そして、北部諸侯以外との会談はこれからだ。

「ゴーレム使いと専門の魔術師を育てる案が本格軌道に乗ったぞ。王立大学付属の学び舎に専門のコースを設ける事になった」
「ありがとうございますレオニード伯。これで私の肩の荷も居りますよ」
 似たような話は前にしたが、その時は構想段階に過ぎなかった。
今回はソブレメンヌイや百足列車などの登場で、作業ゴーレムや戦闘用ゴーレムに指示を出すだけでは済まなく成ったからだ。様々な命令法であったり、簡単にした呪文をニ・三種なりとも覚えていく術者というか、使い手の数を揃えた方が良いのは確かである。今までみたいに適当な命令をを伝えて、一つの作業を終えたら返却するだけでは惜しいということだろう。

数年後には王都にもゴーレム工房が出来て、自家生産はもちろんの事、使い手の導入で様々な任務をこなせるようになるに違いない。

「しかし、まさかこんな方法で王家の力を増そうとするとはな」
「ですが王立大学や付属校で学んだ騎士や魔術師によって、少しずつ増して来たのは今更でしょう? これからは各領主の子弟も本格的に通うようになったり、日常にマジックアイテムが触れるようになるだけです。陛下がGOサインを出したのも、水作成のアイテム込みで国家で主導で来た方が良いからでしょうしね」
 今回の件は、幾つかのアイテム込みで提案した防衛案である。
現時点では利益配分やら昔からの伝手でオロシャ王家が上に立ってはいても、絶対的な力は有していない。だから奇襲して抹殺する必要もなく、力ある諸侯が反旗を翻したら王家単独では勝ち切れないのだ。だからこそオロシャの政策は緩めで諸侯は好き勝手にやっているが、これからは王家の主導くらいは通るようになるに違いあるまい。

そして各要衝に水作成のアイテムや食料備蓄が揃って居たり、伝令のネットワークなどが存在すれば、早々反乱で勝ち切れるなどと言う事は無くなるだろう。その上で、王家が諸侯を次々潰すような戦力を持つのは遥か先なので、当面のオロシャは平和になるだろう。

「遠い兄弟。そちらの紳士を紹介していただいても?」
「構わないよオルバ。この方はレオニード伯とおっしゃって、オロシャ国の重鎮であられる。総騎士団長か最初のどちらかになって、侯爵と呼ばれる事もそう遠くは無いだろう」
 同じタイミングで遊牧民のオルバもやって来ている。
ユーリ姫が輿入れして第一夫人に成る事は内定とはいえ早くから決まっていたので、彼がマーゴットの後に嫁として迎えることに文句を言う事もない。ユーリ姫がいることを前提に、マーゴットで最後と言っただけだしな。

今回の告知に合わせてやって来たのは、遊牧民としてオロシャ国との友誼を結びに来たのだろう。

「レオニードだ。侯爵とは呼んでくれるなよ? あれは最後の地位についた者への餞のような物だ」
「王都詰めで一歩も出入りが出来ぬ見返りと? 大した皮肉ですな」
 二人の反応は悪くない。どちらもここで喧嘩する意義を見出せないだろう。
北の遊牧民が大人しい事と、オロシャ国が安定していて食料を供給できるという点で両者の意見は一致しているのだ。その結果、遊牧民は北西にあるラーンと戦うのだろうし、こちらは傷ついた国力を取り戻し……場合にとっては東に援軍を向かわせることになる。

それとついでに、もう一つ用事はあるか。

「そういえば君の所の息子は?」
「その件だ。そろそろ嫁を迎えても良いと思ってね。披露宴の比較をされたくはないから、日を改めはするがね」
 セシリアの妹のアンナが、オルバの上の息子に嫁ぐことになっている。
その約束が先延ばしにされていたのは、ユーリ姫を介してゴルビーと王家が繋がるまで待っていたのだろう。俺がマーゴットやセシリアとの間に積極的に子供を作らなかったのも、ユーリ姫との間をギクシャクさせない為でもある。

ともあれ今回の件で幾つかの話が進み、遊牧民とオロシャ国がゴルビーを介して緩やかな同盟を組むことになった。ひとまず北方の情勢が安定することになる。
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