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第十章
『段階的過ぎる進展』
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ユーリ姫の輿入れも細部調整中。姫は王都で王家側の儀式をやっている。
俺の方は披露宴の準備をすると同時に、空中庭園の最終チェックになる。そう……ようやく本館が完成したのだ! もちろん客間である別館は完成していないというか、趣味全開で建築する予定なので、お客さんは元の領主館があるゴルベリアスに滞在する事になっていた。
もしかしたら婚姻までが長いとか、三十越えてしまって良い年じゃないかと思う者も居るかもしれない。だが、中世というのはそんなもので、男の方が相応しい身代を手に入れるまでに歳を食ったりするのもザラなんだとか。
「まず、苦労を掛けた。良くここまでの屋敷を作ってくれたと皆に言いたい」
「構やしませんぜ領主さま。こちとら金を貰ってますし、随分と良い待遇だ」
「領主の中には大工なんぞ誰でもできると思っている馬鹿が居るからな」
「「……」」
勇者軍出身の大工たちが大笑いしながら酒を吞んでいた。
まずはねぎらいのパーティであり、急ぎの仕事にも関わらず、かなり丁寧に仕上げられていた。もちろんキーエル家を経由して送られてくる製材も影響しているだろうが、かなり大変だったに違いあるまい。彼らには報酬を報いると同時に、中世で定番の『秘密の為に粛清』などしないと誓うとしよう。まあ秘密の脱出ルートなんか作る暇なんかなかったので、口封じをする必要など無いから考えもしなかったってのもある。
彼らをねぎらうパーティは一階の駐機場だ。
そのまま当日に『全員でやる宴』に使う場所なので、彼らの反応がそのままこの場所の居心地の良さに繋がっている。直射日光が照らして居ないのは当然の事、上から落ちる水流で水車が涼しい空気を送り、地下水道が足元に流れているので過ごし易い場所だと言えた。
そして彼らが飲んでいる酒は基本的に三パターンを用意している。
「また別館を建てる時に無茶を言うかもしれんが、その時はまたここで酒を呑んでくれ。地下水で冷やした酒くらいなら、そのうちにゴルベリアスにも店が出来るとは思うけどな」
「そん時はまた呼んでくださいや。流石にゴーレムに乗るのは勘弁ですが」
「そうか? アレと同じ物がその辺の家を建てる時にもあれば便利なんだが」
十年もすればゴーレムを使った建築屋も出来るかもしれない。
だが王都で養成を始めるのはまだ先のことだし、国家機密なので喋る訳にはいかない。他愛ない話をしながらまずは酒で喉を湿らせる。やはり飲み慣れた常温の酒をのみつつ、おっかなビックリ冷えた酒にも手を出している。やはり最初はいつおの酒の方が飲み易いのだろう。貴族と違って新し物好きでもないしな。
だが何度も吞むと慣れてくるようで、地下水で冷やした酒が早く領都であるゴルベリアスでも吞めれば良いと言うようになった。
「肉の方はどうだ? ちゃんと食ってるか?」
「もちろんでさあ。こんな時じゃないと腹いっぱいにゃ食えませんからな」
「昔は大きな肉の方がありがたかったが、年経ると薄い方がええですな」
当然ながら、肉の方も何種類かを用意しておいた。
豚と羊があるのは当然ながら、厚切り肉に薄切り肉とソーセージを用意し、それぞれ香辛料や塩をたっぷり使って調理している。調理台は園遊会で好評だった鉄板焼きを進化させ、サラマンデルという調理器具を再現している。これは鉄板の上に熱した棒を何本も用意し、棒を下すことで蒸し焼きにした離両面から同時に焼いたりできる優れモノだ。冷やして食べるハムみたいにしても良いが、やはり暖かい方が好まれるからな。
他にも薄切り肉はパンに挟んで食べる物も用意し、こちらは幾つかに限ってお土産に持ち帰っても良い事にした。大工たちはその場で腹いっぱい食う事を決めると、お土産を持って賑やかに帰宅して行くだろう。
「冷やした酒に肉を薄切りにしたりと色々な調理法は面白いですな。正直な話ですが小生、ずっとオロシャの事を侮っておりました。ここは素直に謝罪いたしましょう」
「そうですか。デザートも用意しておりますので愉しみにしてください」
招かれざる客もいる者で、イル・カナン国から客人が来ていた。
正確には王都へ招かれている大使の副官というところで、正式な副使ではないが大使に親しい人間であるという。披露宴には参加しないのに大工との打ち上げパーティに参加しているのは、地方領主の慶事ごときには興味がなく、あくまでゴーレムを作っている俺の内情を探りに来ているのだろう。
面識がないのであくまで顔つなぎ、パーティに参加するとしたら俺に価値を認めてから正式に副使なり大使が訪れるのではないかと思われた。
「ほほう。パイの上に野菜を乗せ、砂糖をタップリ塗した物ではないと?」
「氷菓子ですよ。酒を混ぜた物も用意しましたが、菓子は菓子だけの方が良いかと思いましてね」
無茶苦茶侮ってくれている人間で、おそらくは演技だとは思われる。
オロシャの果実を野菜だと言い切るあたり凄いが、ここまで慇懃無礼だといっそ清々しい。こちらの全力を見極めるためにあえて挑発しているのではないかと思われた。あるいは俺がイル・カナンやポーセスへの援軍派であると聞いて、イル・カナンを属国にしようと思っているのかを引き出したいのかもしれない。
俺が思わず反骨心で色々用意しようと思う程度には効果的な挑発ではある。だが、それはせっかくの援軍を取りやめようと思うくらいには博打的な行為だ。
(うーん。これはどっちだろうな?)
(イル・カナンへの反感を気にする必要がない。それとも逆か?)
(とっくの昔にヤバくなっていて、なりふり構わず援軍を求めたい)
(だが俺がヨセフ伯とは別方向への旗振り役をしている事を知り、万が一にも占領されたら困るという程に追い詰められているとか? もし、あの放流した時以上にヤバくなっているんだとしたら、たとえ俺が反感を抱いても援軍を出すだろうしな)
俺が意欲的に宮廷儀礼に参加しなかったせいか、情報が致命的に足りない。
だから俺が想像できるのは、『援軍が居る』『援軍など不要』の二択しか思いつけないのだ。その上で過去に経験した放流くらいしか判断基準がない。もし俺が王都煮詰めていてパーティに何度も参加するか、もっとキエール家あたりと交流しておけばイル・カナンの基本情報くらいは抜けただろう。
今思えば情報機関を作って外国の情勢を探り、援軍が必要だったり、向こうから攻めて来るか探ることを提案しておけば良かったと思う。
「これは……色の付いた氷ですかな? 氷室の為の氷ではなく?」
「ええ。果実を絞って適度な水と混ぜ合わせて凍らせました。上に蜜漬けの果実を載せて味わいを濃くしていきます。もし甘いのがお好きでしたら、牛の乳に砂糖を混ぜた物を用意しましたのでお使いください」
用意したのは、前世で途中から人気になったカキ氷である。
シャーベット状の果実水を削り、その上からダイスカットした果実をシロップに漬けて載せていく。果実だけでは物足りない人には練乳を添えることで更なる甘味の追加も可能な代物だ。
傾向的に果実盛り盛りの『しろくま』とは趣が異なるので、おそらく別系統のカキ氷だろう。記憶が曖昧になっているので再現に苦労したが普通に驚いてくれているので成功したようだ。
「素晴らしい氷菓子をありがとうございます。小生、本当の意味で脱帽しましたぞ。しかし……僭越ながら、果実は一度干した物を糖蜜で戻す方が味わいが増したでしょうな」
「御助言はありがたく。後で検証してから手直しするとしましょう」
素直に感心しておけば良い物を、一言多い御仁である。
この時代、カキ氷なんぞ氷を削って甘いシロップを掛けて終了なので果実水でカキ氷を作るだけでもかなり改良しているはずだ。それに留まらず、上に糖蜜付けの果実を載せたのだから素直に感心して欲しい所である。まあ、俺も他人様のアイデアをパクっただけなので、自慢できるほどではないから我慢しておくことにしよう。
恐ろしい事にこの日の話は本当にコレで終わり、双方に縁のあるアンドリオ副団長がウッラール騎士団を代表して派遣されるまで、様子見は続いたのであった。
ユーリ姫の輿入れも細部調整中。姫は王都で王家側の儀式をやっている。
俺の方は披露宴の準備をすると同時に、空中庭園の最終チェックになる。そう……ようやく本館が完成したのだ! もちろん客間である別館は完成していないというか、趣味全開で建築する予定なので、お客さんは元の領主館があるゴルベリアスに滞在する事になっていた。
もしかしたら婚姻までが長いとか、三十越えてしまって良い年じゃないかと思う者も居るかもしれない。だが、中世というのはそんなもので、男の方が相応しい身代を手に入れるまでに歳を食ったりするのもザラなんだとか。
「まず、苦労を掛けた。良くここまでの屋敷を作ってくれたと皆に言いたい」
「構やしませんぜ領主さま。こちとら金を貰ってますし、随分と良い待遇だ」
「領主の中には大工なんぞ誰でもできると思っている馬鹿が居るからな」
「「……」」
勇者軍出身の大工たちが大笑いしながら酒を吞んでいた。
まずはねぎらいのパーティであり、急ぎの仕事にも関わらず、かなり丁寧に仕上げられていた。もちろんキーエル家を経由して送られてくる製材も影響しているだろうが、かなり大変だったに違いあるまい。彼らには報酬を報いると同時に、中世で定番の『秘密の為に粛清』などしないと誓うとしよう。まあ秘密の脱出ルートなんか作る暇なんかなかったので、口封じをする必要など無いから考えもしなかったってのもある。
彼らをねぎらうパーティは一階の駐機場だ。
そのまま当日に『全員でやる宴』に使う場所なので、彼らの反応がそのままこの場所の居心地の良さに繋がっている。直射日光が照らして居ないのは当然の事、上から落ちる水流で水車が涼しい空気を送り、地下水道が足元に流れているので過ごし易い場所だと言えた。
そして彼らが飲んでいる酒は基本的に三パターンを用意している。
「また別館を建てる時に無茶を言うかもしれんが、その時はまたここで酒を呑んでくれ。地下水で冷やした酒くらいなら、そのうちにゴルベリアスにも店が出来るとは思うけどな」
「そん時はまた呼んでくださいや。流石にゴーレムに乗るのは勘弁ですが」
「そうか? アレと同じ物がその辺の家を建てる時にもあれば便利なんだが」
十年もすればゴーレムを使った建築屋も出来るかもしれない。
だが王都で養成を始めるのはまだ先のことだし、国家機密なので喋る訳にはいかない。他愛ない話をしながらまずは酒で喉を湿らせる。やはり飲み慣れた常温の酒をのみつつ、おっかなビックリ冷えた酒にも手を出している。やはり最初はいつおの酒の方が飲み易いのだろう。貴族と違って新し物好きでもないしな。
だが何度も吞むと慣れてくるようで、地下水で冷やした酒が早く領都であるゴルベリアスでも吞めれば良いと言うようになった。
「肉の方はどうだ? ちゃんと食ってるか?」
「もちろんでさあ。こんな時じゃないと腹いっぱいにゃ食えませんからな」
「昔は大きな肉の方がありがたかったが、年経ると薄い方がええですな」
当然ながら、肉の方も何種類かを用意しておいた。
豚と羊があるのは当然ながら、厚切り肉に薄切り肉とソーセージを用意し、それぞれ香辛料や塩をたっぷり使って調理している。調理台は園遊会で好評だった鉄板焼きを進化させ、サラマンデルという調理器具を再現している。これは鉄板の上に熱した棒を何本も用意し、棒を下すことで蒸し焼きにした離両面から同時に焼いたりできる優れモノだ。冷やして食べるハムみたいにしても良いが、やはり暖かい方が好まれるからな。
他にも薄切り肉はパンに挟んで食べる物も用意し、こちらは幾つかに限ってお土産に持ち帰っても良い事にした。大工たちはその場で腹いっぱい食う事を決めると、お土産を持って賑やかに帰宅して行くだろう。
「冷やした酒に肉を薄切りにしたりと色々な調理法は面白いですな。正直な話ですが小生、ずっとオロシャの事を侮っておりました。ここは素直に謝罪いたしましょう」
「そうですか。デザートも用意しておりますので愉しみにしてください」
招かれざる客もいる者で、イル・カナン国から客人が来ていた。
正確には王都へ招かれている大使の副官というところで、正式な副使ではないが大使に親しい人間であるという。披露宴には参加しないのに大工との打ち上げパーティに参加しているのは、地方領主の慶事ごときには興味がなく、あくまでゴーレムを作っている俺の内情を探りに来ているのだろう。
面識がないのであくまで顔つなぎ、パーティに参加するとしたら俺に価値を認めてから正式に副使なり大使が訪れるのではないかと思われた。
「ほほう。パイの上に野菜を乗せ、砂糖をタップリ塗した物ではないと?」
「氷菓子ですよ。酒を混ぜた物も用意しましたが、菓子は菓子だけの方が良いかと思いましてね」
無茶苦茶侮ってくれている人間で、おそらくは演技だとは思われる。
オロシャの果実を野菜だと言い切るあたり凄いが、ここまで慇懃無礼だといっそ清々しい。こちらの全力を見極めるためにあえて挑発しているのではないかと思われた。あるいは俺がイル・カナンやポーセスへの援軍派であると聞いて、イル・カナンを属国にしようと思っているのかを引き出したいのかもしれない。
俺が思わず反骨心で色々用意しようと思う程度には効果的な挑発ではある。だが、それはせっかくの援軍を取りやめようと思うくらいには博打的な行為だ。
(うーん。これはどっちだろうな?)
(イル・カナンへの反感を気にする必要がない。それとも逆か?)
(とっくの昔にヤバくなっていて、なりふり構わず援軍を求めたい)
(だが俺がヨセフ伯とは別方向への旗振り役をしている事を知り、万が一にも占領されたら困るという程に追い詰められているとか? もし、あの放流した時以上にヤバくなっているんだとしたら、たとえ俺が反感を抱いても援軍を出すだろうしな)
俺が意欲的に宮廷儀礼に参加しなかったせいか、情報が致命的に足りない。
だから俺が想像できるのは、『援軍が居る』『援軍など不要』の二択しか思いつけないのだ。その上で過去に経験した放流くらいしか判断基準がない。もし俺が王都煮詰めていてパーティに何度も参加するか、もっとキエール家あたりと交流しておけばイル・カナンの基本情報くらいは抜けただろう。
今思えば情報機関を作って外国の情勢を探り、援軍が必要だったり、向こうから攻めて来るか探ることを提案しておけば良かったと思う。
「これは……色の付いた氷ですかな? 氷室の為の氷ではなく?」
「ええ。果実を絞って適度な水と混ぜ合わせて凍らせました。上に蜜漬けの果実を載せて味わいを濃くしていきます。もし甘いのがお好きでしたら、牛の乳に砂糖を混ぜた物を用意しましたのでお使いください」
用意したのは、前世で途中から人気になったカキ氷である。
シャーベット状の果実水を削り、その上からダイスカットした果実をシロップに漬けて載せていく。果実だけでは物足りない人には練乳を添えることで更なる甘味の追加も可能な代物だ。
傾向的に果実盛り盛りの『しろくま』とは趣が異なるので、おそらく別系統のカキ氷だろう。記憶が曖昧になっているので再現に苦労したが普通に驚いてくれているので成功したようだ。
「素晴らしい氷菓子をありがとうございます。小生、本当の意味で脱帽しましたぞ。しかし……僭越ながら、果実は一度干した物を糖蜜で戻す方が味わいが増したでしょうな」
「御助言はありがたく。後で検証してから手直しするとしましょう」
素直に感心しておけば良い物を、一言多い御仁である。
この時代、カキ氷なんぞ氷を削って甘いシロップを掛けて終了なので果実水でカキ氷を作るだけでもかなり改良しているはずだ。それに留まらず、上に糖蜜付けの果実を載せたのだから素直に感心して欲しい所である。まあ、俺も他人様のアイデアをパクっただけなので、自慢できるほどではないから我慢しておくことにしよう。
恐ろしい事にこの日の話は本当にコレで終わり、双方に縁のあるアンドリオ副団長がウッラール騎士団を代表して派遣されるまで、様子見は続いたのであった。
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