ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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ラストバトル編

最後の戦いの幕が開ける

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 ダンジョン下層への本格的な攻撃が始まった。
ホムンクルスを主力に騎士や兵長を添えた部隊を1チームほど先行させる。ダンジョン経営をして得た資源を元に、部隊を整えて攻防を行う。いわゆるダンジョン・ディフェンスだとかダンジョン・アタックだと言われる戦いの、真骨頂である。これまでは幹部クラスの人間が必要に狩られて前に出た。しかし、これからは部下に魔物による部隊を率いらせるという、本格的な戦いになったと言えるだろう。

そして、一口に戦いと言ってもどんな構成かで差が出て来る。
ホムンクルスは普通の魔物より効果であり、ゴーレムよりも弱いという欠点がある。クラフト系の魔物が持つ融通の聞かなさも同じだが、明確な利点があった。

「ポーションは惜しみなく使っていい。ホムンクルスを壁にして確実に勝ってくれ」
「判っておる! では参るぞ!」
「承知しました! 行ってきます!」
 騎士と兵長に率いられた2つのチームが降りて行く。
ホムンクルスたちの中で、先制の遠距離攻撃で傷を受けた者もいるようだが、即座にポーションで回復された。ゴーレムと違って人間と同じ手段で回復できるため、小隊長である騎士や兵長と同じ回復手段を用意すれば流用できるのだ。ノーマルのポーションならば自前で製造できることもあり、おそらく大した被蓋には成らないだろう。また、人間と違って得意分野を選んで成長できるしな。

戦っている量産型ホムンクルスは耐久重視なのでちょっとした奇襲ではまず死なない。姿隠しで接近すれば別だが、それでも小隊長たちが死ぬよりもマシだ。そして偵察能力を持った傭兵を同行させ、対抗呪文役として待機もしている。この時点での戦いは順調だったと言えるだろう。

「……なんて呼び掛けながら戦ってるんだ?」
「この地を奪った勇者の末裔たちに告げる。この地を賭けて戦え、挑む者はその勇気を祖先と共に讃えよう。我を倒す者には我が持つ栄誉と勇者の称号を与え、生き残った者には我に従う栄誉を与えよう。って感じの内容ですね」
 身も蓋も無い略奪者の言い様である。
だが、意外と連中にはこっちの方が受けが良いと判断したのだそうだ。こちらの持ち物だったとかどんな言い訳をしても、連中の命と家族を奪ったことには変わりない。だから正攻法で交渉したり、謝るような事よりも、相手を讃えて苦戦させたことを褒めるべきだと言うのだ。

その上で生き残った者は雇い、もしあの騎士やデボラ達を倒したら……その待遇を与えると言っているのである。もちろん他の地に行きたいならば、それも援助すると最初から告げてある。

「無茶苦茶だが、意外とアリかもしれんな」
「此処まで来たら何もかも奪って、必要な物だけを与えるか、さもなきゃこっちが下手に出て何もかも渡すくらいじゃないと折り合いがつかないって事ですね。まあそれでも、あくまであの騎士と同じ待遇まで。こっちのトップであるエレオノーラに使える者の栄誉を奪っただけってことですが」
 落としどころとしてはそのくらいだ。
こっちとしては余裕で勝つつもりだし、仮に騎士と同じ待遇にするとしても、このダンジョンがはどうにかして引きはがすための言い訳にしか過ぎない。どこまで行っても、侵略者同士の戦いは不毛な事にしかならないのだ。なので、あくまでとても有利なこちらが下手に出ている。同じ境遇になったかもしれない、リシャールやジャンたちにフォローする程度でしかない。

そして、あの騎士が最初に選ばれた理由はこの条件を受け入れても良い者を最初に選んだのである。実際には他に替え地を用意するが、それでも良いというくらいには、困窮して居るかあるいは武名を求めた者を優先したのである。

「そういえば、あの騎士が失敗して他も失敗し、私が何とかしたらどうなるのだ? 考えても見なかったが」
「流石に何処かで落とせると思いますが、好きな方を選べますよ。これまで通りならば高額の褒章を約束の報酬に追加、もし士官を望むならば最低でもあの騎士と同じくらいの騎士領主。実際にはもう少し色を付けて……やっぱりこれまでの経緯がありますしね、協力してくれた分だけ良い場所を選ぶと思います。部下の人に譲るなら、逆に下ですね」
 何気なく尋ねて来たので、何気なく答えておく。
本心で士官の話を出したとは思えないが、本心がどうあれエレオノーラが評価している事は伝えておく。どうしても反感を持っていた親族衆よりも、身近で支えて来た連中の方が親しいものだ。譜代の騎士だが不忠者よりも上の待遇にすると保証し、自分ではなく部下に土地と地位を渡したいというならば、話は別だと付け足して置いた。評価しているのは、あくまでジャンの功労であり、ポっと出の奴に渡したらやはり親族衆が文句を付けてくるだろう。

「そうか、なら良い。どっちみち、この戦いは苦戦しないだろう?」
「まあそうですね。隠し玉次第ですが、予想の範疇ならば、あの連中だけでなんとかできますから」
 そして俺の言葉にジャンは溜息を吐いた。
いつか本国に帰る気であったが、こちらでの生活が長くなってきて心境に変化があったのだろう。戦いで活躍し、この間は工事でも色々覚えた。そして彼自身で解決する問題ではなく、彼が率いて来た移民たちも関わる事なのだ。だからこそ、彼の紹介で移民の誰かを弛緩させるならば格が低く、彼自身ならば高く評価すると言ったのである。

ただ、ジャンに関してはこれ以上突くべきではないだろう。

「師匠、これを」
「おう。すまないな。……なるほど、戦いは順調に第二幕に進みそうですね。援護は不要そうですが、次の班を降ろします。配置次第で俺も降りますけどね」
「敵の増援か。予定通りではあるな」
 リシャールが次のスケッチを持って来た。
それは戦っているエリアとは続きの間であり、人の動きが注釈付きで記載されている。どうやら遅まきながらに逐次投入に気が付いたようで、連中は増援をまとめて投入するらしい。精霊も何体か一緒に同行させるらしい。

精霊も呪文を使うので対抗呪文または沈黙の霧で抑え込めるはずだが、場合によっては俺が解呪する必要があるだろう。

「大丈夫だとは思いますが、ジャンさんは此処の守りをお願いします。連れて降りる分だけ人数が減りますから。ではミーティングに行ってきます」
「任せて置け。まあ見張りの大半はホムンクルス頼りだがな」
 こうして戦いは第二幕へ。
前回戦った場所を制圧できそうな段階で、有力な敵部隊が追加されることになった。これに対して俺達も増援を降ろし、中の様子を探るまでの時間を稼ぐのだった。
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