ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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最終計画

降伏勧告の裏で

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 中層から下層の入り口を確認すると、案の定だ。
入り口の片方が瓦礫やら何かのゴミで封印されている。幻覚と言う訳でもなさそうなので、取り除くのは一苦労だろう。おそらく埋めた本人たちすら何とかする事など考えても居まい。

念動で意図的に、狭い道を作って居なければ……の話だが。

「おし、こっちも封印して監視を置いておこう」
「万が一にも通行が不能に成ってればいいさ」
「後は正面から攻め入るとして、専念したいからな」
「デボラが最初の交渉を始めると同時に、俺達は準備を始める。作業を予定通りに進めるぞ。ここからは我慢比べに見せた、積み木作業だ」
 ダミーを置いた出口でも困るので封印する。
その後に小さな拠点を一つ置き、監視と報告以外を命じないようにしてホムンクルスを置く。兵士も数人置いておくが、融通を利かせ過ぎて遊んじまうのが人間の欠点だな。いつもの長所と短所が逆転してしまうのが、特殊な状況というやつなのかもしれない。

そして拠点には、今までは置いてなかったマーカーを設置。
これまでは洞穴ケイブエルフが利用に気が付き、積極的に運用されても困るので設置しなかった循環用のリンクと入れ替えるやつだ。これを今から攻め込む場所にも設置し、進撃するたびに繰り返していくというのが、今までとの最大の違いになるだろう。

「声を掛けて手紙を放り込んでおいたぞ。いぶかしんでいたが、回収して行ったので文字が失われているという事はないはずだ。交渉自体は無視するとは思うがな」
「お疲れさん。まあ話がいきなり付くとは思わないさ」
 同じ文面の手紙をつつきながらデボラが出迎えた。
俺は取労をねぎらいながら、入り口側にもマーカーを設置する。循環器用のリンクと呪文で入れ替えている間に、『話がまとまるまで、誠意として攻撃を待つ』という時間を掛ける感じだな。もちろんそれが終わっても、いきなり攻め込んだりはしない。緊張感と言う物は長続きしないので、あえて刺激したまま放置しておく。そうするこで疲れ、ミスをし易くなるだろう。

そしてこの時間は、もう一つ重要な意味があった。

「そっちはどうだ? そろそろ最初の区間が終わった所だと思うが」
「精霊が隠れていないか確認しながら進んでいるネ。そうそう都合良くはいかないアルヨ」
 今度はブーに声を掛けると煙草を吸いながらお絵描き中だ。
ウイザードアイは人間の目には見えないが、精霊……というか魔法知覚力があるモノには見える。なので極力見つからないように進ませ、精霊を見つけたら新しい幻覚を出して、何処に潜んで居るかを再度画像にしているのだという。

此処で重要なのは、視点に関する双方の差である。
精霊を使う場合は術者本人の視点であり、精霊は自らの意思を反映させない。そもそも精霊が『ここに何か居る』などと自己主張することはなく、精霊の目を術者が借りているだけなのだ。この点はホムンクルスも同じだが、精霊と違ってその場にいる同じ個体である為、教育して返事を覚えさせる事が可能なのが大きい。

「とりあえず二枚と半分か……やっぱり待ち構えてるな」
「当たり前ネ。でも、途中で一人移動したヨ。上層部の会議、一応したと見るヨロシ。意味があるかは別にして、変化はあたネ」
 一枚目は精霊を見つけた時の絵、二枚目は迂回した後。
半分というのは小頭らしき者が移動した前後で、一枚の板に、一人分の移動が矢印で簡単に描いてあった。この絵も練習を始めた当初は共通されたマークなどを決めておらず、無駄に時間が掛かったりしたものだ。なお、この時点では俺たちは知らなかったのだが、ホムンクルスは画像を出した時の事を覚えており、何度目の幻覚をもう一回出せといったら、同じ物を幻影に出すと知ったのは随分後の事であった。

ともあれ画像を見る限り、俺達の知っている地図とそれほど差はない。やはり細部はともかく、全体構造は変わって居ないのだろう。

「一枚持って行って良いか? 突入する班に見せて来る」
「ドウゾドウゾ。でもアーバレストは最初の一発に留めるべきネ。何度も使ったら、対策しかねないアル」
「判ってるよ。どの道、二発分しか持たせねえ」
 やはり地形がどうなっているか判るのは大きい。
突入班を構成する兵士たちにこの図を見せることにした。どんな風に相手が待ち構えているか、人数は何処なのかを簡単に把握することができる。よく考えたらこれだけ地形が同じならば、此処に来るまでに同じような地形で戦う訓練をして置けば良かったと思わなくも無かった。

ともあれ、まさに今更の話だ。

「突入する者は集まってくれ。最新の地形と敵の位置が判った。大まかな配置は変わらない筈だ。どういうタイミングで攻撃するか、散らばるアーバレストをどこで使うかを検討して欲しい」
「……やはり私の仕事がなくなるな」
「これだけ判って居れば何とでもして見せようぞ」
「ま、魔法の力は凄いですね!」
 対抗魔法を使うデボラのほか二名の小隊長が居る。
その二人は騎士と兵長で、騎士は領主の一人で兵長は別の領主の側近だ。どちらも親族衆の中ではそれほど大きなところではない土地の出身で、こらで活躍して置く必要があったそうだ。実際に突撃して切り込むのはホムンクルスであるが、人間が付いていないとロクな事にならないので、命令の出し方を覚えた者が付いて行くのである。

ちなみに騎士の方が隊長役で、兵長の方は本隊からの与力だ。
他にも突撃したがる騎士はいたが、交代要員は居た方が良いのと、命令系統に差をつけるために抗している。兵長はアーバレストを最初に使ておいて、敵が密集している所に一回ぶっ放す予定になっていたのだ。二発持たせることにしているが、もう一発は撤退の支援用になる。

そして予定していた時間が経過し、戦いの時が来た。

「今、デボラが二度目の降伏を告げに行った。適当に連中の緊張が切れる頃に頼む」
「任せて置け! 石弓などなくて良いが儂を巻き込むなよ」
「はい!」
 予定通りに間を空けて、突入班が降りて行く。
合わせて交代要員の第二班・第三班がそろそろ準備を始めるはずだ。彼らは第一班が失敗したり、制圧に成功したら入れ替わる為に待機することになっていた。

こうして最後の戦いが、今にも幕を開けようとしていた。
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