ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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下層攻略の準備編

彼らの痕跡

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 上層で邪魔する者はもはや居ない。
ゴブリンたちは勝てない相手に労力を割かず、もし俺たちが逃げ帰るような事があれば襲ってくるレベルだろう。ブーの話では忍んで物資を盗みに来る奴らも、今では見ないそうだ。そういう方面の鼻は聞く奴らである。

ともあれ順調に最初の拠点へ物資を運び備蓄。
その一部を中層入り口にある二つ目の拠点へ移して、再確認を始めることにする。

「繰り返すが中層での仕事は戦う事じゃない」
「下層の支配部族からの影響を確認することだ」
「有力な情報だけじゃなく、断片でもいいから覚えといてくれ」
「まずは確保している筈の鼠が居た周辺。その辺りにホムンクルスを周回させてるが、この間の確認までは大丈夫だった。そこを確認し、一番最初に行ったエリアの確認になる」
 置いてるホムンクルスの役目は二つある。
一つ目は言うまでも無くゴブリンが戻って来るのを避けるため、もう一つは下層支配者が何らかの攻撃を行うかを確認するためである。その場合は無残に倒されて戦力が無駄になるだろうが、俺達がいきなり攻撃されるよりはマシだと判断した。そしてその方法が暗殺であるのか、攻撃呪文なのか、あるいは他の手段なのかで対応が異なる為だ。

まあ、一番困るのがその他の中でも解呪になる。
リシャール達を起こしたように、最大限の魔力でホムンクルスの主導権を解除、代わりに自分たちが支配者であるという呪文を掛けるというパターンだ。そして俺たちが垣間見た光景は、その手前であり、攻撃呪文との中間にあたる。

「……大地の系統の攻撃呪文か。どっちだと思う?」
「中途半端ねえ。複数人の洞穴ケイブエルフだったのか、契約した協力の精霊だったのか分からないわ」
 行ってみたら瓦礫しかなかった。
骨らしき塊と石の礫に水晶の塊があって、その周辺にある。ネズミが屯していたので、石礫や水晶の矢を浴びせ、殺されたところを鼠共が貪り食ったように思われた。骨まで食ったのは、ゴブリンたちが与える餌ほど量が多くないからだろう。

そして拠点として中層入り口から分岐線を抑えた場所には何も無かった。この事を踏まえると、そこそこの事が判って来る。

「精霊を呼べる強力な術者か、魔術が使える数人を使者なり偵察としてよこした。そいつらはホムンクルスと戦闘になり、ゴブリンが蹴散らされたことに気が付いたってところか?」
「願望としてはそんなところね。専門家がどう見るか次第よ」
 ホムンクルスを潰された怒りは無い。
俺達の代わりに奇襲を受けてくれたこと、数発の呪文を受け続けて反撃してくれたことには意味がある。下層の支配者がこの地を訪れた事や、いまだに占拠して居ないことを考えればそれなりの想像が付くからだ。

「偽装工作をしていると思うか? 姿隠しで暗殺して、あえて呪文で殺したとか」
「それは無いと思うネ。落ちてる武器が此処あるヨ、そして倒れたと思わしき場所が此処ある。壁の傷や体液の痕跡を調べればもっと判ると思うけど……ワザとらしさを感じないネ。一応」
 余裕で殺して、あえて戦ったように見せたわけではない?
ブーの説明によると、おそらく敵対者を発見して攻撃呪文を連発で叩き込んだのだと思われるそうだ。もし偽装したならば、武器である剣を持たせて置いただろうとのこと。ホムンクルスは愚直なので、剣を振り回し続けたか、無理だと判って投げつけるだろうとの推測である。

「強力な精霊なら足を止めて戦えば良いヨロシ」
「もみあって一方的に殺した訳でもないみたいアル」
「最初から最後まで仕込みという事が無ければ、まずここで普通に戦ったのは間違いないアルヨ。まあ、皆みたいに訓練した可能性もなくは無いのココロ。よって結論は偶発戦闘、でも一応」
 つまり攻撃手段や倒された顛末から見ると遭遇戦。
戦って勝ちはしたが、適当な理由で撤収したということだろうか? もちろんブーが言うように、最初から知っていて訓練に利用したとか、俺達を嵌める為に誤魔化した可能性もゼロではない。あっても居ない相手であり、特定しきれないからこそ、性格から推測できないのだ。

だからここは、両方の可能性を七・三くらいで見ながら、証拠を埋めて行くことにする。本当は策謀の可能性はもっと低いのだろうが、途中で思いつく可能性もあるからな。

「ここは分けて一つ一つ判断するぞ」
「基本的な流れはゴブリンからの献上品を取りに来たんだろう」
「ゴブリンから持って行ったのか、受け取りに来たのかは気にしない」
「どの道、ここで異変に気が付いて敵を排除した。そこで負傷か何かして慌てて帰ったか、落ち着いてゴブリンを探しに行ったんだと思う事にする。だからこの想定で調べつつ、罠である可能性も一応は残して対処する事にした」
 殺し方はどうあれ、相手の行動原理は変わらないだろう。
支配者種族として振るまい、ゴブリンの上位種たちを従えていた。そしてそいつらは俺たちが蹴散らしたため、献上品を受け取れなかったのだ。用心深く斥候を出して罠を春余裕があったのか、それとも慌てふためいたのかはこの際気にしても仕方がない。

さっさと対処を決めて、証拠集めと次の手を打つために動くべきなのだ。

「見張りを立てれば封鎖できるエリアを確認して戻る。ブーとリシャールは姿隠しがあるものとして対処。俺は即死を避ける結界を張るから、エレオノーラは対抗呪文を頼む。残りの二人は指示が無くても即攻撃で頼む」
「「了解」」
 敵が不意打ち用のチームを潜ませている可能性を考慮する。
少なくとも背後から襲われないように、封鎖しながら進むことにした。占有するエリアが広くなり過ぎると封鎖しきれないので、そこは無理をせずにさっさと次に行く感じだな。真面目な話、下層の連中が戦ってすぐに引き上げ、此処には誰も居ない可能性もあるからだ。

よって俺たちがすべきなのは、さっさと分岐エリアにある拠点まで戻り、ゴブリン達を追い込んだ場所を確認することである。

「急ぎ足になるがゴブリンたちのエリアを探るぞ」
「例え支配者が言明しようが、ゴブリンが大人しくできるとも思えねえ」
「だから向こうに行って臨戦態勢をしているか、生活を良くしようとしてるかで判断が出来る。後者ならば怯えてみんなで一か所に集まるだろうし、前者ならば時間稼ぎの為に戦おうとするはずだからな」
 本当に誰も支持して居なければ、不要な時間だ。
だが、背中を恐れながら進める程に俺たちは熟練者でもなければ、専門家のチームではない。あくまでそういう能力を備えているだけで、殆どが遺跡に潜ることに関しては素人だからな。

前だけを見て戦い、情報を得たらさっさと引く。
その想定に戻して、可能な限り確実に、そして安全に行きたいものである。まあ、洞穴ケイブエルフが居たらド派手な戦闘になるだろうけどな。
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