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下層攻略の準備編

準備期間の短縮

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 準備の第二段階に入ったが、時間を掛けたくないので同時並行する。
具体的に言うと訓練作業の一環として、ダンジョン上層への物資輸送を行うのだ。この間に行った事故対策の経験を活かしてというべきかな?

ホムンクルスへ行う命令と、優先順位付けに作業を利用できることに気が付いたという訳だ。

「ねえ、あんなに積み下ろしをする必要あったの?」
「基本的には二割から三割多いな。念の為の予備というか、親族衆に配る為の支援物資も含んでる。信頼できる事に『なってる』奴に、備蓄から持って行けって伝えてあるよ」
 当主候補のエレオノーラも今は作業員でしかない。
とはいえ命令だけを行う作業であり、本来ならば書類だけを見ていれば済む仕事だ。しかし困窮と言うか、災害で物資が減ったことになっている連中に対し、支援物資を自ら手配しているというポーズになっていた。

エレオノーラの指示を早い段階で打ち出したのは、基本的に利益の少ない領地や、本当に災害などで徐々に経営難になった領地だ。援助すること自体に意味はあるだろう。

「領地へ手を入れるのはお互いの信用が出来てからだな」
「今は困窮している事実に目を向け、同時にメンツも大事にする事」
「現実的な視点を持ち、物資を都合出来るだけの手腕を魅せるべきだ」
「領地経営がマズイのか、ダンジョン経営が上手くないのかはこの際後で考えればいい。もし何もかも悪いんだったら、そこは抜本的な改革なり領地替えの手配が必要だろうさ。当然ながら、そんな事を『今』話してくれるはずがない」
 エレオノーラは経営を改善したいが、取り上げたいわけではない。
しかしメンツを気にしていたり、領地を没収されるのではないかと不安を抱えている親族衆は多いはずだ。もちろん『年長である俺の言う事を聞け』なんていう馬鹿は放っておいてよいが、体制的には整えて行く必要がある。領地経営はサッパリなんで、俺としてはダンジョン経営で補える収入しか口出しできんがな。

とにかく今は信用を得て、指示さえしてくれるならば、領地を取り上げないし物資を手配する。ただし際限なく渡す訳ではないという塩梅が重要なのである。

「不要なほどの物資があるからこれから一カ月は籠れる。もちろんそんな時間は掛けねえから、理由を付けて物資を提供するってことにすれば良い。予備のホムンクルスは一度他の領地まで持って行って、そこで引継ぎだな」
「私がする必要は……ううん。そっちこそ私の仕事ね」
「そういうこった。せいぜい信用と威厳を稼いでおいてくれ」
 正直、ここで政治的取引をする理由は全くない。
だが、物資を降ろしたり輸送する時に行う命令と言うのは案外経験になるのだ。エレオノーラの経験にもなるし、命令を積み上げていく過程で、優先順位の処理を行える。マニュアルとも言うべき書類を作り、何をして良いのか、何が駄目なのか、矛盾する時は何を重視するべきかを用意する事も出来た。

そして何より、並行作業を行う事で訓練期間・移動時間・物資手配が同時にこなせるのが良い。ダンジョンで使わない物資だったら、間違いなくここまで用意しなかっただろうな。

「リシャール。ポーションの方の出来はどうだ?」
「マリ達が定期的に作っててくれてますけど、まだ初級の回復薬までですね。ボクが中級の序盤で毒消しまで、ブーさんが中級を一通りですけど今までは別の所におられましたのであんまり……」
 ホムンクルス最大の長所であり欠点は、薬が効く事だ。
だからエルフ達に薬草からのポーション作成を教えている。森で採れる薬草から作れることを教えて、資金を稼いだ利物々交換の種にすることを勧めたわけだ。もちろんエルフ族全体が残っているならばそんな事をしなくても生きていけるが、三人しか生き残って居ないので重要な稼ぎになっていた。

とはいえリシャールもまだ若いし、マリ達が目覚めたのも、覚えて生活の糧にすることを認めたのもこの間だ。生産性は良くないし、俺達としても市場より安価に手に入るという程度に過ぎなかった。

「そこは仕方がないさ。どうしても必要なのは買ってるしな」
「だが自分達で作れるようになれば生活が安定する」
「弓なんかの上達も合わせれば、森に余計な人間を入れずに済む」
「逆にそっちから売り込むことで、必要な物を手に入れることができるし、他のエルフたちを招き入れるならばその旅費にもできるだろうさ。もちろん、無理して造らなくていいぞ。その辺りはお前さんたちの自主性に任せる」
 俺も命令されたいわけではないから、強制はしていない。
エルフ達が狩りと採集だけで暮らせる自信があれば何もしなくて良い。だが三人だけでは限界があるし、お互いの為に進めたって感じだな。まあ、巨星じゃないけど、利益を考えたらそうなる様に誘導しているとも言うが。

ともあれホムンクルスの傷は基本的に薬で治す。
フーが闘気を渡すことで回復も出来るらしいが……正直割りが合わないんだよな。エレオノーラの呪文は効率が悪いし、俺が使う場合は生命力を満たす結界なので……一日で幾らと言うペースだったりする。まあ、そういう意味でポーションはありがたい。

「ブー。何時ものはどれだけ用意している?」
「流石に一か月分は無いネ。でも、貰っている薬草の分だけは少なくとも用意しているアルヨ」
 ブーは他人に魔力を渡せる賦活の術が使える。
彼はオーク族の特徴として、粗悪な素材の薬でも回復が十分に機能する。そこで魔力や気力を快復するポーションを作るのに使用する、割りと希少な薬草を吸っていた。彼が偶に大事そうに吸う葉巻は活性化薬の成分があり、低品質な薬草を使って自分を回復。自分の気力や魔力を他者に分け与えているのだ。

そして今回はダンジョンの魔力を流用できることが最初から分かっている。そこで魔力はそちらから融通し、気力重視で総数を用意してもらっている。もちろんダンジョンの魔力が絶たれることもあるので過信は禁物だが。

「それはありがたい。ジャンとフーが戻ってきたら中層まで行こう」
「そこで鼠やらゴブリンの様子を確認したらいよいよ下層だ」
「前も言った通り強行する気はないが、情報収集には気を付けてくれ」
「まずは俺達の安全、そして連中のキーになる情報の順番だ。分からない場合でも部分的に情報を得てくれたら、貢献度に応じて色を付けるから安心してくれ」
 ブーは渡した薬草に混ぜ物をし、横流しするくらいには金に汚い。
だが、ちゃんと契約を結べばキッチリと話の筋は通してくれる。なので情報の重要さを予め何度も伝え、部分的な情報であろうとも、攻略に役立てば報酬を払うと言っておいた。もしかしたら洞穴ケイブエルフの人相も暗記するかもしれんと思うくらいには期待ができる。

後は現地で調査を行い、少しずつ情報を集めて、できれば下層攻略のキーとなる情報を早い内に確保したいものである。そうすれば完全攻略に目途が立つからな。
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