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内なる災い編
裏切者の為の詰み将棋
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●
継続した主義主張と意見というものは時として力になる。
エレオノーラの場合は家の立て直しとダンジョンの再管理を目的として掲げているわけだ。分家の中には売り飛ばすためだとか、俺に騙されているとか言っているのだが、行政やらお家の会議に向けにちゃんと計画書を提出している。
何が言いたいかと言うと、ペガサス騎兵とその見分の問題である。
言い掛かりをつけようと思えば、どんな内容にも文句をつけることは可能だ。だが、こちらは予め再生計画を出しているので、他国に売り飛ばすという見解には見られ難いのである。俺がペガサス牧場に関わった事も、そこが他国ともエレオノーラとも関わりないのは調べれば判る事。言い掛かりをつけても落ち着いて返せるわけだ。
「国境である大山脈の地形と、そこに至るまでの地形を調べてもらった」
「盗賊の姿はなく、亜人族や隣国の大侵攻も形跡は見られない」
「この地形が正しいかどうかは狩人や薬師たちならばよく知ってるだろう」
「地図に関しては見張り塔を立てるために後日に有効利用してもらうとして、盗賊が隠れていると思わしき場所が幾つかある。俺たちはその幾つかを順番に叩いて行く」
俺は仲間たち以外にも聞かせるつもりで計画を話した。
盗賊として私兵を送り込んでいる奴らに聞かれても構わないし、今更逆利用できるほどの時間はないだろう。仮にやろうとしたとしても、いきなり個人で動き出せば怪しいだけである。
そして地図の上にちょっとした物を置き、その脇に説明書きを付けて行く。
「あの……我々も協力したいのですが。地元ですし土地勘はありますし、他所から来た方だけにお任せするのは申し訳ないと思いまして」
「おお。それはありがたい。ただ……」
比較的に若い兵士がおずおずと協力を申し出てきた。
この段階では怪しいとも何とも区別がつかないので、平然と頷きつつも、地図に書いた但し書きを指さしておく。そして詳細を説明することで、『集団行動』を取らせることにした。さっきも言ったが、一人一人で動かれる方が面倒なことになるからだ。
「我々は念の為、確実に勝てる戦力を引き連れています」
「また盗賊たちはこの土地を狙う者の偽装兵である可能性もゼロではありません」
「そこで協力を申し出てくださる皆さんで隊伍を組んでいただきたいのです」
「そうすれば騙し討ちにあったりすることもないでしょうしね。もちろんただの盗賊であれば速やかに叩き潰すことも出来ますから」
言い掛かりと水掛け論には終りがないが、この段階で出来ない論調がある。
今まで盗賊を捉えることが出来なかったのに、『自分たちが居ればお前たちなど要らん、帰れ』と言う訳にはいかないのだ。だから、もし盗賊と言う名の私兵を逃がすとしたら、個別に別れて伝える事だろう。なので俺としては釘を刺しておく。
また他所の貴族の陰謀を説明したのに、『自分だけは一人で十分だ。徒党を組めなどと馬鹿にしているのか!』などと言い出すのもおかしいだろう。おそらく、後は力攻めで私兵たちを駆逐できるだろう。
「それは構いませんが、一か所に固まり続けたら一部は逃げてしまいませんか? 包囲網を築いた方が良いと思うのですが」
「重要なのはこの土地と住む人々です。一人・二人逃がしてでも確実に倒しておきましょう」
広く展開すると、薄い部分から全員が逃げ出す可能性もある。
だがこちらが大部隊であれば、四方に散ったとしても逃げれるのは一部だけだ。大多数を討ち取ってさえしまえば問題ないし、もし本当に私兵集団であれば、何のフォローもなく討ち取られるままにしている雇用主を良くは思わないだろう。また、親族衆にだって派閥と言う物がある。まとめて扱われれば、お互いを監視してくれるだろう。
そして俺の立てた計画は、この地を守るという点に置いて首尾一貫している。功績などよりも人々や農園を守り、受け継いできた伝統あるダンジョンを確保するという意味で、これを上回る反論を難しくしていた。
「それで良いのでしたら、そうさせていただきます。一刻も早く盗賊たちを倒しましょう」
「ええ。ではルートを決め次第に出撃ましょうか」
こうして俺たちは盗賊退治を始めることにした。
本命はダンジョンであるし、時間なんぞ掛けたくないからな。
●
さて、以前にトロールが支配種族ではないと断言した。
それは彼らが陽の光を嫌っているからであり、丸一日は日射しの中を抜けて移動せねばならないからだ。そりゃ葡萄園の中で寝そべって踏み留まれば別かもしれないが、それでも日射しは挿し込むし、都合よく抜けて行くルートなど存在しない。
つまりはこの地域と言うは、とても見晴らしが良いのだ。
盗賊が夜間に隠れて動くとしても、隠れることができる場所は限られている。全員が私兵で親族衆の中でも有力者が黒幕なら、館の一つも与えているかもしれないが、それはそれで露見してしまったら致命的な事になるからあまり心配して居なかった。
「この地域には洞窟が無く、崖と小島に廃墟が一か所ずつある」
「どっちも沿岸で見え難い位置だから気を付けてくれ」
「もう片方のルートの方が簡単なんだが、向こうは地元の連中に任せたい」
「貧乏くじだと思ってあきらめてくれるとありがたい。その分だけ報酬は弾むからな」
見晴らしが良いと言った通り、隠れる場所そのものが殆どない。
その辺りを踏まえると、この辺にある廃墟の様に壊れた建物を利用しているという方がありえるだろう。畑の中に穴を掘って居るとか、農村の連中を脅して丸ごと入れ替わっているみたいな大仰な事は時間と地域の問題でやって居ない可能性が高かった。
その点、こういう場所なら盗賊が隠れていても不思議じゃないからな。
もちろん地元の連中も一度は探したはずだが、身内が匿っているなら『あそこは確かめたが誰も居なかった』で通じてしまうのもあるから信用できない。その点、今回は俺達だけのチームと、派閥を雑多に放り込んだチームで押し切るわけである。
「崖は判りますけど、小島はどうするのですか? 船の手配とかされてませんよね?」
「ここの島は直ぐ近くな上に浅瀬でな。干潮の時には渡れるんだと」
「それは助かるネ。ワタシ、実は泳げないアル」
泳いだ経験のなさそうなリシャールの質問に事前に調べた話を伝える。
ブーの方はネタ話をしながら『実は泳げた』とか言う小細工をしてくるので信用するのは止めておこう。単純に泳ぐのが嫌いなだけの場合もあるしな。そして重要なのは地形に対する把握である。地元出身の者に怪しい場所を色々尋ねて回って把握したわけだが、最も怪しいのは島である。
崖の方は見え難いだけで隠れ潜むしかできないが、小島の方は事前に情報があれば素早く渡って隠れることができるからだ。船が必要と思われやすい事もあり、干潮時に別の場所へ移動し、調査が終わってから戻ってくることも出来るだろう。
「想定される戦力はどのくらいだ?」
「それで戦い方が変わりますよね」
「崖なら元は砦なんで数が居る可能性があるな。小島の方は修道院で、少数精鋭かつ魔法使いも居る可能性がある。ただ前者はクロスボウを連射すればいつか勝てるので、それほど恐ろしくも無い、やはり警戒が必要だとしたら後者だろうよ」
フーとジャンに海岸線を守る警備施設だと説明した。
崖の方は上から攻城兵器で船を攻撃したり、上陸して来た連中に備えるための場所だから、兵士たちがそれなりに詰めて居られる場所だ。しかしこっちは隠れる場所が少ない上に、何人もの人間で探して歩ける。大集団が隠れ潜んで居るのは難しいだろう。
そういった意味でも本命は小島の方である。
隠れ潜んだ上で、魔法使いが偽装用の魔法を使うなり、あるいは逃走用の魔法を使って逃げる可能性があるだろう。小さな舟に帆を掛けて風を吹かせるとか、才能のある魔法使いなら全員に水の上を歩く魔法を掛けられるかもしれない。干潮に隠れて逃げることを前提に、そこまでやったら隠れる可能性が高くなるだろう。そして裏切者が通報すれば、簡単に隠蔽できるわけだ。
「大規模な盗賊団である可能性も念頭に入れて崖から行く」
「どのみちクロスボウを持ったホムンクルスはこっちにしか使えないからな」
「ここに居ないエレオノーラを除いた全員で出撃」
「時間を掛けて相当するつもりだが、誰も居なければリシャールとフィリッパを置いて島に行く。今日明日には終わらせるぞ」
どちらに居ようとも時間を掛ける気はなかった。
裏切者の通報があっても困るので、速攻で終わらせる方が良いだろう。
こうして俺たちは盗賊退治の任務に王手をかけたのである。
継続した主義主張と意見というものは時として力になる。
エレオノーラの場合は家の立て直しとダンジョンの再管理を目的として掲げているわけだ。分家の中には売り飛ばすためだとか、俺に騙されているとか言っているのだが、行政やらお家の会議に向けにちゃんと計画書を提出している。
何が言いたいかと言うと、ペガサス騎兵とその見分の問題である。
言い掛かりをつけようと思えば、どんな内容にも文句をつけることは可能だ。だが、こちらは予め再生計画を出しているので、他国に売り飛ばすという見解には見られ難いのである。俺がペガサス牧場に関わった事も、そこが他国ともエレオノーラとも関わりないのは調べれば判る事。言い掛かりをつけても落ち着いて返せるわけだ。
「国境である大山脈の地形と、そこに至るまでの地形を調べてもらった」
「盗賊の姿はなく、亜人族や隣国の大侵攻も形跡は見られない」
「この地形が正しいかどうかは狩人や薬師たちならばよく知ってるだろう」
「地図に関しては見張り塔を立てるために後日に有効利用してもらうとして、盗賊が隠れていると思わしき場所が幾つかある。俺たちはその幾つかを順番に叩いて行く」
俺は仲間たち以外にも聞かせるつもりで計画を話した。
盗賊として私兵を送り込んでいる奴らに聞かれても構わないし、今更逆利用できるほどの時間はないだろう。仮にやろうとしたとしても、いきなり個人で動き出せば怪しいだけである。
そして地図の上にちょっとした物を置き、その脇に説明書きを付けて行く。
「あの……我々も協力したいのですが。地元ですし土地勘はありますし、他所から来た方だけにお任せするのは申し訳ないと思いまして」
「おお。それはありがたい。ただ……」
比較的に若い兵士がおずおずと協力を申し出てきた。
この段階では怪しいとも何とも区別がつかないので、平然と頷きつつも、地図に書いた但し書きを指さしておく。そして詳細を説明することで、『集団行動』を取らせることにした。さっきも言ったが、一人一人で動かれる方が面倒なことになるからだ。
「我々は念の為、確実に勝てる戦力を引き連れています」
「また盗賊たちはこの土地を狙う者の偽装兵である可能性もゼロではありません」
「そこで協力を申し出てくださる皆さんで隊伍を組んでいただきたいのです」
「そうすれば騙し討ちにあったりすることもないでしょうしね。もちろんただの盗賊であれば速やかに叩き潰すことも出来ますから」
言い掛かりと水掛け論には終りがないが、この段階で出来ない論調がある。
今まで盗賊を捉えることが出来なかったのに、『自分たちが居ればお前たちなど要らん、帰れ』と言う訳にはいかないのだ。だから、もし盗賊と言う名の私兵を逃がすとしたら、個別に別れて伝える事だろう。なので俺としては釘を刺しておく。
また他所の貴族の陰謀を説明したのに、『自分だけは一人で十分だ。徒党を組めなどと馬鹿にしているのか!』などと言い出すのもおかしいだろう。おそらく、後は力攻めで私兵たちを駆逐できるだろう。
「それは構いませんが、一か所に固まり続けたら一部は逃げてしまいませんか? 包囲網を築いた方が良いと思うのですが」
「重要なのはこの土地と住む人々です。一人・二人逃がしてでも確実に倒しておきましょう」
広く展開すると、薄い部分から全員が逃げ出す可能性もある。
だがこちらが大部隊であれば、四方に散ったとしても逃げれるのは一部だけだ。大多数を討ち取ってさえしまえば問題ないし、もし本当に私兵集団であれば、何のフォローもなく討ち取られるままにしている雇用主を良くは思わないだろう。また、親族衆にだって派閥と言う物がある。まとめて扱われれば、お互いを監視してくれるだろう。
そして俺の立てた計画は、この地を守るという点に置いて首尾一貫している。功績などよりも人々や農園を守り、受け継いできた伝統あるダンジョンを確保するという意味で、これを上回る反論を難しくしていた。
「それで良いのでしたら、そうさせていただきます。一刻も早く盗賊たちを倒しましょう」
「ええ。ではルートを決め次第に出撃ましょうか」
こうして俺たちは盗賊退治を始めることにした。
本命はダンジョンであるし、時間なんぞ掛けたくないからな。
●
さて、以前にトロールが支配種族ではないと断言した。
それは彼らが陽の光を嫌っているからであり、丸一日は日射しの中を抜けて移動せねばならないからだ。そりゃ葡萄園の中で寝そべって踏み留まれば別かもしれないが、それでも日射しは挿し込むし、都合よく抜けて行くルートなど存在しない。
つまりはこの地域と言うは、とても見晴らしが良いのだ。
盗賊が夜間に隠れて動くとしても、隠れることができる場所は限られている。全員が私兵で親族衆の中でも有力者が黒幕なら、館の一つも与えているかもしれないが、それはそれで露見してしまったら致命的な事になるからあまり心配して居なかった。
「この地域には洞窟が無く、崖と小島に廃墟が一か所ずつある」
「どっちも沿岸で見え難い位置だから気を付けてくれ」
「もう片方のルートの方が簡単なんだが、向こうは地元の連中に任せたい」
「貧乏くじだと思ってあきらめてくれるとありがたい。その分だけ報酬は弾むからな」
見晴らしが良いと言った通り、隠れる場所そのものが殆どない。
その辺りを踏まえると、この辺にある廃墟の様に壊れた建物を利用しているという方がありえるだろう。畑の中に穴を掘って居るとか、農村の連中を脅して丸ごと入れ替わっているみたいな大仰な事は時間と地域の問題でやって居ない可能性が高かった。
その点、こういう場所なら盗賊が隠れていても不思議じゃないからな。
もちろん地元の連中も一度は探したはずだが、身内が匿っているなら『あそこは確かめたが誰も居なかった』で通じてしまうのもあるから信用できない。その点、今回は俺達だけのチームと、派閥を雑多に放り込んだチームで押し切るわけである。
「崖は判りますけど、小島はどうするのですか? 船の手配とかされてませんよね?」
「ここの島は直ぐ近くな上に浅瀬でな。干潮の時には渡れるんだと」
「それは助かるネ。ワタシ、実は泳げないアル」
泳いだ経験のなさそうなリシャールの質問に事前に調べた話を伝える。
ブーの方はネタ話をしながら『実は泳げた』とか言う小細工をしてくるので信用するのは止めておこう。単純に泳ぐのが嫌いなだけの場合もあるしな。そして重要なのは地形に対する把握である。地元出身の者に怪しい場所を色々尋ねて回って把握したわけだが、最も怪しいのは島である。
崖の方は見え難いだけで隠れ潜むしかできないが、小島の方は事前に情報があれば素早く渡って隠れることができるからだ。船が必要と思われやすい事もあり、干潮時に別の場所へ移動し、調査が終わってから戻ってくることも出来るだろう。
「想定される戦力はどのくらいだ?」
「それで戦い方が変わりますよね」
「崖なら元は砦なんで数が居る可能性があるな。小島の方は修道院で、少数精鋭かつ魔法使いも居る可能性がある。ただ前者はクロスボウを連射すればいつか勝てるので、それほど恐ろしくも無い、やはり警戒が必要だとしたら後者だろうよ」
フーとジャンに海岸線を守る警備施設だと説明した。
崖の方は上から攻城兵器で船を攻撃したり、上陸して来た連中に備えるための場所だから、兵士たちがそれなりに詰めて居られる場所だ。しかしこっちは隠れる場所が少ない上に、何人もの人間で探して歩ける。大集団が隠れ潜んで居るのは難しいだろう。
そういった意味でも本命は小島の方である。
隠れ潜んだ上で、魔法使いが偽装用の魔法を使うなり、あるいは逃走用の魔法を使って逃げる可能性があるだろう。小さな舟に帆を掛けて風を吹かせるとか、才能のある魔法使いなら全員に水の上を歩く魔法を掛けられるかもしれない。干潮に隠れて逃げることを前提に、そこまでやったら隠れる可能性が高くなるだろう。そして裏切者が通報すれば、簡単に隠蔽できるわけだ。
「大規模な盗賊団である可能性も念頭に入れて崖から行く」
「どのみちクロスボウを持ったホムンクルスはこっちにしか使えないからな」
「ここに居ないエレオノーラを除いた全員で出撃」
「時間を掛けて相当するつもりだが、誰も居なければリシャールとフィリッパを置いて島に行く。今日明日には終わらせるぞ」
どちらに居ようとも時間を掛ける気はなかった。
裏切者の通報があっても困るので、速攻で終わらせる方が良いだろう。
こうして俺たちは盗賊退治の任務に王手をかけたのである。
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