上 下
20 / 84
天然のダンジョンへ向けて

攻略計画の始動

しおりを挟む

 ホムンクルスを作りつつ、余った予算の範囲で移民を呼ぶことにした。
強化個体やその新型を自家生産するとなると、どうしても研究室を作って魔力を回さないといけない。そうなるとどうしても予算が限られるのだ。当然ながらホムンクルスの生成にも時間が掛かる為、別々の地方に済む移民を少しずつ呼んで、開拓村に紹介しつつ使えそうな人間を育てていくわけだ。ただ、この場合の問題は『実際の戦力がさして向上しないのでは?』という不満が出て来る。

そこで妥協せず、スケジュールを意欲的に弄ってみた。
まず生産されたばかりの指揮個体や強化個体を運用実験するデータ一式、それを元に生産に関する権利を研究所に渡す事にした。次にその差額で研究室用の設備を徐々に発注し、可能な限り予算を抑える訳である。これをやるとそもそも失敗作であっても文句を言えないし、同じ形式のホムンクルスが流行しても生産差し止めを要請できないが、別にホムンクルス販売で儲ける気はないので問題は無い。

「指揮個体の方は順当に強化されてるが、強化個体の知能向上は微妙だな」
「村人や離れていた味方の識別くらいは出来るようになったんで褒めて欲しいっす」
 能力の方向性をザックリ強化するだけなので、狙い通りとも限らない。
なので一番重要なポイントだけを抑えて、その周辺に関してはおざなりな強化と言えるだろう。ちなみに掛けた予算は三倍で能力は五割増し前後というところだ。もちろん自前の研究所で魔力を賄い、素材を持ち込めば二倍くらいで収まるらしいが基本的なコストを考えれば微妙な処だろう。少なくとも指示するのが面倒だから村と森の境に置く為に量産する気にはなれなかった。

指揮個体の方はひとまず問題ないだけの知能を発揮。
自主性はまったくないが、状況に応じた矢の撃ち分けなどの課題は全てこなしてくれた。反面、戦闘力的には目に見えた変わりはない。連射できることを前提にクロスボウのサイズを大きくしたり、大斧や大剣を持たせて初めて違いが判る程度である。

「本命は戦闘力なんすからこっちに注目してくださいっす! じゃじゃーん! どうですか、このマッシヴかつマッシヴなスタイルを!」
「仕様書は……なるほど、新型を作りたくなるわけだ」
 自慢したがるフィリッパを無視してデータの方を読み込んだ。
敏捷性に関しては殆ど変わっておらず、十歩歩く時に十一歩になったくらい。しかもこれは体格が微妙に大きくなり、歩幅が増した分を換算すると大して変わってないという事だ。いや、マイナス部分を補ったというべきか? その分だけ筋力と耐久面の成長が大きく、微増した知能も含めて悪くない出来であった。

ここでさらに新型を目指したくなるのは武装の適正サイズだった。
指揮個体はクロスボウのサイズ変更がヘビークロスボウになった程度だが……。こいつは鋼鉄の盾と剣、あるいは大盾と短槍を同時に運用できる。もっと強く成れば大剣と盾、あるいは大盾と名槍を同時に運用できるだろう。強化個体の役目は前衛の中でも突撃役なので、それだけのスペックを発揮できるのは魅力的だった。

「この子だって十分に強いっすよ! 今居る子を慈しむ心が先輩には足り無いっす」
「そいつはお前さんに任せるよ。一番ホムンクルスを上手く扱えるんだしな」
 戦力拡充を積極的に進めたのはフィリッパを繋ぎ止めるためでもある。
今は新型のホムンクルスに夢中だが、次々に目移りするのは目に見えている。新型を完成させて納得したらまた更なる新型か、あるいは別タイプの特化モデルでも作りたくなるだろう。そんな時、研究員のまま戦力として借りるのでは飽きてしまう可能性もある。また作れる個体に研究室からの制限があり、作りたい物が作れないというのもあるだろう。

その点、ダンジョンに彼女の研究室を据えれば話は変わる。
彼女が作りたい個体を作れるし、いずれ自分のダンジョンになるのだからと、本腰を入れて協力してくれるだろう。

「それではワタシ、一度、邦に帰るネ。また会たらヨロシク」
「変則的な契約で済まないな。お前さんと見つけや奴はそっちの自由なタイミングで往復してくれて良い」
 移民に関しても一段階意欲的に人材を見つけることにした。
里帰りしても良いと持ち掛けたブーの提案に乗り、奴の渡航費用を払ってやる。自分が里買えりしたいと言う奴にそこまでする義理はないのだが、向こうでやってもらう作業を真面目にこなして欲しい。そこでボーナス気味に支払ったというワケだ。

もちろん狙いは移民する気のない人間のスカウトである。
条件次第で一時的に雇われても良いとか、ワケ有りで目を付けられて居る奴とか。そういう連中を見て来てもらう。流石にこういうのは金だけ出しても駄目だからな。現地で活動する奴が居て、そいつの『目』が信用できるなら一人分の渡航費くらいは安い物だ。

「条件は前衛、それで間違いナイネ? 癖のある人なりそうヨ?」
「お前さんが任せられると思う実力に届くんなら大抵の事は構わないさ。流石に居直って領地を切り取る盗賊騎士とかは困るがな」
 ダンジョンを攻略するには有能な前衛が欲しい。
ホムンクルスは能力面では優秀でも、経験はないし戦技の類は使えないからだ。強化魔法は使えなくもないが、それだって一種類程度である。それを考えれば優秀な前衛が欲しくなっても仕方がないだろう。

能力の種類や性格に関しては大抵の場合問題に成らない。
エレオノーラやフィリッパと仲互いするような奴は論外だが、アクが強いくらいなら一時的な契約なのでそれほど問題は起きないだろう。むしろダンジョンであったり開拓村を奪って領地にするような奴が一番困ると言えた。

「盗賊騎士は平気で嘘を吐くネ。そこは任せてもらって問題ないアル」
「頼んだぞ。こっちはその間にホムンクルスの新造と可能な限りの情報を集めとく。それが終わったら第一次攻略作戦だな」
 ブーが居ない間にもやるべきことがある。
フィリッパは強化個体の使い勝手を試し、その成果を踏まえて上級個体を作成する。俺は天然のダンジョンでよく見られる傾向の情報を集め、エレオノーラは家に残った資料を不自然でない程度に持ち出す事になっていた。

そしてダンジョンの攻略を開始して、現地がどうなっているのかを肌で感じる。
ある程度を攻略したところで安全に撤退し、改めて戦力を整え直し確実の攻略を……より正確には再制圧を試みる予定である。場合によっては魔法施設を建てるために時間を稼ぐこともあれば、直接中枢に乗り込むこともあるだろう。そこの魔力がどうなっているのか、占拠している亜人の種類などそれらを知ることで少しずつ可能になるだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

神聖国 ―竜の名を冠する者―

あらかわ
ファンタジー
アステラ公国、そこは貴族が治める竜の伝説が残る世界。 無作為に村や街を襲撃し、虐殺を繰り返す《アノニマス》と呼ばれる魔法を扱う集団に家族と左目を奪われた少年は、戦う道を選ぶ。 対抗組織《クエレブレ》の新リーダーを務めることとなった心優しい少年テイトは、自分と同じく魔法強化の刺青を入れた 《竜の子》であり記憶喪失の美しい少女、レンリ 元研究者であり強力な魔道士、シン 二人と出会い、《アノニマス》との戦いを終わらせるべく奔走する。 新たな出会いと別れを繰り返し、それぞれの想いは交錯して、成長していく。 これは、守るために戦うことを選んだ者達の物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー?~

Red
ファンタジー
綿貫真司、16歳。養護施設出身という事を覗けば、何処にでもいるごく普通の高校生だ。 ある日、いつもと変わらない日常を送っていたはずの真司だが、目覚めたら異世界にいた。 一般的な高校生の真司としては、ラノベなどで良くある、異世界に転移されたという事を理解するが、異世界転移ものにありがちな「チートスキル」らしきものがない事に項垂れる。  しかし、ない物ねだりをしても仕方がないという事で、前向きに生きていこうと思った矢先、|金銀虹彩《ヘテロクロミア》を持つ少女、エルに出会い、望んでもいないのにトラブルに巻き込まれていく。 その後、自分が1000万人に1人いるかいないか、といわれる全属性持ちだという事を知るが、この世界では、属性が多ければ良いという事ではないらしいと告げられる。 その言葉を裏付けるかのように、実際に真司が使えたのは各種初級魔法程度だった。 折角チートっぽい能力が……と項垂れる真司に追い打ちをかけるかの様に、目覚めたチート能力が空間魔法。 人族で使えたのは伝説の大魔導師のみと言うこの魔法。 期待に胸を躍らせる真司だが、魔力消費量が半端ないくせに、転移は1M程度、斬り裂く力は10㎝程度の傷をつけるだけ……何とか実用に耐えそうなのは収納のみと言うショボさ。 平和ボケした日本で育った一介の高校生が国家規模の陰謀に巻き込まれる。  このしょぼい空間魔法で乗り越えることが出来るのか?

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...