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天然のダンジョンへ向けて
一次目標の確立
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エレオノーラはダンジョンの傾向以外に説明をしなかった。
これは彼女が親族から何も知らされて居なかったという訳ではない。複数の亜人種が混ざると主力となるゴブリンはともかく、年月が経つうちに支配階級がどの種族なのか判り難くなるからだ。
ゴブリンのキング以上かもしれないし、洞窟エルフかもしれない。
はたまた愚鈍なトロールの中で、先祖返りした知性あるトロールだったりする可能性もあるわけだ。自分が管理しているダンジョンで周囲からのモンスターが普通に入れる様にしていた経緯から、天然のダンジョンでも当初は自由に入れたのだろう。
「当時に飛び回っていたドラゴンや蔓延っていた吸血鬼の伝承は無し。日避けや雨宿りできない場所が数日以上分続くから、周辺地形から考えてトロールのセンは薄いな」
「トロールはお日様が嫌いなんでしたっけ」
天然のダンジョンは少ないので調べ易い。
情報収集以外にすることも無かったので、リシャールの座学を兼ねてここ最近は机に向かっている。偶に出かける時は頼んでいた情報屋から仕入れる時くらいだ。
「オーガはどうですか? 女性体が魔法を使う事もあるとか」
「連中はその辺が血族で伝わり難いから先祖返り以上には成り難いが……念の為に注意しておくか」
単に賢いオーガじゃゴブリンキングと対して変わらない。
偶に魔法を使う奴が出ても攻撃魔法で終わる事が多いから問題にはならないとは思う。知恵あるトロールの場合は再生力のおかげで死に難いからな、同じような先祖返りと出逢って家族を作れば脅威になり易いのだ。日を嫌うという特性上、同じような場所に集まり易いと言うのもあった。
とはいえリシャールがやる気を出しているし、視点の違いは重要である。
ここはありえないと否定するよりも、褒めて伸ばしておくところだろう。俺たちの役目はアイデア出しであるわけだし、種族の名前を並べているだけではなく確りとした理由があるなら正しい行為である。トーロルやハッグをオーガの女性体に数えている地域もあるかもしれんしな。
「よく見たな。例を出したのも良い」
「付け加えるとしたら言葉と資料では多少変えるくらいか」
「それと相手と周囲の状況には注意しておくと良い」
「例えばエルフでも長老なら今ので通じるだろうが、年若い狩りの頭だと知らずに『そんな物はありえない』と反論する可能性がある。個人だと半信半疑で受け入れることもあるが、皆の前だと強硬姿勢な奴も居るしな」
まずはどのように良かったかを具体例を挙げる。
その上で改良するポイントと、注意すべきポイントに言及しておく。資料ならば目撃例や参照用の文献を使えるとか、意固地な相手は性格を見ないと説得する以前に意見を潰されたりする可能性があるからな。もちろん万全の備えが出来てるならそれでも良いのだろうが、穴と言う物は何処にでも存在する訳だし。
ともあれ今後もリシャールとの関係が続くならこのくらいで良い。
重要なのはエレオノーラの一族が有する天然のダンジョンを攻略する事であり、リシャールを鍛えることはついででしかないからな。
「判りました、師匠。でもそんなに相手で変わりますか?」
「使う武装のサイズや種類とか結構違うぞ。流石にスレイヤー武装まで用意しようとは思わんが、知恵あるトロールやオーガだとダンジョンで取り回し易い軽弓じゃ効かん。ゴブリンは隠れるし、エルフは魔法の防御を重ねて来るからな。もちろん罠だって怖い」
相手によって適正な武装と言う物が存在する。
例としては挙げなかったが、吸血鬼が居るなら銀の武器が有効だとかな。クロスボウやその上であるヘビー・クロスボウは迷宮の中でも役立つが、攻城用のアーバレストなんかは基本的に無用の長物だ。だが知恵あるトロール相手なら即死狙いで有効だし、洞穴エルフが矢を反らせる魔法を使って居たら、弓の類全部が無駄になる。
俺はそう言った事を簡単に説明しながら、可能な限り有効な組み合わせを事前に見出しておきたいのだと告げた。
「一回の攻略で落とせるとは最初から思ってはいない。だが引いて攻めるのは最低限にしたいな。横槍を狙う奴は何処にだっている。保険として長期戦の備えはやっておくが、それを最初から使おうとは思ってない」
「……師匠は邪魔者が来るとお考えなのですか?」
エレオノーラの都合もあるのでここでベラベラとは喋らない。
だがリシャールの質問に頷き、遺跡荒らしや自分のダンジョンを失ったダンジョンマスターの脅威は一定数あり得るとだけ説明しておいた。実際に送り込まれてくる連中や、『偽名』として名乗るのはその辺だろうしな。
とはいえ、その辺の連中を本当に警戒しているわけではない。
問題となるのは他家の財を狙っているお貴族さんであったり、政府筋の中でも確固たる領地や権勢を持ってない連中、あるいはエレオノーラの親族の中で傍系の連中だろう。要するにエレオノーラの本家にはダンジョンの経営が出来てないと言って、奪う事の出来る連中を疑っているのだ。
「そうなるな。一応はエレオノーラの一族の管理地だ」
「実績と伝統と言うのは時として力になる」
「今の時点で押さえているエリアに加えて、新しく一定部分を確保」
「そうすれば行政だって余所者にはおいそれと認可なんぞ出さん。最初の目的はその辺りまでの確保と、確実なデータの入手になるな」
ダンジョンの再攻略に比して低い目標ではある。
だが、厄介な邪魔者が居る可能性があり得る以上は最低目標を確実に抑えておく必要があった。この辺りは当初のダンジョン経営には関係ないが、協力すれば新しい契約をもぎ取れるので所長も文句を言っていない。もし文句を言って来たら、俺の事がエレオノーラ排除に邪魔だと思い始めてからだろうから、その時は無視して攻略に専念しても良いだろう。
そういう意味でホムンクルスの部隊と言うのは割りと都合が良い。
数を揃え易いので、交代要員として後ろに数体配備して置けば、バックアタックを警戒できるからだ。横槍を入れたい連中が亜人種のフリして後ろから襲ってくるのは普通にあり得るからな。
「そう言えばフィリッパと一緒にまた森に行ったんだってな。感想は?」
「随分と楽になりました。人数を減らしたこともあって森も荒れませんでしたしね。次は僕一人で行けるように指示を何度か繰り返してもらう予定です。その次はまだ先ですけどね……」
どうやら指揮個体と強化個体の方は順調らしい。
俺やブー無しでも森の外延部を歩いて戻って来れたとの事。次はフィリッパ抜きで行動だが、実際には外延部に待機して、リシャールが戻って来る安全地帯を連れているようなものだ。リシャールとしては余所者抜きで一人で森の管理をしたいんだろうけどな。
ともあれその前後でやるべきことがある。
研究室を作ってフィリッパのやる気を維持したように、リシャールのやる気も維持しないといけない。また移民がやって来た時に、バランス取りもやらねばならないのだ。森の管理の様に、人間関係にも管理が重要だった。
「しばらくしたら新型のホムンクルスもひと段落するだろう。完成はまだだろうが一時的に使用魔力が減る。リシャールさえ良ければ女の子たちをそろそろ起こそうと思うがどうだ?」
「は、はい! ありがとうございます! その頃には何とかしますね!」
眠っている女の子たちを確実に起こすためには魔力が必要だ。
余剰魔力を使って儀式魔法を確実に成功させ、魔法の解除を行う。そしてエルフ三人になれば、森の管理もし易いし住人たちのバランスも取れるだろう。そして何よりポーション用の薬草管理が可能になるはずだった。何だったら女の子たちにはポーション造りの初歩を教えても良いな。錬金術師にならずとも治療師あたりも作れるはずだ。
そうしてこちらの戦力と装備を整えれば、攻略作戦が開始できるだろう。
エレオノーラはダンジョンの傾向以外に説明をしなかった。
これは彼女が親族から何も知らされて居なかったという訳ではない。複数の亜人種が混ざると主力となるゴブリンはともかく、年月が経つうちに支配階級がどの種族なのか判り難くなるからだ。
ゴブリンのキング以上かもしれないし、洞窟エルフかもしれない。
はたまた愚鈍なトロールの中で、先祖返りした知性あるトロールだったりする可能性もあるわけだ。自分が管理しているダンジョンで周囲からのモンスターが普通に入れる様にしていた経緯から、天然のダンジョンでも当初は自由に入れたのだろう。
「当時に飛び回っていたドラゴンや蔓延っていた吸血鬼の伝承は無し。日避けや雨宿りできない場所が数日以上分続くから、周辺地形から考えてトロールのセンは薄いな」
「トロールはお日様が嫌いなんでしたっけ」
天然のダンジョンは少ないので調べ易い。
情報収集以外にすることも無かったので、リシャールの座学を兼ねてここ最近は机に向かっている。偶に出かける時は頼んでいた情報屋から仕入れる時くらいだ。
「オーガはどうですか? 女性体が魔法を使う事もあるとか」
「連中はその辺が血族で伝わり難いから先祖返り以上には成り難いが……念の為に注意しておくか」
単に賢いオーガじゃゴブリンキングと対して変わらない。
偶に魔法を使う奴が出ても攻撃魔法で終わる事が多いから問題にはならないとは思う。知恵あるトロールの場合は再生力のおかげで死に難いからな、同じような先祖返りと出逢って家族を作れば脅威になり易いのだ。日を嫌うという特性上、同じような場所に集まり易いと言うのもあった。
とはいえリシャールがやる気を出しているし、視点の違いは重要である。
ここはありえないと否定するよりも、褒めて伸ばしておくところだろう。俺たちの役目はアイデア出しであるわけだし、種族の名前を並べているだけではなく確りとした理由があるなら正しい行為である。トーロルやハッグをオーガの女性体に数えている地域もあるかもしれんしな。
「よく見たな。例を出したのも良い」
「付け加えるとしたら言葉と資料では多少変えるくらいか」
「それと相手と周囲の状況には注意しておくと良い」
「例えばエルフでも長老なら今ので通じるだろうが、年若い狩りの頭だと知らずに『そんな物はありえない』と反論する可能性がある。個人だと半信半疑で受け入れることもあるが、皆の前だと強硬姿勢な奴も居るしな」
まずはどのように良かったかを具体例を挙げる。
その上で改良するポイントと、注意すべきポイントに言及しておく。資料ならば目撃例や参照用の文献を使えるとか、意固地な相手は性格を見ないと説得する以前に意見を潰されたりする可能性があるからな。もちろん万全の備えが出来てるならそれでも良いのだろうが、穴と言う物は何処にでも存在する訳だし。
ともあれ今後もリシャールとの関係が続くならこのくらいで良い。
重要なのはエレオノーラの一族が有する天然のダンジョンを攻略する事であり、リシャールを鍛えることはついででしかないからな。
「判りました、師匠。でもそんなに相手で変わりますか?」
「使う武装のサイズや種類とか結構違うぞ。流石にスレイヤー武装まで用意しようとは思わんが、知恵あるトロールやオーガだとダンジョンで取り回し易い軽弓じゃ効かん。ゴブリンは隠れるし、エルフは魔法の防御を重ねて来るからな。もちろん罠だって怖い」
相手によって適正な武装と言う物が存在する。
例としては挙げなかったが、吸血鬼が居るなら銀の武器が有効だとかな。クロスボウやその上であるヘビー・クロスボウは迷宮の中でも役立つが、攻城用のアーバレストなんかは基本的に無用の長物だ。だが知恵あるトロール相手なら即死狙いで有効だし、洞穴エルフが矢を反らせる魔法を使って居たら、弓の類全部が無駄になる。
俺はそう言った事を簡単に説明しながら、可能な限り有効な組み合わせを事前に見出しておきたいのだと告げた。
「一回の攻略で落とせるとは最初から思ってはいない。だが引いて攻めるのは最低限にしたいな。横槍を狙う奴は何処にだっている。保険として長期戦の備えはやっておくが、それを最初から使おうとは思ってない」
「……師匠は邪魔者が来るとお考えなのですか?」
エレオノーラの都合もあるのでここでベラベラとは喋らない。
だがリシャールの質問に頷き、遺跡荒らしや自分のダンジョンを失ったダンジョンマスターの脅威は一定数あり得るとだけ説明しておいた。実際に送り込まれてくる連中や、『偽名』として名乗るのはその辺だろうしな。
とはいえ、その辺の連中を本当に警戒しているわけではない。
問題となるのは他家の財を狙っているお貴族さんであったり、政府筋の中でも確固たる領地や権勢を持ってない連中、あるいはエレオノーラの親族の中で傍系の連中だろう。要するにエレオノーラの本家にはダンジョンの経営が出来てないと言って、奪う事の出来る連中を疑っているのだ。
「そうなるな。一応はエレオノーラの一族の管理地だ」
「実績と伝統と言うのは時として力になる」
「今の時点で押さえているエリアに加えて、新しく一定部分を確保」
「そうすれば行政だって余所者にはおいそれと認可なんぞ出さん。最初の目的はその辺りまでの確保と、確実なデータの入手になるな」
ダンジョンの再攻略に比して低い目標ではある。
だが、厄介な邪魔者が居る可能性があり得る以上は最低目標を確実に抑えておく必要があった。この辺りは当初のダンジョン経営には関係ないが、協力すれば新しい契約をもぎ取れるので所長も文句を言っていない。もし文句を言って来たら、俺の事がエレオノーラ排除に邪魔だと思い始めてからだろうから、その時は無視して攻略に専念しても良いだろう。
そういう意味でホムンクルスの部隊と言うのは割りと都合が良い。
数を揃え易いので、交代要員として後ろに数体配備して置けば、バックアタックを警戒できるからだ。横槍を入れたい連中が亜人種のフリして後ろから襲ってくるのは普通にあり得るからな。
「そう言えばフィリッパと一緒にまた森に行ったんだってな。感想は?」
「随分と楽になりました。人数を減らしたこともあって森も荒れませんでしたしね。次は僕一人で行けるように指示を何度か繰り返してもらう予定です。その次はまだ先ですけどね……」
どうやら指揮個体と強化個体の方は順調らしい。
俺やブー無しでも森の外延部を歩いて戻って来れたとの事。次はフィリッパ抜きで行動だが、実際には外延部に待機して、リシャールが戻って来る安全地帯を連れているようなものだ。リシャールとしては余所者抜きで一人で森の管理をしたいんだろうけどな。
ともあれその前後でやるべきことがある。
研究室を作ってフィリッパのやる気を維持したように、リシャールのやる気も維持しないといけない。また移民がやって来た時に、バランス取りもやらねばならないのだ。森の管理の様に、人間関係にも管理が重要だった。
「しばらくしたら新型のホムンクルスもひと段落するだろう。完成はまだだろうが一時的に使用魔力が減る。リシャールさえ良ければ女の子たちをそろそろ起こそうと思うがどうだ?」
「は、はい! ありがとうございます! その頃には何とかしますね!」
眠っている女の子たちを確実に起こすためには魔力が必要だ。
余剰魔力を使って儀式魔法を確実に成功させ、魔法の解除を行う。そしてエルフ三人になれば、森の管理もし易いし住人たちのバランスも取れるだろう。そして何よりポーション用の薬草管理が可能になるはずだった。何だったら女の子たちにはポーション造りの初歩を教えても良いな。錬金術師にならずとも治療師あたりも作れるはずだ。
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