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1 悪役令嬢の息子、故郷へ帰る

1―7 今夜は、月が美しい

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 1ー7 今夜は月が美しい

 俺の体に巻き付いてくる毛むくじゃらの腕に体を掴まれて、俺は、身を捩った。
 硬い毛が背中を刺激してくる。
 「ぐへへっ」
 耳元で化け物どもの笑い声がきこえて肩に生暖かい臭い液体が滴ってくる。
 俺は、なんとか逃れようとしてもがいたが、すぐに体格のいいゴリラに抱えあげられてしまった。
 ゴリラもどきは、俺を頭上へと捧げると雄叫びをあげた。
 それを見た他の化け物たちも大声をあげる。
 何?
 俺、どうなるの?
 やっぱ、あのおっさんの言った通りにこれから地獄が始まるのか?
 俺は、情けないが泣きながら小便を漏らしていた。
 ああっ
 もう、ダメだ。
 俺は、こいつらに死ぬまで弄ばれて、そして・・
 俺を背後から抱いていたゴリラがくひひっと笑うと、俺の頬を長い舌で舐めあげた。
 「っっ!」
 ざらざらした舌に舐められて、俺は、びくっと体を強張らせた。
 もう、俺、俺。
 俺は、顔中を涙と鼻水とでびしゃびしゃにしていた。
 そんな俺の様子にゴリラもどきたちは、嬉しげに低い不気味な笑い声をあげた。
 ゴリラもどきは、俺のことを背後から両足を開かせるようにして抱えあげ、周囲の仲間たちに見せつけるようにして俺の耳に舌を入れてきた。
 俺は、恐怖と気色悪さに震えた。
 神様!
 助けてくれたら、一生童貞のまま神にお仕えします!
 だから!
 俺は、叫んだ。
 「あっ・・だ、だれ、か・・助けてっ!助けてぇっ!」
 ゴリラもどきどもがきへへっと笑い声をあげたとき、何かが光るのが見えた。
 そして、激しい風圧に俺は吹き飛ばされた。
 地面に尻餅をつき、俺は、痛みに呻いた。
 なんだ?
 何かが頭上から滴り落ちてくる。
 青いその滴りが俺の体を染めていく。
 俺は、顔をあげた。
 月が。
 赤い大きな月が夜空にぽっかりと浮かんでいた。
 「えぇっ?」
 辺りには、ゴリラもどきが山となってたおれていた。
 その中にそいつは、1人立っていた。
 赤い、髪。
 長い、赤い髪がすごくきれいで。
 俺は、さっきまでのことも忘れてただ、その男を見つめていた。
 巨大な考えられないぐらい重そうな黒い剣を肩に担いだその男は、俺に向かって口を開いた。
 「今夜は」
 俺は、男のことを見いっていた。
 男は、低いきき心地のいい声で囁いた。
 「月が美しい」
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