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6 魔王の都の春の祭り

6―8 ハツ様

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 6ー8 ハツ様

 俺は、気がつくと村の外れにある俺の家まできていた。
 この辺りまでくると人影もまばらだった。
 俺は、祭り中に身に付けるように言われている白い美しい刺繍が施されたローブをまとっていたから、かなり目立っていたが、幸いにも誰も話しかけてくる者もいなかった。
 俺は、とにかく1人になりたくて。
 家へと歩み寄ると、そこには、先客がいた。
 家の前に置かれた椅子に腰かけたその人物は、ぐったりと疲れきった様子だったので、俺は、最初それが誰かもわからなかった。
 「ティル?」
 顔をあげたその人は。
 「ハツ、様?」
 久しぶりに見たハツ様は、薄汚れて髭ものびほうだいだった。
 ハツ様は、俺に弱々しく微笑みかけるとそのまま崩れ落ちた。
 「ハツ様!?」
 俺は、ハツ様をなんとか家の中へと運び込んで寝室のベッドへと横たわらせ、そばにあった椅子を引き寄せて腰かけた。
 俺は、眠っているハツ様の寝顔を見つめていた。
 ハツ様と俺の関係は、俺が奥様の世話係に抜擢されてからのものだった。
 「君が新しいアカネの従僕か?」
 ハツ様は、俺を見て驚きを隠せなかった。
 そう。
 俺は、奥様の世話係にしては、年をとっていたからな。
 もっと若い者がくることをハツ様は予想していたのだろう。
 「失礼だが、君は、いくつだ?」
 「40才になります」
 そう答えた俺にハツ様は、戸惑いつつも優しく接してくれた。
 ハツ様は、宮廷魔道師でお忙しく奥様は、1人で過ごされていることが多かった。
 だが、奥様には『通販』があった。
 しかし、俺には、当時、奥様が気の毒に思われていた。
 だから。
 奥様のためにできるだけのことをして差し上げようと決意した。
 結局、奥様は、けっこう1人で大丈夫な人だったのだがな。
 俺が仕えるようになってすぐに奥様は、王都の王宮の近くにあるクルベニア辺境伯のお屋敷から郊外にある別邸へと移られたため、俺がハツ様と直接お会いすることはあまりなかった。
 だが、俺は、ハツ様にあまり悪印象は持っていなかった。
 奥様が変わり者だったこともあったが、世間のハツ様に対する噂をきいていたことが理由だった。
 ハツ様は、勇者様のパーティーの一員であり、聖女ルルぅ様の家庭教師でもあった。
 
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