上 下
17 / 54
第一章 ドラゴンの呪い

17 キャンディ『王の権力を使いますわ』

しおりを挟む

「勇者クラリス、我が姫を助けてくれてありがとう」
「いえ、当然のことをしたまでです」

 ここは王都ペンライトの宮殿。
 わたくしの父親、ペンライト王は、どうやら勇者様を気に入ってくれたようですわ。
 おーほほほ、嬉しい展開で、よきまるぴーぽー!

「クラリスには、恩賞として10000ペンラを与えよう」
「ありがとうございます。ペンライト王」
「ガーハハハ、良い行いをした者には褒美、悪いことをした者には処刑、これがペンライト王国のあるべき姿だ」
「しょ、処刑って……あはは、絶対に悪いことはしません」
「おうおう、我が悪い、と思えば処刑だからな! 王様は面白いぞぉーガーハハハ」
「……もしかして、最強職って王様かもしれませんね」
「はあ? 職業だ? んなもんと一緒にせんでくれ。王様は王様だ」
「……はい」
「ガーハハハ」

 わたくしの父親は、このようにクズ。
 十年前は、まるで戦士のように勇ましかった肉体も。
 いまではすっかり、まるまると太った豚のよう。
 その理由は、明らかに権力を得たから。まさにやりたい放題。
 お爺さまである先代の王が死去し、王様となって至福をこらす。
 ああ、このようなことは続きませんわ。
 いつの日か、必ず天罰が下り、王権制度など崩壊する。
 と、わたくしは踏んでおります。
 よって、わたくしは強くないといけませんわ。
 それは体力も頭脳も魔力も精神もトップクラスでありたい。
 ただ、のほほんと暮らしているだけの姫では、絶対にダメですわ。
 だからわたくしは、魔法学校フロースに入学しました。
 手に職をつければ、姫じゃなくても生きていけますもの。
 
 ──それにしても、あの学校に入ってよかった……。

 なぜなら、永遠のライバルができたから。
 そう、キララさんのことですわ。
 あれは忘れもしれない。新一年生のときに行った魔力測定。
 本日行った水晶玉ではなく、トーナメントバトル方式でしたの。
 わたくしとキララさんは、準決勝で当たりました。
 あの試合は、まさに死闘。
 プライドの高いわたくしです。小娘なんかに絶対負けられない。
 そう思い、本気で殴りましたわ。
 ですが、キララさんはわたくしの攻撃をすべてかわすのです。
 まったく、信じられませんわ。
 まるでわたくしの攻撃が、最初からわかっているようでしたもの……。
 結果、わたくしは体力を削られ、へろへろになり。
 最後に特大のファイヤーボールを撃たれて場外アウトで失格。
 何ですの? あの火の玉は!?
 わたくしが受け止めなかったら、校舎が吹き飛んでいましたわ、キララさん。
 ああ、嫌ですわ。敗北の思い出を振り返るのは……。
 ちなみに、決勝はキララさんとバニーさん。
 あの二人は、もう人間のレベルを超えていましたわね。
 上には上がいる、そう思い知らされましたわ。
 このキャンディより強い者たちがいる。
 それだけで、楽しい学校生活ですわ。おほほほ。

 ──ですが、本日、キララさんの魔力が忽然と消えましたわ。

 いったい何が起きたの?
 わたくしはキララさんとともに、ミネル教授のもとに急ぎましたわ。
 ですが、幸か不幸か、盗賊に襲われ、ひょんなことに勇者様に助けられ。
 いま現在、このような展開になっているのですわ。
 キララさんを農道に置いてきてしまいましたが、まあ、彼女なら何とかしますわね。
 だって、わたくしより強いのですから、おーほほほ。

「ところで、勇者クラリス」
「はい、王様」
「我が姫、キャンディのことなんだが」
「はい、とても美しいです」
「おうおう、だけどな、冒険に出たいと申しておるのだ」
「はあ……」
「そこで、勇者パーティに入れてやってくれんかのぉ」
「え? うちにですか?」
「そうだ。戦闘ではなく荷物番とか料理人とかでもいいから、お仕事体験させてくれんか?」
「……え、まじ?」
「おうおう、なっ、キャンディ姫」

 王が、わたくしを玉座から見下ろしますわ。
 こういう目をしているときは、だいたい、現実を見てこいという合図。
 わたくしが根をあげると思っているのでしょうね。
 おーほほほ、そんなことにはなりませんわ。 
 わたくしは、膝をちょこんとおり、スカートの裾を持ち上げました。

「おうおう、どうじゃクラリス、我が姫を預かってくれんか?」
「わかりました。勇者パーティで冒険の手ほどきを教えましょう」
「そうかそうか、よかったな、キャンディ姫」
 
 ありがとうございます、と言ったわたくしは頭をさげ、さらに続けましたわ。
 
「お父様」
「なんだ? キャンデ姫」
「キララという娘も勇者パーティに入るようお願いします」
「キララ? 明るい名前だな」
「はい、とっても明るい娘でわたくしの友達なのです」
「そうかそうか、一人では心細いものな」
「はい」
「ではクラリスよ、そのキララという娘も入れてやれ」
「え! いきなり二人も女子大生が仲間に加わるなんて、心の準備が……」
「なんだ? ダメなのか? 悪いことすると処刑だぞ? ああ?」
 
 はい、わかりましたー! と勇者クラリスは、慌てて答えましたわ。
 なんだか可愛い。いつもの勇ましさは、どこへやら。

「では、勇者クラリス。キャンディ姫とキララという娘を頼むぞ」
「はい」
「ガーハハハ」
「あ、ははは」
「ガーハハハ」
「あーははは」

 宮殿に、父と勇者様の笑い声が響きますわ。
  
 ──この二人、ちょっと似た者同士かも……。

 

 第一章 『ドラゴンの呪い』  完
しおりを挟む

処理中です...