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プロローグ

1  現在、魔法王国アートコア

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「ヒイロ! 追放して、すまなかったぁぁぁ!」
 
 ──ん、追放? このイケボは?

 僕の名前を叫んでいる不法入国者がいる。
 そう聖騎士から報告があり、刑務所に来てみたのだが……。

 ──この男は、まさか!?

 牢屋のなかで土下座する男は、ゆっくりと顔をあげる。
 え? その顔を見てびっくりした。
 男はかつて、ともに異世界転移した同級生、ミツルではないか!
 彼も彼で、僕を見てびっくりしている。
 まあ、おそらく僕が、着物を羽織っているからだ。
 異世界で君主となった僕は、コスプレをして楽しんでいた。
 簡単に言えば、三国志の武将──諸葛亮孔明っぽい服を着ている。
 僕は、腕を組んで、笑いをこらえた。

「……うふふ」
 
 ── 僕を追放した同級生が不法入国してきて草。

 というのも、ここは、僕がつくった魔法王国アートコアにある牢屋だ。
 久しぶりにここへ来たが、とても人が住める環境ではない。
 カビ臭いし、ネズミの死骸が散らばっている。
 これは、ウィルスの感染源になりかねない。
 あとで掃除するよう、クリーンアップの魔法使いを派遣しよう。
 にしても、ミツルが不法入国してくるなんて思わなかったな。
 
「ヒイロ……背が伸びたな……」
「……」
「その格好はなんだ?」
「……」
「チッ、なんで何も話してくれない……ハァ……ハァ……」

 彼は息が荒く、挙動不審で明らかに様子がおかしい。
 激しい戦闘をしてきたのだろう。
 鎧はボロボロ、剣はサビつき、それに皮膚は泥だらけ。
 まるで、ホームレスじゃないか、ミツルに何があった?
 いっしょに転移してきた、他の同級生は? 
 武道家のオオタ、それに僧侶のアイリちゃん。
 うーん、気になって仕方がない。 
 だが、僕は沈黙して、じっと彼を見つめていた。
 周りには、聖騎士たちがいる。
 うかつに異世界転移のことは、話したくない。 

「なあ、この国すっげぇな! ヒイロがつくったなんてびっくりだわ」
「……」 
「城壁にいっぱい並んでいるの、あれって魔導砲だろ」
「……」
「すげぇなぁ、この要塞なら魔族なんて怖くないな!」
「……」
「……あはは、君主って王様のことだろ? なぁ、ヒイロ?」
「……」
「おい、なんか言えよ! ヒイロぉぉぉ!」

 ミツルが、そう怒鳴り声をあげた瞬間。
 そばにいた鎧の男が、ザッと短剣を牢屋の格子の間に刺し入れる。

「ひっ!」

 悲鳴をあげるミツル。その顔、ギリギリで剣の切先がとまっていた。

「君主、この不法入国者、斬首しますか?」

 そう聞いてくるのは、高身長のイケメン。黒髪がサラサラと揺れている。
 聖騎士──ディーン。我が国最強の武将でもある。
 ミツルは、まるでこの世の終わりかのように、ヴォイヴォイ泣いていた。
 
 ──許すか? 許さないか?

 僕は、哀れなミツルを見下しながら、そう考えるのだった。
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