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プロローグ
2 話してみるか……
しおりを挟む「しばらく、こいつと二人だけにしてくれ」
「わかりました」
僕が命じると、ディーンは、他の騎士たちを連れて去っていく。
そのなかの一人に、綺麗なお姉さんがいるのだが。
彼女は、ニヤッと僕に微笑みかける。
「ねえ、この産廃、なかなかイケメンだねぇ」
「……バニラ? なんでまだいる?」
「えー、男と二人だけにしろ、なんてヒイロが命令するからさ、ホモ漁りにきたの!」
「じゃかしい! いけっ!」
はーい、と返事をしたバニラは、つまんなそうに蹴って歩いていく。
ごめん、自分の過去のことは、あまり知られたくないんだわ。
それにしても、ヤバいな。
異世界で君主となった僕は、同級生を死刑にできちゃう。
──神にでもなった気分で草。
「さてと……ミツル、久しぶりだね」
やっと、僕が口を開くと、ミツルは破顔して喜んだ。
「よかったぁぁ! 話してくれないかと思った……ううっ」
「落ち着けって……っていうか、オオタは? アイリちゃんはどこにいる?」
「ヒイロ……助けてくれ……」
「何があった?」
「マドリー王国は知っているよな?」
「ああ、最近、うちの国に移住してくる人が多い」
「だろうな……」
「何があった?」
「あの国、魔族に乗っ取られてさ、アイリが捕まっちまったんだ!」
「はあ? まじか……オオタは?」
「わからない。俺とここに来る途中ではぐれた……強い魔族がいたんだよ」
「……ったく、ちょっと見せろ」
膝を曲げた俺は、ミツルの装備している腕輪に触れた。
すると、静かな牢屋のなかに、ピロッと音が鳴り響く。
青白い光の枠が、宙に浮かんでいる。
──ステータス 能力値が見える魔法道具
ミツルの能力を見た。
『 職業 勇者 レベル 42 』
使える魔法は、『ファイヤーボール』『アイスボール』など。
どれも戦闘向きなものばかり。なんとも、好戦種族のミツルらしい。
剣術のスキルは、ほぼ極めていた。大量の魔獣を倒したのだろう。
つまりミツルは、ここらの魔獣や冒険者相手なら無双できる能力と言えた。
だが知能レベルが高い『竜騎士』などの魔王軍直属の魔族が敵となると……。
──とても敵わないだろう。
僕は、哀れなミツルを見つめた。
結局こいつは、オオタやアイリの前で、見栄を張りたかっただけ。
そしてミツルの味方をする、オオタも悪い。
あいつらは、無理やりアイリちゃんを……。
──ああ、思い出しただけで、ムカついてきた!
「ヒイロ、あれから神は現れたか?」
ミツルの質問に、いや、と僕は答え、さらに続けた。
「死んだら帰れないんだぞ、それなのに僕を追放するために、あんなことをするなんて!」
「……すまん、あのときは調子に乗ってた、あはは」
「何を笑ってる?」
「すまん、俺がバカだった、許してくれ、ヒイロ」
「はあ……今更、虫がよすぎるんじゃないか?」
「……すまん」
「おまえらに追放された僕は、死にかけたんだからな!」
「……すまん」
「まぁ、そのおかげで国をつくろうと気づけたから、よかったけどな」
「ううう、ヒイロはすごい、ヒイロはすごい。俺は素晴らしい友達を持ってよかった」
ミツルは、泣きながら僕のことを褒め続ける。
──はあ、なんだこいつ?
高校のころ、僕のことを虐めたくせに、自分が弱い立場になった瞬間……。
──僕を友達だと?
カーッと、僕の頭に血がのぼってくる。
思わず、正座するミツルを見下し、強くにらんだ。
汚い男が牢屋に入っている、そう思った。
すると、僕の心のなかにあるドス黒い腐ったものが、よくも、よくも、と吐き出されていく。
「よくも……僕を虐めたな……」
「……?」
「高校のころ、おまえが僕のことをクラス全員で無視するようにしたな?」
「……ゆるして」
「おまえ、無視され続けた人間の気持ちがわかるか?」
「……悪かったよ、あのときは」
「誰からも話しかけられない日が続くと、どうなると思う?」
「……」
「だんだん、心に穴が空いていくんだよ、ぽっかりな!」
「ごめんなさい……ううう」
「机やノートに、死ねって落書きしたのも、おまえだなミツル」
「許してください」
「おっと今、僕はこの国の君主だ。よってミツルを死刑にできちゃう……うーん、どうしようかな、ん?」
「あっぁあぁぁ、すいません、すいません、ヒイロぉぉ、なんでもするから許して……」
ふんっ、と僕は鼻で笑った。
「なんでもするのか……じゃあ、牢屋に入ってろ!」
僕はそう言うと、踵を返した。
はあ、自分でも大人気ないとは思う。
しかし、はいそうですか、と言って簡単に許せないのも事実だった。
──とりあえず、アイリちゃんを助けにいくか……。
僕はそう思いながら、刑務所を出た。
外は青い空が広がり、暗かった気持ちが、少しだけ明るくなる。
その足で向かうのは、都内から離れた小高い山。
見上げる先には、空に届きそうなほど大きな木がある。
この異世界をぐるっと回ったが、やはり、この木が一番大きい。
思い返すと、僕はこの木に出会って、ラッキーだと言える。
異世界に来て、チート能力を授かる話はよく聞くが……。
──グランドツリー 精霊が宿る木
僕にとっては、この木がチートだ!
この大樹には、不思議な力がある。
なんと、触れただけで、魔力も体力も全回復するからびっくり。
そして、精神的にも落ちつく。
まるで、母親に抱かれているような、そんな錯覚さえあった。
僕が大樹に近づいて触れると、葉が風にゆれ、木霊が歌い始める。
ラララ ラララ
ラララ ラララ
いい風の音色だ……。
と、僕が微笑んでいると、ん?
木の影から、ひょっこり何かが飛び出した。
可愛らしい女の子。彼女は土の妖精──ノーム。
葉っぱで作ったドレスを着ている。とても似合う。
金髪の頭には、草で作った王冠をのせていた。
「ヒイロ、何かあったの?」
「……うう」
僕は何も言わず、ぎゅっとノームに抱きついた。
「きゃっ、どうしたの?」
「ごめん、ちょっといろいろあって……ノーム、力をかしてくれないか?」
「いいよ」
ノームの柔らかい手が、僕の頭をなでる。
ぽっかり空いた心の冷たさが、だんだん温もりで埋まっていく。
そうだ、あのときもこうやって、ノームを抱きしめていたな。
──この異世界に転移したあの日、僕は死にかけた……。
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