下宿屋 東風荘 6

浅井 ことは

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天からの使い

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借りた着物は祖母が返しておいてくれることになり、その後はみんなドタバタと帰り支度を始める。

「雪翔、航平、南にはこんのか?」

「冬休みに行くよ。島のおじいちゃんにも航平ちゃん会わせたいんだけど」

「冬は波が荒れるから、爺さんもその時だけは家に帰ってるよ。渋々だけどね、その時に来るといい」

「またあの魚食べたい!冬でもあるの?」

「あれは年中捕れるから、用意しておくよ」

「侑弥ちゃんも連れてきてね。いっぱい可愛いお洋服……」

「侑弥は男だぞ?」

「那智ったら、赤ちゃんはいつまでも可愛いからいいのよ」

「良くない。兄貴は?」

「来る予定だったんだけどね、どうしても仕事が抜けられなかったみたいで。パパがお仕事休むから!」

「そうか……冬に行く。爺さん来たら教えてくれ」

そう言って、みんなのところに行き、全員が泥棒?って思うような、大きな風呂敷を肩に担いでたので、頼むからやめてくれとお願いする。

楽なのにとみんなが手に持ち替え、蘭も同じ場所から移動すると言って、社の前に集まる。

「蘭さん、本当にありがとうございました」

「妾はちょっと手助けしただけじゃ。何かあったら何時でも来ると良い」

「ですが、そちらも危険ではありませんか?あの男の拠点が近いとなると……」

「冬弥殿、あれは拠点ではない。多分、一時的にあ奴が乗っ取ったに過ぎぬ。元々代替わりであの社に狐はおらなんだし、宮司たちの気配はそのままであったから、もう移動しておるじゃろ。妾の事よりも、この子供たちのことを一番に考えてやらねばの」

「そうします。こちらにもいつでも遊びに来てください。しがない下宿屋ですが」

「下宿屋?宿をしておるのかえ?」

「子供たちを預かって住ませてるんです。朝と晩にご飯を作って食べさせて、学校に送り出すのが仕事ですねぇ」

「また酔狂な。じゃが、興味はある。また寄らせてもらおう」

元気でねと握手をし、先に戻って行った姿に見惚れる玲。

「いい女だったよなー」

「兄貴は美人に弱いからな」

「俺もあんな嫁ならもらってもいいかも」

「無理無理、兄貴に振り向いてくれると思ってんの?」

「それを言うな秋!」

皆さん行きますよーとの声に、お爺ちゃん達にも挨拶をして、門を潜ると、ついた先は東風神社だった。

「あれ?」

「買い物して帰ろうと思いましてねぇ。ここからだとみなさんも社に戻りやすいので」

「じゃあ航平、たまには帰ってこいよ」

「分かってます。あ、バイトいつからですか?それよりこのカード……」

「それは好きに使え。いちいち参考書だの買う時に金を渡すのは面倒くさいし、お前なら無駄遣いはしないだろ?」

「しませんよ。元々貧乏学生なんですから」

「とにかく学業優先な。彼女が出来たら連れてこい」

そう言ってさっさと那智が帰ってしまい、秋彪たちも「またな」と言って帰ってしまった。

「その荷物どうするの?」

「水狐に運んでおいてもらいます。さてと、行きましょうか」

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