ヒョイラレ

如月芳美

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第二十三話 チャンバラする気か

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 火曜日。四人組は迷子にもならず、遅刻もせんと、ちゃんと一年一組にやって来た。
 一限は国語で俳句をみんなで作ったんやが、彼らは伊達に日本フリークやっとるわけちゃうくて、松尾芭蕉まつおばしょうとか小林一茶こばやしいっさとか俺らより詳しかった。こんな時、俺は猫で本当に良かったとつくづく思う。俺が知ってるのは「柿食えばかねが鳴るなり東大寺」だけや。あれ? 竜安寺りょうあんじだっけ。西芳寺さいほうじだっけ。まあええわ。とにかく彼らはよう知っとる。
 一番日本語のヤバそうなサムライ白人女子のゾーイでさえも「古池やかわず染み入る蝉の声」とか言い出しよった。すげえ、俺より知っとる……と思った瞬間、葛城に「それって『古池や蛙飛び込む水の音』と『しずけさや岩に染み入る蝉の声』混ぜてない?」ってツッコまれた。いや、俺知らんかったし。カエルが染み入るのかカエルに染み入るのか知らんが、確かに絵的にシュールや。でも俺に言わせりゃ知ってるだけすげえ。
 そんでまた彼らの俳句が凄い。
「スイカ割り 素手で二つに する海辺」(空手家リアム)
「青空が 拙者の刀に 映る午後」(剣士ジェイコブ)
「カマキリと 私とお揃い 鎖鎌くさりがま」(忍者ペネロペ)
「ヒマワリを 持ったらワタシも お姫様」(剣士ゾーイ)
 ゾーイ以外はみんな自分の得意分野の自己主張が激しい。ゾーイは金髪碧眼美少女やし、案外お姫様っぽくなるか知れんわ。シラタマと人気を二分しそうやな。
 二限三限はぶっ通しで美術や。言うても、みんなで外に出て校舎の写生をするだけや。俺はつまらんからその辺をウロウロしとったんやが、この辺を縄張なわばりにしとるらしいブチに因縁いんねんつけられたんで、太一郎のところに戻って来た。ここなら安全や。太一郎のとなりにはジェイコブがいたが、彼はリアムや女子たちに比べて無口な方だ。
 四限は体育やった。これ、マジでヤバいで。アメリカ人相手にバスケやで。勝てるわけないやん。
 リアムもジェイコブもアホみたいに背ぇ高いし、ゾーイも女子の中では一番身長がある。ペネロペは小柄だが、忍者だけにやたらと小回りが利くし跳躍ちょうやく力もある。こんなんチートやん。
 五限は理科で顕微鏡けんびきょうを使ことった。知らん間に英語がかなり話せるようになった名倉が「マイクロスコープ」とか「クロロフィル」とか言ってるんが聞こえる。すげえな、アイツもネコネコ動画の『ビリケンゼミ中学英語』やっとるんやろか。
 そして待ちに待った放課後や。だーれも部活行かへん。文化祭の時期は先輩たちも部活に顔出さへんらしい。
 ユウヤは台本を軽くいじって来た。台詞せりふは全然面倒ではなく、むしろ物語の流れがわかっとるはずや言うて、ある程度アドリブで押してしまえという感じらしい。
 配役も決まった。侍ジェイコブが桃太郎や。黒人の桃太郎っちゅーのもなかなかに新鮮や。犬は空手家リアム、どんな犬やねん。猿は剣士ゾーイ、きじは忍者ペネロペや。
 軽く一回動いてみようって事で動いてみたが、かなり簡単ですぐにでも本番行けそうやった。
 俺(招き猫)をさらっていくトレンチコートの鬼はシラタマになった。ぶっちゃけ嬉しい。シラタマに何度も抱っこされてデレデレしまくりやが、招き猫がデレデレしたらアカンわな。
 鬼と桃太郎たちの戦闘シーンは鬼役と留学生たちで立ち回りを決めていたが、実際に動いてみるとイマイチ迫力に欠ける。幼稚園のお遊戯ゆうぎ会と大して変わらへん。戦闘シーン以外がいい感じにアッサリ進んだもんやから、このシーンがますます浮いて見えるんやな。
「ねえねえ、あたし動画ってたから見ようよ」
 こういう時の葛城見とると、さすが副委員長やと思うわ。まあ、今の名倉じゃ動画っちゅう発想がないやろし、しゃーないわな。
 葛城のスマホを頭をくっつけ合って覗き込む。しばらくしてリアムが口を開いた。
「せっかく二足歩行の犬なんだから、空手したい」
「日本のチャンバラ、ワタシすごく勉強したよ。もっと戦える」
「私もできれば手裏剣投げたいね。せっかく雉なんだし、自分の羽を投げるみたいにして」
 無口なジェイコブも「拙者も」と一言参加した。
「そうだな、せっかくこれだけの日本マニアがいるんだから、本格的にやって他のクラスを驚かせた方が面白いよな」
「だからそれお前の仕事だろ、宇部」
「いや、俺は全体の監督かんとくであってチャンバラはちょっと」
 その時太一郎が立ち上がった。
「それなら名倉さんに殺陣師たてしになっていただけば良うございますよ。名倉さんは本職ほんしょくですから」
「ちょいとお待ち。あたしは本職なんだからあたしが殺陣監督たてかんとくやるよ。南雲が殺陣師たてしやったらどうだい? あんた剣術大会商家子供けんじゅつたいかいしょうかこどもの部で優勝したんだろ。舞台映ぶたいばえはあたしが見てやるよ」
 周りがざわついとる。そりゃそうや、あんだけ存在感なかった委員長がフツーに仕切っとるし、いつもめんどくさがってた俺が建設的な意見を出しとる。しかも殺陣監督やて。そもそもいつも剣道で逃げ回っとった『南雲太一』が剣術大会で優勝なんてありえへん。
「じゃそれで行こう。俺は全体監督だからチャンバラは二人に任せる」
 本物の役者と剣術大会ナントカの部優勝者と、日本フリークのヤバい連中を組ませてしまってええのんか? とにかく死者と怪我人が出ないことを祈ろう……。
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