ヒョイラレ

如月芳美

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第十一話 ここは未来なのでございますか

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 それからわたくしは宇部さま——ああ、宇部さまと呼んではいけないのでした——宇部君からいろいろ教わりまして、なんとか一日を乗り切ることができました。
 ただ、恐ろしいことに、五限の日本史の時間にパラパラとながめていた資料集に、なんと徳川家斉公いえなりこうっていたのです。しかも徳川家がその後も続き、十五代慶喜(ヨシノブと読むらしいです)様で江戸幕府が終わるということなのです。
 驚いて宇部君に質問すると、なんと今は二〇二四年だと言うではありませんか。今は寛政かんせい十一年ではないのですか? 昨年、京の大仏に雷が落ちて消失したのではないのですか?
 つまりわたくしは、死して他人の体に乗り移っただけでなく、未来に来てしまったということなのです。だから服装もおかしかったし、乗り物や屋敷も見たことのないようなものばかりだったのです。
 そうとわかれば、この『未来の暮らし』にれるほかありません。イヌ(この体の本当の持ち主である南雲太一殿)からいろいろと教えてもらわねばなりません。
 ただ、イヌは人の言葉が話せません。「にゃあ」だけではわたくしには通じないのです。それだけが困りものですが、イヌは大袈裟おおげさに動いては何かを伝えようとしてくださいますので、わたくしもそれを読み取る努力をおこたるわけにはまいりません。
 まずはこのイヌを正式に飼うために、両親を説得するのが大変でございました。わたくしが太一になるためにはこの猫が必要なのだと言うと、父上は「そういうことなら」とあっさりお許しくださいました。父上の動画配信時の名前が『サバトラ』というのだそうで、太一殿がたまたまサバトラに乗り移ったのが良かったようでございます。ですが母上がうんと言いません。その辺で爪とぎをするとか、トイレの砂を買わねばならぬとか、よくわからない理由で反対されてしまいましたが、父上の援護えんごにより、どうにか飼うところまでぎつけることができました。
 勿論中身は太一殿ですから一人でかわやに行って勝手に戻ってきますし、猫は風呂が嫌いだという常識を打ち破ってわたくしと一緒に風呂に入りたがります。壁で爪を研ぐこともございませんし、何より部屋から出ようとなさいません。さすが太一殿、母上のご機嫌を取るすべを心得ておられます。
 とりあえずわたくしはイヌ(猫だけど)である太一殿を飼うことに成功し、自分の食事を猫に分けてやるという名目で、食卓にイヌを連れて行くことを許可して貰いました。
 母上の作る食事はどれも美味しく、わたくしの食べたことのないようなものばかりでした。学校の給食とやらとはまた違う趣向しゅこうでわたくしはこちらも大変気に入りました。
 とくに生姜焼しょうがやきとか言うこれ、豚の肉だそうです。わたくしは肉と言えば魚くらいしか食べたことがございませんので驚きましたが、未来の世界では豚や牛やにわとりは当たり前のように一般家庭で食べられるようです。
 その後、イヌの案内で父上の部屋に行きました。父上はゲームとやらをやっておられましたが、思い出したようにわたくしを横に座らせてこうおっしゃったのです。
「太一、もしかしたら猫シュミ見たら人格が戻って来るんじゃないか?」
 そんなことはございません。なにしろわたくしは死んでこの体を乗っ取ってしまったのですから。ですが猫シュミを知っておくことは大切かもしれません。
 結論から申し上げますと、猫シュミはわたくしの想像をはるかに凌駕りょうがする物でございました。
 まず四角い板が光るのです。それが驚きなのですが、父上の前にある記号の並んだ板や饅頭まんじゅうのようなものを操作することで、四角い板の中にいる生き物が動いたりするのです。父上の話では、これは『ぱそこん』というもので、『げーみんぐぴーしー』という種類のものだそうです。他にも「本当にわかんないのか?」と言いながらも『きーぼーど』や『まうす』など、操作に必要な道具を教えてくださいました。
 さあ、本番です。イヌが猫シュミⅠの『そふと』をくわえて来たので、それをやろうということになりました。きっと太一殿は猫シュミⅠをわたくしに見せたいのでしょう。
 父上が猫シュミを立ち上げる(というのがよくわかりませんが)と、二足歩行の猫が出て来て歩き始めました。父上の猫は高貴な紫色の猫でしたがかみしものようなものを着て銀杏いちょうまげを結っていました。わたくしの慣れ親しんだ江戸の武士のような出で立ちです。
 ただ、その銀杏髷いちょうまげの上。頭の上に猫が乗っているのです。それも何匹も積んである。
「父上、この猫は?」
「覚えてないか。スペシャルクエストで貰える積猫つみねこ。普通のご褒美ほうびクエストだと毛色とか柄とか服とか持ち物が貰えて、スペシャルクエストをコンプリートすると頭にどんどん猫が積まれていったじゃないか」
 横でイヌが「それだ」とばかりにピョンピョンと飛び跳ねています。何のことかさっぱりわかりませんが、太一殿と宇部君が言っていたのはこれだったのですね。 
「これはもう何かをもらっている状態なのですね。最初からやることはできますか?」
「もちろん初期状態からやればいいだけだ」
 父上は初期状態からもう一度やり直してくださいまして。
 そこでわたくしは学校でイヌが見せてくれた動きと全く同じことを見ることになったのです。
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