この恋は、叶いますか

麻海りんね

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2 それから

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それからは、とんとん拍子に進んで行った。家は、会社がすぐに準備してくれたし荷物の整理も会社が手伝ってくれた。
離婚届けは、怒り狂ったマネージャーの山田凛子さんが即入手し私がすぐに記入すると夫の会社へ郵送してくれた。

「こんな酷いことがあるの……うちの事務所が大きければあいつの不倫を公にできるのに……」
凛子さんは言った。会社の人たちも悔しそうな顔をしている。
私が所属している事務所は、元声優の青柳薫が社長の会社だ。大手事務所とは言えないが、所属声優は薫さんが自らオーディションをして採用を行う。レッスンも薫さんや薫さんの声優仲間のレジェンド級の方々が行ってくださる。
学びたい。入りたい子は、沢山いるがそのレッスンのスパルタに付いていけず辞めてしまう子も多い。そして、一人一人への丁寧な指導を行うために所属人数を押さえている。

「凛子さん。ありがとう。その気持ちだけで十分です。皆さんも、手伝ってくださってありがとうございます」

フォローしたつもりだったが、逆に静まり返ってしまった。

「朱音さん!焼き肉行きましょう!」
新入社員の児玉さんが沈黙を破り声を出した。

「社長、おごってくれますよね!」と凛子さん。

「もちろんよ! さぁ、片付けて!」
社長の声に、皆が威勢の良い返事をした。


そして、無事離婚が成立し私は佐々野朱音(35)独身へと戻った。

それから、半年が過ぎた。
離婚報道された時は、SNSのトレンドになったがそれだけだった。
私は、今まで制限されていたお色気系のお姉さん役などに挑戦してこれがヒット!
さらに、櫻井先生が離婚報道後直後に私が演じているキャラの水着イラストをSNSに投稿されそれがゲーム内で実装化されて益々仕事が増えた。櫻井先生と言うのは、10年前に私が初めてヒロインに抜擢された魔法騎士ブレイブナイトメアのキャラクターデザインをされた方だ。当時、ヒロインの役を私にと声をかけてくださったのだ。私は、このヒイロのキャラで仕事が増えたし……元夫とも出会った。元夫はヒイロの兄役で最後謎の殉職をする役だ。いきなり最終話付近で死んだから少し驚いた。それから、櫻井先生の作品には必ず出演している。犬役だったりすぐ死ぬ役だったりの時もあったけ。

「あ。時間だ。そろそろログインするかな」|
私は、ワクワクしながらWeb会議ツールを開いた。暫くすると声優友達の幸野桂子さちのかつらこちゃんがログインして来た。

「お久~」

「お久しぶり~」

「すぐ、連絡したかったのに半年すぎちゃった~」

「仕方ないよ。桂子ちゃん。舞台してたでしょ?」

「そうなんだけど……」
幸野桂子ちゃんは、魔法騎士ブレイブナイトメアで共演して仲良くなった子だ。元々舞台をしていて声優の世界に入ってきた子。だから、アニメが舞台化されるとそのキャラを演じることが多い。その結果、ファンの間では幸野桂子が抜擢されたら舞台化されると言われていて舞台化されたい作品のアニメ化が発表されると桂子様お願いしますタグがトレンドに上がる。もう、ネタ扱いだけど。

「てか、大丈夫?」

「大丈夫だよ。最初は、辛かったけど仕事増えたしお色気系のアニメには絶対出ないから現場でも遭遇しない!」

「倉岡一そういう系嫌いだもんね。だから、私の事も嫌いだったもんね~」

確かに、桂子ちゃんと会うと嫌そうにしてたな。

「まぁ、別れて正解だよ……。で、不倫相手の愛野キララだけどさ……」

「え? なんで知ってるの?」
私と会社以外知らないはずだ。

「ああ。いや、業界でも裏掲示板でも話題になってるよ」

「裏掲示板?」

「朱音、裏掲示板とかSNSでエゴサーチとかしないの?」

「SNSは、マネージャーさん管理だしネットは怖くて見ない。マネージャーさんは、SNSで離婚がトレンドにあがったぐらいって言っていたけど何かあった?」

すると、桂子ちゃんはニヤニヤしながら悪い顔をした。

「世の中には、考察班っているんですよ。離婚後、すぐに朱音がお色気系に出始めた。つまり、倉岡一が制限していたんじゃないか。そもそも、生活のすれ違いって言うけど倉岡一って役選んでるじゃん。だから忙しそうに見えないし朱音もそこまで忙しそうには……あっごめん」

「いや、桂子ちゃんの言う通りだよ。私も受ける役は元夫の許可が必要だったし会社にも大分迷惑かけてたよ」

「うん……。だから、ファンの間ではどっちかが不倫したんじゃないかって出たわけ。でも、朱音ちゃんが不倫するはずない!!そこから、倉岡一とい共演してた人たちもSNSを調べて……」

「そっんなことまでするの!?」

「朱音ちゃん、正統派ヒロインのヒイロに恋した人たちが私含めて何人居ると思ってるの。さらに、そのヒイロを奪った倉岡一は昔から気に入らないんだよ」

「……ねぇ、桂子ちゃん、裏掲示板に投稿とかしてないよね?」

「裏掲示板にはしてないよ☆」

「そ……そう」

「話し戻しまーす。そしたら、愛野キララが匂わせ投稿していたわけよ。顔は写っていないけど服装やらでほぼ倉岡一」

「愛野さんは、何で共演してたんだろ……」

「戦隊家族ってやつだよ」

「ああ~」

「戦隊家族の末っ子で一番人気の子の役だったけど、棒読みでさ。あの子のせいで戦隊家族見なくなったって人も多かったみたい。でも、事務所が芸能事務所で大手だから今はバンバンヒロイン役してる。ほぼ、棒読み。全然上手くならない」

「そうなんだ……」

「原作潰しだよ……。正直、これ倉岡一なんじゃない?って投稿したいけど顔が映ってない分言いがかりだ。情報開示だ。訴えるなんてなったら面倒だから言えないけど裏掲示板とかSNSとかで暈して投稿してる人居るよ。それに、私の友人が現場で腕組んで歩いてるの見てるしね……。大御所倉岡一だから、皆黙認してるけどね」

「そっか……」


「いずれ、制裁されるだろうね。ネットを甘く見ちゃいけない……」
いつも、笑っている桂子ちゃんの顔から笑顔が消えて鳥肌が立った。

「さぁて、暗い話はなしなし。今日はこの話をしたかったの!」
桂子ちゃんは、どーんと台本を出した。『10周年企画 劇場版魔法騎士ブレイブナイトメア』と書いてある。
私も同じ台本をパソコンの画面に突き出した。

「10周年記念劇場版魔法騎士ブレイブナイトメア!!!制作発表から半年!!楽しみで楽しみで仕方なかったよ~もうすぐ、収録だね。生で朱音ちゃんに会うの久しぶりすぎて嬉しい~しかも、キャラデザ見た? あれから5年後の物語でみんな成長しててかっこいい!!私の役のヒスイも髪伸びて可愛くなってるし最終話でヒイロと主人公のモエギはくっつくかくっつかないか微妙な距離で終了したのに劇場版ではまさかの恋人!!!あの最終話で二人はくっついていたのか~ってしかも、あの時の伏線をここで拾う!!胸熱すぎて嬉しい!!」

「そうだよね。私もびっくりしたんだ!だって、最終回でモエギ君がヒイロに微笑んで終わるもんね」

「そうそう。いかも、全キャラ当時の声優さん出演にキャラデザ、監督、スタッフさん皆一緒でしょ。新キャラは、全て監督が指名したって話だし……。そして、今大人気声優モエギ役の中村忍なかむらしのぶ君もオファー受けたって。今仕事忙しいだろうに凄いよね」

「うん。あの時、忍君14歳で初声優だった」

「そうそう。めっちゃくちゃ監督たちか指導入ってたよね」

「うん。モエギ役は、プロアマ問わないシンデレラオーディションだったよね。見た目も声も全てモエギそのものおだったって監督言ってたっけ」

「会うの楽しみだね。朱音。まぁ、中村君もだろうけど……」

「そうなの?」

桂子ちゃんは、不敵な笑みをした。
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