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32話 ヒロインの飼い猫

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「そういえばさ、最近ノアディア様と何かあったの・・・?喧嘩したの?全然話しているところ見かけないけど・・・。」

別館での授業が終了し、帰宅する時間となった。教室に最後まで残っていると、ヒロインリリーアが心配だとでも言いたげに問い掛けてきた。

よく観察しているな。まあ、俺があからさまに避けているから気になったんだろうけれど。

「さあ、どうかな。」

俺はノアディアに関係することの話は極力したくないので、適当に返事をする。

「落ち込んでいる時はこっちにおいでよ!」

彼女の自室へ、背中を押されながら同行する。反発する気力は今の俺には無いので、されるがままに彼女の部屋の中まで入ってしまった。次の瞬間、ガチャ。と鍵を掛けられてしまった。
何をしでかすつもりなんだと怪訝けげんに思っていると・・・

「ジャーン!」

と言って、リリーアはそこそこ大きい成猫を掲げる。脇をつかんで持ち上げているせいか、猫の胴が伸びてしまっている。

持ち方めっちゃ可哀想だぞ。

気にしていないのだろうか、無垢な猫は、純粋な瞳で撫でて欲しそうにこちらを見てくる。

「ニャー。」

可愛らしい声につられて、ついつい触ってしまう。・・・癒されるな。いい子だ。

「綺麗な明るい茶色の毛でしょ!シャルって名前で呼んでいるの!」

明るい茶色か?俺には暗い色に見えるんだが。まあ、毛の色とかはどうでもいいか。シャルっていい名前だな、鈴の音みたいな名前だ。

「かわいいな。」

「でしょでしょ!大人しくていい子なんだよ。たまにイタズラしちゃうけど。」

確かに大人しい。俺は動物に好かれないタイプなので、犬や猫を飼ったりはしないが、癒しがあるってのは少しだけいいなと感じてしまう。

にしても学校の寮で猫を飼っているってお前・・・

「・・・校則違反じゃないのか。」

「ギクッ。」

「まあ、先生には黙っておいてやるよ。」

「あああ、ありがとう!」

可愛い猫に免じて許してやろう。どうやらリリーアは校則違反だと知っていながら猫を飼っていたみたいだな。確信犯か。ティルミア様優等生のお友達が知ったら卒倒しそうだ。

そういえば夏休み中、猫の世話はどうしていたのやら。家に持ち帰っていたのだろうか。本人のみぞ知ることだな。

「それよりいいのかよ、先生に許可とらずに部屋に入れちゃってさ。俺は男だぞ。何かされたら危ないだろ。」

「え?問題ないでしょ?だってライ君が好きな人はノアディア様だし。」





「っは!?・・・なっ、なんで。」

何でそんな自信満々に言えるんだよ・・・。そんなに分かりやすいのか、俺って・・・。

「あれっ、否定しないの!?・・・どどどどこまで進んでるの二人はっ!?詳しく、詳しくっ!!」

「落ち着けって。・・・なあ、リリーア。俺はその、す、好きなんだけどさ、でも「・・・ライ。」

誰かに名前を呼ばれたので振り向くと、そこには居るはずのないノアディアがいた。ドアはリリーアが閉めていたと思ったのだが。彼は濁った瞳で俺ら二人を見下ろしている。何に怒っているのだろうか。・・・猫か?

「リリーアさん、ライを返して頂きますが、宜しいですね?」

「は、はいいぃぃぃっ、どうぞどうぞっ!」

即答するリリーア。猫はノアディアに驚いたせいか、どこかに隠れてしまっていた。

「ちょ、待て!リリーア、ノアディアのヤツなんか怖いんだが!?俺を見捨てるなよ!」

「ライ君は私を見捨てた事があるからおあいこだねっ!またね!!」

くっ、悪因悪果とはこの事か・・・あの時助けていれば・・・。
まだ心の準備が出来ていないので、今は喋ったり顔を見たりしたくはないのだが。だからといって抵抗したら散々な目に合いそうな気がするので、大人しくすることにした。





────俺はノアディアに手を引かれて人気の無い廊下まで連行された。

「ライ・・・リリーアさんの事が好きだったんですね。」

やっと喋ったかと思ったら、ノアディアはとんでもないことを言い出した。何考えているんだ?リリーアは別に・・・友達あるいはそれ以下の感情しかないんだが・・・。

「はあ?」

「先程、告白しておりましたよね。」

いつのことだ?告白なんてしてないんだが。

「・・・え?」

「最近私のことを意図的に避けていることには気が付いておりました。理由は明確には分かりませんでしたが・・・。今日、やっと原因が判明しました。」

チュ。

服の上から胸元に唇を当てられる。

なんでここでキスをしてくるんだよ!?誰かに見られたらどう言いくるめればいいんだよ!!お嬢様達の噂の的になりかねないぞ!!

「私が邪魔だったんですよね。少しでも・・・意識して貰えていると勘違いして浮かれていた私自信が憎いです。」

「いや、何のことっ!?」

「貴方が誰かに心奪われてしまうくらいなら、私はもう我慢しません。」

「だからっ、何の事だよ!!」

「ライ、もう誰も見なくていいんですよ。何もしなくていい。ただ私と────」

「人の話を聞け!!俺はリリーアを好きだなんて言っていない!!」

「・・・。」

「多分、会話の一部分だけを聞いて、そう思わせたんだと思うけどさ、リリーアはただの・・・クラスメイトだよ。」

そう、クラスメイトというか同胞というか。彼女は俺に好意を抱いてなどいないし、俺も狂人みたいだなとしか思っていない。決して悪い子だとは思っていないが、ああいう・・・・対応をされている俺が好きになる訳ないだろ。・・・第二王子レイフォンドを除いて。

「では、ライは誰のことを好きだと言いかけたのですか?」

好き・・・あ、そうか!あの言葉か・・・いや、あれはお前を・・・いや、違うっ

「・・・猫!リリーアの飼い猫が好きって話!」

「そう、ですか・・・。」

我ながらいい感じにだませたんじゃなかろうか。変に勘ぐらないでくれよ。

俺はそれだけ言い残し、男子寮へと突っ走ってった。





久しぶりにノアディアと話したから疲れたな・・・今日はもう、何もせず寝てしまおうか・・・。
キスされた胸にそっと触れて、俺は制服のままふて寝した。
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