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15話 魔術師団団長の令息②
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向かった先は職員室だ。
放課後の職員室の前には、思った通りティルミア様がいた。
いつも放課後教師に質問をしている勤勉なお嬢様は、優等生と呼ぶに相応しい人物であろう。
こちらに気が付くと嬉しそうに駆け寄ってくる。
「あー、その。今から俺の部屋でお菓子作るんだけど、一緒にどうだ?」
お菓子作りに誘うなんてなんだか小っ恥ずかしいが、勇気を出して聞いてみる。
「お誘い頂き嬉しいのですが、わたくしまだ先生に質問したい事がありまして・・・。」
「じゃあ先に色々用意しているから後で来いよな。」
「分かりましたわ!」
よし、一度好きな事に付き合って適当にあしらえば気が晴れて俺に興味を失う事だろう。これ以上関心を持たれても困る。
ティルミア様に部屋の番号を教え、担任の教師にこれからお菓子作りを共に行うことを説明し、自室へ戻る。
部屋に設置された監視機能搭載の魔道具を作動させ、教師に許可を貰えば、誰かを部屋に招くことができるという校則となっている。
少し面倒ではあるが、防犯の為だ。許容範囲内だろう。
先に部屋に戻り、準備を行う。
「あらまぁ!ケーキの材料もちゃんと準備してあるなんて、流石ですわね!」
「ご相伴に預かりまーす!」
数分後、ティルミア様が部屋に来訪したが、瓶底メガネ少女も一緒にやってきたので、扉を閉めようとしたら足を引っ掛けてこじ開けて入ってきた。ヒロインがやっていい事なのかそれ。なんか最近遠慮なくなってきてないか?
嫌な予感しかしないのだが。
仕方ないので二人を調理場へ案内し、ついでに監視用魔道具を作動させる。事前準備は万端だ。
「寮で調理器具を揃えているなんてお方、初めお会いしましたわ!学園でもお菓子作りができるだなんて、わたくし、感動してしまいましたわ!」
そりゃあそうだろう。食堂では豪華で美味しい料理が用意されているのに、寮で調理をしようだなんて物好き俺以外にはいないからな。
あまり使っていないが、ちゃんとお菓子用の器具も揃えられている。
「あ、でもいいのかな、前ライ君と休日に会う約束をしたい時はノアディア様に許可を頂いてからって言われたのに。」
そういえばそんな変な事言ってたな。ノアディアは俺の保護者かよ。
「大丈夫ですわよ。わたくしたちは誘われた側で誘ったのはライ様ですもの。それに今日は休日前ですわ!」
「後が怖いけど・・・ま、いっか!」
後が怖いって何なんだよ。やましい事などなにもしていないのだから気にする事はないだろう。
ちなみに今から作ろうとしているのはガトーショコラだ。
理由は簡単。俺の好物だからだ。
まずはバターとミルク、そしてチョコレートを湯煎し、ココアパウダーと薄力粉をふるいにかけておく。卵を割り、卵黄と卵白に分ける。
その後ボウルを用意し、卵黄を入れ、砂糖を加えながら泡立て器でかき混ぜた後、湯煎したチョコレート等を入れながらよく混ぜてゆく。
次にメレンゲを作るために、卵白をボウルに移して砂糖を何回かに分けて徐々に加えてゆき、しっかりと泡立てる。手が疲れてきたら魔法を使って泡立て器を動かすと楽だ。
そして、卵黄の入っていたボウルにメレンゲを徐々に入れて馴染ませ、型に流す。
オーブンに入れたらタイマーをセットし、後は待つだけだ。
ティルミア様は手際良く進めているが、瓶底メガネ少女は全く上手くいっていない。お前一応ヒロインじゃなかったのかよ。不器用すぎじゃないか?
手助けをしても何故か失敗してしまうので、取り敢えず自分の作る分だけでも先に完成させることにした。
タイマーが鳴り、出来上がったかなとオーブンからケーキを取り出してみたが、何故かそこには何もなかった。
おかしいな、オーブンに入れ忘れてたっけな。
「出来た!ライ君私すごい!」
そう言って得体の知れないまだら模様の型崩れした何かを掲げている。
やっぱりコイツを部屋にいれるんじゃなかった。
目を離した隙に、いち早くお菓子を完成させていた。
「オホホ。いつも通り見た目は残念ですわね。」
「えへへ。だね~。」
残念だと言いつつも口に含む。おい、そんなモノ食べたらやばいだろ!?
「美味しいですわ!」
「嘘だろ!?」
と叫んだら、口にゲテモノを放り込まれた。
「うわ、美味い。」
悔しいが俺が作るお菓子よりも格別に美味い。どうなってるんだよ。
こうしてリリーアの謎の特技を披露されつつも、俺達は無事にお菓子を作り終えた。沢山作ってしまったので、まぁ、少しはノアディアに渡しても問題はないだろう。
お菓子の製作後、食器類を片付けている時に誰に渡すのかを根掘り葉掘り聞かれたり、恋バナをするハメになったが、それ以外は結構楽しい時間だった。
夜遅くなってしまったが、いい感じに出来上がったのでベイスに渡しに行くかと部屋を出る。
「ライ・・・?こんな時間にどこへ?手に持っているそれは?」
偶然通りがかったのだろう、荷物を持ったノアディアと鉢合わせしてしまった。愛想笑いをして質問される。
「ああ、ベイスにあげるケーキだ。今から渡そうかなって思っててな。」
「そうですか。」
真顔になって目を細める。
考え過ぎだろうか、空気が重たくなった気がした。
「ベイスと呼び捨てにしているのですね。」
「ん?別にいいだろ?」
きっぱりと言って先を急ごうとするが、道を塞がれる。
「良くありません。せめて家名で呼ぶようにして下さい。それと、そのガトーショコラは私が頂きますね。」
「はぁっ!?勝手に決めるなよ!」
ん?ガトーショコラを作ったなんて、いつ教えたっけな。匂いで分かったのだろうか。鼻がいいな。
「何でもすると言った約束、ここで使わさせて頂きますが、問題はありませんよね?」
ここで行使してくるのか!それ!
何でもするという言葉を言われ、あの時の事を思い出してしまい、顔から火が出そうになる。
忘れていてくれていたらいいなと期待していたが、どうやら俺の思い通りにはならないらしい。
「まあ、問題は・・・ないんだけど・・・。」
「何か支障でもありましたか?」
「いや、もっと凄いことを要求してくるものだと思っていたから、拍子抜けした。」
「もっと凄いことですか?」
いや、だって・・・何でもするって言うんだったらやっぱり
「・・・とか。」
「?」
耳が遠いのか・・・?
「き、キスとか。それ以上とか。」
真っ赤になる。俺になんて事言わせるんだよ!毎回毎回・・・。
あ、いや、聞かれたからつい説明しなくてはと思い俺が自分の判断で言っただけか。
全部人のせいにするのは良くないよな。
「ぐっ・・・。」
反省していたら、ノアディアは胸を右手で抑え出して急に立ち崩れ、四つん這いになる。
どこか痛むのだろうか?回復魔法を掛けた方がいいのだろうか?
「お、おい、大丈夫かよ。」
「すみません。あまりにも可憐で、本能のままに行動しようとする自分自身を抑えているだけですので・・・。お気遣いなく。」
可憐って。やっぱり俺を弟扱いしているのかよ。いや、妹扱いだな。より悪い。
しかも自分自身を抑えるって、厨二病でも発症しているのか?封印された何かでも体内にいるんだとでも言いたいのだろうか。
年相応な所もあるじゃないか。いや、発症時期的には少し遅いか。
「弟扱いは止めろよな。なんだかわからないけどまたな。」
ガトーショコラを適当に背中に乗せて立ち去る。少しは困ればいいんだと思い、ささやかな仕返しが出来て満足する。
グローリオの部屋へ行き、扉をノックする。するとすぐに出てきてくれたので、つかさず謝罪をする。
「ごめん!ケーキ作ったんだけどあげれなくなった!」
ベイス・・・ではなくグローリオにそう伝えるが、何やら食事の最中であったみたいだ。
「・・・。そうなるだろうと思って、先に頂いてる。」
机の上にあるのは、製作途中でどこかへ消えたガトーショコラだった。
・・・ってあれお前の仕業だったのかよ!
放課後の職員室の前には、思った通りティルミア様がいた。
いつも放課後教師に質問をしている勤勉なお嬢様は、優等生と呼ぶに相応しい人物であろう。
こちらに気が付くと嬉しそうに駆け寄ってくる。
「あー、その。今から俺の部屋でお菓子作るんだけど、一緒にどうだ?」
お菓子作りに誘うなんてなんだか小っ恥ずかしいが、勇気を出して聞いてみる。
「お誘い頂き嬉しいのですが、わたくしまだ先生に質問したい事がありまして・・・。」
「じゃあ先に色々用意しているから後で来いよな。」
「分かりましたわ!」
よし、一度好きな事に付き合って適当にあしらえば気が晴れて俺に興味を失う事だろう。これ以上関心を持たれても困る。
ティルミア様に部屋の番号を教え、担任の教師にこれからお菓子作りを共に行うことを説明し、自室へ戻る。
部屋に設置された監視機能搭載の魔道具を作動させ、教師に許可を貰えば、誰かを部屋に招くことができるという校則となっている。
少し面倒ではあるが、防犯の為だ。許容範囲内だろう。
先に部屋に戻り、準備を行う。
「あらまぁ!ケーキの材料もちゃんと準備してあるなんて、流石ですわね!」
「ご相伴に預かりまーす!」
数分後、ティルミア様が部屋に来訪したが、瓶底メガネ少女も一緒にやってきたので、扉を閉めようとしたら足を引っ掛けてこじ開けて入ってきた。ヒロインがやっていい事なのかそれ。なんか最近遠慮なくなってきてないか?
嫌な予感しかしないのだが。
仕方ないので二人を調理場へ案内し、ついでに監視用魔道具を作動させる。事前準備は万端だ。
「寮で調理器具を揃えているなんてお方、初めお会いしましたわ!学園でもお菓子作りができるだなんて、わたくし、感動してしまいましたわ!」
そりゃあそうだろう。食堂では豪華で美味しい料理が用意されているのに、寮で調理をしようだなんて物好き俺以外にはいないからな。
あまり使っていないが、ちゃんとお菓子用の器具も揃えられている。
「あ、でもいいのかな、前ライ君と休日に会う約束をしたい時はノアディア様に許可を頂いてからって言われたのに。」
そういえばそんな変な事言ってたな。ノアディアは俺の保護者かよ。
「大丈夫ですわよ。わたくしたちは誘われた側で誘ったのはライ様ですもの。それに今日は休日前ですわ!」
「後が怖いけど・・・ま、いっか!」
後が怖いって何なんだよ。やましい事などなにもしていないのだから気にする事はないだろう。
ちなみに今から作ろうとしているのはガトーショコラだ。
理由は簡単。俺の好物だからだ。
まずはバターとミルク、そしてチョコレートを湯煎し、ココアパウダーと薄力粉をふるいにかけておく。卵を割り、卵黄と卵白に分ける。
その後ボウルを用意し、卵黄を入れ、砂糖を加えながら泡立て器でかき混ぜた後、湯煎したチョコレート等を入れながらよく混ぜてゆく。
次にメレンゲを作るために、卵白をボウルに移して砂糖を何回かに分けて徐々に加えてゆき、しっかりと泡立てる。手が疲れてきたら魔法を使って泡立て器を動かすと楽だ。
そして、卵黄の入っていたボウルにメレンゲを徐々に入れて馴染ませ、型に流す。
オーブンに入れたらタイマーをセットし、後は待つだけだ。
ティルミア様は手際良く進めているが、瓶底メガネ少女は全く上手くいっていない。お前一応ヒロインじゃなかったのかよ。不器用すぎじゃないか?
手助けをしても何故か失敗してしまうので、取り敢えず自分の作る分だけでも先に完成させることにした。
タイマーが鳴り、出来上がったかなとオーブンからケーキを取り出してみたが、何故かそこには何もなかった。
おかしいな、オーブンに入れ忘れてたっけな。
「出来た!ライ君私すごい!」
そう言って得体の知れないまだら模様の型崩れした何かを掲げている。
やっぱりコイツを部屋にいれるんじゃなかった。
目を離した隙に、いち早くお菓子を完成させていた。
「オホホ。いつも通り見た目は残念ですわね。」
「えへへ。だね~。」
残念だと言いつつも口に含む。おい、そんなモノ食べたらやばいだろ!?
「美味しいですわ!」
「嘘だろ!?」
と叫んだら、口にゲテモノを放り込まれた。
「うわ、美味い。」
悔しいが俺が作るお菓子よりも格別に美味い。どうなってるんだよ。
こうしてリリーアの謎の特技を披露されつつも、俺達は無事にお菓子を作り終えた。沢山作ってしまったので、まぁ、少しはノアディアに渡しても問題はないだろう。
お菓子の製作後、食器類を片付けている時に誰に渡すのかを根掘り葉掘り聞かれたり、恋バナをするハメになったが、それ以外は結構楽しい時間だった。
夜遅くなってしまったが、いい感じに出来上がったのでベイスに渡しに行くかと部屋を出る。
「ライ・・・?こんな時間にどこへ?手に持っているそれは?」
偶然通りがかったのだろう、荷物を持ったノアディアと鉢合わせしてしまった。愛想笑いをして質問される。
「ああ、ベイスにあげるケーキだ。今から渡そうかなって思っててな。」
「そうですか。」
真顔になって目を細める。
考え過ぎだろうか、空気が重たくなった気がした。
「ベイスと呼び捨てにしているのですね。」
「ん?別にいいだろ?」
きっぱりと言って先を急ごうとするが、道を塞がれる。
「良くありません。せめて家名で呼ぶようにして下さい。それと、そのガトーショコラは私が頂きますね。」
「はぁっ!?勝手に決めるなよ!」
ん?ガトーショコラを作ったなんて、いつ教えたっけな。匂いで分かったのだろうか。鼻がいいな。
「何でもすると言った約束、ここで使わさせて頂きますが、問題はありませんよね?」
ここで行使してくるのか!それ!
何でもするという言葉を言われ、あの時の事を思い出してしまい、顔から火が出そうになる。
忘れていてくれていたらいいなと期待していたが、どうやら俺の思い通りにはならないらしい。
「まあ、問題は・・・ないんだけど・・・。」
「何か支障でもありましたか?」
「いや、もっと凄いことを要求してくるものだと思っていたから、拍子抜けした。」
「もっと凄いことですか?」
いや、だって・・・何でもするって言うんだったらやっぱり
「・・・とか。」
「?」
耳が遠いのか・・・?
「き、キスとか。それ以上とか。」
真っ赤になる。俺になんて事言わせるんだよ!毎回毎回・・・。
あ、いや、聞かれたからつい説明しなくてはと思い俺が自分の判断で言っただけか。
全部人のせいにするのは良くないよな。
「ぐっ・・・。」
反省していたら、ノアディアは胸を右手で抑え出して急に立ち崩れ、四つん這いになる。
どこか痛むのだろうか?回復魔法を掛けた方がいいのだろうか?
「お、おい、大丈夫かよ。」
「すみません。あまりにも可憐で、本能のままに行動しようとする自分自身を抑えているだけですので・・・。お気遣いなく。」
可憐って。やっぱり俺を弟扱いしているのかよ。いや、妹扱いだな。より悪い。
しかも自分自身を抑えるって、厨二病でも発症しているのか?封印された何かでも体内にいるんだとでも言いたいのだろうか。
年相応な所もあるじゃないか。いや、発症時期的には少し遅いか。
「弟扱いは止めろよな。なんだかわからないけどまたな。」
ガトーショコラを適当に背中に乗せて立ち去る。少しは困ればいいんだと思い、ささやかな仕返しが出来て満足する。
グローリオの部屋へ行き、扉をノックする。するとすぐに出てきてくれたので、つかさず謝罪をする。
「ごめん!ケーキ作ったんだけどあげれなくなった!」
ベイス・・・ではなくグローリオにそう伝えるが、何やら食事の最中であったみたいだ。
「・・・。そうなるだろうと思って、先に頂いてる。」
机の上にあるのは、製作途中でどこかへ消えたガトーショコラだった。
・・・ってあれお前の仕業だったのかよ!
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