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13話 胸の高鳴りの正体

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何でもするという最悪な約束をした次の日の昼間。
俺はいつもお昼ご飯を食べているテラスで不貞腐ふてくされていた。

時間停止魔法を会得して、ノアディアにちょっと意地悪でもしようと思っただけなのだが、上手いこと行かず、俺は落ち込んでいた。

思い返せば時間停止魔法なんて使おうとしたのが全ての元凶なのだろう。あの日からノアディアの事を考えてばかりだ。

今だって頭の中は彼の事で一杯だ。つい最近まではこんな事態におちいるなんて思いもよらなかっただろう。





「あら、こんな場所でしゃがみ込んでしまって、どうかしましたの?」

ぼんやりとしていると、誰かから声を掛けられた。こんな場所に誰が来たんだと顔を上げてみると、そこには悪役令嬢になる予定だったというティルミア・ルージュがいた。
純粋な瞳でこちらを不思議そうに見澄ましている。

知り合いの中で一番まともな彼女なら、いい助言をしてくれるやもしれないと思い、悩みを打ち明ける。

「実は最近、ノアディアと一緒にいると緊張したり、色々上手くいかなかったり。それで少し落ち込んでいたんだ。・・・あ、いや、落ち込んでいたんです。」

相手は侯爵令嬢、だったっけな。高位貴族だということを思い出し、敬語に訂正する。

「普段通りの話し方で結構ですわよ。そうですね、ライ様はもしかして、ノアディア様に恋をしているのではなくて?」

仲睦まじいので、もう付き合っているものと思ってましたわ。とついでに小声で呟かれた。聞こえてるぞ。

「その冗談流行ってんのか?」

「冗談ではありませんわよ。わたくしは・・・恋をしているから痛い程分かるのですわ。その気持ち。」

と言って、お嬢様ティルミアは目を輝かせて手を握ってくる。
近付かれると彼女の美貌に目がいくが、ノアディアの方が綺麗な顔立ちをしているせいか、普通の顔に見えてしまう。
少し近付きすぎだ。反射的に後ろへ退しりぞいてしまう。

「ルイ様と一緒にいると胸が踊って、緊張して。たまに素直になれなくなってしまいますの。ライ様は今までそういったことがなかったから戸惑っていらっしゃるのでしょう?」

ルイ様・・・一学年先輩のルイヴィン・ラティス様の事か。愛称で呼ばれると俺に似ていて少しややこしいな。

ああ、そういえばこのお嬢様、第一王子の婚約者だったっけな。そうか、好きな人と婚約者だなんて素敵な事じゃないか。

それはともかく、変な誤解をされたままでは納得がいかない。

「いや、違う!恋しているとかなんだのってのは全部誤解なんだって。」

「お恥ずかしがらなくていいのですわよ。」

うんうんと頷かれ、うわ言のように「愛に障害はつきものですわ。」とか、「友情から始まる恋物語、目の当たりにしたのは初めてですわ。」とか言っている。

いや、そもそも俺とノアディアは友達でも何でもないただのライバル、いや、クラスメイトなはずなんだ。





・・・本当にそうなのだろうか。危険が迫った時に助けてくれたり、本気で俺の事を心配してくれたりする人物が、本当にただのクラスメイトなのだろうか。

心の置き所がない有様に混乱しているのは、嫉妬心や競争心のせいでないとするのならば、俺は・・・。





いや、そもそも俺がどう思っているかよりも、相手がまず俺の事をどう認識しているのかの方が重要な気がする。

そうだな、今までの行動からして、好きだの愛だのというよりも、ただ単に弟の様に心配しているだけではないのかと考え浮かび、なるほどなと理解する。

ノアディアはきっと俺の事を家族みたいに感じているのではないのだろうか?

そもそも男同士でどうこうだなんて、ここが乙女ゲームの世界なら許されない事なのではなかろうか。この世界は本来、ヒロインである瓶底メガネ少女リリーアが主役であるらしいのだから。

それと、もしも彼女の言っていることが正しいのだとすれば、ノアディアは隣国の王子ということになる。王族は釣り合った家柄の人間相手じゃないと結婚できないのだから、俺の事を好きになってもどうしようもないじゃないか。







「オホホホホ。お気付きでないかもしれませんが、ライ様、授業中ずっとノアディア様をご覧になっていらっしゃいますのよ。恋をしている証拠ですわ。」

このお嬢様、もしかしてただ誰かと恋バナがしたいだけなのでは?俺の言い分は無視して、さっきから物凄く饒舌じょうぜつに語っている。

どことなく楽しげな表情を浮かべているので、俺の見立てに間違いはないだろう。
もしかして、俺が恋煩いでもしているのではと勘違いして話し掛けて来たのだろうか。

「わたくし、ライ様の恋を応援していますから!頑張ってくださいまし!!お忙しくなければ近々ご一緒にお菓子作りでも致しましょうね!それではご機嫌よう。」

と、激励して立ち去ってゆく。

・・・恋をしている?俺が?

まさか、そんな訳ないじゃないか。

だが、ノアディアの事を嫌いだと断言できないでいる自分にもどかしさを感じてしまった。
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