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2章 迷猫編
第19話 暗がりは消える
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~大鷲船~
テイラの異変のせいで、なんだかみんな、ぎこちない様子だ。しかも、操舵室で大鷲船をモールまで動かすランマルさんとマッチュさん。座って待っているのは、僕とエリスしかいない。その上エリスは疲れて眠っている。
他のみんなはどこにいるのかな。待つだけじゃ嫌だな、少し歩き回るか。まずは、風に当たりたいし甲板にでも。と、ふと扉を開けると大鷲船の甲板から街を見下ろすプレイアさんの姿があった。
「プレイアさんも風に当たりに?」
「あっ、アランくん。まあ、そんなとこ。ドラバースも、テイラくんも、戦えなくなってさ。正直、不安で」
いくらヒーロー歴の長いプレイアさんでも、この現状には不安を覚えるだろう。
「……こんな私の不安も、この街は受け止めてくれないのかな」
「えっ?」
「えっ、あっ、ううん! 何でもない、気にしないで」
誤魔化すように苦笑いして、プレイアさんは僕から目をそらす。不安だらけの心に、穴だらけのオブラートを覆うように。
「あのっ! その……頑張りましょう!」
「……フフッ! 君って、本当に面白いよねっ! でも、そうだね。クヨクヨしててもしょうがない。うん、頑張ろ!」
俯かせていた顔をあげて、プレイアさんは大きく笑った。やっぱり、プレイアさんには笑っていてほしい。ううん、プレイアさんだけじゃない。ヒーローのみんなには、笑っていてほしいんだ。それが、僕の願いだ。
「アランくんがいてくれて良かったよ。ありがとう、元気出た」
「そんなことないですよ、今までは僕が元気貰ってた側なので」
謙遜する僕に、またプレイアさんは笑う。その笑顔に、僕もまた笑う。
「それじゃあ、私は操舵室で休むよ」
「はい」
「アランくんは?」
「僕はもう少し歩いてます」
「そっか。ちゃんと休むようにね」
ウインクを残して、プレイアさんは操舵室へと戻っていった。彼女を見送ると、僕は地下格納庫へ続く階段を降りた。さっきの戦闘で傷ついた桜を目に焼き付けておきたくて。
そう考えていたのは、僕だけじゃなかった。オレンジ色の瞳を揺らして、桜を見つめるテイラの姿があった。
「テイラ。何してんの?」
「っ! あ、いやな。整備不良のせいで動きやしなかったコイツに文句言いたくてな」
「そんな目には見えないよ」
という思いをギュッとこらえて、僕はテイラの桜を見つめる。
凹みも傷も、何一つない機体。触ってみれば、テイラの力に反応しているのか温かい。
「……温けぇよな」
「うん。すごく、優しくて、でもすごく温かい」
母親に抱かれているような、心に安らぎを与えてくれる温もり。赤ん坊の頃に戻ったかのようだ。
「整備不良のせいで……っ!」
本当は分かっているんだろう。今の自分には、桜を操られないということを。
テイラは、グチャグチャに顔を歪ませて泣いていた。
「……泣かない約束。覚えてるでしょ?」
「……覚えてるけどよ! 今だけは……!」
珍しく弱音を隠さないテイラに、僕は正直困っていた。どう接すれば良いのか、分からなくなっていた。
だから、僕はただテイラの肩を撫でた。僕がここにいるということを、伝えるために。
「……ありがとよ」
「ううん。いつもそばにいてくれたテイラだもん。今度は僕がそばにいなくちゃ」
僕の意思を聞いて、テイラは腕でゴシゴシと涙を乱暴に拭った。太陽のようにオレンジ色の瞳が、真っ赤に染まっている。
「もう、泣かないぜ! 弱虫なお前に、そこまで言わせちゃ俺のメンツズタボロになっちまう!」
「弱虫はひどいなぁ」
「アハハハ!」 「ガッハッハ!」
僕達の笑い声が、格納庫に響く。高鳴るその声に共鳴して、僕の桜のエンジンがかかった。
「え?」
「桜も咲ってるのかもな」
「だったら良いね。仲間だもん」
「おいおい、機械まで仲間扱いかよ?」
苦笑いしながら、テイラはそう言う。何と言われても、桜だって仲間だ。ただの機械じゃない。心を分かち合える機械だから。
「まっ、良いけどよ。じゃ、俺は戻るとするか! お前も来いよ」
「うん。そろそろ着く頃だしね」
僕はテイラと一緒に操舵室へと戻ることにした。もう暗がりは消え去った。明るく楽しく、そうやって生きていこう。それが、僕にできる最高の恩返しだから。
この場所へ導いてくれた君に、ありがとうって素直に言えない自分が憎いけれど。精一杯伝えてみせる。最後の最後まで、決して挫けないように。
テイラの異変のせいで、なんだかみんな、ぎこちない様子だ。しかも、操舵室で大鷲船をモールまで動かすランマルさんとマッチュさん。座って待っているのは、僕とエリスしかいない。その上エリスは疲れて眠っている。
他のみんなはどこにいるのかな。待つだけじゃ嫌だな、少し歩き回るか。まずは、風に当たりたいし甲板にでも。と、ふと扉を開けると大鷲船の甲板から街を見下ろすプレイアさんの姿があった。
「プレイアさんも風に当たりに?」
「あっ、アランくん。まあ、そんなとこ。ドラバースも、テイラくんも、戦えなくなってさ。正直、不安で」
いくらヒーロー歴の長いプレイアさんでも、この現状には不安を覚えるだろう。
「……こんな私の不安も、この街は受け止めてくれないのかな」
「えっ?」
「えっ、あっ、ううん! 何でもない、気にしないで」
誤魔化すように苦笑いして、プレイアさんは僕から目をそらす。不安だらけの心に、穴だらけのオブラートを覆うように。
「あのっ! その……頑張りましょう!」
「……フフッ! 君って、本当に面白いよねっ! でも、そうだね。クヨクヨしててもしょうがない。うん、頑張ろ!」
俯かせていた顔をあげて、プレイアさんは大きく笑った。やっぱり、プレイアさんには笑っていてほしい。ううん、プレイアさんだけじゃない。ヒーローのみんなには、笑っていてほしいんだ。それが、僕の願いだ。
「アランくんがいてくれて良かったよ。ありがとう、元気出た」
「そんなことないですよ、今までは僕が元気貰ってた側なので」
謙遜する僕に、またプレイアさんは笑う。その笑顔に、僕もまた笑う。
「それじゃあ、私は操舵室で休むよ」
「はい」
「アランくんは?」
「僕はもう少し歩いてます」
「そっか。ちゃんと休むようにね」
ウインクを残して、プレイアさんは操舵室へと戻っていった。彼女を見送ると、僕は地下格納庫へ続く階段を降りた。さっきの戦闘で傷ついた桜を目に焼き付けておきたくて。
そう考えていたのは、僕だけじゃなかった。オレンジ色の瞳を揺らして、桜を見つめるテイラの姿があった。
「テイラ。何してんの?」
「っ! あ、いやな。整備不良のせいで動きやしなかったコイツに文句言いたくてな」
「そんな目には見えないよ」
という思いをギュッとこらえて、僕はテイラの桜を見つめる。
凹みも傷も、何一つない機体。触ってみれば、テイラの力に反応しているのか温かい。
「……温けぇよな」
「うん。すごく、優しくて、でもすごく温かい」
母親に抱かれているような、心に安らぎを与えてくれる温もり。赤ん坊の頃に戻ったかのようだ。
「整備不良のせいで……っ!」
本当は分かっているんだろう。今の自分には、桜を操られないということを。
テイラは、グチャグチャに顔を歪ませて泣いていた。
「……泣かない約束。覚えてるでしょ?」
「……覚えてるけどよ! 今だけは……!」
珍しく弱音を隠さないテイラに、僕は正直困っていた。どう接すれば良いのか、分からなくなっていた。
だから、僕はただテイラの肩を撫でた。僕がここにいるということを、伝えるために。
「……ありがとよ」
「ううん。いつもそばにいてくれたテイラだもん。今度は僕がそばにいなくちゃ」
僕の意思を聞いて、テイラは腕でゴシゴシと涙を乱暴に拭った。太陽のようにオレンジ色の瞳が、真っ赤に染まっている。
「もう、泣かないぜ! 弱虫なお前に、そこまで言わせちゃ俺のメンツズタボロになっちまう!」
「弱虫はひどいなぁ」
「アハハハ!」 「ガッハッハ!」
僕達の笑い声が、格納庫に響く。高鳴るその声に共鳴して、僕の桜のエンジンがかかった。
「え?」
「桜も咲ってるのかもな」
「だったら良いね。仲間だもん」
「おいおい、機械まで仲間扱いかよ?」
苦笑いしながら、テイラはそう言う。何と言われても、桜だって仲間だ。ただの機械じゃない。心を分かち合える機械だから。
「まっ、良いけどよ。じゃ、俺は戻るとするか! お前も来いよ」
「うん。そろそろ着く頃だしね」
僕はテイラと一緒に操舵室へと戻ることにした。もう暗がりは消え去った。明るく楽しく、そうやって生きていこう。それが、僕にできる最高の恩返しだから。
この場所へ導いてくれた君に、ありがとうって素直に言えない自分が憎いけれど。精一杯伝えてみせる。最後の最後まで、決して挫けないように。
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