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1章 昇竜
第24話 火蓋は落とされた
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今にも出発しそうな地下鉄に駆け込むように、僕はモールへと駆け込み、関係者以外立入禁止のモール裏の事務所まで駆け抜けた。
息を切らして来た僕に、みんなは驚いている。
「ハァ、ハァ……」
「ど、どうしたの? とりあえず座って」
「おじちゃん、汗びっしょりだよ? はい、タオル」
おじちゃんじゃない、なんて言う体力もなく、渡されたタオルをそっと取り、顔を埋める。
汗に塗れた涙も拭えるように。
「何があったか、話せ」
「ちょっとブレイド! 今はそっとしてあげなよ」
ブレイドは、レッドウルフの本名の姓だ。マルケル・ブレイド。アランも知ってはいるが、ヒーロー名のほうが呼びやすく、ただヒーロー名で呼んでいただけである。
「大丈夫、です。あの……その前に、モスイさんは?」
「モスイのおじちゃんなら、さっきお電話しに出て行ったよ?」
「電話……なら先に話します。実は--」
『テイラのやつ、裏切りだ!』
僕の真後ろから扉が引かれ、それと同時に大きな声がした。聞いたこともない、とてつもない怒りが込められた声に僕の涙は引っ込んだ。
「モ、モスイさん⁉︎」
「きみは……裏切りじゃないよね?」
「えっ」
「何言ってんですか⁉︎ モスイさん、ちょっと落ち着いて」
「うんうん! おじちゃんが悪い人じゃないこと、エリスが一番知ってるもん!」
少女の異能力のおかげで、アランの潔白が証明された。他人の精神とリンクできる異能力と知ったのはここ最近だ。
だが彼女と出会ったのは、それを知る以前。しかも偶然だ。それに対する策を練ることなんてできないだろうと、その場にいる誰もが考えた。
「それもそうか……」
「で、テイラが裏切りってどういうことですか?」
「ぼ、僕も知ってます。亡霊を、体内に取り込んで……多分、バケモノみたいになってると思う」
それを口にした途端、みんなの瞼が大きく開き、瞳が揺れた。
「……。ここの過去を明らかにしておいたほうが良いのかもな」
「でも時間が……」
『バケモノ大量発生まで残りわずかです! 出撃してください!』
時間を告げるモスイさんの携帯電話端末。やっぱりおかしいと、僕は気が付いた。
「あの、モスイさん。なんで電話使えてるんですか?」
「あっ! 言われてみれば……」
「バケモノが発生する前には、電波障害が起きるはずって習ったよ?」
咄嗟に気付いたことだけど、明らかにおかしい。問いただす時間なんて、あっても残り数十秒かもだけど、見落とせない、見逃せない。
「……なんだ、そんなことか。たしかに、当該地域の電波は使えない。だから、電波弱いけど該当しない地域から借りてるだけだよ」
モスイさんは携帯電話端末の設定画面を開いて、使っている電波の名前を見せた。それは、ローマ字表記された小田原市の文字列だった。
「す、すごいゴリ押し……」
「分かったなら早く行きなさい」
「疑ってごめんなさい、モスイのおじちゃん」
「僕も、ごめんなさい。では、行ってきます」
「あっと、1つだけ。アランくんには、現場総指揮と同時にヒーローにもなってもらうよ」
「え……えっ、今なんて?」
唐突すぎることに、僕の脳みそは序破急を受けて捻りあげられた。
「今言った通りだよ。いわゆる、指揮官としてヒーローやってもらうよ」
「え、カメラは?」
「カメラは俺がやる」
さっきまで黙り込んでカメラをいじり続けていたレッドウルフが、カメラの配線の蓋を閉めてそう呟いた。
「レッドウルフは、ヒーロー復帰までのしばらくの間カメラ係だ」
「そうなんだ……カメラ、よろしくね」
「任せておけ。これでも最初はカメラやってたからな。あの頃に戻ったみたいなものだ」
「それじゃあ、アランくん。出撃命令頼んだよ」
「ぼ、僕ですか⁉︎」
ドラバースの役目が僕に任命され、躊躇いを隠せなかった。
「きみしか頼めなくてね」
「わ、分かりました……」
「おっと、忘れていたよ。今、ボクたちはただのヒーローじゃない。対亡霊迎撃部隊・帝都防衛華荘団色組として活動する。ただのヒーロー活動と思わないでくれよ?」
そんな長ったらしい名前、聞いたことがない。
ただ、その名を聞いた途端に右手の甲の痕が少し光っている。
「了解しました! 帝都防衛華荘団色組、戦闘開始!」
「『イエッサー!』」
その返事と共に、事務所全体が大きく揺れ、一気に下へと降りていく。
その目の前にあったのは、人型のロボットだった。ただ、亡霊のものとは違い、丸っこい。それに、甲冑のような作りだ。
「これは、一般のヒーローじゃ操れない高度な甲冑、その名も霊剛甲冑桜だ!」
「え、ダサ!」
「えぇぇ⁉︎ うそぉ、私の名案だったのにぃ」
「あ、え、いや……」
「おじちゃんひどぉい! プレイアいじめた~っ!」
「きみたち、早く乗りなさい」
「はぁい」
グダグダながらにも、僕達は桜に乗り込む。中に入った途端に、背中と胸と肩に、先端に吸盤がついたチューブがつけられる。それと同時に、手元のメーターの針が動き、何もしていないのに起動した。
『す、すごい! アランくんのメーター、はち切れそう!』
『エリスのだって負けてないもん!』
どこからか、桜の機内にプレイアさんとエリスの声が響く。
『無線での連絡だ、その無線もきみたちの力でできることだ。さぁ、出撃してこい! タァンとその実力、見せつけてこいや!』
いつものキャラと変わりすぎて、モスイさんのイメージ壊れたけど、こっちのほうが関わりやすいや。
「桜全機、起動完了! 出撃します!」
「『イエッサー!』」
「飛び出すのは……?」
操作なんて学んでいない。なのに、勝手に手が動く。右手横にあるレバーを引き、背中にある出力機関であるパイプから蒸気が噴出されて桜を前へと一気に押し出す。
開けられた正面のハッチから飛び出し、バケモノが現れ始めている湘南区という舞台へ降り立った。
息を切らして来た僕に、みんなは驚いている。
「ハァ、ハァ……」
「ど、どうしたの? とりあえず座って」
「おじちゃん、汗びっしょりだよ? はい、タオル」
おじちゃんじゃない、なんて言う体力もなく、渡されたタオルをそっと取り、顔を埋める。
汗に塗れた涙も拭えるように。
「何があったか、話せ」
「ちょっとブレイド! 今はそっとしてあげなよ」
ブレイドは、レッドウルフの本名の姓だ。マルケル・ブレイド。アランも知ってはいるが、ヒーロー名のほうが呼びやすく、ただヒーロー名で呼んでいただけである。
「大丈夫、です。あの……その前に、モスイさんは?」
「モスイのおじちゃんなら、さっきお電話しに出て行ったよ?」
「電話……なら先に話します。実は--」
『テイラのやつ、裏切りだ!』
僕の真後ろから扉が引かれ、それと同時に大きな声がした。聞いたこともない、とてつもない怒りが込められた声に僕の涙は引っ込んだ。
「モ、モスイさん⁉︎」
「きみは……裏切りじゃないよね?」
「えっ」
「何言ってんですか⁉︎ モスイさん、ちょっと落ち着いて」
「うんうん! おじちゃんが悪い人じゃないこと、エリスが一番知ってるもん!」
少女の異能力のおかげで、アランの潔白が証明された。他人の精神とリンクできる異能力と知ったのはここ最近だ。
だが彼女と出会ったのは、それを知る以前。しかも偶然だ。それに対する策を練ることなんてできないだろうと、その場にいる誰もが考えた。
「それもそうか……」
「で、テイラが裏切りってどういうことですか?」
「ぼ、僕も知ってます。亡霊を、体内に取り込んで……多分、バケモノみたいになってると思う」
それを口にした途端、みんなの瞼が大きく開き、瞳が揺れた。
「……。ここの過去を明らかにしておいたほうが良いのかもな」
「でも時間が……」
『バケモノ大量発生まで残りわずかです! 出撃してください!』
時間を告げるモスイさんの携帯電話端末。やっぱりおかしいと、僕は気が付いた。
「あの、モスイさん。なんで電話使えてるんですか?」
「あっ! 言われてみれば……」
「バケモノが発生する前には、電波障害が起きるはずって習ったよ?」
咄嗟に気付いたことだけど、明らかにおかしい。問いただす時間なんて、あっても残り数十秒かもだけど、見落とせない、見逃せない。
「……なんだ、そんなことか。たしかに、当該地域の電波は使えない。だから、電波弱いけど該当しない地域から借りてるだけだよ」
モスイさんは携帯電話端末の設定画面を開いて、使っている電波の名前を見せた。それは、ローマ字表記された小田原市の文字列だった。
「す、すごいゴリ押し……」
「分かったなら早く行きなさい」
「疑ってごめんなさい、モスイのおじちゃん」
「僕も、ごめんなさい。では、行ってきます」
「あっと、1つだけ。アランくんには、現場総指揮と同時にヒーローにもなってもらうよ」
「え……えっ、今なんて?」
唐突すぎることに、僕の脳みそは序破急を受けて捻りあげられた。
「今言った通りだよ。いわゆる、指揮官としてヒーローやってもらうよ」
「え、カメラは?」
「カメラは俺がやる」
さっきまで黙り込んでカメラをいじり続けていたレッドウルフが、カメラの配線の蓋を閉めてそう呟いた。
「レッドウルフは、ヒーロー復帰までのしばらくの間カメラ係だ」
「そうなんだ……カメラ、よろしくね」
「任せておけ。これでも最初はカメラやってたからな。あの頃に戻ったみたいなものだ」
「それじゃあ、アランくん。出撃命令頼んだよ」
「ぼ、僕ですか⁉︎」
ドラバースの役目が僕に任命され、躊躇いを隠せなかった。
「きみしか頼めなくてね」
「わ、分かりました……」
「おっと、忘れていたよ。今、ボクたちはただのヒーローじゃない。対亡霊迎撃部隊・帝都防衛華荘団色組として活動する。ただのヒーロー活動と思わないでくれよ?」
そんな長ったらしい名前、聞いたことがない。
ただ、その名を聞いた途端に右手の甲の痕が少し光っている。
「了解しました! 帝都防衛華荘団色組、戦闘開始!」
「『イエッサー!』」
その返事と共に、事務所全体が大きく揺れ、一気に下へと降りていく。
その目の前にあったのは、人型のロボットだった。ただ、亡霊のものとは違い、丸っこい。それに、甲冑のような作りだ。
「これは、一般のヒーローじゃ操れない高度な甲冑、その名も霊剛甲冑桜だ!」
「え、ダサ!」
「えぇぇ⁉︎ うそぉ、私の名案だったのにぃ」
「あ、え、いや……」
「おじちゃんひどぉい! プレイアいじめた~っ!」
「きみたち、早く乗りなさい」
「はぁい」
グダグダながらにも、僕達は桜に乗り込む。中に入った途端に、背中と胸と肩に、先端に吸盤がついたチューブがつけられる。それと同時に、手元のメーターの針が動き、何もしていないのに起動した。
『す、すごい! アランくんのメーター、はち切れそう!』
『エリスのだって負けてないもん!』
どこからか、桜の機内にプレイアさんとエリスの声が響く。
『無線での連絡だ、その無線もきみたちの力でできることだ。さぁ、出撃してこい! タァンとその実力、見せつけてこいや!』
いつものキャラと変わりすぎて、モスイさんのイメージ壊れたけど、こっちのほうが関わりやすいや。
「桜全機、起動完了! 出撃します!」
「『イエッサー!』」
「飛び出すのは……?」
操作なんて学んでいない。なのに、勝手に手が動く。右手横にあるレバーを引き、背中にある出力機関であるパイプから蒸気が噴出されて桜を前へと一気に押し出す。
開けられた正面のハッチから飛び出し、バケモノが現れ始めている湘南区という舞台へ降り立った。
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