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1章 昇竜

第22話 辿り着けない夢

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 雨は上がり、青いだけの空が広がる。照りつける陽光が、街を照らす。まだ全てが終わったわけじゃない。明日が、本当の戦いになる。
 そんなときなのに、ドラバースが不在だなんて知られたら、きっと避難している人達に絶望を与えかねない。実際、僕だって不安でいっぱいだ。何が起こったかさえ分からず、今ここにいる。
 消えたドラバースの行方を知っているのは、他でもない奈落だけ。問い詰めなければ、という思いと同時に憧れを見失った空虚感でいっぱいで、心の中は痛くて仕方がない。

「とりあえず……一旦、モスイさんと相談しよ?」
「……はい」

 落ちていたかんざしを手に取り、僕はトボトボと歩き出す。ヒーローのそばにいれるという実感をくれた人がいなくなって、僕は今にも泣きそうだった。



 ~地球防衛放送局湘南区支部~

 真っ白いタイルに映る僕の影を見つめながら、僕はプレイアさんについていく。
 本当ならば、初めて入るこの場所に胸を躍らせているはずなのに、それとは裏腹に僕は俯いてばかりだ。
 僕が無理をしなければ。そんな後悔ばかりが先に出てくる。いつもこうだ、僕が何かを始めれば、誰かが僕の心を壊す。
 だから、僕はスカウトを断った。なのに、どうして始めてしまったのだろう。僕が始めれば、僕の大切なものが壊れてしまうのに。

「……アランくん。はい、これ」
「え?」

 俯き続ける僕の肩に、プレイアさんが1枚の写真を見せた。
 それは、今より少し若い頃のドラバースが、体中を血に染めている写真だった。

「……きみの地元。バケモノノマチに出向いたときに、ドラバース……大怪我して。それが原因で、異能力が弱まったの」
「えっ……」

 聞いたこともない情報に、僕の心は空っぽになった。

「でも、ドラバースってば、ファンに申し訳ないからヒーロー活動続けるって、聞かなくて。あの日から、私嫌いになっちゃった。メイビスさんの教えをないがしろにしてまでヒーロー続けようとするアイツがさ」

 自販機前のベンチに座って、プレイアさんは昔を思い出すかのように空を見上げながらそう語る。その目は、言葉と矛盾して輝いていた。

「だからかな。私も、嫌いなはずなのに憧れてた。無理して続けて、それでも勝ち取れるものがあるんだなって。無理しない程度に頑張ってる私と違ってね」
「……僕は、ヒーローとして頑張ってるだけで凄いと思います」
「……そう? 私は別に凄いとか思ったことないな。だって……凄い人が目の前にいすぎて、もっと頑張れるって思えてたから」

 そうか。やっと分かった。僕は今まで、叶わないと思っていたから、お父さんがヒーローなのに、ヒーローになりたいなんて思わなかったんだ。
 でもやっと掴めた夢なのに、結局何も叶ってないや。大切なものすら守れずじまいで。
 そう思うと、泣けてきちゃうな。

「……テイラくんがさ、よく言ってたよ。アランくんはドラバースとなると話が止まらないって。尊敬できる人がいて、良いなぁって思う」
「そんなこと--」
「そんなことあるよ! 私だって……いた。でも誰にも言えなかった! きみと違って……何も、誰にも言えなかった!」

 プレイアさんがボロボロと涙をこぼす。その姿に、悲しいのは僕だけじゃないんだと気付いた。それに、ヒーローは泣かない。テイラと約束したんだ。今泣いてても、進めやしないから。
 それに、まだドラバースが死んだって決まったわけじゃない。確かめなきゃ。せめて、それを知ってから泣け、僕。

「プレイアさん、ヒーローの居場所とかって分かったりしますか?」
「え……? それができるのは養成学校にいる、明日来る子だけど……?」
「……あの子か、よし!」
『あれ? この前のおじさん!』

 控室の扉から、この間会った金髪パーマの青い瞳をした白いドレスの女の子が出てきた。

「だからおじさんじゃないって! それより、ドラバースの居場所分かるの⁉︎」
「えっ、ドラのお兄ちゃんいなくなったの⁉︎」

 まだ何も知らない彼女は、瞼を大きく見開いて驚いていた。

「そう! 君の異能力なら分かるんだろ⁈」
「う、うん……おじさん、肩痛い」
「あ、ごめん……」

 動揺しているせいで、思わず僕は少女の肩を強く握って教えを乞おうとしていた。

「じゃあ……」

 少女の髪がフワリと膨らむ。ドレスの裾も、フワリと膨らむ。温かいオーラが彼女を包んでいく。

「暗くて……冷たい場所……牢屋の中にいる……っ!」

 突然少女は怯えるかのように耳を塞ぎながらカタカタと震えている。

「ヤダ、来ないで!」
「ど、どうしたの⁉︎」
「何か、されてるみたい。この子は、他人の精神状態とリンクできる能力を持っているの。ただ、まだスキルアップがほとんどできていないからこの子の精神状態のまま。つまり、すぐに精神崩壊を引き起こしてしまうってこと!」

 そんな危険な能力を、スキルアップなしに戦場に立たせるのか? それはいくらなんでもおかしい話だ。既にお父さんの教えを蔑ろにしているではないか。

「……でも、生きているってことは分かった。だけど……暗くて冷たい場所……ヒントが少なすぎる」
「もしかして、敵の本拠地とか?」
「充分ありえるけど、まだそれがどこにあるかが……」

 ここにきて情報未収穫というマイナスな結果が作用した。そしてヒーロー不足の今、誰が代わりに立つ。
 マイナスな結果のあとはマイナス。だけどそれをプラスに方向へ突破口を開くのは僕しかいない。両頬を2回叩いて、僕は明日に備えてのやる気をみなぎらせるよう、涙の跡も全部拭った。
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