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第二話 触手と二回目はあり得ない!
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呆けているうちに立場が逆転していた。
俺はまた深谷に押し倒され、キスされている。しかしさっきと違うのは、俺を拘束するのが深谷の二本の腕だけで、俺の口腔に侵入した深谷の舌が喉奥に入り込む異常な長さを持っていないということ。
女性とは違う大きくて厚い舌が歯列をなぞり、上顎をくすぐっていく。なんとも言えない感触に小動物のような声が出てしまい、深谷に笑われた。
「かわいい、新さん。かわいい」
「か、かわいくはねぇよ。年上の男捕まえて何言ってんだ」
「年齢なんて関係ないよ。新さんはかわいいし、どこもかしこもいい匂いがして、甘い……」
「お、おい!」
気がつくと俺の上半身は裸になっていた。上着がベッドの下に放られている。
ちくしょう、俺はもう金輪際前開きのパジャマなんぞ着ない!
深谷の舌が首筋を辿って、肌をちゅうちゅう吸っている。カブトムシに食われるゼリーの気分だ。
深谷の腕は今、常識的な形状のものが二本しかないにも関わらず片腕で俺の体をがっちり掴んでいて、ついでに空いた方の手で乳首をいじっている。
やめろ、先っぽをつつくな。気持ち良くなっちゃうだろうが!
深谷の脚がいたずらに俺の股間を刺激するので、もどかしくて膝が揺れる。脚を閉じたいのに間に深谷がいるから、まるでこいつに続きをねだるような動作をとってしまう。
「や、ふかゃあ……だめだってぇ」
「そんなトロトロにとろけた顔で言われても、やめられるわけないでしょ?」
「あぁ、んっ……」
待て俺、喘いでる場合じゃないぞ俺、このままじゃまた生命も貞操も守れず散らされてしまう。
「明日月曜だから……マジで、ぁっ、だめなんだってば……!」
「あー……」
一心に俺の体を辱めていた深谷がふと顔を上げ、遠い目をした。
月曜日って魔法の単語だよな。これを聞くだけで何か始めようって気が失せる。日曜日が月曜の出社のための消化試合みたいになっちまう。社会人の悲しい刷り込みだ。
しかし社会人六年目にしてだいぶくたびれている俺と二年目のフレッシュな深谷では、月曜日の重みが違ったらしい。
「じゃあ、ちょっとだけにするんで」
「おい待て! ちょっとだけって何をっ、ぁあ!」
こらっ話している最中に乳首を噛むな!
胸元にしゃぶりついている男の頭を必死で遠ざけようとしているのに、ぴんと勃っている粒を舌先で転がされると力が抜ける。
逆に深谷の愛撫を求めるかのように柔らかな黒髪をかき混ぜて抱き締めてしまうので、こいつはもっと調子に乗る。というか触手のくせになんでこんなサラサラヘアーなんだ、良いコンディショナー使ってるのか?
ふわさらの手触りを楽しみつつ、みっともない喘ぎ声を押し殺すことに必死になっていたら、いつの間にかズボンと下着まで奪われ全裸にされてしまった。
「ほら新さん、脚曲げて」
「やだぁ、しない、今日はしないんだぁ」
「明日に響かないようにしますから」
「だめだってば、やだ!」
「そんなに嫌? もしかしてさっき近づかないようにしたこと、怒ってます?」
一瞬理解できずに思考が止まり、脳が遅れて深谷の言葉の意味を解した。
さっきというのはきっと、映画を見ていたときのことだ。
コーヒーを持っていっただけでハグしてくる触手が、不自然なほど距離を保って平和に映画を見ていたのはやっぱり、こいつが意識的に距離を置いていたからだった。
そしてヤツは今、俺がそのせいで拗ねているのかと疑っている。
ぎゅうっと顔に血が上る感覚があった。何度も首を横に振って「違う」と繰り返す。
その必死さが逆に取られてしまうことなど思いもせずに。
「そっか。すみません、寂しかったんですね。後ろから抱っこしてあげればよかったですね」
「違う! 誰もそんなこと求めてない!」
「次回からは気をつけますね。新さんは寂しがり屋さんだから」
「違うってば! 寂しくなんか……」
ない、と言い切れるだろうか。
数年間脇目も振らず付き合ってきた彼女に選んでもらえなかったことで、空虚な気持ちになった数ヶ月間。でも俺の気持ちがどうであれ、日常は続いていくし仕事もある。寂しいと感じたことも、立ち止まった日もなかった。
なのに辻褄は合う、合ってしまう。
友人の飲みの誘いに積極的に参加したのも、ルームシェアを提案されて二つ返事で了承したのも、危険な相手だとわかっていたのに結局同居を許したのも、もしかしたら全部。
そんな場合じゃなかったのに、俺は不覚にもぽかんと考え事をしてしまった。
その隙を狙って深谷は俺の脚を高く掲げ、無防備に晒された後孔にぬるついた 細い何かが押し込まれる。
「ひっ! な、おまえまさか触手」
「違いますよ、ちゃんと形保ってます。これはローションです」
「いつの間にそんなもん……!」
「さっきドラッグストアで」
確かに薬局あるなら寄りたいって言うから連れてったけど、そういう買い物だったのかよ!
今すぐ抜けと暴れたいのに、深谷の指がアナルの縁を引っ掻きながら抜き差ししていくと腰が痺れてどうしようもなくなる。
「あ、あぁっ、一緒に触るな……っ」
体を折り畳まれるような無理な姿勢がつらいのに、本体を裏切って元気よく起立している俺の息子は深谷の手の中に収まって、丁寧によしよしされている。
男同士だと気持ちいい場所がわかるからか、深谷の手淫は的確だった。先端の穴をほじるように抉られると腰がびくびく震える。
前後同時に責められると力が抜けて抵抗できず、俺はただ情けなく喘ぐだけになってしまった。男の体がこんなにも快楽に正直なのが今だけは憎い。
「や、出る、っ……!」
「いっぱい出たね」
まんまと深谷にイかされてしまった。
荒い息を整えながら見ると、ヤツはあろうことか手のひらに受け止めた白濁を舐めとっている。AVみたいな光景だ。相手が男なのが悔やまれる。
今出したばかりだというのに俺の陰茎は卑猥な光景にまた興奮し始めているし、後孔はローションで濡れそぼり、準備万端に弛みきってしまっていた。
「ねぇ新さん」
すでにだいぶ消耗している体をなんとか持ち上げて、滲む視界の向こうにヤツを見た。
深谷はいつもより意地悪そうな表情を浮かべている。
「このままだと新さん、自分の意思で、人間の男に抱かれることになりますよ」
「……え?」
いきなり何を言い出すんだこいつは。
「だってそうでしょう。俺がこの姿のまま続けるのは許可もらったわけですが、そうなると新さんは、ゲイでもバイでもないのに自分から男に体を許したことになりますよね」
「そ、そんなことは」
「ありますよ。この姿がいいんでしょ? 人間の、男の姿に犯されたいんでしょ?」
犯されたいだなんて言ってない、絶対言ってない。
でも結果的にそうなっちゃうのか? 俺はアナル開発だけに飽き足らず、ゲイセックスの領域にまで足を踏み入れてしまったのか。
沸いた頭で混乱する俺に、悪魔───もとい触手野郎が囁いた。
「今なら、俺が無理矢理新さんを襲って抱いたことにできますよ」
「は、ぁ?」
「俺が人間の男じゃなく触手なら、無理矢理でしょう。新さんは『恐ろしい未確認生物』に触らせるなんてこと、許可してないんですから。これって強姦ですよね」
「ごーかん……そ、そうだよ。おまえが無理矢理っ……」
「そうですよね。じゃあ触手の方が都合いいですね。挿れますよ」
「え、待っ、なんかおかし……ぃいっ!」
必死に制止したが一瞬遅かった。
いつの間に出現していたのか、あの巨大な生殖器が綻んだ後孔を無慈悲に穿つ。
ゆるゆるの肉壺は拒むことなく深谷を奥深く招き入れ、その衝撃で目の前が真っ白になった。頭の中がからっぽになって、何も考えられなくなる。
わかるのは、俺の腹の中を太くて長くてウネウネしたものが犯しているということ。それは明らかに人間離れした動きで、敏感な腸壁を余すことなく抉っているということ。
ついでに、信じられないくらいそれが気持ちいいってこと。それだけだ。
「ぁああ……ふかや、ぁ……」
「あーあ、かわいそうに新さん。強姦されても気持ちいい体にされちゃって。それもこれも全部触手のせいですよね」
「ふ、ぁ……あたりまえら、おれ、触手やだって、言った……」
過ぎた快感に舌が回らなくなってきた俺を慈しみの目で見下ろす男は、とても行為を強要しているようには見えない。
汗ばんで張り付く俺の髪を指先でそっと梳いて、その手を複数の触手へと分離させた。二本しかなかった腕の後ろから、無数の触手が現れ蠢きだした。
「ですよね。全部触手の、俺のせいです。だから俺のせいにして、存分に気持ち良くなってくださいね」
「あ、ひ、ぁあ───ふか、深いぃ……」
中のモノが僅かに動いただけで、感じる場所すべてが押し潰される。
触られていない陰茎が精液を撒き散らし、すかさず近くの触手がそれを美味そうに舐めとって啜っていく。
「はぁ……精気も料理も美味いなんて、新さん最高だ……どれだけ俺を惚れさせる気ですか」
「あぁ、あ、あっ、は……ふか、や……」
「ん。ここ掴まって」
揺さぶられる体が無意識に縋るものを求めた。彷徨う腕を誘導され、深谷の肩に手を伸ばす。
組みついた男の背中は、触手を出してはいるものの人の原型を保っていて、しっかりと俺を受け止めてくれた。
未知の存在が怖いのに、気持ちよさに抗えない。
まったく初心者向けではなかった初回より、いくらかゆるく優しい交わり。なのに俺は確実に追い上げられ、小さな絶頂を繰り返していた。
「は……深谷、あ、んぅ」
前回惜しみなく与えられたあの甘い液体は、今回は出さないつもりらしい。
無意識に舌を伸ばして媚薬を求めてしまった俺の口に、触手の一本が入り込んできた。
甘噛みしても液体は出ず、その代わり俺の唾液を奪い去っていく。
「ふぁ……しょくしゅ、これ、さっき見た映画のやつ……」
「ちょっと。なんで今その話するんですか、萎えるんでやめてください」
「ん、ふふふ」
深谷が本当に嫌そうな顔をしたので笑ってしまう。
さっきの映画では、腹と口をタコ足に貫かれ死ぬ人物が描かれていた。客観的に見たら今の俺にそっくりだ。
人間の捕食という行為自体は巨大タコも触手も同じだが、触手の方は俺を殺す気はないらしい。イきすぎて一瞬三途の川見えた気がするけど、たぶん死にはしない。
「ほら、これでおしまいにしますから」
「あぁっ! ふかや、ぁ、深谷っ……!」
そういえばこいつ、ちょっとだけにするって言ったのに。何をもって「ちょっとだけ」という話だったんだ。
不埒な男たちの言う「先っぽだけ」みたいなことなのか。
俺はもう何回も達してる。頭がおかしくなりそうなほどに。たぶん精気も存分に吸われていることだろう。全然「ちょっとだけ」の範疇ではない。
あぁでも、相手をラブホに連れ込んでおいて「先っぽだけ」で済ませる男がいるはずないよな。そういうことか。
俺はまた丸め込まれて騙された、そういうことか───。
「あ、たのむ、奥はやめ、やめて……」
前回はおぼろげながら、この極太触手に男として絶対に暴かれてはいけない場所まで許してしまった記憶がある。
気が遠くなるほど気持ちよかったけど、あんなのを何度もやられたらもう戻れない。その一心で俺を苛む男に縋った。
思わず泣きが入って涙も零れ落ちたが、頬を伝う前に細い触手が舐め取っていく。
「そうですね、今日はやめときましょう。明日月曜だし……結腸の手前までにしておきます」
その言葉を表すかのようにナカの触手が一度抜けていき、また挿入された。
殺人的な形状のくびれや無数の突起が前立腺も精嚢もそれ以外も押し潰しながら蠢く。
「っあ、あ゛ぁああ……は、はぁ……これ、マジで奥までいってないの……?」
「行ってませんよ。ここが行き止まりです」
「んんぅ……っ」
最奥に触手生殖器の先端を押し当てたまま軽く体を揺すられ、それだけで意識が飛びそうなくらい気持ちいい。
ずっぽりハメられてるようにしか思えないが、これでも手加減されているってことか。多少負担が減るならありがた……くねぇ、そもそもヤりたくないって言ったはずなのにこの野郎。
「おま、ぅん……っ、おい、やめ……ん」
文句を言おうと口を開いたら深谷の唇で塞がれた。今度はあの長い舌がずるずると押し入って、俺の言葉を根こそぎ奪ってしまう。
根本に行くに従って太くなっていく触手舌と自分のものを濃厚に絡めながらキスを続けていると、気持ち良さと酸欠でぼんやりしてきた。
あの甘い汁の代わりに別の何かが流し込まれているような。でもそれが何かはわからない。頭がばかになりかけてる。
「新さんってキスが好きだよね。もっとする?」
「ん、も、っと……ふぁ、あ……」
「いつもこれくらい素直ならいいのになぁ」
分厚い膜に隔てられた空間に放り出されたような、心地よい快楽だけしか感じられない。
ここにあるのは、俺を気持ち良くさせてくれる深谷という存在だけだ。煩わしいものは何もない。体面も感情も言葉も置いてきてしまった。
「新さん、一緒にイこ」
「ん……」
飛び出た触手がうねる背中にしがみついて、深い口づけを続けながら腹の底を犯される。無数の触手が体中に群がって、少しでも俺が反応する場所に絡みついてくる。
中と外、両方から与えられる人間には過ぎた快楽によって、俺はだいぶ薄くなった精液を放出した。
白濁がシーツや体を汚すことはなく、一滴残らず触手の餌食になっていく。
「ぁ、なか、なんか出て、ぅ……」
脱力した体が触手に包まれ、やわやわと抱き込まれた。あのグロい生殖器が胎内に何かを出している。
男としての本能か、中に出すという行為が極めて危険で同意なしにしてはならないという警鐘が頭の中に響き渡った。中イキしすぎて馬鹿になった頭でも、それだけはわかる。
「や、やっ……なか、出すなぁ……も、抜いて」
「落ち着いて。人間でいうところの精液が出てるわけじゃないから安心してください。粘膜から吸収されて、体の負担を減らすものですから」
「ふぇ? つまり何?」
「……リ◯ビタンD的な……?」
言いながら微妙に首を捻っている深谷が気になるが、答えを得られて俺はなんとなく安心する。
どぷどぷと、明らかに多量の何かが注がれた。奥に出し切った後も生殖器が抜かれなくて、体は疲れ切っているからどうすればいいのかと不安だった。
「◯ポDなら、いいか……」
「いいんだ……」
安心したら力が抜けて、急激にまぶたが重くなった。意識を保っていられない。
ただでさえ週末に消耗した分がまだ回復していなかったのに、今日もまた大運動会をやらかされてしまった。デスクワーク中心の社会人は体力がないのだ。
「眠いですか? 寝ていいですよ、後片付けはしておくんで」
「……んー……」
今までなんとか保っていた気力が、風船の空気が抜けるように消えていく。
疲労がピークに達していた俺は、タイミングよく現れた睡魔に心地よく身を任せた。
後から思えば、アナルにグロテスクな触手ちんこを突っ込まれたままでよく眠れたなとなるのだが、あの時は特に疑問にも思わず、夢も見ずに朝まで爆睡だった。
どうやら深谷は有言実行で、俺が寝てからきちんと後始末をしてくれたらしい。
次の日の朝は爽快な目覚めだった。
シーツは湿ってもカピカピしてもないし、そもそも自室のベッドに移動して寝ていた。汗をかきまくった俺の体もすっきりとしてベタついていない。
脱いだはずのパジャマをしっかり着込んでいて寝ていた理由はなんとなく想像がつくけど、体に怠さや痛みが残っていないのは不思議だ。
ただでさえセックスは体力勝負なところがあるのに、俺は受け身側で、しかも到底人体が受け入れる想定をしていない形状のブツを突っ込まれている。
土曜一日潰れたあれほどではないにしろ、ある程度厳しい週初めを送る覚悟をしたのだが、不調としては腰にやや違和感があるくらいで済んでいる。
体力平均値以下のくたびれ社会人としては脅威的な回復だ。
寝落ち直前にした会話を思い出す。
あの生殖器から本当に疲労回復栄養剤が放出されてるわけないし。……まさかな?
「あ、起きてる。おはようございます新さん」
「おはよ」
「にゃあ」
「ネコ次郎もおはよう」
ベッドに座って首をひねる俺の元に、ネコ次郎と深谷がやってきた。
どうやら俺の部屋の前で待っていたネコ次郎のためにドアを開けてやったら、起床している俺の姿が見えたらしい。
ネコ次郎の頼みを聞いたのなら、ノックなしで入ったことは咎めないでやろう。
「体つらくないですか? 痛みは、熱とか」
「ない、平気だ」
「そうですか、よかった。無理させないように気をつけたんですけど、やっぱり嬉しくて」
「何が?」
「触手の僕を新さんが受け入れてくれたのが……」
「んん?」
深谷はなにやら嬉しそうに頬を染め、照れ臭そうに俺を見つめている。
昨日の記憶は金曜夜のそれより鮮明に残っていて、恥ずかしいという自覚もないまま深谷に甘えるという痴態を演じたこともバッチリ覚えているので転げ回りたい気分だが……今はそれよりヤツの発言だ。
俺が触手の深谷を受け入れたという記憶が全くない。
物理的には体内に受け入れさせられたが、むしろ「今回は強姦ということで」と納得できるようなできないような超理論で丸め込まれた記憶しかない。どう思い返しても無理矢理だったが、深谷の中では別の解釈が生まれているらしい。
どこから訂正したものかと眉間を揉む俺に、深谷は妙におずおずとしながら申し出てきた。
「それで、あの、朝ごはん作ってみたんです」
「え、おまえが?」
「はい。体が大丈夫なら、良かったら食べてみてください。新さんみたいに美味しくはできなかったと思いますけど……」
よく見たら深谷はエプロンを身に着けていた。開いたドアから香ばしい匂いが漂ってきている。
俺は昨夜のことで、色々と、そりゃあもう色々とこいつに言ってやりたいことがあった。でも、朝飯を上手く作れたかどうか俺の顔色を窺う深谷を目にしたら、なんかもうどうでもよくなってしまった。
「わかった、食べるよ。ありがとな」
「……! はい! すぐお皿並べますね」
「顔洗って行くから、ゆっくりでいい」
俺の体にすりすりと絡みつくネコ次郎と、俺が了承しただけで嬉しそうにウネウネする触手が出てしまう深谷。
メシをよこせと猫パンチしてくるネコ次郎と、精気をよこせと俺を襲う深谷。
───似てる。
人型で金払いの良いペットが一匹増えたようなもの、なのかもしれない。
「いやネコ次郎は俺の精気とか吸わないしな……」
それさえなければ触手生物でも無害なのに、あの男はつくづく惜しい。
こうして俺のピカピカの2LDKには、もふもふで小さな同居猫のネコ次郎と、つるつるで図体のでかい、ついでにこちらを噛んでくる恐ろしい同居触手の深谷、一人と二匹が住むことになったのだった。
俺はまた深谷に押し倒され、キスされている。しかしさっきと違うのは、俺を拘束するのが深谷の二本の腕だけで、俺の口腔に侵入した深谷の舌が喉奥に入り込む異常な長さを持っていないということ。
女性とは違う大きくて厚い舌が歯列をなぞり、上顎をくすぐっていく。なんとも言えない感触に小動物のような声が出てしまい、深谷に笑われた。
「かわいい、新さん。かわいい」
「か、かわいくはねぇよ。年上の男捕まえて何言ってんだ」
「年齢なんて関係ないよ。新さんはかわいいし、どこもかしこもいい匂いがして、甘い……」
「お、おい!」
気がつくと俺の上半身は裸になっていた。上着がベッドの下に放られている。
ちくしょう、俺はもう金輪際前開きのパジャマなんぞ着ない!
深谷の舌が首筋を辿って、肌をちゅうちゅう吸っている。カブトムシに食われるゼリーの気分だ。
深谷の腕は今、常識的な形状のものが二本しかないにも関わらず片腕で俺の体をがっちり掴んでいて、ついでに空いた方の手で乳首をいじっている。
やめろ、先っぽをつつくな。気持ち良くなっちゃうだろうが!
深谷の脚がいたずらに俺の股間を刺激するので、もどかしくて膝が揺れる。脚を閉じたいのに間に深谷がいるから、まるでこいつに続きをねだるような動作をとってしまう。
「や、ふかゃあ……だめだってぇ」
「そんなトロトロにとろけた顔で言われても、やめられるわけないでしょ?」
「あぁ、んっ……」
待て俺、喘いでる場合じゃないぞ俺、このままじゃまた生命も貞操も守れず散らされてしまう。
「明日月曜だから……マジで、ぁっ、だめなんだってば……!」
「あー……」
一心に俺の体を辱めていた深谷がふと顔を上げ、遠い目をした。
月曜日って魔法の単語だよな。これを聞くだけで何か始めようって気が失せる。日曜日が月曜の出社のための消化試合みたいになっちまう。社会人の悲しい刷り込みだ。
しかし社会人六年目にしてだいぶくたびれている俺と二年目のフレッシュな深谷では、月曜日の重みが違ったらしい。
「じゃあ、ちょっとだけにするんで」
「おい待て! ちょっとだけって何をっ、ぁあ!」
こらっ話している最中に乳首を噛むな!
胸元にしゃぶりついている男の頭を必死で遠ざけようとしているのに、ぴんと勃っている粒を舌先で転がされると力が抜ける。
逆に深谷の愛撫を求めるかのように柔らかな黒髪をかき混ぜて抱き締めてしまうので、こいつはもっと調子に乗る。というか触手のくせになんでこんなサラサラヘアーなんだ、良いコンディショナー使ってるのか?
ふわさらの手触りを楽しみつつ、みっともない喘ぎ声を押し殺すことに必死になっていたら、いつの間にかズボンと下着まで奪われ全裸にされてしまった。
「ほら新さん、脚曲げて」
「やだぁ、しない、今日はしないんだぁ」
「明日に響かないようにしますから」
「だめだってば、やだ!」
「そんなに嫌? もしかしてさっき近づかないようにしたこと、怒ってます?」
一瞬理解できずに思考が止まり、脳が遅れて深谷の言葉の意味を解した。
さっきというのはきっと、映画を見ていたときのことだ。
コーヒーを持っていっただけでハグしてくる触手が、不自然なほど距離を保って平和に映画を見ていたのはやっぱり、こいつが意識的に距離を置いていたからだった。
そしてヤツは今、俺がそのせいで拗ねているのかと疑っている。
ぎゅうっと顔に血が上る感覚があった。何度も首を横に振って「違う」と繰り返す。
その必死さが逆に取られてしまうことなど思いもせずに。
「そっか。すみません、寂しかったんですね。後ろから抱っこしてあげればよかったですね」
「違う! 誰もそんなこと求めてない!」
「次回からは気をつけますね。新さんは寂しがり屋さんだから」
「違うってば! 寂しくなんか……」
ない、と言い切れるだろうか。
数年間脇目も振らず付き合ってきた彼女に選んでもらえなかったことで、空虚な気持ちになった数ヶ月間。でも俺の気持ちがどうであれ、日常は続いていくし仕事もある。寂しいと感じたことも、立ち止まった日もなかった。
なのに辻褄は合う、合ってしまう。
友人の飲みの誘いに積極的に参加したのも、ルームシェアを提案されて二つ返事で了承したのも、危険な相手だとわかっていたのに結局同居を許したのも、もしかしたら全部。
そんな場合じゃなかったのに、俺は不覚にもぽかんと考え事をしてしまった。
その隙を狙って深谷は俺の脚を高く掲げ、無防備に晒された後孔にぬるついた 細い何かが押し込まれる。
「ひっ! な、おまえまさか触手」
「違いますよ、ちゃんと形保ってます。これはローションです」
「いつの間にそんなもん……!」
「さっきドラッグストアで」
確かに薬局あるなら寄りたいって言うから連れてったけど、そういう買い物だったのかよ!
今すぐ抜けと暴れたいのに、深谷の指がアナルの縁を引っ掻きながら抜き差ししていくと腰が痺れてどうしようもなくなる。
「あ、あぁっ、一緒に触るな……っ」
体を折り畳まれるような無理な姿勢がつらいのに、本体を裏切って元気よく起立している俺の息子は深谷の手の中に収まって、丁寧によしよしされている。
男同士だと気持ちいい場所がわかるからか、深谷の手淫は的確だった。先端の穴をほじるように抉られると腰がびくびく震える。
前後同時に責められると力が抜けて抵抗できず、俺はただ情けなく喘ぐだけになってしまった。男の体がこんなにも快楽に正直なのが今だけは憎い。
「や、出る、っ……!」
「いっぱい出たね」
まんまと深谷にイかされてしまった。
荒い息を整えながら見ると、ヤツはあろうことか手のひらに受け止めた白濁を舐めとっている。AVみたいな光景だ。相手が男なのが悔やまれる。
今出したばかりだというのに俺の陰茎は卑猥な光景にまた興奮し始めているし、後孔はローションで濡れそぼり、準備万端に弛みきってしまっていた。
「ねぇ新さん」
すでにだいぶ消耗している体をなんとか持ち上げて、滲む視界の向こうにヤツを見た。
深谷はいつもより意地悪そうな表情を浮かべている。
「このままだと新さん、自分の意思で、人間の男に抱かれることになりますよ」
「……え?」
いきなり何を言い出すんだこいつは。
「だってそうでしょう。俺がこの姿のまま続けるのは許可もらったわけですが、そうなると新さんは、ゲイでもバイでもないのに自分から男に体を許したことになりますよね」
「そ、そんなことは」
「ありますよ。この姿がいいんでしょ? 人間の、男の姿に犯されたいんでしょ?」
犯されたいだなんて言ってない、絶対言ってない。
でも結果的にそうなっちゃうのか? 俺はアナル開発だけに飽き足らず、ゲイセックスの領域にまで足を踏み入れてしまったのか。
沸いた頭で混乱する俺に、悪魔───もとい触手野郎が囁いた。
「今なら、俺が無理矢理新さんを襲って抱いたことにできますよ」
「は、ぁ?」
「俺が人間の男じゃなく触手なら、無理矢理でしょう。新さんは『恐ろしい未確認生物』に触らせるなんてこと、許可してないんですから。これって強姦ですよね」
「ごーかん……そ、そうだよ。おまえが無理矢理っ……」
「そうですよね。じゃあ触手の方が都合いいですね。挿れますよ」
「え、待っ、なんかおかし……ぃいっ!」
必死に制止したが一瞬遅かった。
いつの間に出現していたのか、あの巨大な生殖器が綻んだ後孔を無慈悲に穿つ。
ゆるゆるの肉壺は拒むことなく深谷を奥深く招き入れ、その衝撃で目の前が真っ白になった。頭の中がからっぽになって、何も考えられなくなる。
わかるのは、俺の腹の中を太くて長くてウネウネしたものが犯しているということ。それは明らかに人間離れした動きで、敏感な腸壁を余すことなく抉っているということ。
ついでに、信じられないくらいそれが気持ちいいってこと。それだけだ。
「ぁああ……ふかや、ぁ……」
「あーあ、かわいそうに新さん。強姦されても気持ちいい体にされちゃって。それもこれも全部触手のせいですよね」
「ふ、ぁ……あたりまえら、おれ、触手やだって、言った……」
過ぎた快感に舌が回らなくなってきた俺を慈しみの目で見下ろす男は、とても行為を強要しているようには見えない。
汗ばんで張り付く俺の髪を指先でそっと梳いて、その手を複数の触手へと分離させた。二本しかなかった腕の後ろから、無数の触手が現れ蠢きだした。
「ですよね。全部触手の、俺のせいです。だから俺のせいにして、存分に気持ち良くなってくださいね」
「あ、ひ、ぁあ───ふか、深いぃ……」
中のモノが僅かに動いただけで、感じる場所すべてが押し潰される。
触られていない陰茎が精液を撒き散らし、すかさず近くの触手がそれを美味そうに舐めとって啜っていく。
「はぁ……精気も料理も美味いなんて、新さん最高だ……どれだけ俺を惚れさせる気ですか」
「あぁ、あ、あっ、は……ふか、や……」
「ん。ここ掴まって」
揺さぶられる体が無意識に縋るものを求めた。彷徨う腕を誘導され、深谷の肩に手を伸ばす。
組みついた男の背中は、触手を出してはいるものの人の原型を保っていて、しっかりと俺を受け止めてくれた。
未知の存在が怖いのに、気持ちよさに抗えない。
まったく初心者向けではなかった初回より、いくらかゆるく優しい交わり。なのに俺は確実に追い上げられ、小さな絶頂を繰り返していた。
「は……深谷、あ、んぅ」
前回惜しみなく与えられたあの甘い液体は、今回は出さないつもりらしい。
無意識に舌を伸ばして媚薬を求めてしまった俺の口に、触手の一本が入り込んできた。
甘噛みしても液体は出ず、その代わり俺の唾液を奪い去っていく。
「ふぁ……しょくしゅ、これ、さっき見た映画のやつ……」
「ちょっと。なんで今その話するんですか、萎えるんでやめてください」
「ん、ふふふ」
深谷が本当に嫌そうな顔をしたので笑ってしまう。
さっきの映画では、腹と口をタコ足に貫かれ死ぬ人物が描かれていた。客観的に見たら今の俺にそっくりだ。
人間の捕食という行為自体は巨大タコも触手も同じだが、触手の方は俺を殺す気はないらしい。イきすぎて一瞬三途の川見えた気がするけど、たぶん死にはしない。
「ほら、これでおしまいにしますから」
「あぁっ! ふかや、ぁ、深谷っ……!」
そういえばこいつ、ちょっとだけにするって言ったのに。何をもって「ちょっとだけ」という話だったんだ。
不埒な男たちの言う「先っぽだけ」みたいなことなのか。
俺はもう何回も達してる。頭がおかしくなりそうなほどに。たぶん精気も存分に吸われていることだろう。全然「ちょっとだけ」の範疇ではない。
あぁでも、相手をラブホに連れ込んでおいて「先っぽだけ」で済ませる男がいるはずないよな。そういうことか。
俺はまた丸め込まれて騙された、そういうことか───。
「あ、たのむ、奥はやめ、やめて……」
前回はおぼろげながら、この極太触手に男として絶対に暴かれてはいけない場所まで許してしまった記憶がある。
気が遠くなるほど気持ちよかったけど、あんなのを何度もやられたらもう戻れない。その一心で俺を苛む男に縋った。
思わず泣きが入って涙も零れ落ちたが、頬を伝う前に細い触手が舐め取っていく。
「そうですね、今日はやめときましょう。明日月曜だし……結腸の手前までにしておきます」
その言葉を表すかのようにナカの触手が一度抜けていき、また挿入された。
殺人的な形状のくびれや無数の突起が前立腺も精嚢もそれ以外も押し潰しながら蠢く。
「っあ、あ゛ぁああ……は、はぁ……これ、マジで奥までいってないの……?」
「行ってませんよ。ここが行き止まりです」
「んんぅ……っ」
最奥に触手生殖器の先端を押し当てたまま軽く体を揺すられ、それだけで意識が飛びそうなくらい気持ちいい。
ずっぽりハメられてるようにしか思えないが、これでも手加減されているってことか。多少負担が減るならありがた……くねぇ、そもそもヤりたくないって言ったはずなのにこの野郎。
「おま、ぅん……っ、おい、やめ……ん」
文句を言おうと口を開いたら深谷の唇で塞がれた。今度はあの長い舌がずるずると押し入って、俺の言葉を根こそぎ奪ってしまう。
根本に行くに従って太くなっていく触手舌と自分のものを濃厚に絡めながらキスを続けていると、気持ち良さと酸欠でぼんやりしてきた。
あの甘い汁の代わりに別の何かが流し込まれているような。でもそれが何かはわからない。頭がばかになりかけてる。
「新さんってキスが好きだよね。もっとする?」
「ん、も、っと……ふぁ、あ……」
「いつもこれくらい素直ならいいのになぁ」
分厚い膜に隔てられた空間に放り出されたような、心地よい快楽だけしか感じられない。
ここにあるのは、俺を気持ち良くさせてくれる深谷という存在だけだ。煩わしいものは何もない。体面も感情も言葉も置いてきてしまった。
「新さん、一緒にイこ」
「ん……」
飛び出た触手がうねる背中にしがみついて、深い口づけを続けながら腹の底を犯される。無数の触手が体中に群がって、少しでも俺が反応する場所に絡みついてくる。
中と外、両方から与えられる人間には過ぎた快楽によって、俺はだいぶ薄くなった精液を放出した。
白濁がシーツや体を汚すことはなく、一滴残らず触手の餌食になっていく。
「ぁ、なか、なんか出て、ぅ……」
脱力した体が触手に包まれ、やわやわと抱き込まれた。あのグロい生殖器が胎内に何かを出している。
男としての本能か、中に出すという行為が極めて危険で同意なしにしてはならないという警鐘が頭の中に響き渡った。中イキしすぎて馬鹿になった頭でも、それだけはわかる。
「や、やっ……なか、出すなぁ……も、抜いて」
「落ち着いて。人間でいうところの精液が出てるわけじゃないから安心してください。粘膜から吸収されて、体の負担を減らすものですから」
「ふぇ? つまり何?」
「……リ◯ビタンD的な……?」
言いながら微妙に首を捻っている深谷が気になるが、答えを得られて俺はなんとなく安心する。
どぷどぷと、明らかに多量の何かが注がれた。奥に出し切った後も生殖器が抜かれなくて、体は疲れ切っているからどうすればいいのかと不安だった。
「◯ポDなら、いいか……」
「いいんだ……」
安心したら力が抜けて、急激にまぶたが重くなった。意識を保っていられない。
ただでさえ週末に消耗した分がまだ回復していなかったのに、今日もまた大運動会をやらかされてしまった。デスクワーク中心の社会人は体力がないのだ。
「眠いですか? 寝ていいですよ、後片付けはしておくんで」
「……んー……」
今までなんとか保っていた気力が、風船の空気が抜けるように消えていく。
疲労がピークに達していた俺は、タイミングよく現れた睡魔に心地よく身を任せた。
後から思えば、アナルにグロテスクな触手ちんこを突っ込まれたままでよく眠れたなとなるのだが、あの時は特に疑問にも思わず、夢も見ずに朝まで爆睡だった。
どうやら深谷は有言実行で、俺が寝てからきちんと後始末をしてくれたらしい。
次の日の朝は爽快な目覚めだった。
シーツは湿ってもカピカピしてもないし、そもそも自室のベッドに移動して寝ていた。汗をかきまくった俺の体もすっきりとしてベタついていない。
脱いだはずのパジャマをしっかり着込んでいて寝ていた理由はなんとなく想像がつくけど、体に怠さや痛みが残っていないのは不思議だ。
ただでさえセックスは体力勝負なところがあるのに、俺は受け身側で、しかも到底人体が受け入れる想定をしていない形状のブツを突っ込まれている。
土曜一日潰れたあれほどではないにしろ、ある程度厳しい週初めを送る覚悟をしたのだが、不調としては腰にやや違和感があるくらいで済んでいる。
体力平均値以下のくたびれ社会人としては脅威的な回復だ。
寝落ち直前にした会話を思い出す。
あの生殖器から本当に疲労回復栄養剤が放出されてるわけないし。……まさかな?
「あ、起きてる。おはようございます新さん」
「おはよ」
「にゃあ」
「ネコ次郎もおはよう」
ベッドに座って首をひねる俺の元に、ネコ次郎と深谷がやってきた。
どうやら俺の部屋の前で待っていたネコ次郎のためにドアを開けてやったら、起床している俺の姿が見えたらしい。
ネコ次郎の頼みを聞いたのなら、ノックなしで入ったことは咎めないでやろう。
「体つらくないですか? 痛みは、熱とか」
「ない、平気だ」
「そうですか、よかった。無理させないように気をつけたんですけど、やっぱり嬉しくて」
「何が?」
「触手の僕を新さんが受け入れてくれたのが……」
「んん?」
深谷はなにやら嬉しそうに頬を染め、照れ臭そうに俺を見つめている。
昨日の記憶は金曜夜のそれより鮮明に残っていて、恥ずかしいという自覚もないまま深谷に甘えるという痴態を演じたこともバッチリ覚えているので転げ回りたい気分だが……今はそれよりヤツの発言だ。
俺が触手の深谷を受け入れたという記憶が全くない。
物理的には体内に受け入れさせられたが、むしろ「今回は強姦ということで」と納得できるようなできないような超理論で丸め込まれた記憶しかない。どう思い返しても無理矢理だったが、深谷の中では別の解釈が生まれているらしい。
どこから訂正したものかと眉間を揉む俺に、深谷は妙におずおずとしながら申し出てきた。
「それで、あの、朝ごはん作ってみたんです」
「え、おまえが?」
「はい。体が大丈夫なら、良かったら食べてみてください。新さんみたいに美味しくはできなかったと思いますけど……」
よく見たら深谷はエプロンを身に着けていた。開いたドアから香ばしい匂いが漂ってきている。
俺は昨夜のことで、色々と、そりゃあもう色々とこいつに言ってやりたいことがあった。でも、朝飯を上手く作れたかどうか俺の顔色を窺う深谷を目にしたら、なんかもうどうでもよくなってしまった。
「わかった、食べるよ。ありがとな」
「……! はい! すぐお皿並べますね」
「顔洗って行くから、ゆっくりでいい」
俺の体にすりすりと絡みつくネコ次郎と、俺が了承しただけで嬉しそうにウネウネする触手が出てしまう深谷。
メシをよこせと猫パンチしてくるネコ次郎と、精気をよこせと俺を襲う深谷。
───似てる。
人型で金払いの良いペットが一匹増えたようなもの、なのかもしれない。
「いやネコ次郎は俺の精気とか吸わないしな……」
それさえなければ触手生物でも無害なのに、あの男はつくづく惜しい。
こうして俺のピカピカの2LDKには、もふもふで小さな同居猫のネコ次郎と、つるつるで図体のでかい、ついでにこちらを噛んでくる恐ろしい同居触手の深谷、一人と二匹が住むことになったのだった。
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